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第50話:女頭目と

 ジュレルディは、執事に俺の事を自分の情夫だと説明している。それは、俺と同室になり夜中みっちりとサリビス語を勉強する為の方便だったのだが、執事は俺達がそういう関係なら風呂にも一緒に入るだろうと気を回したらしいのだ。


「とにかく……風呂は別で入る事にしよう。それについて何か聞かれたら……。まあ理由は何でもいいだろう」


 目を伏せ、視線を合わせないジュレルディの声がか弱く俺に届いた。2人きりの時はわりと積極的な彼女だが、その反面他の人に知られるのを非常に恥ずかしがりもする。ここで俺と風呂に入るとなれば他の2人にもバレバレなので、それを気にしてるのかな?


 だが、普段みなの前では毅然としている女頭目の恥らう姿に、俺の心は燃えていた。


「でも、もし城の者達に俺達の関係が疑われたら大変です。そうなったらカシェードやユイファの身が危険にもなりかねない。きっと2人も分かってくれます。ここは2人の為にも一緒にお風呂に入りましょう」

「な……」

 思わず顔を上げたジュレルディの顔に戸惑いの色が見える。


「べっ別に、そこまで警戒しなくても……たぶん大丈夫だ」

「ですが、万一という事もあります。命に関わる事ですから万全を期さないと」

「え……」


 ジュレルディは戸惑いを深くし、困惑しながら俺を見つめている。深いアメジストの瞳に、いつもの相手の視線をはじき返すような力強い輝きは無く、助けを求める様な弱々しい潤んだ瞳をしている。


 だが、ジュレルディも伊達に女頭目をしている訳じゃない。気を取り直したのか瞳の輝きを取り戻し、頭目としての表情を向けてきた。


「とっとにかく大丈夫だ。この程度の事で疑われるわけ無いだろう。彼らは……私とお前が同室になる理由を疑う理由も無いのだからな」


 うーん。それもそうなんだけどな。さすがジュレルディ。理論武装に関しては俺じゃ手も足も出ない。だが、俺がそう思って反論できぬまま彼女の顔を見つめていると、なぜかまた彼女の瞳が弱々しくなってきた。


「別に……。お前と一緒に入るのが嫌なわけじゃないんだ……。だって……恥ずかしいだろ……」


 そりゃまあ、そうなんだろうけど……。いや、優佳の事を忘れた訳じゃないしジュレルディと深い関係にって思ってる訳じゃないだが折角のチャンスだし……。ジュレルディがこれだけ恥ずかしがっているなら、一緒にお風呂に入っても、それ以上何も起こらないだろうという感じもするし。とは言えやっぱり不味いかな……。


 いかん。我ながら優柔不断だ。よし! やっぱり優佳に悪い! ここは止めておこう!

 と、決意し改めてジュレルディに目を向けると、彼女は何やらビクッとした。


「ア……アルシオ。そんな……怖い目で見なくてもいいだろ。本当に……嫌と言う訳じゃないんだ……」

「いっいや、そう言う訳じゃなくて……」


 あれ? 何も言ってないのに雲行きが怪しくなってきたぞ?

「分かった……。お前がどうしてもって言うなら……」


 いやいや、言ってない言ってない。どうなってんだ? ジュレルディは微かに涙目になりながら弱々しい目を俺に向けている。声は更に弱々しく、右手で左腕を抱きしめ、女性としては背の高いはずのジュレルディがなんだか小さく見える。


「いえ、そんな。貴女の方こそ、そんなに嫌なんだったら、無理しなくても……」

「嫌だなんて言ってないだろ!」


 突如激高し声を荒げたジュレルディに俺は戸惑った。

 俺の言葉が気に入らなかったんだろうか? 視線も少し鋭くなって感情的になっているっぽい。いつもと違ってなんだか情緒不安定で、態度がコロコロ変わる彼女の気持ちが分からない。


 しかも

「さあ、風呂に行くぞアルシオ。早くしろ!」

 と、荷物を持ってさっさと部屋を出て行ってしまい、俺も荷物を持って慌てて追いかけた。風呂の場所は執事に聞いていたのか、彼女は迷い無く怒りの表情でずんずん進む。


 途中すれ違った召使や侍女は、彼女の表情と祭りへの恐怖で慌てて脇により跪かんばかりに頭を深々と下げている。結局、ジュレルディは一言も喋らないままお風呂の脱衣所に到着してしまった。


 長い銀髪を揺らし振り返って俺を睨むと直ぐにまた顔を背け一気にローブを脱ぎ、いつもは丈の長いローブに隠れている大きな胸と括れたウエスト、位置の高い腰を包んだ白いシャツとズボンの姿にドキリとした。だが次の瞬間にはそれにも手をかけ、さすがに見てはいけないかと顔を背けた後ろでバサリと服を脱ぎ捨てる音がする。


 背後で彼女が一糸纏わぬ姿になっている、という事実に固まっていると、素足で石畳の上を歩くジュレルディの足音が遠ざかっていく。

 俺は彼女が扉を抜け浴室に入ったのを確認してからやっと振り返った。


 なんだか随分とおかしな事になってしまった。ジュレルディは笑いのツボが良く分からないところがあるけど、一緒に入るのを嫌がってたのにやっぱり一緒に入ると言い出したり、怒り出したり、怒りの地雷もどこに埋まってるのか分からない。


 緊張しながら浴室に入ると、ジュレルディはいつの間にか長い銀髪をまとめ頭の上で結っていて、広い浴槽にこちらを背にして身体を沈めていた。いつもは見えない白く細いうなじと滑らかな肩の線が艶めかしく、絶世の美女と一緒の浴槽に浸かるというシチュエーションに、俺の心臓は早鐘の様に鳴り響く。


 頭がクラクラし、湯に浸かる前にのぼせそうになりながらもジュレルディと少し離れたところから浴槽に入った。彼女と一緒に入ってみたいと思ってみたものの、それが現実になってみると中々近くに寄れるものじゃない。


「どうしてそんな離れたところに入る……? 近くに来い」

「あ、はい」


 静かな浴室に響いた彼女の声に反射的に答えていた。ゆっくりと湯を掻き分けて進み、1メートルほどまで近づいて彼女の方をチラリと見ると、後ろからでは見えなかった大きな胸が目に入り、湯に浮かんだそれは、半分以上は露出しその頂まで見え思わず視線が釘付けとなったが、彼女の顔がこっちに向いて来たのに気付いて慌てて顔を背けた。


 脳裏に焼きついた艶かしい彼女の肢体に俺の心臓はドラムの様に高鳴り、湯を伝ってその音が彼女まで届いてしまいそうだ。しかも、背後で湯が跳ねる音が聞こえると思ったら、俺の肩にやわらかい物が当たった。見なくても分かった。ジュレルディの肩が俺の肩に触れたのだ。


 いくら2人きりの時は積極的なジュレルディでも、お風呂でどうこうとは無いと思ってたのに、まさかこんな行動に出るとは洒落にならない。


「男は……好きだという女が裸で横に居たら……どうにかしたいと思ったりするんじゃないのか?」


 呟くような彼女の言葉に思わず視線を向けると、白いうなじをあらわに俯く彼女の横顔があった。まさか、本当に今ここで押し倒せと言っているのか? くっ! もう心臓が口から出てしまいそうなほど爆発を繰り返し、体中に血が巡り過ぎるぐらい巡り破裂しそうだ。


 突如ザバンという音が浴室に鳴り響いた。頭が真っ白になり、一番初めに意識に届いたのは甘い香り、次に身体を包む温もり。彼女の白く美しい顔は俺の顔の横にあって、俺の左胸は彼女の豊かな右の乳房に包まれ、彼女の左の乳房は俺の固い右胸に押しつぶされていた。白い張りのある肌が湯をはじき、滑らかな背を流れるのが見えた。俺の体中を駆け巡る鼓動はもはや隠しようも無く、彼女の全身に伝わる。


「凄く……ドキドキしているな……」

「はい……。でもあなたもです」


 彼女の手が俺の背に回り柔らかく暖かい身体が更に押し付けられ、俺も強く彼女を抱きしめ返した。肌すら溶け合うようにお互いの鼓動が交わり共鳴し、最早どちらのものか分からない。


「ああ……一緒だ」

 ジュレルディの赤く形の良い唇から漏れた穏やかな呟きが俺の肌に伝わった。


 彼女は微妙に身体の位置を動かしながら更に柔らかい肌を押し付けてきて、いつの間にか2人の足は絡み合うように交差している。重なり合った身体はお互いの気持ちを隠しようがなく2人の吐息が荒くなる。


 しばらく身体の温もりを伝え合い抱き合ったままだったが、またジュレルディの呟きが俺の耳をくすぐった。

「先に……部屋に戻っていてくれ」

 そう言って身体を起し微笑む。それは、この先、を彼女が望んでいると理解するには十分すぎた。


 絶世の美女。しかもはっきりと好意を寄せてくれている女性と全裸で抱き合い、すでにお湯以外のもので逆上せ切っていた俺は、目の前の輝く女神のような美しい裸体に魅入られ真っ白な頭で頷いた。ぼーっとした頭で言われたとおりに先に出て、気がつけば部屋のベッドに寝転んでいる有様だ。


 俺の目にお湯をはじく張りの或る白い肌。胸には大きな乳房の感触。身体中で感じた彼女の鼓動がまざまざと思い出される。その女性と今夜2人っきり。そして今更気付けば、この部屋にはベッドは一つしかない。


 さすがにお風呂でどうこうとはならなかったが、彼女も俺と同じくらいドキドキしていた。元々彼女の方が積極的だし、今夜迫ってきたりするんだろうか。


 駄目だ。緊張してきた。到底我慢できるものじゃない。優佳の事はある。優佳の事はあるんだ。それは分かっている。でも、今の俺はアルシオであって勇雄じゃない! そんな逃げの考えも浮かぶ。いや、逃げじゃなくて実際そうなんだとも思う。


 アルシオにはアルシオの人生があって、アルシオとして結婚して子供を作って育ててってするべきなんだろうか。その相手はジュレルディなんだろうか。


 ジュレルディはこの世界の男にはまったく相手にされないほどの容姿。内面重視とか好みとかの問題で解決しないほど、この世界の美的基準からは外れている。それで相手が見つかるくらいなら彼女も苦労はしない。でも俺はそんなジュレルディをこの世の誰よりも美しいと感じている。


 この世界で、彼女を女性として幸せに出来るのは俺しか居ない。改めてそう思うと、身体の奥底から何かが湧き上がる。息苦しいほどの興奮。それを押さえる為俺は自分の身体を力いっぱい抱きしめた。だがそれでも押さえきれず、ベッドから飛び起き部屋の真ん中に立った。


 とはいえ目的があって立ち上がった訳じゃない。両手で身体を抱きしめたまま居ても立ってもいられず、餌を探す熊のように部屋中をグルグルと徘徊する。


 そうしながら、元の世界でネットで見た知識やアルシオの以前の記憶を思い出すのに頭を総動員していた。


 初めは、どうやれば良いのか、アルシオの記憶がある自分が始めてのはずのジュレルディをリードしなければと考えていたのが、いつの間にか、お風呂での彼女の裸体を思い出し、どんな事までしても良いんだろうか、こんな事をしたら彼女は恥ずかしがるだろうかと思考が暴走してくる。


 興奮が頂点に達した俺が、意味なくベッドに飛び込むと、鍛えられた筋肉質の重い身体にベッドが軋む。そのまま更にベッドの上を転がる。だが次の瞬間にはまたベッドから起き上がり部屋を徘徊。それを何度も繰り返し、頭に浮かぶのは、お風呂で見た白い肌、大きな乳房。その彼女と身体を重ねるのだ。


「どうしたアルシオ?」


 軽く笑みを含んだその声に振り返ると、渡者の女頭目の技量を発揮し音もなく部屋に入り、俺の落ち着きのない様に悪戯っぽい笑みを浮かべた美しい顔があった。

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