嫌いな人 sideヴィン
ヴィンがアルフを連れ去った時
果たして何を思っていたのか。
私は、煙から出てきた彼女---アルフの口を押さえる。
「むぐっ!」
驚いて声を上げるアルフにしーっと言う。
その声を聞いてアルフはこちらを見た。
「頑張って走ってきたんですね。えらいえらい。
危険な状況下にありながら冷静な判断力でした。
よく、高位魔法を使わないでいられましたね。」
そう私が言うと、アルフは不思議そうな顔をした。
なぜ、わかるのか・・・と。
ここまで全て、私のシナリオ通りだった。
あの敵たちはコーネリア様の仕掛けたことだった。
捕まえて、殺せと。
しかし、そう簡単にはいかないだろうと私は思った。
だからここで張って私の都合のいい方向に持っていった。
二人の時間を作りたかった。
言いたいことが多くあるのだ。
「あなたは、もっとおつむの弱い人だと思っていましたが
私の間違いでした。」
別にこれが言いたかったわけではない。
流石に静かすぎだと思って言っただけだ。
しかしながら嘘ではない。
ホントにもっとおつむの・・・いや、遠まわしに言うのはやめよう。
要するに、馬鹿だと思っていたわけだ。
まぁ、馬鹿であったほうがホントは良かったのだが。
さぁ、と私はアルフの手を引く。
ホントは彼女の手なんか握りたくなかったんだけどね。
そう思っているときゅっとアルフは私の手を握り返してきた。
私は驚いてアルフの顔を見る。
そんな顔しなくても、いいのではないか?
というように眉間に皺をよせてアルフは私を見返した。
「別に握り返されたことに嫌だったわけではありません。
少し・・・びっくりしただけです。」
私は、アルフにそういうと驚いた顔をした。
ホントにわかりやすい表情だ。
何を言いたいのか顔を見るだけでよくわかる。
私は、とある部屋の扉を開けて入り
そして鍵をかけた。
そこは、何も無い部屋。
石造りの小さな部屋だ。
「これで、一安心ですね。」
私が言うと、アルフはこくりと頷いた。
あぁ・・・さっきから思ってたけど・・・
「・・・先ほどから一言も喋りませんが・・・。」
その言葉にアルフはハッとする。
まぁ、確かにいろいろあったのだから
頭が追いついていかないのはしょうがないだろう。
・・・そうなる原因が私にもあるのだが。
「ご、ごめんなさい・・・。あの、ありがとう。」
アルフは、そう呟く。
「正義のヒーロー、ってとこですかね?」
私は笑みを浮かべた。
心の底から笑ってなどいない。
アルフなんかに心の底から笑いたくない。
私は、コーネリア様だけの為に笑う。
「大嫌いな、愛想笑い。」
「え?」
一応聞き返すが、しっかりと聞こえた。
愛想笑いが嫌いだと。
ディズ様の愛想笑いを見てきたからか?
いや、それにしてはもっと憎悪に満ちていた。
ディズ様が原因じゃ・・・ない?
アルフには私が思っている以上に心に闇があるのか?
いや、そんなわけない。
だって、シアワセに暮らしているじゃないか。
「なんでもない!」
アルフは、ニッコリと笑う。
聞こえていないとでも思ったのだろうか。
何も無かったかのような笑顔を浮かべる。
その顔だって愛想笑いじゃないか。
あなたの大嫌いな愛想笑いだ。
でも、その笑顔だってあの人に比べたらずっとずっと醜い。
私にしてみたら、あなたの顔など醜さの塊だ。
見たくない、イライラする。
「何?」
私の視線に気づいたのか、アルフは私を見てそう言った。
「あなたは、あの人程美しくない。」
気づいたら、その言葉が出ていた。
言いたかったわけじゃなかったのに。
言うはずじゃなかったのに。
ホントに、お前に、嫌気がさしてしまって。
「なのに、あなたが選ばれて、彼女は苦しい思いをする。」
「あなたばかりが、シアワセな思いをする。」
「そのシアワセが彼女にいけばいいのに。あなたじゃなくて、彼女に。」
私の知らないうちに、ポンポンと言葉が出ていた。
憎い、嫌い、そんな感情がたくさんたくさん渦巻く。
私は、アルフにジリジリと迫っていく。
そして、アルフが逃げられないように両脇に両手をつく。
「あなたが私を好きになればいい。それで、解決する。」
お前なんかに好きになって欲しくない。
私は、コーネリア様に愛されたい。
愛して、愛されたい。
でも、私が犠牲になれば彼女はシアワセになる。
唇一点をめがけて顔を近づけるが、アルフは逃げない。
「キスする勇気がないなら、やめたら?」
私はぴたりと動きを止める。
そして、ジッとアルフを見る。
勇気なんて、ちゃんと出来ている。
コーネリア様のためだって、割り切っている。
「ホントに覚悟が出来てないと思ってますか?」
「出来てるんだったら、そんな悲しそうな顔しないでくれる?」
疑問に疑問で返された。
悲しい顔、していたのだろうか。
違う、違う、そんなことない。
報われないってわかってるのに、好きになってしまった。
私のことを見てくれないってわかってるのに、好きになってしまった。
じゃあ、この気持ちをどうすればいい?
彼女のために自分を犠牲にすることでしか、彼女の役に立てないのに?
「それに、私はシアワセなんかじゃない。
あなたが思ってるほど、楽しく生きてない。」
「はは、あんなに愛されていて恵まれた環境にいて・・・まだ望むと?」
なぜ、シアワセじゃないなんて言うのか。
コーネリア様は好きな人に愛されず醜いあがきをしている。
そんなこと、ホントはして欲しくない。
私を見て欲しい、私だけを見て欲しい。
他の人なんか見て欲しくない。
でも、こんな欲望を持っている私のが醜くて。
「何も望んでなんかいない。
愛されたくもないし、好きで今の地位にいるわけでもない。
あなたは私の何を知ってるの?」
愛されたくない。
なぜ、そんなことがいえるのか?
目に見えて愛されていることがわかるのに?
あなたは、そんなに馬鹿じゃない。
だからあなたはホントはわかっているハズなんだ。
そして、私は・・・
あなたのことなんか1㎜も知りたくない。
嫌いだから。
嫌い、嫌い、嫌い?
私の首をアルフの手が掴む。
その手が彼女の手を重なった。
お前なんか、いらないって言われるみたいな幻覚が見える、聞こえる。
「愛なんて言葉、反吐が出る。
あんたの言う彼女が誰かなんて私には全然わかんない。
わかんないから、今は目を瞑る。
だけど次あんたが噛み付いてきたら・・・」
くっと首の片手に力が入った。
息が詰まる。
息が詰まる。
苦しくなる。女なのに、片手なのに。
「女は女でも次期魔王。
人間の一人や二人、簡単さ。」
パッと手が離れる。
そしてまた、あなたは大嫌いな愛想笑いを浮かべる。
「さてと、こんなとこさっさと退散しようかな?
助けてくれてありがとね!」
じゃあ、とアルフは軽く手を振って部屋を出る。
はは、ざまぁない。
大嫌いな者にいろいろ言われて何も返せない。
結局、コーネリア様を好きだとか愛してるとか言いながら
何一つ役に立つことができなかった。
私は、アルフが嫌いだ。
嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌い・・・だ?
わからなくなった。
嫌いなのかも、好きなのかも。
何もわからないんだ。
「ちょっと何やってんのよ!」
パッと声の方を見ると、コーネリア様がドアの前で立っていた。
相当怒ってる。
「なんで計画通りに動かないの!?
あんたのせいで、計画は失敗よ!!!」
コーネリア様の顔を見ても、愛おしいと思えない。
その代わりに、大嫌いな女の顔が浮かぶ。
意味がわからない、何を考えてるかわからない。
全然愛おしくないし好きじゃない。
むしろ、ホントにその逆だ。
だからこそ、知りたいと思う。
それっておかしいことなのだろうか?
「ちょっと、聞いてるの?」
コーネリア様が私を見てぷくりと頬をふくらませる。
「コーネリア様。」
「なぁに?」
「申し訳ありませんが、もう協力することは出来ません。」
「はぁ!?」
コーネリア様は、目をまんまるくさせる!
それから、カッと顔を赤くさせた。
それは、怒りからの赤色のようだ。
「あんた、あいつに何言われたの!?
もしかして、好きにでもなったの!?」
「いえ、そうじゃありません。」
そういうと、コーネリア様はホントに不思議そうな顔をする。
「わからなくなったのです。好きも嫌いも。」
「は?何言ってんの?」
コーネリア様は眉間に皺を寄せた。
「ですが、嫌な作戦に協力しないだけです。
私に都合の良いことには、是非協力させていただきます。」
それが、私の答えだ。
コーネリア様を好きかどうか、ゆっくり見ればいい。
この前のような狂気的な愛ではない。
しっかりとした愛情を、見つけていく。
それが、コーネリア様でなくても探すんだ。
まだまだ人生は長いわけだから
焦らなくて良かったわけだ。
そのことを再度考えさせるチャンスをくれたことにだけは感謝を述べる。
しかし、やはり私はお前が大嫌いなようだ。
なんか、文章もシナリオも相当ひどいような気がする・・・。
まだまだ別キャラ視点続きます。