思い、重い、想い。
久しぶりにアルフ視点
物心ついたときから、ずーっと側にいた。
甘やかされたり、悪いことをしたら叱られた。
お父様とお母様とは違う感じで、執事だから沢山お世話もしてくれて、大好きで、私にとってはお兄ちゃんのような存在。
「シュロム、どうして着いてきてくれないの?」
「私は魔族ですから、人間の国に私が向かうのは・・・。」
私は、結婚した後もシュロムに着いてきて欲しかった。しかし、彼はそれを拒む。
「それを言ったら私も魔族だし、ラスターナ王国にも魔族はいるわ。」
「貴方がラスターナ王国の王妃になる限り、他国との関係は切れません。それを考えた結果です。」
シュロムが魔族長であるからだろうか。そんなこと言ってしまえば、私だって魔王国の姫なのに。
でもそれを言ったら、『お嬢様と私では違います』とか言われる、一体なにが違うの?同じ魔族だっていうのに。
「じゃあ、じゃあせめて一ヶ月・・・いや一週間でもいいわ・・・ねぇ、ダメ?」
私がそうお願いをすると、シュロムはぐっと顔を歪めた。
「お、お嬢様はそろそろ私離れしないといけません。」
「でもたった一週間よ、こんな小さなお願いも聞き入れてくれないの・・・?」
私がしょんぼりすると、シュロムは盛大にため息をつく。
「なんだって、私のお嬢様はこうもワガママなんですかねぇ。第一これからずっと会えないわけじゃないでしょうに。」
それは、私は転移魔法だって使えるから会えないわけじゃない、でも、でもそれとこれとでは違うのだ。
なぜか、離れたら、シュロムに会えない気がして仕方が無いのだ。
それは、不確かな予感でしかないが。
ただの不安なのかもしれない。
「・・・3日だけなら・・・。」
「短すぎるわ!せめて5日!」
たった3日間でなにが出来るというのだ。
私は彼に何もしてやれないじゃないか。
確かに不安もあるが、何より一緒にいられるうちに彼に恩返しをしたいのだ。
ただ、その案が何も浮かばなければ時間もない、だから一緒に来てもらいたかったのだ。
「3日」
「5日!」
「3日」
「5日!」
「3日です。」
「5日よ!」
「・・・3日、これがダメなら私はお嬢様の要求は飲めません。」
ぐっ、そこまで言われてしまうと何も言えない。
「・・・わかったわよ。」
私が拗ねたように言うと、シュロムが私の頭をポンポンとする。
「分かってください・・・私だって貴方に仕えられるならばずっとそうしていたい。」
とても悲しそうな表情をする彼に、私はただ困ったような笑みを浮かべるしか出来なかった。
大丈夫だと自信たっぷりに胸を張ることも、安心させるような笑みを浮かべることも、何も出来ない。
だって、『彼がいなくなる』のに、こんなにも辛いのに、そんな風に振る舞う余裕なんて無いのだから。
「ロジェくんに、引き継ぎしなければいけませんね。」
私と一緒に来ることになっているロジェに、私のためにシュロムのしている仕事の引き継ぎをしなくてはならない彼は、私から離れて反対側へ歩いていった。
私に、背を向けて。
それから一週間後のこと。
「ディズ、お願い。2日・・・いえ1日だけでもいいの・・・こっちに来てから時間をくれない?」
私がラスターナ国に移行してから、大勢の客に披露するパーティが行われることになっていた。
その日取りは既に決まっていて、ちょうど5日後のことだった。
明後日までには諸々の私の仕事を完璧にルーザに引き継ぎこちらに完全に来なければいけない。
「1日なら問題無いと思うけど、何か大事な用事でもあるのかい?」
「ええ、とても。」
私がコクリと頷くと、ディズはあからさまに不機嫌そうな表情をする。
「僕との新婚生活よりも?」
そう言われてしまうと辛いものがある、なんせディズとの時間だって大事だから。
でも私は、ディズはそれを存分にわかっていてくれていると信じたい。
「貴方のことは愛してるし、でも、1日だけ時間が欲しいの・・・お願い、ワガママなのはわかってる。」
私が懇願するように見つめると、ディズはフッと目を逸らす。
「あーもう、そんな可愛い顔されたら、ダメなんて言えない・・・ホントずるい。」
そう言ってディズはこちらに近づいてくる。
そして私の後頭部にスルリと右手を添えてから左手でくいっと私の顎を持ち上を向かせる。
「でも、僕だけを見てくれなければ許さないからね。」
そう、あの作った笑顔をしながら私に告げて、唇を重ねてくる。
「んっ・・・ふぁ・・・。」
ぬるりとディズの舌が私の口内に割って入る。貪るように舌が私の舌に絡みついてくる。
「んぅっ、ディ・・ズ・・んっ」
生々しい音が部屋に響く。
驚くことに、私たちは今この時までキスどまりだった。
こんなに、激しくキスをされることなんて今までなかった、まるで不思議な話だけどそれだけ私が大事にされてたのか・・・なんて。
ディズにキスされながらベッドまで連れて来られる。
荒々しくベッドに身を投じた時には、私は溶けるように頭がぼーっとしていた。
「大丈夫、心配しないで・・・アル大好きだよ。」
ディズは私の耳元で優しい声で囁いてから触れるようなキスを渡しに落とした。
現在、私はルーザの不機嫌さの被害を受けている・・・といってもその不機嫌さを作り出したのは私だった。
引き継ぎするはずだった時間に私が行けず2、3時間遅れてしまったからだ。
それはというのも、ディズが離してくれないからだ、おかげで腰が・・・。
「まさか、姉さんにこんな日が来るとは。」
「反省してるわ。」
きっとアルフとルーザの言葉のニュアンスは違うのだろう。
アルフは自分がこのような理由で遅刻する日が来るとは・・・という意味でとっているだろうが、事実ルーザはただのシスコンである。
『姉さんが、姉さんが穢れてしまった。いや覚悟はしていたけれど、しかしこんな唐突に、しかも遅れてくるほどに!!どうしよう大事な姉さんがこのまま、このまま、エルミナ姉さんも・・・どうしよう死にたい!』
などとここまで深く考え込んでいるのである。
「それじゃあ始めよう。」
そうして引き継ぎは始まる。大方既に済んではいるのだ、あと少しというところだった。
引き継ぎが最終段階まで進んだ時、私が積まれた書類に手をぶつけてしまい、一つのファイルを落としてしまう。
スルリと中から1枚だけ紙が抜けて、床に落ちる。
ファイルはルーザが拾ってくれるようなので、私は紙を拾う。そこに文字が書いてあり、私はその文字が気になり声に出して読む。
「こーど・・・K・・・?」
その下の本文あたりをみようと視線向けた時に、ルーザがバッと紙を取り上げる。
「大事な書類なんだ。」
「あ・・・ごめん。」
いつになく険しく怖い表情に一瞬ビクリとする。そんなに大事な書類とはなんなのだろう、私の知らないところで何かが・・・動いている?
ただ、私には何も察することも出来なかったら何もわからなかった。
私だけが蚊帳の外で何も知らない気がした。
その夜、私は夢を見た。
川辺で私は倒れていた、いや横になっていた・・・と言うべきなのか。
むくりと起き上がると目の前には幅広いかわがあり、対岸までの距離は少しある。世界は赤に染まっていた。夕陽が、落ちていく。
誰かが、水の中を歩いていた。
川の中腹で不思議と深く無いのか、水は胸元までしか浸かっていない。
「いかないで、置いていかないで」
私は水の中の人に叫びながら自身も川の中へと足を踏み入れた。
どんな感情から来ているのかわからない、ただ置いて行かれてしまうような気がした。
ざぶざぶと波が揺れる。
必死に水を掻き分けて歩くが鉛のように体が重くなっていく。
まるで、水が私が行くのを止めるように・・・いや、彼の邪魔をしないように牽制しているように。
「待って、お願い、待って***!」
一体私は誰の名前を呼んだのか、自分でもわからず、自分でもその名を聞き取れなかった。
彼は歩みを止めた、そして半身で振り返る。
『・・・すまない・・・』
声に聞き覚えがあった、懐かしい男の声だった。
彼は半身で振り返る、顔が少しだけ見えた。
『・・・許して、くれ・・・』
影が重なるように二人の人物が重なった。
そうして彼は呟いてから再び歩み始めた。
「ま、って!!!」
一歩踏み出すと一気に身体が沈んだ。
急に深くなる、水が私を侵食していく。
自然と息は苦しくなかった、ただただ沈んでいくだけだ。
水面に彼の影が揺れた。
「しょ・・・すけ・・・」
こぽりこぽりと言葉と共に空気を吐き出しながら、私の目の前は真っ暗になった。
次の瞬間目を開けると、見知った私の部屋だった。
朝日がカーテンの隙間から差し込む。
「夢・・・か・・・。」
夢であるのにまるで夢ではなかった。
現実であるかのようだった、そんな感覚に陥った。
「お嬢様、大丈夫ですか?酷くうなされていましたが。」
近くでシュロムが朝の支度をしていた、朝は私にこうしてハーブティーを入れてくれる。
シュロムの姿を見つけて私は心底ほっとした。
だって、彼の影に重なったのは、シュロムだったのだから。
彼が消えてしまう気がした。
あの川を超えてしまったら、彼に会うことは許されないのか。
「シュロムは・・・消えないよね。」
私がそう呟いて彼を見上げると、一瞬戸惑ったような表情をした後に笑って見せた。
「消えませんよ。」
---・・・うそつき
彼が浮かべたのは、私の嫌いな愛想笑いだった。
なんかシリアス〜笑
ホントに始めてアルフたちの甘い雰囲気書いたかもしれない!笑




