前世はなんとも残酷です
「あら?あなたは確か・・・魔王の娘のアルフさん・・・?ですよね?」
まず連れていかれた場所はジーンのいる一室だった。
ディズに聞いた話だと、彼女も送魂術を受けていて昔ディズのことが大好きだった
レヴ国のジーンの姉が彼女の意識を支配していたらしい。
しかし、彼女の魂は消滅してジーンは正気を取り戻したらしい。
どうして消滅したのかは教えてくれなかったが、きっとディズが相当酷いことを言ったのだろう。
ディズの言葉は怒っているときはとても怖いことがある。
通常と比べてそれは何百倍、いや何千倍にもなる。
「あの、私あなたに酷いことをしてしまいましたわ、申し訳ありませんでした。」
彼女は深々と頭を下げる。
彼女の意思であんなことをしたわけで無いのならば彼女を責める必要は無い。
「頭を上げてください、別に恨んだりとかしてないですから。」
「はい・・・ありがとう、ございます。」
彼女には、既に幼い頃からの婚約者もいてお互い相思相愛らしく
特にディズには何の感情も無いし会ったのは初めてだという。
お幸せにとか言われたケドそんなん知らん、よくわからん。
え、結婚するんですよね?とか、え?
結婚とかしないですよ?正室とかならないですよ?
せっかく、ディズが考えてくれる気になってくれたんだからやめてください。
うわ、ディズがなんか変に笑み浮かべてる。ニヤッてしてる。
キモイ、これはキモイ。
「よ、よし、他にも連れて行きたいところがあるんだ、行こう。」
顔をキュッと引き締めてディズは言う。
ジーンはもう一度深々と礼をして私達を見送った。
そして、次に連れて行かれた場所は・・・
「なぁー、ここの飯クソ不味いんですけどー。」
ヴィンじゃない誰かが収容されている牢屋の前だった。
「ディズ、どういうこと・・・?」
「うん、これから彼にいろいろ聞こうと思ってね。
アルもいた方が良いと思って今日まで待ってたんだ。」
私が問うと彼はすらすらと答えを言う。
と、いうことは・・・。
「もし、私が目覚めなかったら・・・?」
「彼に話は一生聞かないつもりだったかな。」
ということはヴィンは一生このままとな!?
それは可哀想すぎる!?
「嘘だよ、最長でも1ヶ月まで待つつもりでそれ以上経ってしまったら
アルなしで聞くつもりだった。アルには凄く申し訳ないことだけどね。」
いやいや、私のことなんか気にせずにぜひそうしてくれ。
まぁ、目が覚めたから良かったけど。
「あれあれ?そこにいるのはもしやー、天野ちゃん?」
ん?その呼び方にその声は・・・?
意識を失う前にも聞こえたソレに少しは疑問を抱いた訳だが
まさか、まさかの、まさかすぎる彼は・・・
「天野・・・?誰の事だ?
アル、彼はクレアの送魂術によってヴィンの身体に入った久坂 東吾という者だ。」
「うん、知ってる・・・知ってるよ・・・。
東吾くん、どうして?どうして、私のことを殺そうとするの?」
東吾くんは、そりゃ優奈ちゃんの信者だった。
でも私のことも味方とは言えないけど敵と認識することも無かったはずだ。
じゃあ、攻撃してきた理由・・・ソレは一つしかない・・・。
「優奈ちゃん・・・だよね?」
「ご名答♪」
私達の会話を聞いてディズは目を丸くする。
「アル、何でこいつのこともユウナってやつのことも知ってるの?」
その問いを私は口にするつもりは無かった。
しかしー・・・
「天野ちゃんの前世で俺等は友達だったし、優奈ちゃんは同僚だったからさ。」
「ぜ、前・・・世?」
東吾くんはためらうこと無く暴露する。
ディズが私のことを驚いた目で見る。
「ほら、前世の記憶持ちってやつだよ。天野ちゃんは生まれ変わったわけで、今のアルフちゃん?とは違う人物だけど前世の魂がそのまま生まれ変わった訳だから前世の記憶はあるし天野ちゃんとしての性格のままこの世界でも生きているって訳さ。優奈ちゃんから聞いたケド、この世界ではそう珍しいことではないみたいだね?世界には何人も・・・何十人もそういう人がいるみたいだし。実際はもっといるんじゃないかな?」
東吾くんはスラスラと話をした後に、あーこの手錠邪魔、と言って手をぶんぶんと振る。
変わらず自由な人だなー、と思う。
しかし、前世の記憶を持つ人がそんなにいるとは・・・新たな情報に私は驚く。
「僕も前世の記憶を持つ人がいるとは知っていたけど、まさかアルがね・・・。
まー、だからってアルが変わる訳じゃないから・・・。」
ディズは、そう一人で納得する。
「ねぇ優奈ちゃんは何を考えてるの?何で私をこんなに殺したがるの?一回殺したじゃない、前世で章介を奪ってそのうえ無意味に私を殺したじゃない。なんでまた殺そうとするの?私は何もしてないじゃない。」
私がそういうと東吾くんはプッと吹き出して笑い出す。
なぜ笑うのか、私には全くわからなくてムッとした顔をする。
「もー、天野ちゃん鈍感すぎるでしょ?そこのディズって人のことを自分のものにしたいから
キミのことを殺そうとしたんだよ、優奈ちゃんは。」
ディズを自分のものにしたいから・・・。
彼女は自分の欲しいもののためには人が死んでも構わないということか。
非道すぎる。
「それに、他にも勘違いしてるけどね。
彼女が前世で天野ちゃんを殺したのにだって理由があるんだよ?」
「・・・?」
「坂上くんのことだよ。彼はそりゃ、最初の数日はちゃんと彼女と仲良くやってたけどキミが死ぬ前に彼は優奈ちゃんと終わりにしようとしてた。それで、天野ちゃんの元へ戻ろうとしたんだ。」
私は東吾くんの言葉を聞いてうつむく。
私の、元へ・・・?
私は一人で大丈夫だから彼女の元へ行ったんじゃないか。もう無理だと言ったじゃないか。
戻ってこられたって困るだけだよ。
なんでよ・・・だったら最初っから、最初から私の元を去るなんて馬鹿なこと・・・。
「なんで?って顔してるね。」
私は、ハッとして顔を勢い良くあげる。
そんなに、分かりやすい顔をしていただろうか・・・?
「天野ちゃんの元から離れて、凄く大切さに気づいたみたい。
現に天野ちゃんが死んだときはお葬式の時にワーワー泣いてたよ?」
『俺のせいだ、俺のせいで凛蝶は・・・。最期くらい、愛してるって・・・言わせろよ・・・。』
その言葉を言っていたと東吾くんから聞き、頭のなかで、章介の声で再生される。
光景が想像できてしまう自分が憎い。
しかし、今更そんな話をされても少しも心に響かない。
私が天野 凛蝶として生きていたとしたら、また違うことを感じていたかもしれないが。
残念ながら今の私はアルフィニ・セルシュートで次期魔王である。
「皮肉にも優奈ちゃんに別れを告げて、天野ちゃんの元へ行くときにキミが殺された現場を見ちゃったみたいでね。すっごく可哀想だったよ、ホントに。」
今、彼は・・・なんて言った?
「なんで、あたしが殺されたってこと・・・知って・・・?」
「うーん、まぁソレは僕がキミの背中を押したから・・・かな。」
じゃあ、優奈ちゃんが殺した訳じゃないというのか。
彼女は確かに私を笑った、しっかりとあの顔を見たのだ!
しかし、背中を押したのは彼だった。
東吾くんは、あははっと笑う。
私の頭の中で何かがブツリと切れた。
そして、無詠唱で小さく濃縮した『雷帝の雷』を打つ。
濃縮されているため、周りには被害を与えないが当たったものには多大な被害を与えるだろう。
「う・・・ぐぅ・・・。」
ソレは東吾の脇腹あたりをかすめる。
その場所は半径3cmくらいの穴があく。
東吾はゴプリと血を吐き出す。
私はもう一度ソレを打とうとするが、ディズに止められる。
「あ、アル!ヴィンの身体は傷つけるな!」
そういわれるが、怒りは全く収まらない。
「あんたは、敵にはならないと思ってたのにぃいいいいい!お前はぁああああッ!」
「優奈ちゃん、の、味方につくって・・・言ったじゃん。優奈ちゃんの頼み、だもん。
断れるわけ無い、じゃん。まぁ、殺したところで、坂上くんは、優奈ちゃんへ戻ることは、無かったけどね。」
東吾くんは脇腹を押さえぜぇぜぇとしながら言う。
血がだらだらと流れているので相当痛いだろうケド私はもっと痛かったんだから。
プラマイゼロじゃないんだよ。足りないんだよ?
「あー、もう無理、超痛い。優奈ちゃん、こんなん、聞いてないん、だけど。」
「ユウナとはいったい誰なんだ、答えろ。」
ディズが彼に問うが、そんなことお構いなしに彼は消えようとする。
「もう、キミに会うこと無いと思うから最期に言っちゃおうかな?天野ちゃんを殺してごめん、アルフちゃんを殺そうとしてごめん。謝って許されることじゃないってことは俺だってちゃんとわかってる。でも、俺にはもう謝ることしか出来ない。優奈ちゃんはあの時からおかしいんだ。坂上くんのことが大好きだったけどキミが邪魔で一回奪ったのに結局は奪えなかった。今回も本当にディズくんが好きなのにまたキミに邪魔されてる。天野ちゃん、お願いだから彼女を止めてあげてよ。彼女の言うことをきくことしか出来なかった俺は弱い。でも、キミは俺なんかよりも強い。キミにしか頼めないんだ。」
彼の必死さが漂ってくる。
さっきと違い今回は息を切らさずにしっかりとした口調で言葉を紡いだ。
喋り終わった後は死にそうなくらい苦しそうに血をはきながら呼吸をしていたが。
それだけ彼は優奈ちゃんが好きだったのだろう。
しかし、私は彼が許せない。謝られたって許さない。
でも、やはり、友人であったことにかわりは無い。今もだとは思いたくないが。
「天野、ちゃん・・・たの、む・・・よ・・・。」
彼はそういって魂を消滅させた。
ヴィンの身体がグラッと揺れて倒れる。
「おい、待て!」
ディズはそう叫ぶがその声に応える者はもうこの世にはいない。
「ちょっと・・・これはどういうことか、説明してくれる?」
その代わりに怒りに満ちた声が聞こえてくる。
張り詰めていただけの空気は一気に凍りつく。
振り返ると、そこには鬼の形相をしたリュリエスがいた。
これには流石にディズも顔を青くしていた。
「部屋にいないから来てみたら・・・またあんた達は怪我人だして・・・。
僕の仕事を増やすなって言ったらどれだけ気が済むのかなッ!?」
そのあと、私は部屋に戻され、ディズは仕事に戻り、リュリエスはヴィンの治療にかかった。
しかし、今回のことから誰が優奈ちゃんかは何となくわかった。
私は彼女を止める義務がある。
前世からの後始末、いや、借りを返すのだ。
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「なんなの・・・なんなのよ・・・なんで邪魔ばっかすんのよ。」
コーネリアは親指の爪をガリガリと噛む。
コーネリアは心底ムカついていた。
章介だけでなくディズさえも自分から奪っていく女に。
しかし、元々章介はコーネリアのものではなかった。
ディズも彼女のものではない。
ここはゲームの世界でなく、現実なのだから。
だが、コーネリアにはそのことがわからなかった。
「東吾のやつも使い物にならないし・・・こうなったら自分の手で・・・あの女を・・・。」
そして、近くにあったナイフを手に持つ。
「アハ、アハハ、アハハハハハッ!!!」
これで、ついに、彼は私のモノになるのだッ!!!
密かに胸に秘めていただけの思いは次第に肥大して、ついには彼女自身も飲み込んだ。
そして、今、外側へと這い出てくるのだ。
その、大きく濃くとても危険な『狂気』が。
そして、物語の核心へ。
終わりまであと数話ですねー・・・。
最後まで少しでも皆さんを楽しませるような作品にしたいですね♪




