専属騎士
「お前、何言ってるの?」
「何って・・・提案です。」
私は、ニコリと笑いかける。
そうすると、ロジェは更に顔をしかめて私を見る。
「何で、俺にソレを言うんだ?
俺はお前を殺そうとしたんだぞ?」
私はロジェに歩み寄り同じ目線にまでかがむ。
「知ってます。私はあなたのこと、一生許しません。
許すことなんて、出来ません。」
ロジェは口を開かずにジッと私の話を聞く。
そして、少し視線を逸らしてから俯く。
私は、少しだけ間を開けてから再び話を始める。
「でも、それと同じくらいに信じてみたい。
あなたのその力を・・・あなたが本当は悪の人間では無いと。」
そういうと、ロジェはフッと笑った。
そしてゲラゲラと笑い出す。
「あんた、可笑しいんじゃない!?」
そう言ってお腹をかかえる。
私はなぜ笑われているのか良く分からないので
多分凄く変な顔をしていると思う。
「かつて世界で最も恐れられていた魔王たちの血族だと思えないほど
ぬるくて気持ちの悪ぃ言葉だなぁ。」
ゴッと肩あたりを蹴られ、後ろに倒れる。
病人なんじゃないのか、そう思わせる程強い力だった。
「俺のことを信じたい、って?
俺の何を知ってそんなこと言ってんの?」
ロジェは自らの手から剣を抜き出し、私の喉もとに向ける。。
まさか、そんな場所に武器を隠しているとは・・・。
そりゃ見破れないわけだ。
私は、ごくりとツバを飲み込む。
自分が思っている以上に体は危険を感じているらしい。
「残念ながら俺は、根っからの悪だよ。」
ロジェはギヒッと狂ったような笑みを浮かべ剣を思い切り振り下ろす。
あぁ、もう命の危機だ。
しょうがないよね、しょうがないよね!?
国王様、王妃様、ディズ、ディズの弟君、城の皆様、ごめんなさい。
ごめんなさい、ホントにごめんなさい!!!
でも、死ぬのは嫌なんですぅ!!!
「神の信託を受けし雷の精よ、我の力となり此の者を排し轟き瞬け!」
私がそう唱えると光が放ってロジェは後ろに身を引く。
まぶしいのか顔を手で覆っている。
あー、久しぶりだなぁ、この感覚。
「くっそ、何だ!?」
ごめんね、きっと私は手加減なんて出来ない。
「雷帝の雷!」
その言葉と共に凄い衝撃波があたりに広がる。
ロジェの体には無数の傷がつき
周りの壁や床はあちこちがへこんだり傷がついたりでボロボロに。
家具に至っては、ほぼ使いモノにならない程だ。
「ぐ、あ・・・なんだよ、これ・・・い、てぇ・・・。」
初めてロジェが弱音を吐いた。
きっとあちこちの骨が折れているを通りこして砕けているだろう。
体からは血がにじんでいて、切り傷は骨の少し手前あたりまでパックリと切れている。
力を死なない程度まで抑えたので、だいぶ損傷は少ない。
実際はあたりが焼け野原になるので全然良い方だと思う。
しかし、やはりお世話になった人たちのいる城の一室をこんな風にするのは・・・。
とても申し訳ないと思う。
「やはり、魔王の娘と言えど死ぬのは怖いですから。」
私はコツコツと足音をならしながらロジェに近づく。
ロジェはぜぇぜぇと息をあげながら横たわっている。
きっと体を動かすことが出来ないのだろう。
しかし、まだ生きてはいられそうだ。
良かった、死なれては困る。
「私は、あなたが悪でないということに確信があります。
だから口にしたんです、確信のないことは言いませんから。」
「はっ、まだ・・・言うか、よ。」
息を切らしながらも言葉を発する彼は、やはり辛そうだった。
それでも笑みを浮かべている。
「人を信じることが、怖いですか?
人に信じられることが、辛いですか?」
「な、に言ってんだよ!
んなの、くだらねぇ、だけだ!それだ、けだ!」
私の言葉に少しも間をあけずに反論してくる。
でも、私は知っている。彼の心の檻の正体。
「人にまた裏切られる気がして、また傷つけられる気がして
大切なモノがなくなる気がして、信じるのが怖くなっていったんですよね?」
「勝手なこと、言ってん、なや!
俺は、そんなの、どーでも、良いんだよ!反吐が、出るってんだ!」
「どーでも良いのなら!!!」
私は声を荒げる。
彼に負けないくらいに声を張る。
聞いて欲しくて、私の声が届いて欲しくて、声を出す。
「どーでも良いと思うなら、なぜあなたは今涙を流しているのですか?」
ロジェは泣いていた。
ボロボロと涙を流していた。
これが、彼の心の闇だった。
私は知っていた、彼のことを。
いつだかの誰かを見ているようだった。
それは、誰だ?
知っているのに、知らない。
誰だかわかっているハズなのに、わからない。
私は、ガクッと膝から崩れ落ちる。
急に体の力が抜けた。
ロジェの隣で力尽きたように座りこんだ。
「な、んで、てめぇまで・・・泣いてるんだよ・・・。」
「わかるんです。あなたの気持ちが痛いくらいにわかるんです・・・。
でも、何でわかるのかが、わからない。」
自分で何を言っているのかがわからない。
けれど、これが今の気持ちだった。
「どうすればいいのか、誰を信じて良いのか、わからなくなる。
また信じても裏切られるんじゃないかって。
私のことを信じてくれる人はいないんじゃないかって、そう思って。」
そこで言葉が詰まった。
心の奥の方がもやもやして、何だか気持ち悪くなる。
数秒後にロジェが口を開いた。
「ずっと、ずっと一緒だった。
4つ年上で・・・物心ついた時からいたから兄ちゃんみたいだった。
両親のいない俺に何でも教えてくれて、そん時から暗殺はしてた。
俺、信じてたんだ、大好きだったんだ、あいつのこと。
ある日、俺は他の暗殺者に狙われた。
俺が必死に応戦してるとあいつが現れた。
助けてくれるんだって思った。
でも、あいつが刃を向けたのは敵じゃなくて俺だった。
なんでって、思った。
俺は滅んだハズの紅族の生き残りだったんだと。
それを抹殺するために、あいつが送りこまれてた。
ずっと俺を騙してたんだって、俺を殺すためだって。
俺を好きだって言ったのに、弟みたいに思ってるって言ったのに。
全部全部、嘘だって。俺なんか邪魔だって。
俺の中で全部壊れた。
だから、俺はあいつを、殺し、た。
俺は、傷つくことが怖い訳じゃない。
また傷つけてしまうことが怖いんだ。
でも、やっぱり人は信用できなかった。
傷つくのは良いと思ってたけれど、実際傷つきたくも無かったんだ。
ホントは傷つくことも怖いと思ってたんだ、心のどこかで。
そしたら、また誰かを傷つけてた。
自分を守る為に他人を殺す道を選んだ。
人を殺るとさ、なんか心がスッとするんだ。
あぁ、俺は大丈夫なんだって。今日も大丈夫なんだって。
変だってわかってる、可笑しいってわかってる。
でも、俺にはソレしかなかった。
信じる仲間だっていなかった、信じてくれる人だっていなかった。
俺には、俺しかいなかった。
暗殺が良いことなんて、思ってねぇよ。
でも俺にはホントにそれしか無かったんだよ・・・。
昔からソレしかなかった。だから、やめられなかった。」
ひっぐ・・・としゃくりをあげながら彼は喋る。
彼の心の檻を、喋る。
「今からでも、間に合うかなぁ?
俺、お前の言う"守るモノのある人"になれるかな?」
私は自分の涙を拭って笑みを浮かべて彼に言う。
「今からでも、十分よ。
私の専属騎士に、なりませんか?」
「俺、頑張るから・・・お前のこと、信じられるように、頑張るから。」
ロジェもガシガシと涙を拭くように目をこすって、ニッと笑った。
こうして、私の専属騎士は決まったのでした。
めでたし、めでたし・・・。
「ア、アル!!!!大丈夫か!?!?!?!?!?」
めでたしで終われないのがこの物語。
「あ、あれ?ディズ?」
ディズがたくさんの騎士を連れて入ってくる。
「大きい音がしたから、大丈夫?怪我してない?
って、あれ・・・涙の後がある・・・もしかして、泣いた?」
ソレを確認してディズの顔は般若のようになっていく。
そして、ロジェの胸倉を掴んで腰の剣を抜こうとする。
「い、いやいやいや、違うの違うの!!!
私が高位魔法を使ったから大きい音がしたのであって!
泣いたのも私が勝手に泣いただけであって!ロジェは何の関係も無いわけであって!」
私はディズの腕を引いてとめる。
既にとてつもない傷を負っているロジェは胸倉をつかまれ引っ張られて
気を失いかけている。
「ちょ、魔導士を呼んできて!!!早く!」
私は騎士の人たちに頼み、必死にディズを止める。
あぁ、一難さってまた一難とはこのことか!!!
だいぶ長めにしたつもりです!
次は、ロジェとディズの絡みに入ります。
初めて高位魔法出しましたーw
高位魔法は呪文があるので考えるのが大変です(´・ω・`)




