表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/66

第27話:祭りの始まり

 俺達は今、拠点としている町、アルメから北に遠く離れた村の宿屋にいた。近隣の魔物退治の依頼が尽きてきたのだ。


「まったくねえって訳じゃないんだが、さすがにあんたらばっかりに任せる訳にもいかないんでね」


 組合の親父はそう言ったらしいけど、以前は、出来るだけうちに任せたいみたいな事言ってなかったか? と思わないでもない。もっともジュレルディは、

「まあ、そこは程度というものがあるのだろう」

 と不満は無いみたいだ。


 それに今回検分を免除されたのが嬉しいらしい。あまりにも町から離れてて、ベルトットを連れて行くのも大変だろうからって事だが、普通いくら大変でもそんな事はない。本来、どんなに遠かろうが、魔物を退治してから一旦組合に戻り、そして検分役を連れて再度依頼場所に向かわなくてはならない。俺達のように検分役を同行させるのだって特例なのだ。


 それを免除されれば、やろうと思えば不正のし放題。極端な話魔物を退治すらせず、退治してきましたって言っても報酬は貰える。当然魔物は残ったままだが、それは退治した後で新たに棲みついた、と言い張れる。それだけに仕事にプライドを持っているジュレルディが、信頼されたと喜ぶのも無理は無いのだ。


 遠方の面倒な仕事を任された後で検分を免除してくれるっていうのは、ちょっと飴と鞭みたいな感じもするけど、まあそれは穿って見すぎかもな。ここで俺達が不正でもしようものなら、組合の評判が落ちるし、親父だって困るはずだ。確かに信頼している相手にしか出来ない事なのだ。


 こうして遠く離れた村まで遠征した俺達は、無事魔物退治も終了し、近くの村の宿でたむろしていた。


「やっぱり検分役が居ないと戦いやすくて良いですよね」

「それは否定しないが、それだけに魔物を退治そこなってないかと、気をつけないとな」

「でも、その為に退治した翌日にも魔物の巣に行って散々探して、一匹も居ない事を確認したじゃないですか」

「ああ」

 ジュレルディは微笑み頷いている。満足のいく仕事が出来たと嬉しいみたいだ。


「しかし、せっかく魔物を退治しても、すぐに次のが棲みつく事もある。組合への報告も早い方がいいだろう。今日はこの村に宿をとるにしても、帰りは少し急ごうか」


「了解です」

「ま、それで良いんじゃねぇか?」

「はい。分かりました」


 さて、じゃあ次は今晩何を食うかだな。こんな辺鄙なところじゃろくな物も無いだろうけど――。

「祭りじゃーー!!」

 突然男が叫び、飛び込んできた。宿の今には俺達以外のも数組の渡者がいて、一斉に男に視線を向ける。


「祭りだって!?」

「去年の祭りにゃ参加出来なかったからな。こりゃあついてるぜ!」

「ああ。まったくだ。まさかこんなところで祭りがあるなんてよ」


「で、何で祭りなんだよ?」

「それがな――」

 渡者達は、祭りと聞きはしゃいでる。男を取り囲み祭りの話に夢中だ。


「……祭り、か」

 その低い呟きに目を向けると、ジュレルディの険しい顔があった。それは、祭りを歓迎しているようには見えなかった。



 その後ジュレルディが代表し、他の者達に混じって男から詳しく話を聞いた。そして宿の一室に集まる。


「領主の息子が、盗賊と間違えて渡者を殺してしまった。って事ですか?」

「その様だ。完全に誤解なのだが、生き残った奴が組合に訴えた」

「でも、間違いなんだったら、普通は領主側が謝罪して賠償金を支払って解決するもんですよね?」

「まあ、そんなところだろな」

「ですよね」

 俺の言葉にカシェードとユイファも頷いたが、ジュレルディは首を振った。


「組合も生き残った奴をそう宥めたんだが、そいつは収まりがつかなかった。方々で渡者達に訴えたんだ。お前の仲間が殺されて、金をくれるから許してやれと言われて納得できるのか、とな。確かにそう言われれば、私だって……かける言葉はない。次に男が組合に訪れた時には、数十人の賛同者を連れていた。それじゃ組合も無下には出来ない」


「それで祭り……ですか?」

「そうだ」

 硬い表情でジュレルディが頷く。


 祭り。正しい名称は、渡者義勇軍、あるいは、渡者義勇軍動議の発令、だ。国や領主などが渡者の権利を脅かした時、渡者達は一致団結し抵抗する。その行動をさす。以前は、義勇軍とか動議とか呼ばれていたが、今では祭り、と呼ばれる事が多い。


 その発生は、昔、渡者への依頼の仲介者が多くなり、それが連携し組合と呼ばれ始めた頃にさかのぼる。


 依頼が一部の者に集中し、多くの渡者が餓えて野垂れ死にするか、野盗へと落ちぶれるかしてたのが、組合の出現で仕事が広く渡者達に行き渡り、依頼も増えていった。地道に依頼をこなし信頼を得ていった成果だ。だがそのやっとの思いで実をつけた果実を、横から掠め取ろうとした者がいたのだ。


 いや、正確には者ではない。国だ。それだけの需要があるなら、平時には無駄飯食いでしかない国軍の兵士達にその依頼をさせ、国の財源にしようとした王国があったのだ。魔物退治の依頼などは訓練も兼ねられ一石二鳥でもある。


 だが渡者や組合にとっては死活問題。苦労して開拓した生活の糧を奪われては野たれ死ぬしかない。その政策を撤回して欲しいと訴えたが、王国にとっては町々を放浪する渡者達など、そもそも国民ですらない。


「どうしてお前達に遠慮などせねばならんのか。我が王室は、王国の民にとって良いと考える政策を取るのみ。お主等はお主らで、別の場所で好きに生きればよいではないか」


 王国の言い分も一理あるといえば一理あるが、その王国内を拠点としていた組合や渡者達にとっては、いきなり他の国に活動拠点を移せといわれても、はい、そうですか、とは行かない。


 いや、それよりも重大なのは、この王国の政策が成功すれば、他国もそれに倣う可能性がある。そうなれば、大陸全土で、渡者達の生きるすべはなくなる。


「今日を許せば、我々の明日がなくなるのだ!」

「渡者達の権利を守る為、皆立ち上がれ!」

 この激に、大陸中から渡者達が集まった。


 だが、王国は渡者達などと侮り、歯牙にもかけない。

「ちょうど獣を狩るのにも飽きていた所だ。奴らを狩るのも暇つぶしにちょうど良い」

 そう嘲笑し、王自ら国軍4千を率いて出陣した。


 渡者達の集結地点に先回りした王国軍は、その日は夜営し敵勢の到着を待った。だが翌朝、朝霧が晴れた時、驚くべき光景を目の当たりにしたのだった。


 渡者達は、森を掻き分け、地を這い、魔物や獣を退治し生活している。気配を消す技能は皆長けている。その技術を最大限に発揮し、王国軍に気付かれぬまま彼らを包囲していたのだ。しかし王国軍が驚愕したのは、それよりも、数、だった。それは王国軍の優に10倍はあろうかという渡者達の群れだった。


 みすぼらしい防具に、統一されぬ武器。短槍を持つ者、長弓や斧を持つ者が混在して並び、集団戦の訓練を受けた王国軍から見れば、陣形と呼ぶのも憚られる出鱈目な布陣。だが10倍という数の津波の前には、兵学という言葉もむなしい。


 しかも包囲を突破しようと遮二無二突撃を繰り返す王国軍も、隊列が維持できている間は善戦したが、一旦戦線が崩壊すると脆かった。乱戦で個人戦闘となれば、集団戦の訓練は受けているが実戦経験の少ない兵士達より、日々魔物退治に明け暮れる渡者達の方が強かったのだ。


 王国軍は包囲を突破できず降服し、王は命乞いをした。一国の国王が、定まった住処すら持たぬ渡者達に跪いたのだ。地面に這い蹲る王を前に、数万の渡者達は雄叫びを上げ、地を震わさんばかりだったという。


 王は、政策を撤回する事を条件に命は助けられた。もっとも、戦死しておけば名誉を守れた。渡者に跪いた王は、国民にそう蔑まされ、拭いきれない汚名を着る事になった。王族や貴族といえば同一の名をつける時、二世、三世と続くが、王室では彼に続く名をつける者は、その後1人もいなかったという。


 これが後に、第一回目の渡者義勇軍といわれる事となった。一回目というからには、当然、第二回目、三回目と続く。それらも渡者達の権利が侵された時に発動された。相手は様々だが、第一回目の教訓から、各国渡者と衝突するような政策は避けているので、国と戦う事は以後は無く、精々地方領主が最大の相手だ。


 そして国軍すら敵しえぬ義勇軍に、一領主が歯が立つわけがない。戦いは常に一方的だ。そしてこの時ばかりは渡者達による、略奪、乱暴、狼藉、それらはお咎め無し。組合に登録される経歴も、この時の行いで汚れる事はない。落とした城で渡者達はやりたい放題。だから最近ではこう呼ばれるのだ。祭り。


「しかし、最近祭り、多くねえか?」

「そうだな。以前は数年に一度あれば多い方だったが……。最近では年に数回ある気がするよ。その分、規模は小さいが」

「今回も規模は小さそうですね」

「ああ。領主の兵士は精々7、80人ってところらしい。渡者側は3、4百と聞いている」

「確かに昔は、一桁違ってたな」

「カシェードは祭りに参加した事があるのか?」

「ああ。昔にな。えれえ昔の事だ」

 カシェードはそう言い苦笑している。


「とにかく、祭りに参加するかどうか。お前達の意見を聞きたい。どうだ?」


 略奪に乱暴、狼藉か……。祭りに参加しても、自分はそれをしなかったら良いってもんでもないよな。それに領主勢と戦うとなると「何か」が言っていた「業」の問題もある。ジュレルディだってさっきの様子だと、参加したくないっぽい。


「俺は参加したくないです」

「私もです」

 俺達の返答にジュレルディが微笑む。


「みんなありがとう。そう言ってくれると信じていた。しかし渡者達の団結は強い。参加しないと言えば、裏切り者だと、こちらに矛先が向く可能性もある。夜のうちに村を出た方が良さそうだな」


「あれ? カシェードの意見は聞かなくて良いんですか?」

「カシェードは良いんだ。カシェードの意見は分かっている」

「あ、御2人はお付き合いが長いですからね」


 ふむ、どうやらカシェードも反対って事か。さっきもなんだが意味ありげだったし、その、えれえ昔っていうのに何かあったのかな?


「見つからないように4人固まるより2手に分かれよう。カシェードとユイファ。私とアルシオだ」

「えー。私ジュレルディさんとが良いです」

「なんだよ。俺とじゃ嫌ってのかよ」

「そういう訳じゃないですけど……。ジュレルディさんとの方が安心じゃないですか」

「それって、よけい傷つくぞ」

 ユイファの言い分に、カシェードが不機嫌そうに睨み、ジュレルディはその様子に苦笑している。


「遠距離の攻撃できるカシェードと私は分かれた方が良いだろう。それに万一見つかった時、女2人だと危ない。こっちの言い分も聞かず、襲われる事も考えられる。私は大丈夫と思うが……」

「はい……。分かりました」


 ジュレルディの説明にユイファもしぶしぶと頷く。ジュレルディが俺と組むと言ったのはそういう意味なのかと、ちょっと落胆したけど、まあ、この人がこんな時に私情を挟む訳ないか。


 こうして俺達は、祭りに参加しない為村を脱出する事にしたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ