前世の記憶 3
付き合い始めてから約8年。
社会人になって、はや3年。
時が経つのは早いものだ。
何と運が良いことか!?
大学は違かったが部署は違うものの同じ会社に勤めることが出来た。
「あ、章介?明日空いてるかな?」
明日は章介の誕生日で、私の誕生日が結構盛大な感じで嬉しかったので私も手料理とかでも作ってあげようと思って連絡したのだ。
『ごめん、明日は用事入ってて。また今度じゃダメか?』
その言葉を聞いて私は落ち込む。
自分でも思った以上のショックだ。
「うん、だ、大丈夫・・・じゃあまた今度ね。」
そう言って電話を切る。
そりゃ、急に言われても困りますよね?前から言っておけば良かった。
いや、でもプレゼントくらい渡すべきだ!いつ頃帰るかな?
10時くらいに行っていなかったら待てば良いか、うん、そうしよう。
どうせ、明日も明後日もお休みなんだし。
ここ一年、お互い忙しくてあまり会えなかった。
だから、今日はいつも以上に楽しく過ごしてやろう。彼と笑いあってやるんだ!
そう思ってた。
「あー、もう寒い!」
今は冬の季節で、ホントは家から出たくなかったりする。
でも今日はそんなの我慢だ!
やっとの思いで彼の家に着く。
さて、ここからが勝負だ。どこまで根気強く待てるかが重要!
と、思っていたら章介がマンションから出てくる。
お、お?タイミングバッチリ!?
ん?でも、なんで帰ってくるんじゃなくて、出て行くの?
まぁいいや、細かいことは気にしない気にしない!
私は、タタッと彼に駆け寄っていく。
「章す・・・け・・・?」
章介に声をかけた瞬間に女が出てきて章介の腕を掴む。
私の声は届いていなかったようで、彼は女と笑いながら歩いていく。
隣の女には見覚えがあった。
確か、経理部で美人と有名な磯狩 優奈だ。少し小さめの背に黒いストレートでサラサラな髪。目はパッチリと大きく鼻はスラッとしていて唇は少し厚くふっくらとしている。眼鏡をかけていて、私の第一印象は大人しく控えめな人だった。
だがしかし、実際は違うようだった。
他人の彼氏を奪う肉食系の悪女、いや、むしろ悪魔か。
私と章介が付き合ってるのは会社中が知ってること。
だから、関係を知らずに一緒にいるわけではない。
本来その場所は私の場所だ、私の・・・。
ジッと見つめていると彼女とバチッと目が合った。
私が目を丸くしていると彼女はー・・・
クスリと笑みを浮かべた。
そして、すぐに再び章介と話だす。
「章介、なんで・・・。」
ぽつりぽつり、と雨が降りすぐに大雨になる。
まるで私の心をそのまま表しているみたい。
確かに優奈ちゃんもありえない。
でも、一番ありえないのは・・・あの人。
今日は彼の誕生日で、普通だったら彼女の私を優先させるはず。
それにこれは、浮気以外のなんでもない。
高校の頃の思い出が蘇る。あの頃が一番楽しかった。
8年間も付き合って、信用してきたのだから
こんなにも死んでしまいたいと思っても不思議じゃない。
裏切られた、その感覚だけが身体をめぐる。
勝手に身体が動いて気がつくと家のリビングで座っている。
彼のマンションからうちのアパートまでは1時間もかかるハズなのに。
1分しか経っていないような気がする。
バンッ!
無意識に投げた何かが壁へぶつかる。
それは、章介のために買ったプレゼントだった。
包装している紙は雨に濡れてぐちゃぐちゃで壁にぶつかった為に一ヶ所角がべちゃっと潰れている。
章介に似合うと思って買ったネクタイが、壁に当たった衝撃で箱から外に飛び出る。
それが床に落ち皺なく綺麗だったモノがくしゃくしゃになる。
自分の右手を見ると自分の指にはめられている指輪が目に付く。
それは、彼がくれたものだった。
『ずっと、一緒にいような。』
それを私は信じてた、まぁ、私が馬鹿だったのだけれど。
ずっとなんて無いし、そんなこという奴は大抵ろくなやついないし。
そんな約束守る人なんてそうそういないし。むしろ、それって破るためにあるような約束だよね?
「この、嘘つき野郎がッ!!!くたばれッ!!!」
私は指から指輪をとってトイレに投げ込み、そして流す。
そうすると、なんだかすっきりして急にお腹が空いた。
胸のあたりは、もやもやしたままだったけれど。
「ねぇ、知ってる?坂上君と磯狩さんが付き合ってるらしいのよ。」
「え、だって天野ちゃんがいるじゃない。」
「別れたんだって。坂上君が磯狩さんと浮気してたのが原因で。」
「えー、何ソレぇ・・・超サイテーじゃない?天野ちゃんかわいそー。」
そういいながら同僚はトイレから出て行く。
まさか、私が個室に入っているなんて知らずになッ!!!
もう、こんなに広まってるのか、たったの一週間なんですけど。
どうしたことか・・・。
それは1週間前のことが原因である。
私が彼と磯狩さんが歩いていたのを見た数週間後のことだ。
「なぁ、なんで会いたくねぇんだよ。」
「会いたくないから。」
「んだよ、それ・・・理由になってねぇよ。」
私は自宅のドアを必死に押さえる。章介がうちの前にいたのだ。意図的に避けていたのだが・・・そして私はダッシュで部屋に戻りドアを閉めたが鍵もチェーンも閉める暇なく彼がドアを開けようとした。
そして、今に至るのである。
「とりあえず、入るぞ。」
章介がゴッと力まかせにドアを引っ張る。
「む、無理、無理無理無理無理!!!」
私の必死の抵抗も空しく、ドアは簡単に開いてしまう。
私はドアノブを押さえていたため彼の方によろける。
「やっと会えたな。」
彼は私を見てニッコリと笑みを浮かべる。
「あ、あんたと話すこともないし会う必要も無い!帰れ、アホ!死ねッ!」
そういって私は部屋の中へとずんずん進んでいく。
しかし、章介は私の後を追ってくる。
「何、俺なんかした?死ねって言われるほどのことはしてないよ?」
私は、その言葉に怒りのボルテージがあがり身近にあったものをガンッと投げつける。
章介は、いてっと小さく呟くがそんなもん、気にするか。
「自分の胸に聞いてみたら?あんた、誕生日に、何してたか!」
「あ、あぁ・・・その日はね、えっと、上司と飲んでた、かな?」
私は更に物を投げつける。
「この嘘つき!ホント、あんた最低ッ!!!」
私は、ぜぇぜぇと息を切らす。
その言葉を聞いて、章介はサッと顔を青くする。
「な、何言ってんの?嘘じゃないって・・・。」
「磯狩さんとマンション出たこと知ってるから。誕生日、一緒に過ごしてたことも知ってるから。私よりも彼女を優先したことも知ってるし、浮気してるんだってことも察した。一回の浮気なら許して貰えるとでも思ったわけ?超ありえないんだけど、一回死んでくれば?地獄で心入れ替えてこいよ。」
彼は言葉を詰まらせる。
どうやら、言い訳は出来ないと感じ取ったようだ。
「ごめん、だって、ここ1年全然会えないし、あっても凛蝶そっけないし・・・。」
「そりゃ、疲れてるんだからしょうがないでしょ。それに、個人的にはアレでもだいぶ甘えました。」
「優奈はいっつも優しくて俺を癒してくれて・・・。」
「じゃあ何?私は優しくないって?癒してあげられないって?」
彼はクイッと顔をあげて私の方を見る。
「あいつには俺がそばにいないとダメなんだ。俺じゃなきゃ・・・。でも、お前は、一人でも大丈夫だろ?」
あんたは、いったい私の何を見てきたのか。
私は一人でも大丈夫?私はあんたに一緒にいて欲しいんだ。
あんたが言うほど私は強くないのに。
「ごめん、もう俺・・・無理なんだ。ごめん、ホントにごめん・・・。」
何が無理なんだよ、私と一緒にいるのが?彼女と離れることが?
どっちにせよ、私はもう・・・。
「いいよ、うん、だから、ばいばい。」
私がそう告げると自分から言い出したくせに章介は泣いていた。
それにつられて楽しかった思い出が浮かんで私も涙目になる。
「ごめん、ホントにごめん・・・。今まで、ありがとう。」
「ありがとう、なんて言われる義理無いから。」
私は、さっさと行けと彼をトンッと押す。
そうすると、彼は部屋を出て行った。
「あーあー、長かったなー。」
そう、これは寄り道だ。
ちょっと回り道をしてしまっただけで、もうすぐホントの運命の人に会うはずだ。
だから、彼のことはもうおしまい。
もう・・・おしまい。
でもやっぱり、なんか辛いや。
と、まぁこんなことがあった訳なんですよ?
いや、今はそこそこに吹っ切れてますよ。
私は食堂へ向かう、そこに仲のいい同僚と先輩がいるのだ。
遅くなったが傷心に奢ってやる、と言われたのだ。
いや、全然傷心してないけどね、むしろ心ハレルヤだけどね((あまり晴れてないけれども。
「あれあれ?天野ちゃん?」
前方から知った声が落ちてくる。
ふと顔をあげると、そこには知り合いがいた。
少し釣り上がった目に茶色がかった髪。章介とはまた違ったタイプのイケメンだ。
初めて見たときは超チャラそう無理無理とか思ってたけど普通にムードメーカーで良い人だった。
彼は久坂 東吾という名で、会社内では良い意味で有名人だ。
「あ、東吾くん、こんにちは。」
「んー、やほやほー♪いやー、それにしても大変だね、天野ちゃん。」
それは、章介のことを仰っているのかしら。
「優奈ちゃんも肉食系だねぇー・・・。」
「別にどうでも良いんだけどね、会社内で居場所なくなれば良いとは思うケド。」
「サラッとそういうこと言うのやめない?」
東吾くんが少し困ったような顔をする。
「やめない、ってか心配するなら今度なんか奢りなさいよ。」
「俺は優奈ちゃんに付いちゃうから敵になっちゃうケド、それでいいなら食事くらいはするよ。」
出ました、優奈信者ッ!!!
そうなんです、彼は優奈ちゃん大好きな優奈信者なのです。
別にホントどうでもいいんだけどね、信者だろうがなんだろうがキミの本質は変わらないだろう。
とりあえず、私においしいものを奢れば良いと思うよ。
「わーい、超高い店探しとくからー、ばいばーい。」
「ちょ、俺の財布の中身を考えてくれよ!」
そう少し大きめの声で去っていく私に言った。
このあと、私はおいしいものを食べることも無く奢っていただくこともなかった。
それは、帰り道に事故にあってしまったからだ。
誰かに背中を押された。
そのせいで赤信号なのに道路に出てしまって、トラックにバーン!
とっさに見えたのは、黒い髪に眼鏡をかけた彼女の不敵な笑みだった。
章介はお前のものになったんだから良いじゃないか。
私から命までも奪う必要なんかある?ないよ、全然無いよ、意味ないよ?
トラックがあたる寸前に思ったこと、それは・・・
死ぬくらいなら、もう絶対恋なんかしない。
最終章である3章に突入いたしました!
この調子でサクサク進めていこうと思います(*´ェ`*)
少なくとも1週間に一回は投稿していきたい、です。
それから、これからは投稿するときは深夜の0時に投稿しようと思います。




