執事の独白2
ずっと私は、お嬢様に出来る償いとは一体なんなのかを考えている。
何かを与えてあげることも出来ないし、何の役に立つことも出来ないし。お嬢様のために私にできることはお嬢様の身の回りの世話をすることだけだ。(幹部としての仕事は、お嬢様のためには入らない)
「どうしたの?そんな悲しそうな顔して。」
私が執務室で仕事をしていると、ルーザ様がひょっこりと顔を覗き込んで来る。
「いえ、少し考え事を。いかがしましたか?」
「姉さんがね、あの女のこと許したんだ。姉さんはお人好しだから。」
「あの女・・・。」
お嬢様やディズ様を傷つけた張本人。私たちはその事実のを知った時には、本気で荒れた。その女を殺しに行こうとしていた、魔族幹部や城の者全員で。ただ、人間との抗争だけは避けたいと思ったルーザ様が今のところは自身が行くことでどうか納めて欲しいと頭を下げたのだ。
ルーザ様のその成長に免じて、私たちを1度怒りを鎮めた。ただ、一時的に鎮めただけで我々の怒りは消えない。
本当は、こちら側への引き渡しを申し入れ処刑するハズだった。しかしお嬢様が彼女を許したという事実が浮上した今、その行為は難しくなる。
正直、人間共へ殴り込みに行っても良いのだが、築き上げた良好な関係を壊すほど我々もバカではない。慎重な行動をしなければいけないと感じていた。
「僕は許さないけどね、いつかあいつに復讐してやる、姉さんに気づかれないようにね。」
ルーザ様の顔が下衆い。今、頭の中ではどれだけのことを考えているのだろう。
まあ、私だって許す気もないし、いつかお嬢様を痛めつけた仕返しはするつもりだが。
「それでね、あの女も前世持ちでね、優奈って名前らしいんだ。」
カラン・・・と持っていたペンを落とす。
優奈・・・?優奈だって?まさか、そんな偶然があるのか?
「どうしたの?大丈夫?」
「え、ああ、申し訳ございません。」
ルーザ様が拾ったペンを机の上に置く。
「まあ、それを伝えに来ただけだよ、邪魔してごめんね。」
「い、いえ・・・。」
ルーザ様がそう言って部屋を出て行く。それを見てからバサバサと積み上がった書類の中からお嬢様関連のモノを見つけ出す。
そしてそれを片っ端から読む。操られていた男の名前・・・久坂 東吾、直接の面識が無くてすっかり忘れていたが、他の人から伝い聞いた話では優奈の下僕みたいなやつだったとか。これで繋がる、お嬢様がその男とも話したがった理由が。
更に他の資料にも目を通す、今回のこと全てが繋がった。そこまでしてコーネリアという女がお嬢様に執着した訳が。
先程ルーザ様が置いてくれたペンの下には新たな資料があった。それに目を通すと、お嬢様とコーネリアの会話の記録がある。
前世で、凛蝶は優奈に殺された。そういう記述があるのを目にした。
一気に自分の中で怒りが湧き上がる。確かに凛蝶を捨てて優奈を受け入れてしまったのは俺だった、全ての元凶は確かに俺だった。
しかし、それで殺して良いことにはならない、事故と見せかけた立派な殺人。そして今回の一件。全てに対して怒りを抑えられなくなる。
どうしてくれよう、どう彼女を不幸のどん底に陥れよう。
昔から凛蝶はそういう時にバカだった、他人をすぐに信用する。高校時代では何度都合良く面倒ごとを押し付けられていたかわからない。ただ、それを何でも無いようにこなしてしまうから、問題として浮上しなかっただけ。大学でも社会人になってもその性格は一向に変わらなかった。
だからこうして表向きの物語は全てがハッピーエンドで終わる、悪役も登場人物みんなが幸せな形で終わる。
ただ、それは彼女からの視点。
いつだって裏の物語では悪は制裁される。
都合良く凛蝶を使っていた女生徒は雨照と扇宜が何か制裁を与える。そしていつも、秘密裏に処理されて何事も無かったように日常が続いて行く。
大学時代もそうだった、しかし会社ではそれは俺だけにしか出来なくなる。だから、優奈とのことは唯一どうにか出来る俺が関わっていたからどうにも出来なかった。
もしかしたら、全て過保護にせず自分でどうにか出来るようにしていたら、ここまで拗れなかったのかもしれない。
そして、優奈がこの程度で改心するわけない、うまく立ち回る彼女はこれからもそうして生きて行くのだ、心の中で次の一手を考えながら。
いつだって人はそう簡単に改心などしない、だから常に取り繕うのだ、彼女は改心などしない、俺はそれをしっかりと知っている。
彼女はいつだって悪びれた素振りは無かった、俺がダメなら次。そこに凛蝶を追いやってしまった負い目など1ミリも感じさせなかった。
「いや、落ち着け。」
今ここで感情のままに動いてはお嬢様の顔が立たない、人間と魔族の抗争も免れない。
どうする、どうすればいい。
そして何ヶ月も綿密に考えた末に、お嬢様とディズ様の結婚の話題があがった。
お嬢様はあの女を招待する気でいた。そこであの女が居なくては、お嬢様が不思議がる。なら計画を遂行するのはその後だ、全てが終わったそのあと。
これは私だけの計画では無い。魔王様にルーザ様やエルミナ様、ロジェに魔族の幹部たちみんなで考えた計画。また少し改良して行かなければいけないが、人間自体を恨む気は無い我々にとって復讐の相手はあの女だけ。
何も貴方のお役にも立てず、何も償いは出来ませんが、せめて貴方を苦しめたモノに罰を与えさせて下さい。
貴方は望まないでしょう、貴方はそれを許しはしないでしょう、しかし彼女は今でも貴方のことを背後から狙っていることでしょう。
再び貴方が居なくなる最悪の事態を避けるために、我々は貴方の代わりに”復讐”を始めます。
物語の裏の視点のお話が段々濃くなってきました。
登場人物紹介を一旦消させて頂きました!番外編を書き終えたら修正を加えて再び載せます。




