CODE K
「それで、経過はどうなのですか?」
みんなが集まった会議室での会議は、まずエルミナ様からの私への質問から始まった。
「そうですね、実行するには十分時間は空けたと思いますが・・・あの女が静かにしているとも思えませんね。」
ここに集まっているのは『CODE K』を遂行するためである。
『CODE 』とは危険因子の排除を行うための機密情報の名称であり、今回においては『コーネリア・ミシェル、又の名を磯狩 優奈』と『久坂 東吾』の2名が対象者である。
そのため『CODE K』という名称で秘密裏に進められているのだ。
この作戦において、アルフ様に知らせることは絶対にしてはいけない。
コーネリアの抹殺すらもその事実を知らせることをしてはいけない。
我々はコーネリアを『焼魂』という形で葬ることを決めている。
『焼魂』とは、魂そのものを焼き尽くすこと、輪廻天性の輪にも戻さず魂ごと無くしてしまうのだ。まあ多少の犠牲やリスクは伴うがそれは仕方ないだろう。
久坂 東吾においては、場合においては『焼魂』を行っても良いが今のところは輪廻天性の輪に戻すだけに留めようと思う。
そもそもコーネリアがいなくなれば、『クレアの送魂術』を使うものもいなくなるわけだから彼がこちらに戻ることはないだろう。
「もう我慢出来ないわ!!」
レイメイが、バンッと机を叩いて立ち上がる。顔がとても怖くて他の部隊の部下たちは、ビクリと肩を震わせた。
「いいわ、あたしがやる。」
レイメイは立て掛けていた剣を握りしめて扉へと向かっていく。
「お、お待ちください、レイメイ様!」
レイメイの部下が、必死に彼女の腕などを掴み止めようとするが、それは何の意味も成さずにレイメイに飛ばされる。
ズンズン進んでいくレイメイの腕をゲルドは座ったままグッと掴み、進行を阻む。
「落ち着け、レイメイ。」
ゲルドが静かに言うとレイメイは端正な顔を歪ませる。
「なぁに、ゲルド。貴方切り刻まれたいの?」
ゲルドはなにも言わずにレイメイを見据える。
「まだ細かいことも決めていない状態でボクたちが動いたって確実に作戦は失敗する。」
魔族幹部の1人である、ソルシェル・ヴェネガーが口を開く。
我ら魔族幹部の中では1番最年少だ。
この計画に参加したい魔族は多くいるだろうが、実際に参加しているのはエルミナ様とルーザ様とサタン様とロジェ。
それからこちらに何度も来ることは出来ないが協力するという形でディズ様やジェイドくんやリュリエスくん、あと雨照と扇宜・・・じゃなかった、セレシュさんとライアさん。
それから魔族幹部である
私とレイメイとゲルドとソルシェル。
魔族幹部は他には、リリメラ・ファファナとツェルクス・クエドの2人がいる。魔族幹部はこの計6人である。
その魔族幹部たちの部隊の中で実力や信頼のある部下がそれぞれ2名ほど。
これがこの計画に参加している人の全てである。
「野蛮よぉ、レイメイさん・・・とりあえずお座りになりましょ?ね?」
リリメラがおっとりとした口調でレイメイに告げる。
「そう、ね・・・つい頭に血が上ってしまったわ、ごめんなさい。」
レイメイは先ほどまで恐ろしい形相していたのを抑えていつもの様子に戻る。
「まだ無理だと言うんだったら、いつ行うんですかぃ?」
ツェルクスが腕を組みながらこちらを見て言う。
「危険な策なのは承知ですが、彼女の方から仕掛けてくるのを待とうと。」
「!?」
皆が目を丸くする。
それはそうだ、アルフ様が危険な目に遭うかもしれないから。
「もしもアルフに何かあったらどうするというのだ!」
「重々承知です、サタン様。しかし、正直いってコーネリア・ミシェルの力は計り知れません。ディズ様たちが守ってくれることを信じて私は進言致しました。」
コーネリアは禁術を扱う。
前回、あっさり捕まえられたのは彼女がアルフ様を前に激昂していたからだ。
2度目はもう、あんな失敗をしないだろう。
そう考えれば、彼女はどこまで力があるかなど計り知れない。
『クレアの送魂術』が扱えるのならば確実にほかの禁術だって扱えるはずだ。
それなれば、彼女が仕掛けてきた後にこちらが仕掛けた方が彼女の力を計ることができるかもしれない。
「・・・十分に対策を取る必要がありますねぇ。」
リリメラがその言葉を言うと、周りは賛同するようにコクコクと頷く。
「正直、姫さんが傷つく可能性があるなんて癪な話だが・・・そうならないよう俺が全力で守る。」
ロジェが言うと、少しだけ安堵したような空気が流れる。
ロジェは実力がある、アルフ様を守り切ることが出来るという期待による安堵だ。
更にディズ様たちが加われば、こちらとしてはそれこそ安心出来る環境にあるというものだ。
本音を言ってしまえば、ここにいてくれることが何よりの安心なのだが。
「そんで、肝心の作戦はどうするんだぃ?」
ツェルクスの言葉で再び沈黙が流れる。
数秒の間の後にレイメイが口を開く。
「転移魔法で連れてくる・・・なんてどうかしら?」
その言葉でエルミナ様がハッとする。
「それがいいわ!魔族領土のレジュメ草原なら下手な視覚も無いし何より人通りだって無いわ!」
ナイスアイデア、という風に言うがそれに対してツッコミの言葉が入る。
「突然、目の前で誘拐が起きちゃうのは得策とは言えませんね、エルミナ様。」
ソルシェルが言うと、エルミナ様は一目でわかるほどにしょんぼりとする。
彼女たちが住んでいるのは王都であるし、王都は大抵人通りがある。
人が多いだけにそこらへんの路地裏にだって人はいる。人のいない場所なんて中々に見つけられないのだ。
「どうにか、人目の無い場所に連れて来れれば俺が転移魔法を使えるんだが。」
ルーザ様が悩みこみながら言うが、その解決策は中々現れない。
我々の誰かがソレを行ったとして、彼女たちが素直について来るはずが無い。
少なからず彼女が信用している人物・・・。
「それなら、ヴィンを使ってはどうですか?」
扉が開かれ、誰かが解決策を述べた。
そこに立っていたのはディズ様である。
「ディズ様、なぜここに?」
「まあ、僕は転移魔法使えちゃうしね。」
What!?
私の発言に対してディズ様はサラリと衝撃発言をされる。
「って言っても、詠唱はしなきゃだし魔力凄い使うから殆ど片道切符みたいなものだけど。帰りはルーザくん送ってね。」
「は、はぁ。」
自由奔放な義兄の言葉にルーザ様は困惑しつつ了承の意を伝える。
「そんで、あの眼鏡を使うとはどういうことだ。」
「あんな信用出来ねぇやつ、俺ぁ使いたくねぇなぁ。」
ロジェ、続いてツェルクスが矢継ぎ早にディズ様へと言う。
ディズ様はニヤリと笑った。
「誰もが仲間だと思うような関係性を保つよう、俺が命令したんだ。」
その言葉に皆が驚く。
彼は演技をしていたのだ、誰にも見破られず常に騙し続けていたのだ、彼女も我々でさえも。
「ただ、彼女は久坂 東吾以外に信頼を寄せていない。」
「っ、それでは『まあ、最後まで話を聞け。』」
ゲルドが言いかけた言葉を、ディズ様は自身の発言を挟んで黙らせる。
「しかし、他の者の中ではダントツに信頼されているハズだ。」
あいつは役者にでもなった方がいい、とディズ様は笑った。
ヴィンセント・ギリア・・・彼を上手く使えば、この計画は確実に遂行出来る。
ただ彼を信用しても良いのかと言う疑問が生まれる、実は彼女たち騙しているフリをしてこちらを騙しているのではないか?
本当は全て演技だということこそが、ウソなのではないか?
「シュロム・・・信用できない気持ちは良くわかる。」
私の心を見透かしたように、ディズ様は言う。その表情は微笑を浮かべていた。
彼は、アルフ様と婚約してからと言うもの、少しずつ笑うようになった。
あのエセ笑顔や冷徹無表情しか放たないディズ様が、である。
アルフ様は素晴らしい人なのだと再度実感しました(まるで親バカ)
「まあ、どうか僕を信用してくれよ。」
ディズ様がここまで言うのだ・・・多少の不安はあれど信用してみようではないか、と思い強く頷いた。
亀更新ですみません・・・。




