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第30話:黒ジュレルディ

 軍議は掘っ立て小屋の1つで行われた。雨露さえ防げればとはよく言うが、壁は隙間だらけで、雨はともかく露は防げそうにない粗末な建物だった。小屋の中では数本の松明が焚かれ結構明るい。


 3、4百人も集まっていたら軍議にもかなりの数が来ているかと思ったらそうでもなく、集まったのは10人程度だった。それが長方形の机を取り囲んで立ち並んでいる。机の上には、付近の物と思われる地図が広げられていた。


 まあ、4百人の渡者って言っても頭目は数十人。さらに軍議に参加しようってのが一握りだと考えれば、こんなもんかもな。もしかしたら頭目でもない俺が、この場に居るのは場違いなのかも。


「みなさん。今回の義勇軍動議にご賛同頂きありがとうございます。私が今回、この義勇軍を纏めさせて頂いているフィクスです」


 細身だがすらりと引き締まり、目と髪が黒い端正な顔立ちの男がそう口火を切った。その横には、痩せた魔法使いらしい服装の男が並んでいる。

「こちらが今回領主に仲間を殺されたナールさんです。彼の無念を晴らすため、皆さんご協力下さい」


 ナールと呼ばれ、フィクスに手で指し示された男は、おどおどしながら頭を下げ一言も喋らない。なんだか仲間の敵を討ちたいと訴えたものの、事が大きくなり過ぎたのに戸惑っているように見える。


「……フィクス?」

 俺の横でジュレルディの呟く様な声が聞こえた。ちょっと気になったけど、今はそれどころじゃない。2人っきりになれた時に聞いてみるか。


「で。どうすんだい。味方は敵の5倍近いんだろ? 城を取り囲んで一気にやっちまうのかい?」

 射手っぽい装備の黒髪の女が、早速戦いについて発言した。今この場に居る女頭目はジュレルディを除けばこの人だけだ。


 この人もジュレルディほどじゃないけど、ナイスバディで中々の美人だ。胸が大きく腰は括れ、腰は張っている。もちろん俺の基準であってこの世界では不美人になる。まあ女性の渡者は、基本男にもてなくて渡者になるので、当然といえば当然ではある。


 ジュレルディほとコンプレックスが無いのか神経が太いのか、あちこち裂けた装備でウエストや太腿が丸見えだが、この世界では醜いはずのその身体を隠そうともしない。


 女射手の発言を皮切りに、他の参加者も次々と発言する。


「良いんじゃねえか? 囲んで一斉にやっちまって、後は城に乗り込みゃいいんだよ」

「それで城ん中のもんは、金目の物も女も全部頂いちまって終りだよな」

 女の作戦に同調し、彼方此方で下品な笑い声が上がる。まったくこれじゃ渡者じゃなくて盗賊だよ。


 そういえばアルシオの記憶を探ってみると、祭りの参加した後、略奪の味を覚えてそのまま盗賊になってしまうって奴もいるらしいし、こういうのは麻薬みたいに人間の何かを麻痺させてしまうのかも。俺も染まらないように気をつけ――。


「そうだな。特に女は1人も逃すな。残らず捕まえるんだ」

 ジュレルディ……さん? あまりにも予想外の発言に唖然とする。女性からのこの発言に、他の奴らも意外そうな表情で彼女に視線を向けている


「女の私が、女を逃がすなというのがおかしいか? 私は見ての通りの容姿だ。故郷では散々馬鹿にされてきた。同じ女からだ。貴族の城に居るって奴らは、さぞお綺麗で男にモテるんだろう? じゃあ、望どおりにしてやればいいんだ」


 言い放ち、笑みすら浮べるジュレルディに、そう言うことかと男達は下品な笑い声を上げた。はじめに発言した女射手の方がむしろ鼻白んでいる。


「よっしゃ。じゃあ俺がお姫様を頂くところを見物させてやるよ」

「ふっ。それも良いな」

 男の低俗な提案に、ジュレルディはさも愉快そうに頷く。いや本当に、どうしちゃったんです?


「しかしそれには先ず戦いに勝たなくてはならない。全員で城を囲むのはちょっと不味いな」

「何が不味いって言うんだ?」

 その問いかけに、ジュレルディがテーブルに身を乗り出す。長いローブから白い手が伸び、地図に指を向け、城の周りに円を描いた。


「攻城は攻める方が有利とはいえ、こう完全に囲っては層が薄くなる。敵が戦力を集中してくるとそこを崩されかねない。とは言ってもこの数だ。それで負けると決まった訳じゃないが、被害が出るのは確かだ。みんな祭りを楽しむために来てるんだろ? 死んでしまっては元も子もない」


「でもよ。あんたさっき女は逃がすなって言ったじゃねえか。囲まにゃ逃げられちまうだろ」


「もちろんそうだ。だがお誂え向きに城の北側が林になっている。ここに兵は要らないだろう。その分を他に回すんだ」

 そう言いながら、地図上の林に指でバツを描く。


「なに言ってやがんだよ。それじゃそこから敵が逃げちまうじゃねえか。森じゃなくて林なんだぜ? 城から何も見えないって訳じゃねえんだ。誰も居なかったら丸見えなんだよ」


「確かにそうだ。昼間ならな。だが攻城は夜行うものだろ? 林には少ない人数でいくつか松明を焚いておけば、敵はそこに軍勢が居ると考える。もっとも敵も必死だ。それでも最後はどこかを突破しようとする。その時に林に突っ込んでこられては意味がない。ここだ」

 ジュレルディは今度は城の南側を指差す。


「敵が最後にここの突破を狙うように、ここを空けて置く。その後ろに兵を伏せておけば良い」

「いっその事、林の後ろにも兵を伏せとけば万全じゃねえのか?」

「だからその兵が足りないと言っているんだ」


 ジュレルディの説明に、あくまで自分は纏め役というつもりなのか、今まで話に加わらず傍観していたフィクスが口を開く。その端正な顔に興味深げなものが浮かんでいる。


「敵がそれに引っかかると思いますか?」


 ジュレルディはフィクスに顔を向け、

「私は引っかかると思う。それとも城を完全に包囲して被害を出すか? 死んでしまってはお姫様と良い事出来ないんだろ?」

 と、後半は他の渡者達を見渡しながら言った。


「そりゃそうだ。死んじまっちゃ良い事できねえ」

「ああ。まったくだ」

 渡者達は口々に賛同し、ジュレルディはフィクスに向き直るとにやりと笑った。自分の作戦にこれだけの支持者がいると目が言っている。


 フィクスは仕方がないですね。という感じで苦笑し頷く。

「分かりました。あなたの作戦で行きましょう」

「林での陽動は私と、そこの男で行く。こういう事は、言いだした者がやるもんだろう」

 ジュレルディはそう言って、背後に立つ俺を親指で指差す。


「2人? いくらなんでも、それでは少な過ぎはしませんか?」

「いや、松明を点けるだけなら2人で十分。万一敵がこっちに来たら、逆に2人が10人でも同じ事だ。それだったら、それは別のところに廻した方が良い」


「なるほど」

 フィクスは感心したように頷いている。

「では、明日の準備をしたい。松明の用意は誰に頼めばいいんだ? それとも用意を含めて私達でした方が良いのか?」

「いえ。準備は私の部下がやります。後で紹介しますよ。必要な物は遠慮せずに言いつけて下さい。出来る限り用意させましょう」

「よろしく頼む」


 その後ジュレルディの案を元に、細かい兵の配置などが決められ軍議は終了した。参加者達はぞろぞろと部屋を後にし、俺達も続いて扉へと向かう。


 それにしてもジュレルディはいったいどうしたんだ? 渡者達が負けたら俺達の命も危ないのは分かるけど、まさか女を1人も逃がすな。なんて、ジュレルディらしくない。


 そりゃジュレルディは自分の容姿にコンプレックスがあるけど、他の美人って言われている女性を、あそこまで憎んでいるなんて……。まさかな。とにかく早くどこかで2人きりになって、ちゃんと話を聞かないと。


 だがそう思って扉をくぐろうとする俺達の前に、フィクスが立つ。

「すみません。あなたのお名前をお聞かせ願えませんか?」

 当然それは俺にじゃない。軍議では結局俺は空気だったのだ。


「ジュレルディだ」

「ジュレルディさん。少し私とお話しをさせて頂けませんか? お時間は取らせません」


「いいでしょう」

 はやく2人っきりになりたかったけど、今フィクスの誘いを断るのは難しいと判断したのか、ジュレルディはそう言って頷き、

「アルシオ。少し行って来る。私を待っていてくれ」

 と背を向けた。


 だが、最後俺を見つめたその視線は、女頭目としてのものではなかった。

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