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第29話:渡者の陣

 俺とジュレルディは、森に潜んでいた奴らに連れられ渡者達の陣に向かった。

「村から、2かんほど離れたところに集結している」

 待ち伏せ部隊を率いていた、短弓を持つ男がそう言っていた。


 1粁は大体1キロだが、まあ俺がそれくらいと思っているだけで本当はどうだか分からない。


 例えばアルシオの身長は1とう82りんという事になってて、他の奴らの身長や建物の感じから1メートル82センチと思っているが、本当はこの世界のすべての物が全部大きくて182メートルかも知れないし、全部小さくて30センチくらいかもしれない。


 まあそれはともかく、1とう70りんほどあるジュレルディと並び、その陣の門をくぐった。


 陣といっても申し訳程度に柵で取り囲んでいるだけで、建物は急ごしらえの掘っ立て小屋がいくつか立ち並ぶだけ。殆どの渡者は地面に雑魚寝のような状態だ。もっとも渡者が野宿する時なんていつもこんなもんだ。


 そこら中に魔法使い、射手、そして戦士に僧侶がうじゃうじゃ居る。これだけの渡者が集まっているのは始めて見た。大きな町でも一箇所にこれだけいるは見たこと無い。


 渡者の群れに囲まれ、震える手で俺の手を握り締めていたジュレルディも、とりあえずの危機は去ったと判断したんだろう、今はもう落ち着き、冷静な目で周囲を見渡している。もっとも、これからどうなるかは分からないが……。


「こんな辺鄙な村に結構集まってますね」

「ああ。祭りがあると、そこかしこから集まってきたんだろう。祭りを歓迎する渡者は多いからな」


 そう言うジュレルディの表情が冷たい。やっぱりジュレルディは祭りが嫌いみたいだ。なんでなんだろうっていうより、ジュレルディが祭りを歓迎する方が意外か。略奪するジュレルディなんて想像も出来ない。


「相手はここら辺の領主で数は7、80人って聞いてますけど、他から援軍とか無いんですか?」

「無いだろうな。それをしては今度は自分の領地が祭りの標的だ」

「国からの援軍とかは? 4百じゃ国の軍隊が来たら一溜まりも無いですよね?」

「それも多分無い。相手の規模が大きくなれば、祭りの規模も大きくなる。それだけの事だ。祭りは国すら飲み込むよ」

「なるほど……」


 まあ、一番初めの渡者達の蜂起も国を相手に勝っているしな。国といえど手出しは出来ないか。それだけに一度祭りが始まれば、渡者達はやりたい放題。祭りを歓迎する奴が多いのも無理はない。


 とにかくここから抜け出さないと。今みたいな会話だったら大丈夫だが、脱出しようなんて話は出来ない。中には大した事ない奴も居るだろうけど、周りは僅かな気配、物音すら見逃さない名うての渡者ばかりだ。小声の会話すら聞き逃さない。


「おい。そこの兄ちゃんと姉ちゃん。一緒に飲まねえか」

 見ると、数人の渡者が地面に座り込み、焚き火を囲んで酒を飲んでいた。それぞれ、傍に剣を置くおっさん、背に弓を掛けているおっさん。まあ、みんなおっさんだ。戦いの前に酒を飲むのはどうかと思うが、さすがに武器は手元に置いている。


「いや、結構だ。戦いの前には飲まない事にしている」

「なんだ。お堅い姉ちゃんだな。あんな奴ら屁でもねえって」

「とにかく結構だ」


 ジュレルディが酒によって顔を赤くするおっさん達の横を通り過ぎ、俺も後に続く。後ろからおっさんの罵倒が聞こえた。剣を傍に置いていたおっさんだ。

「へ。男に相手にされねえ女が気取ってんじゃねえよ。明日になりゃ貴族のお姫様を頂けるんだ。こっちこそお前えの相手なんかしてられっかよ!」


 ジュレルディへの侮辱に激しかけたけど、何とか踏みとどまった。ここで他の渡者と争いになれば、それこそ彼女の身が危ない。他の渡者と争っている場合じゃない。だがさらに進んでも同じ様な風景が続くだけで、どこに行っても渡者達がいる。


 ジュレルディも左右にちらちらと視線を送り、やっぱり2人で相談出来る場所を探しているみたいだ。いっそこのまま陣から抜け出したいが、どうやらそれも難しい。


 仲間意識が強すぎて逆に裏切りを許さないって事なのか、情報の漏洩を危惧しているのか、門は厳重に見張られている。仲間意識が強いって言っても依頼によっては渡者同士戦う事もあるんだが、それはそれってところか。


 でも、どうすれば良いんだ? このまま状況に流されては、明日の戦闘にも参加してしまう。俺にとっては色んな意味で避けたいところだ。ジュレルディと同じく略奪なんてしたくないってのもあるし、「何か」が言っていた「業」の問題もある。


 いや「業」を考えれば、ジュレルディにだって人を殺して欲しくない。俺が本当はアルシオじゃないって知られる訳にはいかないので「業」の説明は出来ないが、ジュレルディも戦わせないようにしないと。


「軍議だってよ! 出てえ奴は居ねえか!?」

 後ろの遠くの方から男の声が聞こえ、そこかしこで酒を飲んでいた渡者達の視線が集中する。


「軍議だ? んなもんどうでも良いだろ。こっちゃ敵の10倍も居るんだからよ。楽勝じゃねえか」

「いや、10倍は居ないだろ」

「え? そうなん?」

「3倍くらいじゃねえの?」

「3倍か。意外と少ねえな」

「いや、5倍は居るって聞いてるぞ」

「じゃあ楽勝か」


 なんか適当な奴らだな。まったく酔っ払いやがって、こんなんで勝てるのかね。渡者として森に潜んだり魔物と戦うのはお手の物でも、集団戦となると勝手が違うのかな。組合からの依頼じゃそんなのないし。


 もっともアルシオだって、集団戦の知識は無いし俺も無い。戦国物のゲームをしたくらいだし、そのマニュアルに書いてた内容くらいしか分からない。たしか、城に篭って守っている方が有利だとか、兵力は集中しろとか。まあ所詮ゲームなので、実戦には役に立たないか。


 万一負けて巻き添えになるのも嫌だが、戦闘に参加するのも避けたい。やっぱり隙を見つけて逃げるのが一番だ。


「アルシオ。軍議に出るぞ」

「え? 軍議なんかに出てどうするんです?」


「作戦を把握しておきたいんだ」

「なるほど」


 魔物との戦いなら、いつもはジュレルディが作戦を考えるが、さすがに今回はお手上げのはずと考えていたのだ。でも、確かに作戦を知ってる方が逃げやすいか。


 俺達は踵を返し、軍議だと叫ぶ男に近づいていった。

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