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異界転生(修正版)  作者: 七変化
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第1話

「おはようございまーす!」


時間は深夜零時前。欠伸を噛み殺しながらやって来た夜勤の人に挨拶もソコソコに引き継ぎを済ませると、タイムカードを差しコンビニの制服から私服に着替えて店を出る。


「お疲れ様でしたー!」


今日もいつもと変わらぬ時間にバイトを終え、欠伸を一ついつものように自転車に跨がろうとして、ふと足元に落ちる影が濃い気がして何気に空を見上げる。


ーーおー、今夜は月がでけーなー。


梅雨の長雨なんて言葉があるが今年はあまり雨も降らず、代わりにどんよりとした曇空だけが続く鬱陶しい日々だったが、どうやら今夜は分厚い雲も過ぎ去ったらしい。


白く輝く満月を暫し見上げ、いつもとは少し違う薄闇に包まれた住宅街を自転車を漕ぎながら帰路につく。


ーーたまには道を変えて、のんびりお月見と洒落込むか。


久しぶりに目にする満月に若干テンションも上がり、最短コースとは違う旧道を選んで走りながら自宅へ向かっていると、目の前に突然工事中の看板が浮かび上がってきた。


「ん?この先踏切工事で…通行止め。」


自転車のライトに浮かび上がった安全ヘルメットをかぶりお辞儀をしている看板の文字を読みながら「はぁ」と溜息を一つ。


今夜は更に遠回りになるがもう一つ向こうの踏切へ行くしかないな、と気持ちと一緒に進路も変える。


そのまま少し線路と離れた横の細い道を進んでいくと、車輌通行止めのポールが見えた所で自転車を降り一旦担いでポールを越え砂防の道へと降ろす。


「よっ、と!」


学生時代に通学路にしていた道を見渡し、右側から時折光を反射させ黒々と流れる水流から冷気を含んだ涼しい風を浴び、いつの間にかアスファルトで舗装されていた道を眺めながら少し感慨に耽る。


ーー暫く通らないうちに此処も変わったなー。


自分が毎日走っていた頃には灯りも無い砂利道だったのが、舗装以外にこれもいつの間にやら設置された街灯の明かりが少し長めの間隔をあけ道を照らし、その合間にある暗黒地帯を今夜は満月が程よく照らしてくれていた。


そんな夜の道を月を眺めながら調子良く走っていると突然、


ガコッ


何かに前輪が沈んだと感じた瞬間、自転車もろとも河川敷の方へ転がり落ちてしまった。


「ツー、イテテテテッ…。」


幸いにも生い茂った草花がクッションの役割を果たしてくれたらしくすぐに立ち上がる事が出来たが、転がった際にしこたま打った腰や草で擦った腕をさすりつつライトがついたままの自転車に向かって歩いていく。


と、それまで逆光で判らなかった姿に愕然となった。


「おいおい、マジかよー。こっからだと、家までまだ30分以上はあるってーのに。」


何かにはまった衝撃なのか、落ちた時にそうなってしまったのか判らないが、どちらにしろ自分の不注意で歪に曲がってしまった前輪を見つめながら溜息を洩らす。


誰かが通りがかる確率も極端に少ない道での自損事故な上、知り合いに電話するのを躊躇わせる時間。


結局は自転車をこのまま放置して帰るか、担いで帰るかの二択しかなく、まだ痛む腰を押さえながら怒りの矛先を偶然ライトに照らされていた水溜まりに向け、濁った水面を睨みつける。


そこでふと、こんなに前輪が歪むなんてどれだけ深い陥没だったのかと気になり膝をついて片手を突っ込んでみた。


が、水溜りはアスファルトが剥がれていたのか予想よりも深かくあっさりと手首が沈み、そのまま肘まで入りかけた瞬間、水中から何かに手首を掴まれ引っ張っられた。



「うエッ?」


イキナリの事にビックリしたのと同時に、「ガボッ」と水中に引き込まれ潜んでいく自分が出した音を最後に聞いて、次の瞬間には俺の世界は暗転した………。





「………い………………お………………。」


「………おいっ!」


いきなり頬に鈍い痛みが走り目を覚ます。

って、オレ気絶してたの?


「おいっ、お前はわしになにか怨みでもあるのか?」


目を覚ました俺が最初に見たのは、無駄に露出度の高い巫女装束を着て頬をほんのりと赤らめたピンク髪のツインテールな幼女だった。


「え?……あ、いや、何?」


ーー全く状況が読めないんですが……。

ーーってか此処何処?

ーー何?この状況?

ーーなんで頬が痛いの?

ーーってか、滅茶苦茶酒くさっ!


いきなり過ぎる展開にガッチリと俺の胸上でマウントポジションを極め、襟元を両手で掴み睨み付ける幼女を見上げながら次々と疑問が沸いてくる。


ーーと、とりあえず、こんな時は落ちつく為に深呼吸だ!


ス、スーハー・・スーハー・・・。


ーーダ、ダメだ!


深呼吸しようとすると空気に混ざった濃厚な酒の匂いで酔ってしまいそうになるし、自分に乗っかる幼女のむき出し太腿がチラチラと視界の端に入ってしまい全然落ちつけない。


「うぁ、え、えと、とりあえずごめんなさい。で、ちょっとお兄ちゃんの胸から降りてくれるかな?」


何故かご立腹な幼女に向かって頭を下げると言うよりお辞儀に近い状態で頭をあげながら謝罪し、何とか胸上から降りてもらえないかお願いしてみる。


「そん~~~な、謝り方で誰が許すと思っとるんじゃ~!」


ボキャ!


俺の言い方がお気に召さなかったようで可愛い額にうっすら青筋を浮かべ、思いっきり振り上げた右手が俺の左頬を叩く衝撃と嫌な音が身体の内側から聞こえ……


ーーってあれ?

ーーなんで幼女と俺の身体が見えるんだ?

ーーしかも何で頭が無いの?


ーー……え?ちょ、マジで頭吹っ飛んだの俺?


そう考えたのを最後に思考が止まり、視界が急速に暗転していった。






「………い………………お………………。」


「………おいっ!」


ーーいきなり頬に鈍い痛みが…ってデジャヴュか?


目を覚ますと今度は霧でも立ち込めているのか、白いモヤに視界が覆われた謎空間に居た。


そのまま恐る恐る立ち上がり手探りしつつ辺りを確認しようと試みたが、足場があるって事以外何も判らない。


「えと、何これ、ココ何処?」


キョロキョロしながら疑問を口にすると目の前のモヤが少しずつ薄れていき、ぼんやりとだがさっきの幼女らしいシルエットがみえてくる。


「此処はお前達が所謂『異界の狭間』とか呼んでおる場所じゃ。」


「えと、何で俺そんなトコにいんの?」


「お前が呆気なく死んだからじゃが?」


事務的に聞こえる幼女の言葉でついさっきの記憶が甦る。


「あー、いやいや、死んだって言うより、さっきのは殺された…が正しく無いか?」


「う、うるさ~い!貧弱な身体をしてたお前が悪いんじゃ。」


ーーいやいや、明らかに責任転嫁だろ?

ーー何で逆ギレ気味に叫んでんだよ?


「し、しかしチョコッとだけとは言え、うっかり力加減を忘れておったわしも悪いと思ったからこそ、こうして魂を引き留めておるんじゃ。」


「……って事は、何?俺一応死んだけど生き返りはオッケーって事?」


シルエットだけな幼女に疑問をそのままぶつけてみたらアッサリ頷かれた。


「しかし、此方にもちと事情があってな。肉体を元通りに再生する事などわけないんじゃが現世には戻せん。」


ーーえ?なにそれ?

ーー今なんかフラグ立ちませんでした?


「じゃ、じゃあ、ひょっとしてコレはアレか?えー、例えば…ファンタジー的な異世界に生き返って第二の人生を其処で送れ……とか?」


俺は突然訪れた転機に興奮する気持ちを気付かれ無いようと、出来るだけ真面目な顔で幼女に聞いてみると、幼女のシルエットが数秒ほどの間を置いて頷く様な動きをみせた。


ーーよっしゃー!異世界フラグ、キターーー!!


咄嗟に嬉しさのあまりガッツポーズをしながら小躍りしたい衝動が湧き上がるが、そこはぐっと堪える。


何せここからが正念場なのだから。


Q.強くてニューゲームな展開に必要な物は何か?

A.当然、チート能力っしょっ!


それさえあれば例え異世界であろうとも、夢と冒険溢れるwktkな人生を確約されたも同然!


ーーこれで俺も主人公的キャラに昇格かー?!

ーーさらにはハーレムルートとかも展開して……い、いかんウキウキが止まらない♪

ーーそんな妄想を実現させる為にも、ここは冷静に対応しなければっ。


そう考えどうしてもニヤついてしまう顔を揉みほぐしていると、不意に幼女が何か投げつけてきた。


「へ?ナニコレ……サイコロ?」


「それは『運命のダイス』と呼ばれる物じゃ。それを振って出た数字がお主の新しい能力となる。」


足元には三色の10面ダイス。


これが俺の第二の人生を左右するなんて……


どこのT・TRPGだよっ!?


思わず激しくツッコミそうになるのを無視してさらに幼女は言葉を続ける。


「因みに振るのは一回限りじゃ、当然やり直しはきかんからな。」


ーーいやいや、どんな能力があるかも説明無しですか?

ーーせめて何色が何に関係するとか……


「早く振らんとそのまま適当に転生させるが、良いか?」


こちらの疑問は口に出す前に華麗にスルーされ、面倒臭そうに急かしてくる幼女に向かって、慌ててダイスを拾い上げ3個まとめて転がす。


「ほぅ…赤5に……青は0…黒が8とは、中々の運の持ち主らしいな………うむ、お前の能力は『適当』に決定じゃ。」


「え、なにそれ?適当な能力なの?それって意味あるの?」


「能力とは言ってもそのままの意味ではない!お前はこれから行く世界で、どんな魔法でも使えるがどんな魔法も使いこなせん……故に『適当』じゃ。」


「ナニソレ?……禅問答?」


「違うが、説明が面倒臭い。」


「いやいや、そこはちゃんと説明してくれよ?」


やっと口に出せた疑問もやっぱり幼女は無視し、代わりに溜息を吐くような仕草をすると少し間を置いてきっぱりと断言してきた。


「だが断る!そこまでわしが面倒を見る義理は無いっ!」


「いや、殺しといて義理は無いって、寧ろ大有りだろ!」


「うぐっ!し、仕方ない。簡単に言えば存在する魔法なら全て使えるが全て成功する保証が無い。と言う事じゃ。」


「ちょ、本当に適当過ぎんだろっ、それ。」


「さーてと、能力も決まった事じゃし、早速転生させてやろう。」


こいつ、強引に転生させて責任を有耶無耶にする気だな。

しかし、そうは問屋が卸さないぜっ!


「ちょ、ちょーっと待ったぁ!」


「なんじゃ、まだ何かあるのか?」


嫌々そうな幼女の声はこの際スルーして、転生するにあたって一番基本的な事を頼んでみる。


「いやー、さっきあっさり死んだ事でも判ると思うんだけど、現代人の身体ってかなり貧弱なんだよねー。だーかーら、せめて最低限の身体能力も底上げして欲しいんだけどー。これはオケ?」


「なんじゃ、他にも能力を欲するのか?」


「いやー、言ってみれば保険みたいなもんですよ。ほら、異世界転生なんか初めてだし、転生したはいいけど二分で死亡。なーんて事になったらした意味も無くなると思うんですよねー。」


ここは下手に出てでも適当魔法なんて怪しい能力より、何とか確実な能力をゲットしようと極上の笑みを浮かべながらお願いする。


「むー、確かにそのままじゃと半年と持たんかも知れんな。よし!対価は貰うが特別にあと二つ『肉体強化』と『肉体変化』も付与しておく。後は自力で何とかしろ。」


「おい、ちょ、半年持たないかもって一体どんな世界に転生させるつもりなんだよ?それに対価とか、なんとかしろって……「では、さらばじゃ。」」


最後の質問には答える気が無いらしく、被せ気味に幼女が言い放つとさっきまであった足元の感覚が急に消失した。


「ちょ、え?おま〜〜っ……」


落とし穴に落ちたような感覚の後、絶叫に近い声を上げながらグングンと小さくなるシルエットを見上げる。


それも数秒の事でモヤが晴れると今度は足元に1円玉サイズの地球によく似た惑星が見え、引き寄せられるように加速して行く。


ーーちょっ、まさかの生身大気圏突入かよっ!


そんなツッコミを口にする前に俺は三たび意識を失い、何処かの大陸へ向かって落ちて行った………。

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