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第44話:思わぬ再会

 組合の入り口は既に閉ざされていた。もっとも中では営業が続けられているらしく窓から渡者の姿が見える。ジュレルディが言っていた様に、営業時間中に受け付け出来そうな分の人達なんだろう。


 まだユイファの姿は見えなかったが、ジュレルディの予想通り時間より前に来た。遠くに歩いているのが見え、向こうも俺達を見つけると、小走りに駆け寄ってくる。


「はぁはぁ……。すみません。お待たせしてしまって」

「いや、我々が早く来ていただけだ、気にするな。それで、どこに宿を取ったんだ?」


 いつも通り、俺と2人きりじゃない時の毅然とし凛とした声がする。表情も少し冷たい。俺以外の2人に壁を作っている訳じゃないが、頭目としての責任感がそうさせるのだ。


「こっちです!」

 ユイファは宿街に向けて歩き出し、振り返りながら前を指差した。取ったという宿を示しているらしいが、ここからではどこの事やら分からない。まあ、何処でも大差なさそうだ。


 俺とジュレルディが後に続くと、歩幅の小さいユイファにすぐに追き横に並んだ。傾いた日に地面に伸びる影は、ユイファのものが一際小さい。


「でも、やっぱり部屋が一杯で、相部屋になってしまいました。すみません」

 ジュレルディに顔を向け、ユイファが申し訳なさそうな表情をしている。


「で、どう相部屋なんだ? 俺とカシェードの部屋か? ジュレルディとお前の部屋か?」

「男の人達は良いんですけど、私とジュレルディさんの部屋が相部屋なんです」

「私は別に構わない。よくある事だ。気にするな」

「ありがとう御座います」


 宿に着くと、早速宛がわれた2階の部屋に向かう。扉をくぐると、カシェードがベッドに横になり大きく口を開けてイビキをかいていた。


 旅の疲れで横になったまま寝てしまったんだろう。もう、おっさんだし仕方ない。夕食はここの名物を食べるという予定だが、それまでは寝かせておこう。


 俺もベッドに身体を投げ出し横になった。


 まさか言葉が通じないなんてな。俺も早くサリビス語を覚えないと。それには仲間の誰かから教えて貰う事になるが……。


 再度カシェードに目を向けると、相変わらず口を開けイビキを書いている。普通に考えれば、同室のカシェードに教えて貰うところだがどうも心もとない。やはりここはジュレルディに頼むべきか。


 しかしジュレルディは、兵法の勉強もしているって話だし、さらにサリビス語を教えるとなるとかなりの負担になってしまう。じゃあユイファか。まあ今度頼んでみよう。


 ユイファか……。そう言えばユイファとは宿に止まるときは別室だし、もう結構長い事一緒に旅をしている割になじんでない気がするな……。


 かなりジュレルディに傾倒しているみたいだが、もしそのジュレルディさんと俺が結構いい関係になっていると知ったら、「アルシオさんなんかにジュレルディさんは勿体無いです!」とか言って反対しそうだ。やっぱりジュレルディとの事は隠して置いた方が良さそうだな。


 そんな事を考えていると、不意に扉が叩かれた。それに続き、そのユイファの声がする。


「晩御飯を食べに行くそうです。来てください。下で待ってます」

「了解」

 ユイファにこたえ、ベッドから起き上がりカシェードも起す。


「なんだ。飯か」


 カシェードは起き上がると、目ヤニを指で擦り取りベッドの脇になすり付け、さらに大きく口を開け欠伸をする。相変わらず下品なおっさんだが、これはこれでこっちも気取らなくて済んでなんだかほっとする。


「みんなでここらの名物を食べに行くんだ。早く起きろよ」

「ああ」

 そう言って扉に向かいながら、右手で尻をかいている。ふむふむ。お前もありのままで居てくれ。


 俺達が階段を下りると、待っていたのはジュレルディとユイファの2人ではなくもう1人居た。


「こちらは?」

「同室になったエルミラさんだ。せっかくだから夕食をご一緒する事になった。構わないだろ?」

「エルミラです。よろしくお願いします」


 見ると、黒い髪を肩の辺りでバッサリと切り、女性にしては体格がいい。ローブじゃないところを見ると、戦士系か。身に着けている皮の鎧と胸当ての形状からして射手っぽいな。歳はカシェードと同じくらいか。


「おう。中々の美人じゃねえか。俺はかまわねえぜ」

 どこが? と一瞬思ったが、体格が良いってのは、この世界での美人の基準である寸胴に近いって事か。


 もっとも当のエルミラさんは、カシェードの物言いを不快に思ったのか眉を潜めている。ジュレルディも非難の視線を向けたが、当のカシェードは何処吹く風だ。


「それでどこに行きます? 宿の親父に聞いてみましょうか?」

「なに言ってやがんだ。おめえ、喋れねえじゃねえか」

 あ。そう言えば。って。あれ? とエルミラさんに視線を向けると、視線に気付いた彼女が微笑む。


「私もこっちの人間じゃないんですよ。でも、ここにはよく来るので任せてください」

「そういう事だ。店は彼女に任せよう」

 エルミラさんに案内された店は、組合の近くにあった。つまり俺がサラダだけを食べた店だ。おいおい、かんべんしてくれよ。


「ここが美味しいんですか?」

「ええ。実は地元の味付けは結構癖があって、他から来た人は合わない人が多いんですが、ここは組合に近いだけあって渡者が多く来ますから、味もそれに合わせてくれてるんです。地元の味そのままが良いというなら他の店を案内しますけど……」


 うーん。もし他の店に行って、ジュレルディやユイファが食べられないと不味いな。仕方が無い。ここはなるべく店員に顔を見せないようにしておくか。


「分かりました。じゃあ俺はここで良いです」

「私も良いですよ」

「俺もここで良いぜ」

「私もだ」


 だが、店に入ってみたものの、組合近くだけあって満席だった。店内の彼方此方に置かれた四角いテーブルのすべてが埋まり、渡者のたまり場らしく大声での会話で耳が痛いくらいだ。


「すみません。ちょっと来るのが遅かったみたいですね。少し待てば空くかも知れないですけど」

「そうだな。少し待ちましょうか」


 そこに店の隅に陣取っていた一団から声が掛かった。

「おーい。席が空くの待ってんのかい。俺達はもう出るからここ空くぜ」


 お。ついてる! 結構むさい奴らだったが、人は見かけによらないな。いい奴らだ。だが俺達が席に座ると、テーブルの上には結構な量の食べ残しがあった。いい奴らだったが、やっぱり育ちは悪いらしい。ジュレルディも食べ物を粗末にしてと思ったのか、テーブルの上の食べ残しに鋭い視線を向けている。


「そういえば今日って飲むんですか? それとも明日、仕事があるかも知れないから止めておきます?」

「そうだな……」

 ジュレルディは額に手をやり、ぶつぶつと呟き始めた。

「この分では、明日も仕事を紹介して貰えるか怪しいし……。前の町ではかなり稼げて今は余裕もある。ここまでの駅馬車の運賃も浮かせられたし……」


 あ。なんだか凄い考え込んでる。やっぱり頭目って大変だな。


「よし! 明日は組合に顔を出すとしても、即日の依頼は受けないでおこう。今日は飲むか!」

「わーい!」

「よっしゃ!」

 ジュレルディが決断すると、ユイファとカシェードが叫んだ。カシェードはイメージ通りだけど、ユイファも意外と酒好きなんだよな。


「お酒といえば向こうは麦酒が多かったと思いますが、こっちは蒸留酒が多いんですよ。もちろん麦酒もありますけど」

「じゃあ、俺はそれでいいや」

「あ。私もそれでいいです」

「俺もそれでいいかな。ジュレルディもそれで良いですか?」

「あ。私は修道酒で……」

 見ると、ジュレルディが控えめに手を挙げていた。


「エルミラさんは蒸留酒でいいですよね。おーい!」


 エルミラさんの返事を待たずに店員を呼ぶ。俺も修道酒で、と言おうかとも思ったが反射的にスルーした。どうして修道酒にするのかと聞かれでもしたら、ジュレルディが恥ずかしがるかもしれない。


 すぐに店員はやってきたが、何を言っているか分からない。いかん。喋れないのを忘れていた。結局注文はエルミラさんがしてくれた。


「そうだ。アルシオ。これをお前の村に送っておいてくれ」

 店員が注文を取り立ち去った後、そう言ってローブから伸びたジュレルディの白い手に、2本の指に挟まれた一通の封筒があった。


 店に入った順番に何となく座った為、常に先頭を歩くジュレルディと、一番後ろを歩きがちな俺とは席が離れている。一番奥がジュレルディで、横にユイファ、エルミラさんと続く。こっちの列はカシェードが奥で次が俺だ。身を乗り出し、テーブルを挟んで斜め前いるジュレルディからそれを受け取った。


「ああ。さっき言っていた手紙ですか。随分早いですね。そんなに急がなくても良かったのに」

「いや。こういうのは思い立ったらだ。すぐにしないと、ついぐずぐずしてしまうものだからな」


 ああ。なんとなく分かる気もする。いつでも出来る事に限って、いつまでもしなかったりするな。


「分かりました。組合に出してきます」

「店に入ってからですまない。後、ちゃんと証印もしてな。村にはお前の証印を置いてきたんだろ?」


 えーと。証印を置いてくるというと……。さすがにもう手馴れたもので、アルシオの記憶から瞬時にその情報を引き出す。手紙を出す時は、封筒や手紙に証印を当てて出す。アルシオの両親が保管してある俺の証印とて照らし合わせば、俺か俺の知り合いからのものと分かるのだ。


「ええ。置いてきてますよ。って言っても使った事は無いですが」

「まったく……」


「ええ!! アルシオさんって、今まで一度も手紙を出してなかったんですか!?」

「お前は出してるのか?」

「当たり前じゃないですか。移動するたびにそこの組合から出してますよ」

「まめな奴だな」

「これくらい普通です!」


 ユイファは、ちょっとむくれた感じでほほを膨らましている。ジュレルディは手紙を持っていた手で頬杖をついて、ため息をついていた。


「それにジュレルディさんは勉強もしていて忙しいんです。余計な手間をかけさせて、ジュレルディさんの手を煩わせないで下さい。さっきだって、まず外堀を埋めるんだ、とか言いながら、テーブルに向かってたんですから」


 外堀を埋める? 城攻めの勉強だったのかな? 俺の故郷への手紙を書いて勉強までしているとはさすがだ。


「まあ、それくらいでいいだろう。男なんてそんなもんだ。それより早く出してきてくれ。依頼の受付は終っているだろうが、今なら手紙の受け取りくらいはしてくれるだろう。遅れてしまっては大変だ」


 突然、ジュレルディが割って入った。確かにちょっとの差で、明日になるのも馬鹿馬鹿しい。


「分かりました」

 急いで店を出て組合へと向かう。だが角を曲がったところで封筒から手紙が滑り落ちた。慌てて拾ったが、汚れてないだろうな?


 まさか封がしていないとは。いや、俺が証印を押すからか。証印を押した紙も一緒に封筒に入れてから封をするって事だったんだな。でも、手紙は大丈夫か?


 手紙は組合が運んでくれるが、それ専門の機関じゃないので、組合同士が連絡を取る時のついでに運ばれるだけなのだ。ここからアルシオの故郷まではかなり遠いので、冗談抜きに年単位になりかねない。ちょうど行き先が同じな信頼出来る渡者に託す事もあるので、うまくいけば1、2ヶ月でついたりもするんだが。


 もっとも組合に手紙を頼んだ男が一年後にまた来て、行き先が同じだからと手紙を託されてみたら、自分が一年前に頼んだ手紙だった。なんて笑い話もある。


 うーん。それだけ時間をかけて手紙が届いた挙句、汚れていて読めなかったりしたら大変だ。仕方ない。人の手紙を見るのは行儀が悪いけど、ざっと流し読みして確認するか。と、ジュレルディの手紙を開いた。


 ……。

 …………。

 ………………。


 しまった! 思わず熟読してしまった。でも、特に読んでも問題なかったな。俺達は歳も近くて価値観も合う。信頼し合っていて、いつまでも一緒に旅を続けるつもりだ。あなたの息子さん、まあ俺の事だな。は、自分が責任を持って一生共にするって内容だ。


 実際俺の親と言われてもピンっとこないが、アルシオの両親を安心させる為にここまで書いてくれるなんて……。俺の胸に熱いものが込み上げてくる。歳が近いってだけで、自分が年上とは書いていないのは、まあ女心ってもんだろうし、自分は女の魔法使いだって5回も書いているのは、彼女の生真面目さの表れだろう。


 少し残っていた手紙の汚れを軽く叩いて落とし、改めて組合に向かった。ジュレルディの言うとおりまだ手紙の受け取りはやってくれて、証印を押して封をし手紙をだした。よし。これで完了だ。


 だが店に戻ってみると、何やら人が増えている。さっき俺が座っていた隣に男が1人座っているのだ。

「戻りました。こちらは?」

 と元の席に座った。その瞬間、甘い香りが俺の鼻腔を刺激する。おいおい、男の癖に香水か? と反射的に鼻を押さえた。が、次の瞬間あからさまに鼻を押さえるのもどうかと、軽く鼻を擦るふりをして手を戻す。


「こちらはエルミラさんの知り合いで、ハベルさんだ」

 なるほど。さすがによく来ると言うだけあって顔が広いな。


「ハベルです。よろしく」

「あ。アルシオです。どうも」


 軽く会釈するハベルさんに、俺も挨拶をし返す。どうやら、この人はこっちの人なのかな? サリビス語じゃないけど、ちょっと発音がおかしい気がする。坊主頭で、俺たちより歳が行ってそうだな。40は軽く超えてそうだ。この人もローブを纏ってないから、戦士系の渡者なんだろう。


 酒と料理が運ばれてきた。熱い鉄板の上に野菜を敷き、ひき肉に香辛料を混ぜ、3センチほどに平たく丸めて焼いた物が乗せられている。香辛料で染まったのか真っ赤だ。ぱちぱちと野菜の焦げる匂いと、香辛料の香りが食欲をそそる。


 ひとつフォークで取り齧ると、とたん焼けるような辛味が舌先を刺激した。なるほど。美味いが結構くせがあるな。これで味を合わせているっていうなら、確かに地元の味付けじゃキツイかも。


 ジュレルディを見ると、一口齧った直後修道酒を一気にあおっている。見た目平然としているけど、結構辛かったようで額に汗が滲んでいる。ユイファに到っては、舌を出し空気で冷やしている。ここでは蒸留酒が主流って言ってたけど、実際麦酒の方が合いそうだな。カシェードは結構平気そうだが。


 じゃあ、エルミラさんとハベルさんはと言うと……と見ると、何やら2人でこそこそと話している。そしてハベルさんが、ちらちらとカシェードに視線を送っている。


「どうしたんです?」

「いえ。他から来て、ここの料理を食べて平然としている人は珍しいので、つい」


「別に平気って訳じゃねえぜ。今まで色んなところに行って、色んなもん食ってっからよ。まあ変わった味付けにはなれているだけよ」

「あ。そうなんですか」


 ちらっと視線を向けただけで相手の顔も見ず話すカシェードに、ハベルさんは気を悪くしたふうもなく、礼儀正しくこたえている。まったくこのおっさんは。


 その後に出てきた料理も軒並み辛かった。まあ美味いんだが料理の辛さで酒が進みまくる。俺とユイファは、早々に麦酒に寝返ったが、エルミラさんとハベルさん、そしてカシェードは蒸留酒のままだ。ジュレルディは修道酒一本やりだ。


 しかし気になるのだが、さっきからしきりにハベルさんがカシェードの方をちらちらと見ているのだ。いや、さっきからと言うより、最初からずっとだな。しかもかなり熱い視線というか、顔の細部まで観察するようなというか……。もしかして……好みのタイプなのか?


 思わず椅子をずらし、ハベルから離れようと思ったが踏みとどまった。それはカシェードに近づくという事だ。変に勘ぐられ、嫉妬されてはたまんない。だが……ハベルの近くも嫌だ。


 思わずジュレルディに視線を向ける。頭目! 仲間のピンチです! だが肝心の頭目は、エルミラさんと何やら喋りこんでいる。どうやら頭目として、こっちの仕事事情を聞きだしているらしい。熱心にエルミラさんの話を聞き、俺の視線に気付かない。


 くそ! どうしたら良いんだ! 男の癖に香水なんてふっていると思ったらこういう事か。


 俺が人知れず苦悶していると、不意にハベルが立ち上がった。真剣な眼差しをカシェードを向けている。突然の事に、みんなの視線がハベルに集中する。まさか。会ったばかりなのに告白なのか!?


 2人の邪魔をしてはいけないと、俺は席を後ろにずらした。間に俺という障害物が無くなり、2人は見詰め合っている。後は2人で仲良くやってくれ。


「あなたは、もしかして……エウティミオさんではないですか?」


 え? と思い、カシェードを見ると、苦虫を噛み潰したような表情で鋭くハベルを睨んでいた。

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