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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

傍観者・飯田和人

作者: クリム

 いじめって凄いよね。今まで他人だった人達が、同じ目的の為に一つになれるんだから。一個体に対する集団攻撃っていう原始から続く本能に近い行為は偉大だね。

 あそこの席にいる花澤さん。ホラ、あの丸い眼鏡をかけた気の弱そうな女の子。あの娘はいま、クラスの団結に誰よりも貢献しているよ。だって、自分のクラスに入ったはずなのに自分の席がないんだもん。笑っちゃうよね。

 あーあ。廊下行くとき転んじゃった。野田くんの足に引っかかっちゃったんだね。カワイソ。あ、でもちゃんと廊下にあった机とイス持ってきた。偉ーい。あらら、またコケた。駄目だよ野田くん。足はちゃんとしまわなきゃ。

 先生が来て、HR。花澤さんも少し遅れて準備完了。先生怒ってる。周りは笑ってる。笑顔が絶えないクラスはいいね。楽しいね。ワハハハハ。

 授業は抜き打ちテストだった。何コレ、簡単じゃん。え、頭の体操?テストじゃない?な〜んだ。百点とっても偉くないか。でも楽しいなコレ。サクサク進む。お、もう少し。はい終わり〜。楽しいなこのプリント。またやりたいな。答え合わせ?当然満点。そりゃただの掛け算のプリントだもん。百点じゃない奴はいないよ。あれ、花澤さん百点じゃないの?零点?うっそ〜。はずかし〜。やだなぁ花澤さん。ペンが折れてたなんて理由にならないよ。さっきまで普通だった?トイレ行ったら折れていた?言い訳はダメだよ花澤さん。そんなの理由になるわけ無いじゃないか。皆が笑ってる。お日様も笑ってる。今日はいい天気だな。

 昼休み。僕も花澤さんも昼飯を食べない。僕は忘れたけど、花澤さんはグチャグチャにされてたんだって。見た目は文学少女なのに、本を読まず俯いてる花澤さん。何見てるんだろ。楽しいのかな。

 体育の時間。花澤さんは体操服に着替えなかった。あーまた先生怒ってる。体操服忘れたんだ。うっかりさんなんだね。グラウンド五周頑張って。あっと、忘れ物しちゃった。せんせー行ってきていいですか?先生笑ってる。皆も笑ってる。曇ってきたな。雨降るのかな。

 誰もいない教室。何か悪いことしてるみたいでドキドキ。忘れ物発見。探し物も発見。ダメだよ花澤さん。隠したいものはちゃんと隠さなきゃ。体操服持ってるじゃん。嘘は泥棒の始まりだよ花澤さん。ま、泥棒は僕だけどね。でもスゴいなこの体操服。切られたり踏まれたりでボロボロじゃん。学生パンクかなにか目指してるのかな。まぁいいや。体操服貰うね花澤さん。

 放課後になると花澤さんは先生からお呼び出し。成績悪いんだ。テスト平均十点?留年しちゃうよ花澤さん。生徒の成績は先生の成績なんだから、いらない子はポイされちゃうよ?ホラホラホラ、先生舌打ちしてんじゃん。もう帰っていいって。良かったね花澤さん。やや、君はクラスの中じゃ一番男友達が多い女の子の新森さんじゃないか。へぇ、先生と今日約束があるんだ。楽しめるといいね。

 清掃が終わったクラスは机も床もキレイでピカピカ。気持ちがいいね。なのに花澤さん、何で机がそんなに汚いの?ゴミだらけじゃない。そんな汚いの集めちゃダメだよ花澤さん。全く、机に落書きなんてもってのほかだよ?マジックは消えにくいんだから、学校の備品にイタズラしちゃダメじゃないか。あ、帰るの?雨降りそうだから傘持っていきなよ。ん?ないの?そっかー。誰かが間違えて持ってっちゃったんだね。隣の傘パクっちゃえば?嫌なの。あー、帰っちゃった。教室は僕一人かー。鍵めんどくさいな。でも何だろな。教室まだゴミ残ってるな。机も汚いし。しょうがないなぁ、珍しく僕がキレイにしちゃいますか。机をゴシゴシ。床をサッサッ。最後に並べてハイ、完成。いやー、掃除って気持ちいいね。さ、僕もかーえろ。

 部屋に一人でいる健全な男子学生が女の子の私物を盗んできたら、する事なんて一つだよね。花澤さん普段これ着て体育してんだよね。これが花澤さんの体操服かぁ、ハァハァ。ところで、何で花澤さんはいきなり学生パンクに目覚めちゃったんだろ。格好いいのかな学生パンクって。うーん、盗んだまんまも悪いし、明日には返さなきゃな。でもなー学生パンクだしなー。そうだ、せめて花澤さん好みに改造してあげよう。あー、僕って親切。じゃあまず、手にしたこの器具で穴だらけにする事から始めようかな。クククッ、明日が楽しみだぞ。



 あれ、今朝は違うね花澤さん。机ちゃんとあるんだ。昨日の落書きもちゃんと消したんだね。えらいえらい。あ、体操服こっそり入れといたよ?気に入ってくれるかな。

 先生が来てHR。授業に体育。良かったね花澤さん。今日は何も失敗しなかったね。学生パンクな体操服も元に戻したんだ。先生驚いてたね。花澤さんも驚いてたね。だけど皆は睨んでたね。


 それからかな。花澤さんに対する周りの団結はより一層強くなったね。皆すごいなー。一つの物事に皆で真っ直ぐ突き進むなんて青春じゃん。一大感動巨編ができあがるね。映画化決定だね。流石は花澤さんだよ。皆の団結を一心に受け止めるなんて、心が広いなぁ。あれれ、表情が暗いよ?笑って笑って。



 花澤さん今日は遅いな。休みかな。最近寒いもんね。風邪ひいちゃったかな。皆もつまんなそう。クラスの皆に心配されるなんて、愛されてるね花澤さん。良かったね。

 と思ったら放課後花澤さんを見つけた。俯いてトボトボ歩いてる。学校サボっちゃダメじゃないか。まぁ学生パンク趣味だしなぁ。サボったりするのは自由なのかな。でもどこ向かってんだろう?

 興味本位で着いていくと、捨てられた工場があった。ありゃりゃ、流石学生パンク。行くところもパンクだね。ん?その垂れ下がった縄なに?首入れちゃったけど、椅子の上に立ってるなら落ちたとき危ないよ?ほら言わんこっちゃない。椅子から落ちて首絞まってるじゃない。

苦しいのかな?おっ、暫くバタバタしてたけど、人形みたいにだらっとしちゃった。大丈夫かな。あ、そうだ。せっかく女の子が無抵抗の状態なんだから、少しエッチなことしようかな。多分もう花澤さんも動かないだろうし。

 まず、花澤さんを床に下ろして服をはだけさせるっと。おぉ〜、凄いね花澤さん。意外に巨乳だね。なにしようかな。よし。じゃあまずは左の胸をモミモミ。次に花澤さんの無抵抗な口にキスしてみる。あ、これ楽しい。癖になるかも。あと何回かヤっちゃおっと。



 ふぅ。楽しかった。花澤さんの胸柔らかかったな。でも花澤さん起きないな〜。もうすぐ夜だよ?流石にこんな時間に野外放置は趣味じゃないしなぁ。うーん。あ、そうだそうしよう。自宅に連れ帰っちゃおう。なんて素晴らしい案なんだろう。女の子の身体さわり放題だ嬉しいな。そうと決まれば善でも悪でも急がなきゃ。やれ急げそれ急げ。準備完了さぁ行くぞ。女の子をお持ち帰りだ嬉しいな。

 動かない花澤さんをベッドに寝かせて、僕は風呂に入る。気持ちいいな。温かいな。幸せだな。いい湯だな。草津行きたいな。おいしいお饅頭も食べたいな。お風呂って楽しいから好き。

 お風呂の後はご飯。今日はパスタな気分だな。カルボナーラいいな。食べたいな。ドアが開いた音がする。僕一人暮らしだよ?泥棒さんかな?って、うわ〜お。花澤さん生きてたの。キョロキョロしてるけど、ここは僕の家。いやらしい事はもうしちゃったから大丈夫だよ。おいおい、アナタは誰ってひどくない?クラスメートの飯田和人だよ。忘れちゃった?あぁゴメンゴメン。何もしないから怯えないで。忘れるのは人間の仕事だから大丈夫。怒ってないよ。落ち着いて。思い出してくれた?いやぁ嬉しいな。お持ち帰りした甲斐があったよ。ねぇ、夕食カルボナーラなんだけど一緒に食べない?こうみえてパスタには自信があるんだ。え、いいの?アリガトー。ヒトリジャサミシカッタンダ。

 もぐもぐ。もぐもぐ。カチャカチャもぐもぐ。美味しいねぇ。シェフを呼んで貰おうか。ハイ何でしょうお客様。実に美味い。気に入った。君は天才だよ。ありがとうございますお客様。しかし私とアナタは同じ人。同じ飯田和人なのです。つまりコイツは自画自賛。いやぁ美味しいなぁ。

 あれ、どしたの花澤さん。美味しくなかった?って何で泣いてるの?どんだけマズかったのさそのパスタ。シェフとして気になるな。ちょっと失礼。んん?俺のより美味い。胡椒いれたの?俺も入れてみよ。うん、美味い。参考にするね花澤さん。

 で、どうかしたの?あなたが私を助けたの?いや、俺は気絶した花澤さんにセクハラしただけで。体操服?あぁ、アレは花澤さんが学生パンク趣味に目覚めたと思ったから、僕なりに改造したんだ。盗んでごめんね?いや〜、ミシンと糸で改造しようとしたら一周回って普通の体操服に戻っちゃってさ。びっくりしたよ本当に。机?あれは放課後掃除したら綺麗になった。列が乱れないように全部の机を床と接着するのは大変だったよ。接着剤二本も使っちゃってさ。アハハハハ。あ、机の上の工夫気に入ってくれた?ラップを机の上に貼り付けて、油性ペンで落書きしようが剥がせば一発で元通りってんだけど。

 何で花澤さんを助けたかって?机も体操服も、僕が何もしなければ皆の花澤さんに対する態度が変わらなかった?それならまだ耐えられたのに?勝手に余計な事しないでよ?ひどいなー花澤さん。僕が何かするのにいちいち花澤さんにお伺いをたてなくちゃいけないの?僕が何しようと僕の勝手でしょ?不思議なこと言うね花澤さん。あれ、帰るの?花澤さんの勝手でしょ?そうだね〜。あ、パスタ美味しかった?ホント?ありがとーございますお客様。送ってくよ。あれ、いらない?おかしいな。誰も花澤さんの意見なんて聞いてないよ?じゃ、行こっか。


 ってまた捨て工場?好きだねー。廃墟フェチってヤツ?花澤さんまたさっきの縄で遊ぶの?首入れてるとこ悪いけど気をつけてねーって、ホラまた言わんこっちゃない。さっき花澤さんにセクハラしたとき傷つけといたの。だから花澤さんの軽すぎる体重でも切れたでしょ?え、なになに何でまた泣くの。何で邪魔するのか?いや俺邪魔したくないし。じゃあ死なせてよ?勝手に死になよ。いつどこで誰が花澤さんの行動を規制したの?大丈夫大丈夫。人間死ぬときゃ一人だし。どうせ理由は、クラスでの扱いでしょ?で、最終的に『誰にも必要とされないから』とか言っちゃうのかな。いや別に馬鹿にはしてないぜ?ただ、必要とされてないのは事実。自分のこと、ちゃんとわかってんじゃん。だってそうだよね。やられてもやられても、絶対にやり返さずひたすらやられっぱなしなんだもんね。そんなの人形でもできるよね。人間である必要無いもんね。毎日が嫌?もう寂しいのは嫌?ふーんそうなんだ。花澤さん馬鹿だよね。自分から人間である意味を捨てておいて、ちっぽけで不必要で無意味で無価値なプライド(笑)のせいで人形に徹し切れてないんだもん。諦めた方が楽なのにね。じゃあどうすればいいか?知らないよ。僕に聞かないでよ面倒くさい。でも、ま、アレだよ?どうしても今花澤さんが置かれている状況を変えたいとか言うなら、出来なくはないよ?うん、そうそう。僕実はそれができるの。でもな〜。無償奉仕はつまらないな〜。そうだ。花澤さん、何でも一つだけ言うこと聞くならやったげる。大丈夫大丈夫。いやらしい事はもう終わらせたから。それに、これが終わったらもうその巨乳には用無いしね。で、花澤さんはどんな覚悟でそれを頼むんだい?信用?それは花澤さんが決めなよ。僕は有言実行って言葉が大好きだからね。言ったことは必ずやるさ。お願いの件もね。

 土下座してるとこ悪いけど、口で言うだけで僕には伝わるよ?始まりからず〜っと花澤さんのこと見てきたからね。事情はわかってるつもりさ。へぇ、お願いも含めて僕に頼むんだ。それが花澤さんなんだね。そうそう。気になるお願いなんだけど、僕ちょっといいこと言おうかな。

 花澤さん、君が全てを終わらせるのを、僕に傍観せて欲しいんだ。え、ちょっとわからない?あはは。口下手でごめんね。つまり、今まで頑張ってきた花澤さん自身の手で、全てを終わらせて欲しいんだ。作戦もあるしね。いいかな?本当に?いやぁ、嬉しいなぁ。そんなに期待されたら、僕も頑張っちゃおうかな。頑張ろうね。花澤さん。




 で、いきなり作戦当日。なんと今日は、授業参観の日なのだ。僕と花澤さん以外のクラスメート全員が親御さんと一緒に座ってるね。先生もいつもより優しいな。

 親子でペアになって数学のプリントを解くのが、今日の授業参観の内容。あぶれた僕と花澤さんはペアにされた。しかし花澤さん、猛スピードで説いてるね。これ難しくないの?簡単?マジですか~。


 プリントタイムの後は、生徒が親に夢や感謝を語る時間。皆の前で一人ずつ、イママデアリガトウガンバルネ。くだんね。今時小学校でもやらねぇよこんな企画。なのにどうして可笑しいな。先生生徒はニッコニコ。それ見て母親ニッコニコ。さて次は僕の番か。とりあえず、素晴らしいお話しなくちゃな。

 はいはい皆、この封筒受け取って〜。あ、先生もどうぞ。まだ開けちゃダメよ?

 それじゃあ皆、親と一緒に中を見て。僕が撮ったクラス写真をプレゼント。掃除、お絵かき、体育、ハサミ、昼休み、お弁当。皆のことを撮ったんだよ?よく撮れてるでしょ。あれれ、なんで皆固まるの?楽しいクラスの思い出じゃない。それとも、ナニカミタクナイモノデモウツッテタ?

 野田くん足長いよね。女の子をわざと転ばせてる時の顔、いい笑顔だったよ。新森さん、この前の約束楽しかった?いくら男との夜遊びが好きだからって、先生とホテルはいけないよ。それに先生、生徒を愛するなら、まずその夜の個別指導をやめてくれないかな。成績をネタに、花澤さんも指導するつもりだったんでしょ?あの子巨乳だしね。因みにお前ら、写真の原本は僕の家にあるからな?


 最近って本当に便利だよね。データさえあればコピーし放題なんだから。大丈夫。皆の楽しい思い出は校長にも見せてあるよ。

 花澤さん、CDプレイヤー準備してよ。皆の日常を、録音してみたんだ。お、聞こえてきた聞こえてきた。へー、花澤さんの机移動させたの、田村くんだったんだ。落書きは伊藤さんで、弁当は石毛くん。体操服は女子皆だったんだね。

 流石に自分の子供の声くらい間違えないでしょ年寄り共。どう?授業参観は普段の学校生活を見るのが目的なんだし、皆もっと自分の日常を親に見せようよ!

 新森さんのお母さん、五月蠅いから叫ぶのやめてよ不快だな。アンタのその不細工な娘が先生と関係持ってることぐらい、てめぇのブスの成績みりゃわかんだろ?あぁもう年取ると人の話を聞かない奴らばっかりになるんだな。ババァどもうっさい。ジジィはジジィで大人しくしてろ。ところで先生、授業はとっくに終わってる筈なのに、どうしてチャイムならないと思う?

 スピーカーを集音マイクに改造したからですよ先生。因みに、放送室経由で全学年全クラス校長室にも繋がってるよ?校長もちょうど来たみたいだね。おいハゲ、こっちだこっち。

 最後に面白いもの見せてあげる。お前らが大好きな花澤さんが自殺未遂おこしたときの動画だよ。あれは流石にビビったね。動かなくなったときは焦ったよ。人工呼吸が間に合わないかと思ったしね。


 さぁお前ら、サイレンが聞こえてきたぜ?こいつぁ立派な殺人未遂だ。こりゃ逮捕もあるかもな。因みに新森と先公、てめぇらは売春だから。

 さ、約束だぜ花澤ちゃん。君の手で終わらせようか!





『わ、私は――――』







  *  *  *  *


 先月、お茶の間を賑わせた有名進学校のイジメ事件は、廃校という形で幕を閉じた。

 あれ以来音信不通だった花澤さんから連絡がきたのは、二日前だった。また会いたいという彼女に、僕は例の工場を指定した。理由はあるけどね。



「久しぶり。飯田くん」

「久しぶりだね花澤さん。少し胸が大きくなったかい?」

「な、なってないよっ!」


 結果を言うなら、花澤さんは馬鹿じゃなかった。度重なるイジメの過程でペンが被害にあっただけで、花澤さんの学力は相当な物だった。都内の進学校に入り直し、特待生になったらしい。制服姿でも自己主張が激しい巨乳が揺れる揺れる。



「楽しそうな顔だね。そんなに今の環境が気に入ったかい?」

「まだ…なれないけどね」


 へへへ、と笑う花澤さん。その笑顔は、一月前とは違う晴れやかなものとなっていた。



「………ありがとうね」

「何が?」


 可笑しいな。何を感謝されてるんだろう。



「多分、あのままだったら今の私はここにいなかったよ。あの時飯田くんがいてくれて、本当に良かった」

「僕はあくまでも傍観者さ。頼んだのも終わらせたのも花澤さんだよ」

「………嘘ばっかり」

「嘘?心外だなぁ」


 当事者なんかより、傍観者の方が好きだ。本に例えるなら、せっせと働く主人公より読者でいたいからね。



「飯田くんは、傍観者なんかじゃない。作者なんだよきっと。あの時だって、主人公は私で飯田くんの加筆修正があったから私は幸せになれた。飯田くんが、私の物語の筋書きを変えてくれたんだよ」

「筋書きを変える、ねぇ……」


 そんなことしたのかな。本当に、僕は読者じゃ無いのかな。

 初めてだな。こうやって悩むのは。



「ねぇ、見せたいものがあるんだ。いいかな、花澤さん」

「ん?見せたいもの?」

「こっちだよ。来て」


 悩むのは、後でもできるかな。今の僕は、花澤さんに見せたいものがあるんだ。

 工場をまっすぐ進む。見えてきたのは、あの時の縄と椅子だった。



「わ……懐かしい…のかな?」

「そうだね。あの時と同じだね」


 垂れ下がった縄。すぐ下の椅子。あの時花澤さんが死のうとした時のまま。

 違うのは、切れた縄がなくなり新しい縄が垂れている所だった。



「花澤さん。もう一度、首吊ってみない?」

「………へ?」


 きょとん。花澤さんはそんな顔になった。無理もないか。死ねって言われてるようなもんだし。



「今の花澤さんが幸せから、生きようと必死に足掻くはずでしょ?今の花澤さんが本当に幸せなのか、花澤さん自身も知りたくない?」

「あ、う………」


 さて、どうでるか。



「わかりました。私も、知りたいです」

「……そう」


 椅子に登り、輪に首を入れる。



「あの、もし死にかけたら、じ、人工呼吸……して、くださいね」

「うん。わかったよ」

「じゃあ、いきます」


 ガタン、と音がして、縄が花澤さんの白い首に食い込んだ。

 花澤さんは、抵抗しない。暴れない。十秒、十五秒。花澤さんが暴れだした。



「死にたくないょ…まだ…嫌だっ……」

「それが、君の答えだね。花澤さん」

「………っ!」


 花澤さんの腰を抱き、首の拘束を緩める。花澤さんの顔は、少し楽になったようだった。



「ねぇ、僕との約束、覚えてる?」

「や、……やく、そく?」

「君が、君自身の手で全てを終わらせるのを僕に傍観せてってやつ」

「うん…だから私、がん…ばった…よ……」

「そうだね。最後に君が頑張ったから、アレは終わったんだ」

「う、うん……」


 ゆっくり微笑む花澤さん。それは、とても綺麗な笑顔だった。


 だけど、違う。僕はそんなの欲しくない。


 僕が、僕が本当に欲しいのは。



「花澤さん、約束、ちゃんと守って欲しいな」

「……ぇ?」

「君が、君自身の手で全てを終わらせるのを、僕に傍観せて欲しい」

「どういうこ……ぐあっ!」


 言い切る前に手を離す。縄が首に食い込み、花澤さんの呼吸を許さない。



「なんっ…!ひ、ひど……い…くあっ!」


 ひどい?心外だよ花澤さん。約束は守らなきゃ。










 さぁ、君の死体おわり傍観させてよ!


読んでいただきありがとうございました。



僕の考え方や発想を面白いと思ってくれる方がいらっしゃいましたら、コメントお願いします!

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