第2話
デデ~デッデデン♪
デデ~デッデデン♪
ふと目を覚ました俺は、どこぞの原生林と思わしき木々が生い茂った薄暗い場所で片膝を着いて座っていた…。
その事に気付いた俺の脳内には未来からきた殺人ロボが主役な某映画の曲がリフレインしていた。
ーー確かトンデモない高さから落下して来た筈だけど。
そう思いながら足下を見てみると地面が僅かにえぐられていたが、落下の衝突で出来たクレーターと言うより重い球体を置いた後…って感じだった。
「ま、これはアレだな。転生にありきたりの演出って事だ……って、なんじゃコリャ?」
そのまま立ち上がり周辺の確認をと振り向いた先に恐竜サイズの爬虫類的な生き物の死骸と、同サイズの哺乳類っぽい毛むくじゃらの死骸がキャトルミューティレーションでも喰らったかの様に、綺麗に球体状に内蔵部分を切り取られ横たわってる姿を目にして絶句する。
ーーえっ何?どゆこと?こわっ!
慌てて死骸から離れ近くの大木の裏に隠れると死骸を観察すると、死後随分と経っているらしく2匹とも全身が干からびていた。
ーーふぅ〜、ビビった〜。
ーーしっかしこいつら何なんだ?まさか魔獣とかの類か?
2匹が完全に死んでいる事を確認して安堵の一息をつくと、転生という事で体に異変が無いか、全身をチェック。
ーーとりあえず、五体満足なよう…だ…が……。
全身の確認以前に全裸でした・・・。
ーーせめて服ぐらい一緒に転生させてくれよ~。
ーー初異世界とは言え全裸は無いだろ。このままだと変質者として警戒されて誰にも会えんし、恥ずかしくて人前にも出れんわっ!
思わず全裸のまま膝を抱え体操座りで、地面にのの字なんか書きつつ凹む。
ーーはっ、待て待て!俺には適当魔法があるじゃないか。もしかしたら如何にかなるかも?
落ち込んだのも数秒。俺はすぐさま魔法の事を思い出して仁王立ちで両手を地面に翳し「服よ出ろ」とか叫んだり色々なポーズもつけてやってみたけど、何も変化は起きなかった。
むしろ、無駄なポーズをとった分だけ気持ちが落ち込んだ。
ーー・・・・・・。
「幼女のアホ~!適当魔法の使い方が全然判んね〜じゃね〜か〜っ!」
無意味と知りつつも、大空に向かって叫ぶ全裸な俺。
そのまま傍にあった毛むくじゃらの毛皮を見つめながら、どうにかしたらコレ剥ぎ取れないかな?と思案していると、目の前に花びらっぽい何かがヒラヒラと落ちてきた。
「んだ、これ?」
何処からともなく落ちて来たのは巨大な花びらでは無く、何故かハート折りなピンクの便箋。
とりあえず、中身を見てみると…
1、適当魔法にはイメージ補正があるが、その世界に存在しない魔法は発動しない。
2、イメージや集中で魔法等を強化する事は可能。
※但し、成功確率は変わらん。
3、創造魔法には必ず素材が要る。
4、次に悪口を叩けば必ず殺すと書いて必殺!
なお、この紙は読むと自動的に燃えて無くなるのじゃ
一通り中身に目を通したところで、手品みたいに一瞬で焼き消えた便箋にちょっとビビる。
「ふぅ、イメージに素材ときたか・・・。」
込み上げてくる笑みをそのままにゲーム脳&アニヲタな俺は常日頃から鍛えていたお得意の妄想(笑)で、毛むくじゃらの死体に両手を添え、マズは黒無地で統一したトレンチコート&Tシャツ&スラックス&ブーツをイメージして創造魔法とやらを試してみる。
すると毛皮が青白くひかりだし、アッサリ成功。
「んだよ、簡単じゃん!適当魔法ってスゲーな、オイ!」
軽く感動してその場でまた色々とポーズとか決めてたら…なんか股間がスースーするので、そっとズボンの中を確認してみた結果。
パンツ創るの忘れてました……。
ーーいやー、はっはっはー!服の事ばっかイメージしてて下着の事なんてすっかり忘れてたよ。
恥ずかしさのあまり自分で自分に言い訳しつつ改めてパンツを創り着替え直すと、次のステップとして第一異界人と遭遇する為に釣りの魚群探知機をイメージしながら周辺をスキャンしてみる。
すると、脳内に自分を中心にゲームのMAPみたいなのが広がり、反応が無限に増えていきちょっと焦る。
ーーいかんいかん、生命体なんて大雑把だと数が多いに決まってるじゃん…ここは、平均的な人間サイズ以上に範囲を絞って再スキャンだ!
失敗に苦笑しながら改めてスキャンしてみると………此処から前方20kmに密集した六つの反応が気になった。
ーーう〜ん、後は単体か二つ、三つばっかだし……とりあえずは密集してる方に行ってみるか。
「…っと、その前に。」
もしもの時に備えて死体の骨に片手を当て武器も創り出す。
イメージするのは世界一有名な泥棒のアノ刀。
デザインが単純だからかこれも一発で成功し、ついでに鞘も創ってみたけど、白一色でセラミック包丁みたいになってしまった。
「うしっ!んじゃ、行きますか。」
出来たての刀を片手に気楽に構え距離を短縮させるイメージで足を踏み出すと、まわりの風景が高速移動してほんの二、三歩足を踏み出しただけで目的地手前についた。
ーーここは失敗しない為にも状況把握は必須だよな。
ーー言葉が通じなかったり、そもそも人間じゃ無かったら困るしね…。
わざわざ手前で止まったのはそう考えたからで、すぐ側にあった巨木に跳び上がり反応のあった方を凝視する。
ーー……ん~と、やっぱ戦闘中みたいだな。
なるだけ音を立てないように更に近くの巨木へ飛び移り下を見てみると、胸元を真っ赤に染め切り裂かれた革鎧を着た一人が倒れてるのと、それを僧侶っぽい格好をした女性と黒っぽい装束(シーフか魔法使いか?)の小柄な男性の二人が治療しようとしているみたいだった。
そのやや前で二人の戦士風の男女が額から一本角の生えた熊モドキ?と抗戦してたが、熊モドキがかなり強敵なのか防戦一方に見える。
「駄目じゃ…血が止まらんっ。」
「くっ、傷が深過ぎて私の法術でも治癒出来ません。」
「くそっ、一度立て直すにしてもキースがあの状態じゃあ……。」
「ジルっ、危ない!今、よそ見したらっ…!」
ジルと呼ばれた男が後ろの仲間を気にした瞬間、熊モドキの右手がフルスィングして胸のプレートを引っ掻き、爪の当たった部分から火花が飛び散らせながら吹っ飛び、後ろにいた僧侶っぽい女性とぶつかった。
「ジルッ!」
一瞬吹っ飛んだ男の方へ気がそれた隙を突かれたのか、熊モドキが四つん這いになり額の角で大剣の女戦士目掛け突進。
すんでの所で何とか身をよじり大剣を盾がわりにして直撃は免れたが、大きく体勢を崩してしまっていた。
ーーギリギリだな。
コンマ数秒遅れていればこの女性も吹き飛ばさていたであろう光景に、こっちまで緊張感が伝わり無意識にかいた汗を拭う。
ーー言葉が理解できるって事はコンタクト可能だよな。…なら、ここは助太刀した方が良さそうだな。
俺は瞬時に判断すると、自分の攻撃を防がれ怒り狂った様に猛攻を繰り返す熊モドキの頭目掛け、音も立てずに飛び降りながら切り掛かった。
ザンッ!!
思いの外大した手ごたえも無く、野菜でも切るような小気味良い音を立て着地すると、突然現れた俺を見下ろそうと熊モドキの首が動いた瞬間、ズルリと体だけがずれ後ろ向きに倒れる。
いきなりの出来事に冒険者パーティーは硬直。
俺は気にせず血まみれの怪我人に無言で近付き、胸に左手を当てさっき僧侶っぽい格好をしていた女性の真似をして「治癒魔法」を使ってみる。
すると手を当てた所を中心に全身が入るような大きさの青白い光を放つ魔法陣が現れ、傷口がフィルムを逆再生するみたいに塞がっていき不規則だった呼吸が安定していく。
そのまま左に吹っ飛ばされて倒れてたジルとかって奴にも近づき、念の為に脈を測る。
見た目にも外傷らしきものも無いし、ただ気絶してるだけかな?
そんな事を思い、一応治癒魔法をかけておくべきか悩んでいると、
「あ…あの、……」
黒いトレンチコートをなびかせ仁王立ちな俺の背中に、恐る恐るといった感じで僧侶っぽい人が声をかけてきた。
ーー今だっ、俺っ!
「フッ…道に迷っていたら戦闘音が聞こえたので、差し出がましいかも知れませんが助太刀しただけですよっ。」
振り向き様に歯がキラッ☆
完全に厨二病なノリです…
本当にありがとうございました。
…………
………………
それから治療の済んだキースさんが自然と目を覚ますまでただ待ってるってのもなんだし、先に第一次接触の基本でもある簡単な自己紹介をお互いに終わらせておく。
とりあえず冒険者な方々は、
戦士のジル・アルルッツォ
男性…人間
剣士のニア・カフザンティ
女性…虎と狼の獣人のハーフ
薬士のキース・ブライ
男性…人間
神官のメイア・シャービナ
女性…猫ハーフと人間のクオーター?
技工士のザガン・ストロフ
男性…ドワーフと人間のハーフ
で、俺の方は西洋風の呼び方にならって雄二・赤城だと名乗ったのに発音が難しいのか、『ユージ・アカギ』になってた…。
ーーしっかし、いきなり異世界に来た早々ハーフとは言えリアル獣人に遭遇出来たなんて、なんて胸熱な展開。
そんなこんなで無難に紹介も終わり一人喜びを噛み締めにやけていると、メイアさんから得心がいかない様な表情で道に迷った理由を聞かれ、此処に居る理由は転生したとは言える訳が無いので、新しい魔法の研究中に爆発がおきて気が付けば飛ばされてたって事でごまかす。
やや無理がある設定かも知れないけど、もっともらしい態度で答えておけば大丈夫だろう。
ーーこ、これで第一次接触成功?
ーー成功ダヨネ~成功って誰かイッテヨ~
ーー沈黙がコワインデスガ……
俺が自己紹介した後、何故か沈黙しながら何やらアイコンタクトをとってる三人に内心ビビりながら反応を待っていたが何とか納得してくれたらしく、ホッと胸を撫で下ろしながらこの世界について少しでも情報を得ようと話を聞いてみる事にした。
が、メイアさんが打ち解けたと安心した途端、熱心にさっき目の前でみせた治癒魔法についての質問やら疑問をマシンガントーク&体当たりで聞き出そうと食らい付いてきた。
獣人ニアさんも俺から借りた剣を少し離れた場所で振り回しながら、一人何かブツブツ言っててサッパリと要領を得ない。
「…で、あんな高等法術を詠唱破棄して使えるなんて大司教クラスでも無い限り有り得ませんよ。私、初めて見ましたし。」
にじり寄りながら目をキラキラさせるメイア…うぅ…胸が当たって嬉しいけど、この場で素直に喜べないのは何故?
「あ、あぁ俺の世界…もとい国では魔道の真理を見た者だけが、限定的に詠唱破棄で行使する事が出来るんだよ(ハガ●ンの世界な話ですが)」
「では修練はどのように?師はどのような方にお付きになったのでしょう?」
ーーうぅ…キラッキラッと胸の密着度も増して、嬉しい反面どう答えりゃ良いんだよ〜?
童貞には強すぎる刺激に俺が愛想笑いで赤面しながら目線を逸らすと、その先にいた獣人ニアさんとバッチリ目線が合う。
「ユージ殿、失礼だが、この剣は魔法製具か?」
先程から一人で剣を振り回しては何かを呟いてたニアさんは何やら不思議そうに剣を返しながら聞いてきた。
「あぁ、多分そうだとオモイマス。」
ニアがどんな答えを求めてるのか判らないし、ここで迂闊に自分で創ったなんて言う訳にはいかないので語尾は敬語に……って所で、キース達が目を覚ました。
「キースッ!」
頭を振りながら上半身を起こしたキース気付くと、メイアさんが俺をタックルと言ってもいいくらいの勢いで押し退け、振り返るなり抱きしめに駆け出す。
ーーあぁ~あのおっぱいちゃんはキースさんのものだったのか~。
ーーさっきまで押し付けられてたのは事故であって故意ジャナイカラネ~。キースさん怒らナイデネ~。
内心びくびくしながら抱き合う二人を無言で見守り、心の中で弁解。
「うぅ、キース、キースッ」
人目もあるのもなんのその、今にもラブラブモードに突入しそうなメイアをそっと離して俺に礼をいってくるイケメンキース。
「話はボンヤリとだが聞こえていた。仲間と俺を助けてくれてありがとう。何か御礼をしたいのだが、宿は何処か教えてもらえないだろうか?」
へっ?宿?そういえば、俺この後どうすりゃいいの?野宿とかマジ勘弁。
「…さっきも少し話たんだが、俺は迷子の身でね。よければ近くの宿まで案内してもらえないかな?」
俺の提案に皆即オッケー。うぅ人情ってあったかいよ~。
で、とりあえず倒した熊もどきを捌き、肉やら内蔵やら角やらを各自分担してテキパキと布に包んで巾着みたいなバックに詰めていく。
メイアさんみたいな女性ですら物怖じせず解体していく姿には少々驚いたが、異世界なら当たり前なのかなとすぐに思い直した。
それに今回はこの熊もどきの角を手に入れる事が目的だったらしいのだが、討伐まで出来て報酬が増えるとかで皆ニコニコだった。
で、日暮れ前に街に戻ろうって話になり、俺はこのパーティーに暫くお世話になる事になった。
こんな見ず知らずの俺にアリガト~っ!
人情最高~~♪