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第59話:運命の2人

 オリヴェルト王国軍との戦いに勝利したフィクスは、そのまま軍勢を進ませ王都を包囲した。


 いくさで大敗北と呼ばれるものでも死傷者は精々3割ほど。最後の1人まで戦う事などありえず、どちらかが敗走した時に勝負が決まるからだ。


 だが、ファン平原の戦いで王国軍を前後から挟み撃ちにしたフィクスは、その敗走すら許さなかった。出撃した王国軍は、すべて死ぬか捕虜になり消滅したのである。


 祭の標的は大抵貴族の城だ。市民の多くは自分達は関係ないと考えていたが、どのようなものかは伝え聞いている。財産が根こそぎ奪われるのは当然。男は全て殺され女は犯され連れ去られる。では、王国と戦った祭の得物は何なのか。国民全てがその得物なのか。


 王都を囲む渡者の軍勢は、装備すら統一されず、いかにも粗暴、下賤。もし陥落すればどれほどの乱暴を受けるかと市民は恐怖に打ち震えた。


 だが、王都に残るは僅かな守備兵のみ。城壁の上に並ぶ兵士すら足りぬ状況に、絶望が市民の心を満たす。


 市民達はどうにかして脱出しようと試みるが、国軍を打ち破ったとの報に、更に渡者達が集まり王都を囲む軍勢は万を越えている。蟻の這い出る隙間すらない。


 もはや自ら死を選ぶ方がましかと、涙する市民にフィクスが宣言した。


「王族、貴族などが支配するからこそ貧富の差が生まれ、人々は苦しむ。一部の者だけが富、多くの者達が虐げられる。それは渡者も民も同じだ。我らは敵ではなく同志なのだ!」


 死ぬしかない。そう思い悲壮にくれていた市民は、我が耳を疑った。死なずに済む。その希望にすがり付き、フィクスの言葉に耳を傾ける。


「渡者を虐げた貴族を我々が討つは当然。それに味方し我々を攻めた王家を討ち滅ぼすも当然。だが私達は貴方達市民を敵とは考えていない!」


 そうだ。渡者を攻めたのは王室が勝手にやったこと。自分達には関わり無い!


「だが、今王室に従い我々を敵とするならば、悲しいことですが我々も貴方達を敵とするしかありません。さあ、選ぶのです。自分達を虐げる者に従い運命を共にするか。我々と共に歩み、新たな世界を作るか!」


「さあ、みんな立ち上がるんだ! 王族なんぞの為に死んでたまるか!」

「王を血祭りに上げるんだ! そうしないと俺達が殺されるぞ!」


 王都のあちこちで市民が立ち上がった。手にする武器は、棒っきれの先に包丁を括り付けただけの粗末な物まである。だが、ほとんどの兵士は外にいる万の軍勢に向けられ、王宮はまったくの手薄。瞬く間に国王を含めた王族達は、市民の手によってその命を絶たれたのである。


 城壁を挟み渡者と対峙していた兵士達は、国王が死んだとの報にもはやなすすべ無しと降伏し、城門は開け放たれた。フィクスは無血にて王都に入ったのであった。


「しかしフィクスさん。良いんですかい? 仲間を潜り込ませて町の奴らを扇動して王様を殺させたは良いんすが、町に入ったら略奪し放題って思ってた連中が不満に思わないですかい? 王妃様とやれるって張り切ってた奴もいるってのに」


 品の無い部下に、内心侮蔑の唾を吐きながら、フィクスは宥めるように笑顔を向けた。


「王室を倒した以上、それに従う貴族全てが我らの敵。焦る必要はありません。襲う城は無数にあります。ですが、その時貴族達だけではなく、民衆も我々を恐れて敵に回れば厄介です。しかし今回の話を聞けば、いく先々の市民も我々の側に付くでしょう。まあ、貴族の城を落とすのに民衆の手は借りません。その時こそ、思う存分略奪すればいい」


「でも、貴族の娘と王妃様とじゃ。やっぱ……。一度は王族ってのと楽しみたいじゃねえっすか」

 どうやら、王妃と一儀に及ばんとする者とは、自分自身のことのようだ。


「オリヴェルトが落ちた今。周辺諸国も次は自分達かと戦々恐々としている。その国々と戦うこともあるでしょう。そうなれば……」


「なるほど。へへっ。それは楽しみっすね」


 下品に笑う部下を一瞥すると、フィクスは王が使っていた部屋に入った。金銀の調度品で飾られていたはずのその部屋は、市民達の略奪により荒れ果てたが、見苦しくない程度には片付けさせている。


 他者に対し絶対的な強者となった時、人は本性を現す。町の者達は渡者を下賎と蔑むが、彼らとて理性のタガが外れれば略奪者となる。人間の本質は、町の者だろうと渡者だろうと変わりはしない。


 オリヴェルト王国はもはや手中にある。貴族達は抵抗するだろうが、纏まりにかける。渡者達は続々と集まっており、貴族達を倒すに問題は無い。


 最高級のなめし革を張った椅子に大きく腰掛けた。国王の為に用意された物だけあって、硬さと柔らかさが絶妙な旋律となり体を支える。肩、腰と場所によってなめし具合が調節されている。


 今まで大陸各地で祭を起こしていたが、ついにその拠点ともいえる国を手に入れた。後はそれを広げるのみ。


「フィクス様。よろしいですか?」


 目を瞑り、思案に耽っていたフィクスがその声に視線を向けた。見ると扉の前に女が1人立っている。


「エルミラか。シャルロワでの祭に失敗したらしいな」

「申し訳ありません。思わぬ邪魔が入り……」


 エルミラは、口ごもり身を縮こませている。


 以前より祭の数が増えたのは、フィクスが一つ一つその火種を拾い集めている為だった。


 祭には大義名分必要だ。以前は、その程度ならと見過ごされていた火種に丁寧に息を吹きかけ燃え上がらせ、もはや消えかけている火種に油を注ぐ。その火種を探すのも重要だ。その仕事にも多くの人を使っている。


 シャルロワ地方に領地を有するモンフォールが十数年前に起こした不正のネタを掴んだフィクスは、更にその事件に関わる人間が渡者になっていないかを調べ、カシェードにたどり着いた。


 渡者の身元は証印により組合で管理されている。フィクスの手は組合内部にも及び、カシェードが貴族だった頃の手紙から、その貴族が今では渡者になっているのを探し当てるのは雑作も無かった。


「邪魔だと?」

「はい。ジュレルディという女頭目です。用意した偽の証言者の正体を見破り、祭を中止に追い込んだのです」


「あの女か……」

 興味なさげだったフィクスの瞳に光が増した。今までは各地で祭を起こしていたが、オリヴェルト王都を落とし、その貴族達を標的とすると決まった今、もはやシャルロワでの祭など些細な事だ。だが、それを阻んだ女頭目の名は、彼の心を波立たせた。


「ご存知なのですか?」

「ああ。少しな。しかしその時は、名前は忘れたが、顔の良い男の戦士と一緒に居た。カシェードという名ではなかったはずだが……」

「はい。確かにその……私も名前は覚えていませんが、顔の良い戦士も連れていました」


「私と会った時は、たまたまそのカシェードという男とは別行動を取っていたというわけか」

「おそらくは……」


 自分の片腕とも思った女だったが、又もや邪魔をしたというのか。


 確かに有能な女ではあるが、それでもこの大陸全土を見渡せば、あの女を超える者など幾人もいよう。そもそも自分とは、比べ物にならないはずだ。だが、人はその能力だけで運命が決まる訳ではない。


 磁石で引き寄せられるように、意図せずとも運命が交差する。前回は偶然だった。そして今回も偶然だろう。だがフィクスは確信した。次も、’偶然’自分とあの女は対峙する。


 そして能力では自分より劣るはずのあの女に、2つ続けて敗北を喫した。それがフィクスの心に、ささくれとなり、引っかかる。


 勿論、1つ目は、領主との戦いには勝利し、ただ城の女子供に逃げられた。それだけの事だ。2つ目も、今となってはどうでもよい地方の祭でしかなく、しかも直接対峙したのは部下でしかない。だが、それでも2つ続けば、ただの偶然と、吐き捨てる訳にはいかない。


 俺は、この世界を根底から覆す。その為に生まれたのだ。神がそれを許さぬというのか。神が俺の邪魔をするというのか。それゆえに、自分より劣るはずのあの女に敗北するのか。


 あの女は、必ず自分の前に立ち塞がる。この大陸を統べようとするフィクスに。それは、理屈を超えた確信だった。





 領主モンフォールの城を後にした俺達は、辺境の町にいた。立ち寄る予定の町ではなかったが、乗ってきた駅馬車がこの町止まりで引き返し、ここから先に進む駅馬車の出発は10日後というのだ。


「なんだか、なんとなく荒んだ感じのする町ですね」

「ああ。活気はあるんだが、健全な雰囲気ではないな」

「みんな乱暴そうっていうか……」

「まったくだ。人相の悪い奴らがゴロゴロしてるぜ」


 俺達は一斉にカシェードに視線を向けた。

「……なんだよ、お前ら?」


「いや。なんでもない」

「気にするな。カシェード」

「カシェードさん。人のこと言えないじゃないですか」


 こいつすげぇ!

 だが、当のユイファに悪気はないらしくカシェードに睨まれても、キョトンとしている。


「とにかく、10日はこの町に留まらなくてはならない。組合に顔を出して仕事を探してみよう」

「そうですね」


 とはいうものの、これもなんとなく荒んだ感じのする組合に入ったところ、10日という期限でこなすには厳しい依頼ばかり。下手に受けて10日で終わらなければ次の馬車を待つことになるが、それはさらに10日後ではなく、20日後なのだ。


「さすがに、ここに30日もいる訳にはいかないですね」

「ああ。とはいえ10日も遊んでいる訳にも行かないし、何かしらの仕事はしておきたい」

「じゃあ、どうしましょう?」

「仕方が無い。立ちんぼでもするか」


「たっ立ちんぼ!?」

 立ちんぼって、街角に立って、お兄さん遊ばない? ってやつだろ? まさかジュレルディがこんなことを言い出すなんて!


「立ちんぼって、あれですよね? 街角に立ってっていう」


「あ、ああ。そうだが。そんなに驚くことか?」

 何が悪いんだという感じで首を傾げている。


 いったいどうしたというんだ。ジュレルディは堅物だから、そっち関係は……。あれ? そういえばこの人、城では毎日求めて来てたな……。い、いや、それはあくまで俺が相手だからだ。


「みんなはどうなんだ?」


 カシェードとユイファに助けを求めたが、むしろ不思議そうに俺を見返している。


「立ちんぼの何がそんなにやってんだよ?」

「ちょっときついかも知れませんけど、仕方がないんだから、みんなでやりましょう」


「みんなでだと!!」


 俺か。俺もなのか! 確かにアルシオはハンサムだから御婦人方に需要があるかもしれないが、カシェードは無理だろう。それとも、あれか? やっぱりあっち関係か? その手の話はもう終わったと思ったのに、まだ付き纏うのか!


 だがまて。ジュレルディはどうなんだ? 俺にとっては絶世の美女だが、この世界では冥界の不細工。もしかしてテクニックでカバーするつもりか! 確かにジュレルディは勉強熱心だからかなりの……。


 ふと気付くと、みんなの醒めた視線に囲まれていた。


「まさか、また南部では、と言い出すんじゃないだろうな?」

「いい加減にしろよ。お前」

「もう飽きましたよ。そのネタは」



 しばらくの後、俺とジュレルディは街角に立っていた。立ってて何をするかといえば、立っているだけだ。


 この世界にも’やばい商売’の奴らはいる。特にこの町はそういう奴らが多いようだ。当然、人の恨みを買い命を狙われる事も多い。そしてそいつらにとって厄介なことに、この世界には大出力魔法なんてものがあるのだ。


 奴らに迫害された人々が、これでどうか恨みを晴らして下さい! と、仕事人よろしく渡者に依頼すれば、寝ている間に大出力魔法の一撃でそのまま永遠の眠りについてしまう。勿論、縄張り争いもある。それを防ぐには、襲撃に備え24時間見張っている必要がある。あこぎに稼いだ金で、それなりに頑丈な建物ではあるが、町中では限度があるのだ。


 そんなだったら、町の外に頑丈な物を建ててそこで寝泊りすれば良さそうなものだが。そこは彼らなりのプライドやら、縄張り関係やら色々とあるらしい。


 ある意味、悪い奴らに加担していることにもなるが、それは仕事と割り切るしかない。


「じゃあ、私とアルシオ。カシェードとユイファの組に分かれよう」

「そっか。ジュレルディさんとカシェードさんしか3年以上一緒の衆じゃないですもんね」

「ああ。裏切られるのを警戒した処置らしいが、決まりは決まりだ」


「でも、ジュレルディさんと同じの組が良かったです……。カシェードさんやアルシオさんはともかく、私達は色仕掛けなんかに引っかからないのに……」

「まあ、2人も引っかからないだろうが、敵の色仕掛けを警戒して男女の組にするのも決まりだ」


 ユイファの悪気の無い言葉に、頭目らしくさりげなくジュレルディがフォローする。


 という訳で、俺とジュレルディが組なのは、決して私情を挟んだのではない。


 そして、大出力魔法を狙うならここからだろうと思われる場所に俺達は立っている。稀に敵と戦うこともあるが、大抵は、ここに人がいるというだけで敵は引き返していく。立ちんぼと戦っているうちに、ターゲットに逃げられるからだ。


「でも、立ってるだけって、歩き続けるのより疲れますよね」

「ああ」


 ジュレルディは、しなやかな体を壁に寄りかからせている。腕を組み大きな胸が乗せられ、ローブの裾が少し肌蹴て白い足を覗かせていた。以前は、こんなふうに体の線が出る姿勢はしなかった。丈の長いローブに体の線がすっぽりと隠れるように、常に直立不動だった気がする。


「椅子とか持ってきて座ってちゃ駄目なんですか?」

「以前は有りだったんだが、そのまま眠りこけた奴がいて、まんまと敵に大出力魔法をぶっ放された。それから禁止になった」


「そいつ1人の所為でいい迷惑ですね」

「まったくだ」


 俺の愚痴にジュレルディは、銀色の髪を揺らし頷いた。そのしぐさもなんだか以前より硬い感じがなく、何か余裕のようなものを感じさせる。


「アルシオ。そういえば、御両親からの手紙は来てないのか?」

「え? 来てないですよ。ティロンでジュレルディが書いてくれた手紙を出してからまだ一月も経ってないですし。もうちょっと掛かると思います」


「それはそうなんだが……」

 常に凛とするジュレルディの歯切れが悪い。

「どうしたんです? 何かあるんですか?」


「うーん。その……。私ももうすぐ30だし……」

「え? 30? まだ28ですよね?」

「あ。ああ、今は29だ」


「29!!」


 俺の大声に、ジュレルディは壁から起き上がり驚いた表情だ。


「な、なんだ!? 私の方が上なのは知ってるだろ? まさか……。4歳差までは許容範囲だったが5歳差は駄目と言うんじゃないだろな」


「い、いや、そうじゃなくて……」


「お、落ち着けアルシオ。冷静に、冷静になるんだ」

 俺の肩を掴み、視線は鋭く額には汗が浮かんでいる。

 落ち着くのも冷静になるのも、あんただと思いつつも、その勢いに飲まれ口を挟めない。


「確かに今は5歳差だが、お前だってもうすぐ25だろ。数ヶ月だ。数ヶ月我慢すればまた4歳差だ」

 そう言いながら、俺の肩をガタガタと揺らす。


 うわー。余裕ねえな、この人。

 まあ、今までずっと男には相手にされてこなかった人だから、いくら俺が好きだといっても、どこかに不安を感じてるんだろう。


「大丈夫ですって。4歳差だろうが5歳差だろうが関係ありませんって!」

「本当か? 本当にそうなのか?」

 と、ガタガタと俺の肩を揺らす。


「本当ですよ。例え貴女と10歳差だって、俺の気持ちは変わりません」

「じゃあ……。私が30になっても、30代は駄目だとかも言わないんだな?」

 ジュレルディは、上目遣いに探るような視線を向けてくる。


「別に年を気にしてる訳じゃないですよ。いつのまに29になったのかと思っただけです」

「ああ。一昨日なったんだ」

 ジュレルディは、ちょっと拍子抜けした感じだ。


 え? じゃあ、一昨日が誕生日だったのか?


「言って下さいよ!」

「え? わざわざ言うようなことじゃないだろ?」


 ジュレルディは不思議そうに首を傾げている。


 もしかして! と記憶を探ると、確かにこの世界では、誕生日はあまり重要視されてなく、今日は自分の誕生日なんだ、なんて人に言ったりしないらしい。


 だが、俺はジュレルディの誕生日を祝いたい。ここはいくら飽きたといわれても、南部ネタで乗り切るしかない。


「実は、南部でも特に俺の村では、生まれた日を祝う習慣があるんです」

「だが、村なら毎日誰かの誕生日だろう。一々祝っていられるのか?」


 ああ、そうか。この世界の人って多産だから、村や町ではそうなるのか。


「勿論、全員じゃないです。自分にとって特別な人だけです」

「特別な……。その……。では、私はお前にとって……」

「特別な人です」

「そ、そうか……。う、嬉しいな」


 頬を赤く染め俯くジュレルディは、滑らかで染み一つない肌もあいまって、こういう時は一瞬年下なのではないかと思うほど幼くも見える。


「素敵な風習じゃないか。お前の生まれた日は、私が祝うからな」

「はい」


「それで、祝うといっても、何をするんだ?」

「えーと。相手が喜びそうな物を贈ったり、相手が喜びそうなことをしてあげたりです」


「なるほど。お前は、どんな物が欲しいんだ?」

「いやいや。今は貴女の誕生日です。何か欲しい物とか、して欲しいことってあります?」


「欲しい物……して欲しいこと、か……。欲しい物は特に思いつかないな……」

「じゃあ、して欲しいことは?」


 ジュレルディは、うーん。と考え込んでいる。

「なんでも良いのか?」

「ええ。良いですよ」

「本当にか?」


 ずいぶん念を入れて確認するな。そんなに大変な、いや、重要な頼みなのか?

 もしかして!

 自分をお嫁さんに貰って欲しいとか。いや、さすがにそれは飛躍しすぎか。

 しかし、そういえばさっき、もうすぐ30だしとか言っていた。結婚にあせってるのか? 十分ありえるぞ。


 確かにジュレルディは好きだ。優佳のことがあると分かっていても、もう、その気持ちは誤魔化せない。しかし、結婚となると……。いや、好きなんだし迷うことないか……。いや、とはいえ……。


「そ、それじゃあ……」


 ジュレルディは、頬を赤らめ上目遣いに俺を見ている。やはり、そっち関係のお願いだよな。よし、言われた瞬間、思いついた答えを返そう。それが一番、俺自身が望んだ答えのはずだ!


 身構え、ジュレルディのお願いを待ち構えていると、その赤い唇が動いた。

「お前を……」

 無意識に、ゴクリと唾を飲み込む。


「お兄ちゃんと呼んでいいか?」

「…………」

「………………」

「……………………」


「う、嘘! い、今の無し!」

「い、いや。無しって」

「お、お前が何でも良いって言ったんだろ! そんな目で見なくていいじゃないか!」

 う、確かに 呆れた目をしてたかも。


「いや、ちょっ、ちょっと、意表を突かれて」

「うるさい! 馬鹿!」

 全身真っ赤にし叫んでいる。よほど恥ずかしいのか、ちょっと半泣きだ。


 そう言えば、一番の末っ子で兄に可愛がられてたとか言ってたよな……。まさか、お兄ちゃんっ子だったとは。アルシオが長男だから、アルシオに好意を持ってたって訳じゃないんだろうけど。


「分かりました。お兄ちゃんって呼んでいいですから」

「もう、いい!」

 顔を両手で覆い、いやいや、をするように首を振るジュレルディの肩を抱く。


「本当にいいですから。呼んで下さい」

 優しく言ったが、それでも上目遣いの視線で躊躇しているようだ。


「大丈夫です。笑ったりしません」

「じゃ……じゃあ……」

 一旦俯き、そして意を決したのかまた視線を戻すが、その目はオドオドと弱々しい。


「お兄……ちゃん」

「ジュレルディ!」


 俺の中で、何かがブチ切れた。

 気付けば彼女を思いっきり抱きしめている。


「ちょ、ちょっと待てアルシオ」

「違う。お兄ちゃんだ!」


「お、落ち着け。お前は、アルシオだ」

「お兄ちゃんだ!!」


「い、いや、だから……」

「お兄ちゃんだ!!!」


「お、お兄ちゃん」

「ジュレルディ!!」

 待ってましたとばかりに、更に強く抱きしめる。すると、ジュレルディもノッテ来た。


「お兄ちゃん!」

「ジュレルディ!!!」

 お互い呼び合い抱き合った。

 あ。なんだかすげー楽しい。変なプレイにはまりそうだ。


 ふと気付くと、傍にローブ姿の男が立っていた。なんともいえない顔をしている。


「あ。すまん。続けてくれ」

 男は去って行った。

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