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王道って何ですか?  作者: みるくコーヒー
裏の物語

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46/47

死闘は草原で巻き起こる

「父様と同じ名前を語るなんて、数億年早い。」


ルーザは、悪魔であるサタンの頬をグリグリと踏みながら冷酷に言葉を放つ。

サタンは顔を歪めてルーザを見た。


狙う相手を間違えたとサタンは内心少し前の自分を恨んだ。自分と相性の悪い相手を選んでしまったからだ。


「えーっと、どうすればいいんだっけ。」


懐から『姉の友人特製の塩』を取り出してジッと見つめる。食べさせればいいのか、食べさせた後はどうする?


「・・・まあいいか、なるようになるさ」


魔法でサタンを押さえつけたルーザは、塩を口に放り込む。瞬間、黒いものが口から立ち込めた。


それが本体なのだと、ルーザは瞬時に判断することができた。ガッと手で掴み捉える。


「無駄な抵抗はやめてよね。えーと、悪いものには光魔法・・・とか有効?」


掴んだ手に光魔法を集中させてみる。

ルーザの使う光魔法は普通の魔法では無く『浄化』の魔法で、サタンは手の中で苦しげにもがく。


魔族だから光魔法が使えないなんてことは無いし『浄化』だって訓練すれば得ることが出来る。

悪魔を払えるほどの『浄化』なんて相当の訓練が必要だろうが、ルーザは天性の才能で通常よりは早く習得出来た(だからといって、ラクだったわけでは無かろうが)


「さよなら、また出直すことだね。」


ルーザの手の中でサタンは弾けた。死んだわけではない、しかしあれ程の光魔法を集中して受けたのだから復活するまでに長くかかることだろう。


「ルーザ様、いつの間に光魔法なんて。」


シュロムが驚いて声を上げた。

その言葉にルーザは得意そうな顔をした。


「あああ、もう!どいつもこいつも使えないわね!!!さあ、やっちゃいなさい!」


コーネリアが叫び、手を横に振ると地面がボコボコと盛り上がり始めた。

それは次第に人型を成してノロノロと動き出す。


「なんだこれ、気持ち悪っ!」


襲いかかってくる土人形たちに、レイメイが堪らず声を上げた。斬っても斬っても再生するソレに、皆はなす術が無かった。


7つの大罪の残り5人に土人形たちの相手は遥かにシュロムたちに不利な状況だった。

彼らにとって、草原一面の土人形が何より厄介極まりない。


「ちょっと、これどうにか出来ないワケ!ボクもう、こいつらの相手はゴメンだよ!!」


ソルシェルが不満を口にする。

禁書が関係するのだろうが、禁書にさほど詳しくないシュロムにとって解決策を考えるのは厳しく、内心焦りに駆られていた。


チラリと近くにいるヴィンセントに目を向ける。


「それは、いくら潰してもすぐに再生して意味がありません。本自体をどうにかするか術者を倒すか、元を断たないとどうにもなりません。」


この距離で今すぐ本をどうにかするのもコーネリアを倒すのも、シュロムにとっては至難の技でこの状況にただただ眉をしかめることしか出来なかった。


しかし、他のみんなは7つの大罪に手を焼いていてこちらのことまで気が回らなそうだ。


いや、ここは自分がどうにかするしかないか。


「どうにかしてみます、なるべく私に敵が近づかないようにお願いいたします。」


シュロムは魔法で弓を作る。矢に炎を灯して狙いを定める。


事態に気付いた7つの大罪のレヴィアタンは、そうはさせまいとすぐさま飛び出しシュロムへと向かう。


「仕事を増やさないでくれませんか?」


ヴィンセントがレヴィアタンを防ぐように前へ出て、障壁を張る。しかし、ヴィンセントの障壁では長くは持たず直ぐに壊されてしまう。


ただ時間稼ぎにはなったようで、レヴィアタンがそれを突破する頃にはシュロムは矢を放っていた。


「優奈ちゃん!」


東吾が慌てて駆け寄るが既に遅く、彼女の持つ2つの本には炎が灯されていた。


『トウニコズムの死霊書』と『アングムの生命錬金』だ。2つの禁書が力を失うのにそう時間はかからなかった。


草原一面にいた土人形は、一気に土の山へと姿を変える。


「な、に・・・?なによ、これ。」


コーネリアは火のついた本を熱さからパッと手を離す。すると本はボトンと落ちて草の上でただの墨へと変化していく。

まるでそれが今まで禁書であったことが嘘のように、なんの効力も無い残骸になった。


「・・・っ!こんな奴らにどんだけ手間かけてんのよ!この役立たず共が!!」


そう罵声を浴びせられた7つの大罪たちは、一様に戦いながら怒りを露わにする。


魔力量のおかげで呼び出されることの少ない7つの大罪にとって、下手に逆らってしまうのは良くない。が、どうもこの女の命令に従うのは非常に不愉快であった。


「やーめた!」


先に手を止めたのは、ベルフェゴールだ。

降参です、と言わんばかりに両手を挙げる。


「正直、この仕事需要と供給の差が激しくない?魂たくさん喰えると思ったのに全然喰えないし。」


怠惰を司る悪魔なだけある、言葉にやる気が全く感じられずボフンと地面に座り込み胡座をかいた。その様子にみんな呆気に取られて、戦うことを忘れる。


「そんなの、こいつら倒したら幾らでもあげるわよ!」


その言葉にベルフェゴールはコテンと首を傾ける。


「へぇ〜、どうやって??人間が下手に殺しを行うと罪になるっていうけど。それに簡単に言うけどこいつら全員倒すのにどんだけ苦労すると思う?第一、僕は今すぐこの空腹状態をどうにかしたいわけ。7つの大罪だってお腹が空いちゃ力は出ないさ。」


想定外の事態にコーネリアの頭はグラグラとする感覚に陥る。


どうして??私は選ばれた人間のはずなのに。

こんなことあって良いハズがない・・・これは何かの間違いよ!!!


コーネリアはグシャグシャと髪の毛をかき乱す。

その様子を見て、ベルフェゴールはため息をついた。


「とにかく、僕はパスさせて貰うよ。封印さえされていなければどうにでもなるさ。」


口から黒いものが出て、それはどこかへ飛んで行った。魂を失った身体はただの土と化す。


「モブの癖に、勝手に動かないでよ・・・私の言う通りに動きなさいよっ!」


コーネリアは怒りの表情を見せながら、ブンッと徐ろに手を振り上げた。瞬間、空に何百・・・いや何千という数の氷の槍が現れる。


彼女はどれだけの魔力を内に秘め、それを隠してきたというのだろうか?そんなこと可能なのか?いや、可能なのだろう。彼女はそうして生きてきたというのだから。


シュロムはぐるぐると頭の中で考えを巡らせた。


彼女には既に敵も味方も見境がない。自分以外の者を排除するため、それだけのために突き動かされているようだった。


「ちょ、ちょっと優奈ちゃん、落ち着い「うるさい!東吾は黙って私に従ってればいいのよ!勝手なことしないで!」


勝手もなにも、自分は君に言われた通りに動いているんだけどなぁと心の中で呟いて諦めたようにため息をついた。


こうなってしまった彼女は東吾には止められない、彼女は強情なのだ。もしも自分が止められたら、前の世界での運命は随分と変わっていたことだろう。


悔やんでも仕方ないことはわかっているが、何度も思ったのは事実で。ただ、それを既に捻じ曲げることさえ出来ないことも事実だった。


「みんな、死ねばいいのよ!!!」


ブンッとコーネリアが手を振り下ろすと、氷の槍が敵味方関係なく降ってくる。


「この女、正気じゃない!」


レヴィアタンがバリアを張りながら叫ぶ。そのバリアは既に壊れかけている。それというのも、彼女は防御には少しも向いていないからだ。


「あああ、無理!本当にバカなんじゃない、こいつ!!!」


心の底からの叫びをコーネリアへ投げつけて、レヴィアタンもその場を逃げるように人形から出て行く。


他のものもバリアを張り身を守るが、ずっと持続するには厳しいものがあった。


「おい、お前どうにかしろよ!」

「こうなった優奈ちゃんは俺でも止められない。」


ロジェが敵である東吾へと叫ぶが、その答えは実に頼りないものであった。

この際敵も味方も関係ない。この状況を止められるのなら止めて欲しいというのがロジェの気持ちだった。


「私が、どうにかします。」


シュロムが小さく呟いた。彼は決意していた、身を犠牲にすることを。焼魂は少なくとも1人の魂を代償として行われる。そして、その代償に自身の命を捧げると決めていたのだ。それが何よりの罪滅ぼしであり恩返しとなると信じているから。


焼魂の方法は知っている、落ち着いて炎を灯すだけだ。これは呪文など不要、生命を炎に変えるイメージを持つのだ。


コーネリアが魔法を新しく生み出している、その一瞬の隙。そこだけに注意して、シュロムはコーネリアへと飛び出していく。


「死んでしまえばいい!!!」


再び振り下ろされる手、そして降りかかる氷の槍。全員が限界を感じていた。数人はギュッと目を瞑る。しかし、その氷はハラハラと結晶に変わる。まるで雪が降るように戦慄の景色は絶景へと移った。


「な、なに、これ・・・ぐふっ。」


吐き出される赤に、コーネリアは疑問覚えた。胸が熱く、痛い。いや、既に痛みは感じない。ただ、熱い、熱いのだ。


「死ぬのは君だよ、磯狩優奈。」


シュロムはコーネリアの胸に自身の手を突き立てていた。胸を突き抜けるが、そこからの炎が魂を焼いていく。炎が生命を蝕んでいた。


「あんた、まさ、か・・・。」


コーネリアが見るシュロムの表情に前世では知らない顔のはずなのに、前世で知っている顔が重なった。

そこに確信を覚えた、ああ、これは復讐なのだと。


「は、はは、私は神に選ばれたんだから、愛されてるんだから、ここで死んでも、また、別の人生を歩むだけよ。あはは、あははははは!」


自分でも、どこにこんな話すほどの力があるのかわからなかった。しかし、自身の別の形での勝利への喜びからスラスラと言葉が出てくる。

笑いが止まらないとはこういうことだ。


「焼魂、聞いたことないか?魂ごと消滅するのさ、あんたも、俺も。」

「あは・・・はぁ?」


コーネリアの口の端が引きつった。目の前に敗北が広がった。消える、消える、消える?


「いや、いや、いやあああああ!!!」


ガンッとシュロムを突き飛ばし、自身の胸を見る。広がる血の跡、それよりも広がる炎に恐怖を覚えた。


水の魔法を炎にかけるが全く消えず、焦りは増す。


「なんでっ!消えないのよ!!」

「ゆ、優奈ちゃん。」


東吾が、終わりを覚悟した瞳でコーネリアを見る。

これは負けだ、僕たちの負けだ。


コーネリアの全身に炎が回った。


「いや、助け、て、なんでっ!なんでっ!?私はヒロイン、私はっ!!」


幸せになりたかっただけなのに。

心からの叫びは、炎とともに消えた。姿も何も、塵1つ残さず姿が無くなる。

それと共に、東吾の魂も輪廻転生の輪へと戻った。


ああ、これで、凛蝶は安全だろうか。

彼女の幸せの助けになれただろうか。


目の前がだんだんと暗くなる。

シュロムはその場に崩れ落ちた。




アルフは夢を見た。

また、あの夢だ。しかし、今回は水の中からの始まりだった。彼は、もう向こう岸へ着こうとしていた。


「だめ、行っちゃダメ!」


彼はピタリと止まって振り返る。


「消えないって言ったじゃない、ねぇ、章介。」


章介に対して、シュロムとの約束を投げかけている時分に疑問など抱かなかった。

それが真実なのだと、自分の中で何故か納得した。


「幸せになってよ。」


以前と変わらない笑顔を浮かべて、彼は何も心残りのないように向こう岸へと再び向かっていった。


「なにが、幸せよ!いつも勝手じゃない!!」


そうアルフが叫ぶと、章介は歩みを止めた。


「俺はずっと、過去に生きていたんだ。君への罪悪感も気持ちも拭いきれなくて。君はもう今を生きてる。過去を振り返る必要なんかない。俺の分も幸せになんて言わない。君は君の幸せを手に入れて欲しい、君にはもう、俺は必要ないだろう?」


必要ない。そういうわけじゃない、けれど、過去に縛られる今も嫌だった。きっと自分がこうした夢を見ている理由は、未来へ進みたいからだ。

優奈ちゃんや章介を度々思い出しては苦しくなる過去から。


「それとも、凛蝶も一緒に行く?」


差し出された手を見つめる。

全ては過ぎ去ってしまった過去、しかし確かに幸せだった日々。彼の表情は昔と変わらない、暖かさのある優しいその表情が大好きだった。


でもーーー


「アル。」


後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。

愛しい、その声がアルフを現実へと引き戻す。


今の自分にはディズがいる。ディズしかいない。私には未来がある。過去へ戻ることも、留まることもしない。私は前へ進むのだ。


「行けないよ、私には進むべき道がある。」


私は後ずさりながら岸へと向かった。

私は向こうへは行かない、まだまだやるべきこともある、大好きな人たちがいる、愛すべき人がいる。


「貴方は、大切な思い出。」

「・・・うん、それでいい。」


少し寂しそうな表情を浮かべて彼は歩いて行った。




さようなら、もう戻れない過去。




約半年もの間空けてしまい、申し訳ありません。

駆け足で急展開かもですが、長々と書いてもなぁという場面だったので。

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