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第24話:川辺の魔物

「おい。起きろ!」

 朝、カシェードの怒鳴り声で目を覚ました。


 眠り足りない身体を無理やり起こしベッドを降りる。昨日は、脳裏をよぎった考えに朝方まで眠れなかったのだ。


 朝食をとる為、夕食の時と同じ部屋に集まった。テーブルの上には昨日と同じく、4人前の食事が置かれ、俺はジュレルディの正面に座った。だけどジュレルディとは目を合わせ難くつい目を伏せてしまった。


 俺が本当はアルシオじゃないと知れば、彼女はどう思うだろう。悲しみ、茫然自失するだろうか。そして、激昂し俺を殺そうとするかもしれない。


 でも、それじゃいけないんだ。もし知られれば、

「ばれては仕方が無い。悪いが死んでもらうぞ」

 なんて、子供の頃見た特撮ヒーロー番組に出てくる悪役のような台詞を吐き、ジュレルディに剣を向けなくてはならない。そうしないと彼女の「業」が悪くなる。


 怒りで俺を殺すんじゃなく、俺に殺されそうになったから仕方なく俺を殺した。真実を知った彼女が呆然とし、俺への殺意が芽生える前に俺から仕掛ける。そうじゃなきゃ行けないんだ。


 考えに没頭し、味も分からないまま朝食を機械的に口に運んでいるとカシェードの声が聞こえ現実に戻る。ジュレルディに今日の段取りを確認しているようだ。昨日も確認した内容だが、魔物との戦いは命がけ。何度確認してもやり過ぎって事はない。


「手順は昨日の打ち合わせ通りでいいんだな?」

「ああ。そうだ。昼には向こうに着いて、雑魚を殲滅していき最後にボスだ」


「矢は背負えるだけ背負ってけば良いのか?」

「いや、動きに支障がねえ程度で構わねえ。土竜どりゅう相手にゃ接近戦が不味いってんで後に下がるのに、矢を背負いすぎて動きが鈍くなってやられちゃ話になんねえからな」

「分かった」


「じゃあ、そろそろ行くか」

 と、俺達は椅子から立ち上がったが、視線を感じ、見るとジュレルディが目で話があると合図を送ってきている。わざとモタモタとし、ジュレルディと2人部屋に残った。


「どうしたんです?」

「いや、お前の方こそ、今朝は様子がおかしかったじゃないか。どうしたんだ?」


 確かに、目を逸らしたりしてちょっとおかしかったかも。でも、その後は普通に喋っていたはずなんだが。


「久々のボスとの戦いですから、ちょっと……。それより、ジュレルディってそういうの良く気が付きますよね」

「それは……あ、当たり前だ。頭目としてみんなの事は見ている。別に、お前ばかり見ている訳じゃない」

 だが、そう言ったジュレルディの顔は赤い。いや、首の方まで、違う、なんだか手まで赤いぞ。いくら元の肌が白いからって人ってここまで赤くなるものなんだ。髪も銀髪だし、瞳だってアメジストだし、身体の色素が薄いのかも。


「おーい。ジュレルディ! アルシオ! 何やってんだ!?」

 俺達が遅いと、表でカシェードが怒鳴っている。

「ああ。分かった。すぐ行く」


 赤い顔のまま、声だけ頭目モードの低い凛とした声。思わず笑ってしないそうになるのを顔を背け隠したが、彼女に見つかり睨まれる。


 その後、手近なところにあった葡萄酒の水割りを一気に飲み干し気を落ち着けた彼女は、肌の白さを取り戻し部屋を出て、俺も後に続く。今飲んだ水割りは俺の分でしたよ、と言うと、また彼女の肌が赤くなり部屋から出れなくなるので言わないでおいた。


 村を出た俺達は川沿いに上流へと向った。川の中腹まで進んだ頃、そこまで漠然と歩いていたのを一応警戒し、先頭を戦士の俺。次にカシェードとジュレルディ。最後にユイファという戦闘時の隊列に並ぶ。


 今回はカシェードとジュレルディが主に戦うので本番ではこの2人が先頭に立つんだが、今戦いになるとすれば不意に鉢合わせた遭遇戦だ。だったら先頭は俺の方がいい。


 太陽はどんどんと昇り昼を過ぎると、皆歩きながら干肉を齧り腹を満たした。飲み物は、一度沸かした水を皮の水筒に入れてある。それも歩きながら飲む。


 もっともあくまで念の為の配慮で、結局戦う事なく魔物が棲む森の前に辿り着く。魔物が棲みつくというだけあって大きな森だ。


「みんな。ここから先は戦闘態勢で進む。油断するな」


「はい」

「分かりました」

「了解」


 右前を、カシェードが右斜めに身体を向け弓を構えながら進み、左前はジュレルディが左斜めに半身になって杖を前に突き出し進んでいる。要するにハの字型で左右の視界を広く取って森の中に入って行く。俺とユイファは2人の後について、後ろに注意を向けながら進んだ。


 突然、右前方の茂みから草の鳴る音が聞こえ、瞬間、ヒュっと風を切る音が鳴る。後ろを警戒していた俺が前を向いた時には、ワニの様に尖った口と短い手足、長い尻尾を持ち二本足で立つ土竜の雑魚が、額を矢で貫かれ倒れるところだった。


 その手際のよさにカシェードに視線を向けると、すでに次の矢を弓弦にかけ構えている。結構すげーな。と思ったが、アルシオだって技は違うが技量という意味では引けをとらないレベルだ。もちろんアルシオの記憶での話だけど。


 ジュレルディとカシェードの2人は、魔物が視界に入った瞬間それぞれ魔法と矢を放つ。短い断末魔を発し骸となった魔物は既に30匹は超えているだろう。だが、森の中心にはまだ遠い。以前の屋敷内での戦いより、雑魚の数は多そうだ。


 俺とユイファも後ろに注意しながら進み、魔物の姿を発見すると前を行く2人に声をかける。ユイファが「後ろ!」と叫ぶと、ジュレルディは振り向きざま魔法を放ち、魔法が魔物に当たる頃にはまた前を向いている。


 俺が叫んだときはカシェードが矢を放つ。俺はカシェードが背負う矢筒の矢が少なくなると、邪魔にならないように気をつけながら矢筒に矢を補充した。


 うむ。順調だな。俺達はジュレルディの作戦通り渦巻き状に森を進んでいく。森は綺麗な円形をしている訳じゃないが、俺達は出来るだけ森の形にそって進み、森を流れる川を何度も渡って中心へと向かった。でもちょっと気がかりな事もある。


「建物に棲みつく違って、仕切りの無い森じゃ魔物は自由に動くし、さすがに魔物を1匹残らず倒すって難しいですよね」


「そうだな。ボスを倒した後にもう一度くまなく森を探索し、倒し損ねた魔物を炙り出す必要があるだろうな。場合に――

 バシュ!

 場合によっては、明日も森に来る必要があるかもしれない」

 俺の問いかけに答えながら、ジュレルディは視界に入った土竜に魔法を放って葬った。


「なるほど。分かりました」

 まあ俺が心配する様な事はジュレルディが考えているみたいだ。やっぱりちゃんとしている時のこの人は凄いよな。


「そろそろ魔物のボスが現れてもおかしくない。警戒を怠るな」


 森の中心部に近づくとジュレルディが言った。その言葉にみな無言で頷く。彼女にしても指示と言うより、ボスの出現ポイントに近づいた合図の意味で発した言葉なのだ。さらに進むと川の傍にやって来た。


「土竜のボスは、水のあるところに居る場合が多い。気を付けろ」


 ここからが正念場と、ジュレルディの声がいつもの頭目モードよりさらに低く響く。


 土の竜とは書くが生き物である以上は水を飲む。身体の大きい魔物のボスならなおさらだ。その為川辺からあまり離れる事は無いらしい。


 俺達はここら辺りに居るはずだ。と当たりをつけた川辺へと進み、その間もジュレルディとカシェードは土竜を倒していく。だけどいっこうにボスの姿が見えない。結局川辺に居た魔物をすべて倒しつくしてしまった。


「あれ? ここにはボスは居ないみたいですね」


 ユイファは周囲を見渡し、魔物がすべて倒されているのを確認すると川辺へと駆け出した。そこにジュレルディの細い腕が後ろから伸びローブの襟首を掴む。


「げほげほっ。ジュレルディさん酷いです!」

 ローブで首が絞まりユイファが激しく咳き込んだ。その乱暴な行動に、彼女を尊敬するユイファにしては珍しく非難の目を向けている。だがジュレルディはユイファには目もくれない。


「迂闊過ぎだ」

 短く呟くと杖を構える。杖が光る。精神を集中し魔力を溜めているのだ。杖はその明るさは増していく。


 光が放たれた。一直線に伸びるその光の矢は――川辺にある半分水に浸かった岩に当たった。っておいおい。何の意味があるんだ? と、考え終わる前に、水面に突然巨大な水柱が上がる。


「ギィィーー!!」

 叫び声と共に、土竜のボスが姿を現した。反射的に俺は剣を構え、ユイファは慌ててジュレルディの後ろに下がる。だがボスは襲い掛かって来ようとはせず、川に半身を沈めたまま頭を抱え、なにやら苦しんでいる。


「私は魔力の集中に入る。カシェード、ボスを引き付けて。ユイファは治癒魔法の準備を。アルシオは2人の援護だ」


 どういう状況だ? だが、俺が戸惑っている間に、ジュレルディはさも当然といったふうに指示を出し、後方に下がった。


 水面に目をやると小物の土竜が数匹浮いている。さっき倒した奴が川に落ちたのか?

 いや違う。血を流していないところを見ると、どうやら気絶しているようだ。


 そうか! あれだ。昔テレビで見た、川に浸かった岩に大きな石をぶつけて、その衝撃で水中にいる魚を気絶させて捕まえるってやつだ。


 おお。ジュレルディやっぱりすげえ! ボスが水中にいるのを見越して岩に向かって魔法を撃ったのか。さすがプロフェッショナルだ。


 よし! 俺も、自分の役目を果たさないと。


 まず状況確認だ。雑魚は全部気絶しているし、ボスはカシェードが逃げながら矢を放って引き付けている。俺の役目はユイファとカシェードの援護だが、この状況でカシェードを追いかけても仕方が無い。ユイファの傍に居るべきだろうな。


 だがユイファはユイファで役目がある。カシェードがボスに攻撃されたら、治癒魔法で治すのだ。


 ユイファはボスに近寄らないように気をつけながらも、カシェードともある程度近い位置を保っている。俺はユイファの傍に駆け寄り、万一雑魚が残っていた場合に備える。


 ちらっとジュレルディを見ると魔力を溜めている途中で、もう少しかかりそうだ。


 ユイファが不意に駆け出した。逃げながら戦うカシェードと距離が開きすぎ、近寄るつもりらしい。ユイファを護衛すべく俺も後に続く。


「きゃあ!」

 突然ユイファが叫び転倒した。石ころだらけの川辺に足を取られたのだ。


「なにやってんだよ」


 怒鳴りながらユイファに駆け寄る。だがユイファの甲高い悲鳴は、ボスの注意を引くには十分だった。彼女へと、感情の見えない爬虫類の瞳を向けている。


 とはいえユイファとボスとの間には十分な距離がある。俺は余裕を持ってユイファを助け起せる――。

 だがその時、ボスはくるりと身体を回転させ、長い尻尾で川辺の石を打ち出した。


「ぐわぁ!」

 散弾のような石の雨が俺を襲った。1つが右手に直撃、剣を取り落とし思わず跪く。

 くそ! 指の2、3本いかれたか!

 ボスに視線を向けると、既にユイファへと向き直り突進している。


「こっちだ化け物!」

 カシェードが射かけ、ボスの背に数本の矢が突き刺さる。だが、もはや狙いをユイファに定めたボスは止まらない。短い足を動かし、尾を左右に振りバランスを取りながら駆けている。


「あ……ぁ……」

 ユイファは恐怖で足が竦み動けないでいる。


 そして……そういう俺もまた動けないでいた。さっきまでこっちのペースで戦いが進み、なりをひそめていた恐怖が、この危機に俺の心を蝕んだのだ。


 うッ動けーー!

「があぁーーー!」

 戦う意思を呼び起こす為雄叫びを上げたが、まだ身体が動かない。

 くそっ! どうしてだ!


 この間もボスはユイファに向かって突進を続ける。

「ギィギィーー!」

 咆哮し身体を仰け反らせ、鋭い牙が並ぶ大きな口を開けた。その凶悪な口腔へとユイファを飲み込もうと振り下ろす。


「きゃあぁーー……」

 ユイファは悲鳴をあげ、あげ終わる前に気を失い崩れ落ちた。不味い。このままじゃユイファが食われる! ここで戦えなきゃ、どうしようも無いだろ!!


「あぁぁーーーあっ!」

 再度雄叫びあげ、遂に俺の身体が動き出す。地を這うように駆け抜け、左手を精一杯伸ばす、今まさに飲み込まれんとしていたユイファのローブを掴み一気に引っ張る。


 間一髪ユイファを抱き寄せ、地面を転がりボスから逃げ。その回転の遠心力を利用してユイファを遠くに投げ捨てた。


 数メートル離れた地面でバウンドし、打撲と擦り傷だらけになっただろう彼女に心の中で謝りながら立ち上がる。刹那、ボスの身体が回転し、長い尻尾が俺の左脚を襲った。


 ごっ!

「ぐぅ!」


 身体が半回転し左肩から地面に叩き付けられる。激痛に声をあげる事すら出来ない。全神経が左肩に集中したような痛みに、その先の感覚が無い。


 尾を振り背を向けていたボスは、倒れている俺にゆっくりと向き直り、首を傾げるような動作をした。感情のまったく見えないその目で獲物の様子を探っている。


 萎えそうになる心を、その視線を睨み返す事で奮い立たせる。


 左肩を強打した左腕は……動かないか。片手しか使えない為、再度地面を転がりその反動で上体を起して立ち上がろうとした。だが、膝が立たず崩れ落ちた。


 脚に視線を向けると、ボスの尻尾で払われた左足はあらぬ方向に曲がっていた。左肩のダメージがあまりにも大きく、脳が脚からの痛みを遮断していたのだ。


 左肩に手をやると、いつもの形じゃない気がした。必死ではって逃げたが、片手では亀のような、いやミミズのような歩みだ。土竜のボスのノロノロとした動きにすら追いつかれる。


 おい……。これって死ぬんじゃないのか? 無理だろこれは。


 振り返ると、ボスの無感動な瞳があった。

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