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第62話:淫妖使い

 体の奥底から、どす黒い物が湧き上がってくる。俺に憑いた淫妖が、体の内側を愛撫するかのように淫猥にぬめり撫でる。その度に、ぞくぞくとした快感に目が眩んだ。


 快楽に心をゆだねたい誘惑と、己を失う恐怖。歯を食いしばり、必死で意識を保った。体中から汗が噴出し、シャツやズボンがぐっしょりと濡れた。水でも被ったかのように衣服が肌に貼り付いている。


 ヴァルヴァラが妖艶に勝ち誇った笑みを浮かべている。それでも警戒してか、俺の周囲をゆっくりと回り、大きくスリットの入った修道服から長い足を見せびらかすように一歩一歩大きく踏み出している。


 襲いたい衝動を必死に抑え、踏み出しそうなる足を踏ん張った。頭を強く振って欲望を振り払う。だが、それでも目が離せない。目を瞑れば良いのに、どうしても視線をヴァルヴァラを追ってしまう。


 白い艶かしい足がほとんど根元まで見えた。ヴァルヴァラも興奮してるのか、足が汗にヌメリ妖しく光る。それが交互にゆっくりと動き、ぎりぎりその根元が見えない。だが、そのぎりぎりも白い肌だ。下着を着けてない!? そう考えた瞬間、さらに黒い衝動が襲う。


「くぅ……」

 歯を食いしばり耐えた。噛み締めた唇の端から、ぽたぽたと涎が垂れる。滑稽なほど荒い鼻息が自分にも聞こえる。その様にヴァルヴァラの口が嘲笑に歪んだ。


 誘うように舌をちろりと出し、まるで遠く離れた俺に触れるようにゆっくりと下から舐め上げると、俺の蝕む淫妖が反応し、体中を嘗め回された’実感’を与える。その瞬間、強烈な快感が全身を包む。唾液のようなヌメリを持つ脂汗が湧き出た。更に紅い舌が妖しく動き、俺の体の隅々まで這った。食いしばる唇から更に涎が垂れ、顎から首へ流れた。


 ヴァルヴァラが修道服のベールを取り、さらにきっちりと結われた髪を解くと、瞳と同じく紅く長い髪が風になびいた。男を誘う目で俺を見つめながら髪をかき上げる。その微かな動きにも柔らかく大きな胸が揺れ、つい目が向く。


 俺の視線に、乳房を抱えるように強調し、大きく開いた胸元から白い谷間が見えた。上目遣いの視線で、蛇のように長い舌を出し、いやらしく自分の乳房を舐めた。その’行為’を連想させる仕草に、また歯を食いしばる。


 警戒して近寄らないんじゃなく、俺が我慢できずに襲うのを待ってるんだ。


「随分、頑張るんですね。普通の男なら、とっくに襲って来てるのに、やっぱり、’次の世界’から来た方は違うのかしら?」

「お前……。俺に憑かせてどうするつもりだ?」


 もう限界に近い。とにかく意識を逸らす為、ヴァルヴァラの話しかけた。妖艶な笑みを浮かべ俺の考えを察しているらしいが、どうせ時間の問題と思ったのかさらに胸を押し上げ強調しながらも俺の話に乗ってきた。


「どうするも何も、私達の教祖様になって頂きたくて」

「こ……こんな事をして、教祖になんてなると思ってるのか」


 心を振り絞って平常心を保ち答えようとするが、やはり、少し’どもって’しまう。ヴァルヴァラは、俺の努力をあざ笑うかのように、時折、チロチロと舌を動かし俺を責め、俺は漏れそうになる声を歯を食いしばって堪えた。普通、憑師は、相手に妖を憑かせるだけで操れたりはしない。ヴァルヴァラは、かなり高レベルの憑師のようだ。


「私達の教祖様になれば、どんなに良い事があるか分かって頂きたくて」

 微笑み、またチロリと舌を動かす。


「い……淫妖に憑かれた教祖なんて、わ、笑い話にもなんねえぜ。信者が知ったら、気を失うだろうよ」

「それは勿論、私の体を堪能して頂いて教祖様になれば、その時には淫妖は祓って差し上げます。大丈夫。淫妖が憑いてなくても十分楽しめますわ。私’上手い’ですから」


 抱えた胸を強調し妖しく体をくねらせ、淫らな笑みを浮かべる。神聖なはずの修道服が、彼女の淫らさを増幅させるコスチュームと化す。


「ヴェーラ教の修道女って、頭おかしいんじゃないか? ど、どこの世界に色仕掛けで教祖を釣ろうって修道女が居るんだよ」

「あら酷い。教祖様にそんなことを言われては、みんな泣いてしまいますわ。ご心配なさらず。おかしいのは、私一人ですから」

 ヴァルヴァラは、自分がおかしいということが、面白いらしく、体をくねらせクスクスと笑っている。


「私の家は、地方ではそれなりの貴族で、こんな容姿の私でも、貧しい家みたいに口減らしで家から出す必要は無かった。それなのに私は家を出されたのです。父も母も、私がおかしいと薄々感づいていたみたいですね。自分では、真面目な優等生のつもりだったのですけど。私の心の奥底に沈む淫乱を見抜いてたのでしょう。さすがは、親、といったところでしょうか。私の淫乱を抑えようと、教会に入れてしまったのです。私が城に居ては、いつか権力を使って男漁りでもすると思ったのでしょうね。まあ、多分、当たってましたけど」

 また笑い、クスクスと体をくねらせる。


「その教会がヴェーラ教の教会ってか? そんな色情狂丸出しの格好で、淫乱を抑えるも何もあったもんじゃないだろ」

「それは、彼方が’次の世界’から来たからそう見えるだけ。こちらの世界では、所詮、目も当てられない不細工が変な格好をしているだけですから。私と同じような女ばかりのヴェーラ教に入れたのは、ここならば容姿のことで苛められることもないと、父と母の親心だったのでしょう」


「じゃあ、お前の憑かせる技はなんなんだ? ヴェーラ教の教会で教わったんじゃないのか?」

「まさか。教団は色情狂の集まりではありませんよ。たしかにヴェーラ教の修道服は露出が多いですが、これは我が教団の教義による美しさを誇示する為。この世界の基準では、胸と腰とお尻は同じ太さが良いとされていますが、教団では、胸とお尻は大きく、腰は括れているのが美しい。この修道服は、それを強調する為の物です」


 ヴァルヴァラは、大きな乳房を抱えたまま、左足を一歩踏み出し腰を少し捻った。そうすると言葉通りに腰の括れが強調され、絶妙のプロポーションが見て取れる。


「さっきも言ったとおり、おかしいのは私一人です。父と母には悪いのですが、残念ながら、私の’おかしい’が結局治らなくて。でも、この容姿じゃ男性に相手にされませんでしょ? 城に居た時と違ってお金もありませんから、男を買うことも出来ませんし」

「それで、自分で憑師の技術を身に着けたってのか? 男を誘惑する為に? かなりの腕前みたいだが、もっと違うことにその努力を向けた方が建設的だろ」


 一矢報いようと努力して馬鹿にした表情を作ったが、’おかしい’ヴァルヴァラには全く効果が無かった。


「あら? 男が女を求めて、女が男を求めるのは人間の本能では御座いませんか? その為に努力するのは、生物として正しいと思います。無理に抑える方がどうかしているのです。彼方だって、あのジュレルディという女性と、している、んでしょ?」

 そう言って笑い、俺は舌打ちしつつも言い返せない。


 だが、何か喋らないと。とにかく何か喋って気を紛らわせるんだ。


「おかしいのがお前一人として、さっきは、修道女全員が俺の思うがままとか言ってなかったか?」


 あ、いかん。言った瞬間失敗を悟った。気を紛らわせるなら、もっと無機質な質問にしなきゃいけないのに、もしかして思考まで淫妖の影響を受けているのかつい聞いてしまった。ヴァルヴァラの顔に、予想通りまってましたとばかりに淫らな笑みが浮かぶ。


「彼女達は、ヴェーラ教団の教義に感銘した、正真正銘、神に身も心も捧げた清らかな処女。それだけに、神の化身たる彼方の思うがまま。どうです? 純真無垢な彼女達を好きに出来るんですよ。しかも、彼方の世界の美女や美少女ばかり。男性としてこれ以上の楽しみは無いのでは?」


 美女や美少女達を思うがまま。その言葉に、押さえ込んでいた淫妖がまた蠢いた。考えまいとしても、どう思うままにしようか、頭に浮かぶ。では、まず目の前の女から思うままにしてやる。その衝動を、歯を食いしばって抑える。


「ヴェ、ヴェーラ教の教義ってのは、そんなに良いものなのか?」

 なんとか、会話を軌道修正しないと。ヴァルヴァラは、俺の考えが分かっているようだが、自分の有利を確信しているらしく、またしても乗ってくる。


「彼女達は、彼方のジュレルディさんと同じく、この世界では誰にも相手にされないほどの不細工。その容姿を馬鹿にされ、迫害を受けた者も多い。ですが、ジュレルディさんのように渡者としてやっていけるほどの力も無い。この世界は、彼女達にとって地獄です。だから、来世に望みをかける。今世で清く正しく生きれば、来世でよりよい生まれになる。もしかして美女に生まれ変われる。そのヴェーラ教の教義だけが、彼女達を救えるのです。だからこそ、彼方に奉仕することが来世での幸せに繋がると、身も心も彼方に捧げる。どうです? 彼方が彼女達を可愛がってあげれば上げるほど、彼女達は幸せになれるのですよ? それは、良いことではありませんか?」


 何人もの女性を欲望のままに好きにするなんて許されない。だが、ヴァルヴァラは、俺が欲望のままにするのが、彼女達の為なのだと、心の逃げ道を向けてくる。それが彼女達を救い、幸せにするのだ。だったら何を躊躇する?


「彼女達を可哀想と思わないのですか? 彼女達を見捨てるのですか? 彼方にとってそんなに難しいことなのですか? 自分の欲望のままにするだけなのですよ? 難しくないですよね? こんな簡単に彼女達を救えるのに。彼女達は幸せになれるのに。それを嫌だなんて。どうしてそんなに酷いことが言えるのです? さあ、あまり我が侭を言わず、彼女達を救ってあげて下さい」


 我が侭なのか? 確かに彼女達を救うのは難しくない。それどころか、俺が好きなようにするのが、彼女達を救うことになるのだ。そんな簡単なことで救える人間を救わないなんて、それは酷いことなのか?


「さあ、ご決断ください。彼方がその気にさえなれば、彼女達は救えるのです。いえ、それどころか、ヴェーラ教が世界を覆えば、彼女達と同じ境遇の者達全てを、彼方は救えるのですよ?」


 男を誘う妖艶な笑みを浮かべ、大きな乳房を強調し、白く艶かしい足を見せびらかせ、くびれた腰をくねらせ、理を持って救いを語る。そのアンバランスが、俺の欲望を沸き立たせ、理性を麻痺させていく。


 自分は多くの人間を救うことが出来る。それをしない方がおかしい。そんな気にもなってくる。いや、そんな気じゃなくて、多くの人間を救えるなら、救った方が良いのだ。


 だが、俺にはジュレルディがいる。欲望でも、理性でも負けかけた俺は、ジュレルディを思い出し踏み止まった。流される訳には行かないのだ。


「お、お前は、どうしてヴェーラ教を広めようとするんだ? 親に無理やり教会に入れられただけなんだろ? そんな宗教をどうして広めようとするんだ?」


 淫妖の支配と、ヴァルヴァラの話術に負けぬ為、また話を変える。実際、時間稼ぎにしかなっていないが、今は他に手が無い。


「あら酷い。私がヴェーラ教を広めようとするのが、そんなにおかしいですか?」

「ああ、おかしいな。お前の本当の狙いはなんなんだ?」


 ヴァルヴァラは、大きな乳房を抱えていた腕を解いて神に祈るように手を組んだ。その姿は、敬虔な修道女に見える。ただし、敬虔な修道女にしてはその肢体から漂う色香ははんぱない。そして、当たり前でしょ? という様に紅い唇が動く。


「勿論、世界の平和ですわ」

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