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第22話:全滅の危機

 俺達が町を出発してから3日目。

 魔物が棲み付いているという、森から流れる川の下流にある村に辿り着いた。


「後は、ここから上流に向かって進めば到着ですね」

「ああ。でも今日はもうこの村で休もう。組合から連絡が入っていて、宿は村で用意されているはずだ」

「へー。それは良いですねー」

「村からの依頼で来たんだ、これぐらいは普通じゃねえか?」


 村の中に入ってさらに進むと、川の水を汲む多くの人の姿が見える。

「やっぱり、村にとって川の水は重要なようですね」

「そうだな。それだけに上流に魔物が居るのが気にかかるんだろう」


 ジュレルディの言葉に、今回の依頼に考えるところがあるらしいユイファが複雑な顔をしている。分からないでもないけど、釈然としないものもある。そんな感じだ。


「村長の家ってどこら辺なんでしょうね?」

「村の中心に大きな家を建て、代々村長に選ばれた者がそこに住む場合もあるし、村長が変わってもそのまま自分の家に住み続ける場合もある。村の者に聞いてみないと、ちょっと分からないな」


「そうですね。じゃあ村人に聞いてみますか」

「そうだな」


 そう言って歩いていると、小さい子供を背負っている小太りのおばさんを見つけた。手には洗濯物が入った籠を持っていて、どうやら洗濯の帰りらしい。この寸胴のおばさんが、この世界ではジュレルディより美人って事になるのがとても不思議だ。


 その美人のおばさんに、不美人のジュレルディが声をかけた。

「すみません。村長の家はどこか教えて頂けませんか?」

「あら? あなた達はなんなの?」


「上流にある、森の魔物を退治しに来た者です」

「そうなの。それは良かったわ。川の水に何か変な物が混じっていたらと思うと、この子が心配で心配で」


 心配、心配と繰り返し、わざわざ背負った子供を見せてくるおばさんを安心させる為、ジュレルディは優しく微笑んだ。


「大丈夫です。安心してください。魔物はすぐに退治します」

「お願いするわね。でもあなたも女なんだったら渡者なんてやってないで、ちゃんと結婚して子供を生まないと駄目よ。女は子供を産んで一人前なんだから」


 思いも寄らないおばさんの言葉にさすがのジュレルディも面食らっている。っていうかなんなんだこのおばさんは。初対面の女性に失礼だな。大体女性の渡者は、大抵が嫁の貰い手がないと村から出された者が大半だ。そうしたくても出来ないから渡者なのだ。


「あ。いえ、私はそういう事には……」


「なに言ってるの! 女は子供を生まなくっちゃ!」

「とにかく村長の家を……」


「あら。でも、あなたその見た目じゃ渡者になるのも仕方ないわね」

「……」


 ジュレルディは急におばさんから背を向け、こっちに戻って来る。分かっている事とはいえ、改めて言われるダメージにうな垂れ、俺の傍を通り過ぎる時、力ない呟きが聞こえた。


「……すまん。代わってくれ」

「……分かりました」


 ジュレルディに代わって、今度は俺がおばさんの前に進み出る。


「えーと。それで村長の家はどこにあるんですか?」

「あら? あなた達村長に用があるの?」


 さっきからそう言ってるだろ! このおばさんはさっきから何を聞いてたんだ? でもここで怒鳴る訳には行かない。ぐっと堪えた。


「あ、はい。それで村長の家は……」

「じゃあ、井戸水の配給をうちだけでもいいから、もっと増やすように言ってちょうだい」


「井戸水ですか?」

「そうよ。もし魔物が川の水に変な物を流しちゃ危ないからって、食事を作る分の水は井戸水を配給する事になってるんだけど、うちには小さい子供が居るんだから、もっと配給を増やして貰わないと困るのよ!」


 おばさんは口から泡を飛ばしがなり立てている。でも、それだったら自分の家だけじゃなくて、小さい子供がいる家全部だろう。どこまで自己中心的なんだ。まあとにかく今は村長の家の場所だ。我慢、我慢。


「はいはい。分かりました。で、村長の家は?」

「だいたい。子供がいる家と居ない家で配給が同じなんて何を考えているのかしら。子供は大人と違って弱いのよ!」


「そうですね。それで村長の家は……」

「この前だってそうなのよ。私には子供が居るのにみんなと同じ様に畑で働けって言うのよ! そりゃ隣のガスパーさんのところも子供が居るけど、うちのキラキラちゃんの方が小さいんだから。私の方を仕事を少なくするのは当然よね?」


 キラキラって名前なのか? アルシオの記憶でもあんまり聞いた事がない名前だけど、この村では普通なのかも知れないな。とにかく話を合わせていい加減村長の家を聞きださないと。

「分かりました。村長に言っておきます。なので村長の家を……」


「それだけじゃないのよ!」

 まだあるのかよ!


「あの時だってそうよ! キラキラちゃんが――」

 その後さらにおばさんの話を聞き続けたが、いっこうに村長の家を聞き出せない。駄目だ! ギブアップ! とてもじゃないが聞いて入られない。


 俺はおばさんから背を向け、みんなの方に歩いていった。そしてユイファの傍を通り過ぎる。

「……後は頼んだ」

「……はい」


 俺に代わって、今度はユイファがおばさんに近寄った。

「こんにちは。村長さんのお家の場所を聞きたいんですが」


「あら。小さい子ね」

「あ。はい」


「あなたの歳じゃ子供はまだ先ね」

 いや、背は低いけどユイファは19歳だから子供を産めない年齢でもないと思うんだが、ユイファもどう返答してよいのか困っているみたいだ。


「はあ……。そうですね……。それで……」

「でも将来必要だろうから、練習の為に私のキラキラちゃんを抱かせて上げるわ」


「いいです。いいです。それより……」

「何を言ってるのよ。せっかくキラキラちゃんを抱かせて上げるって言ってるのに!」


「あ、はい。それじゃ……」

「抱きたいんなら初めからそう言えば良いのよ。はい。キラキラちゃんを落としちゃ駄目よ。しっかり抱いて!」


 ユイファは仕方なくキラキラちゃんを抱いているが、その傍でおばさんはしきりに「キラキラちゃんは可愛いでしょ」とユイファに話しかけ、ユイファは仕方なく「可愛いですね」と返している。


 しかもどうやら話は「キラキラちゃん育児日記」になっているらしく、村長の家どころじゃない。


 くそ! このままでは魔物と戦う前に仲間が全滅してしまう。まさかこんなところに強敵が潜んでいるとは思わぬ伏兵だった。ジュレルディは……駄目だ。まだ立ち直っていない。何やら遠くの方を眺めてる。


「どけ……」

「あっ」


 カシェードは俺を押しのけると、無言でおばさんのところまでスタスタと歩いていった。大丈夫なのか? お前がやられたらもう残っていないんだぞ。


 カシェードがおばさんに近寄っていくと、おばさんは早速カシェードに視線を向け、露骨に顔をしかめる。

「あら。むさい人ね。もっとおしゃれをしないと、私の様な素敵な奥さんと結婚――」


「つべこべ言わず、村長の家がどこにあるかだけ答えりゃいいんだよ!!」




 その後、俺達は村長の家へ向かっていた。


「お前ら、あんなんに何てこずってんだよ」

 先頭に立って進むカシェードの呆れた口調に、俺達はうな垂れながら付いていき弁解をする。


「すまない。しかし依頼の村の住人と争う訳には行かないだろ……」

「まさか、あんなに話が通じないとは……」

「すみません……」


「まったく。たのむぜ、おい」


 こうして俺達は、やっとの事で村長の家へとたどり着いたが、魔物と戦う前にHPの半分以上を削られた感じだった。

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