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第1話:何か

 ――気が付くと暗闇の中に居た。


「死んだのか? ん? どうして口に出る? あれ、喋っているつもりはないぞ?」


 ここは精神世界って奴でね。考えが、そのまま言葉になるんだよ。


「うわ!」

 突然頭の中に響いた声に驚いた。声はするけど、視界は闇に包まれたままだ。


「精神世界だって!? って言うかお前は誰で俺はどうなってんだ?」


 僕? 僕はまあ「何か」だよ。僕を神様とか閻魔様とか呼ぶ人もいるけどね。そして分かっていると思うけど、君は死んだんだよ。


「そうか。やっぱり俺は死んだのか……。覚悟が出来ていたって訳じゃないけど、やっぱりそうなんだよな……。で、ここってどこなんだ?」


 ここは生まれ変わりを管理するところさ。


「生まれ変わりだって? そんなのある訳無いだろ!」


 どうしてそう思うの?


「どうして……。そりゃ死んだ後の世界なんて誰も見たことが……。って俺は今、その死後の世界を見ているのか? まあ、真っ暗だから、見ているっていうのも変かも知れないが」


 その通り。今見てるんなら、信じるしかないね。


「でっでも、じゃあ生まれ変わりって言うのも本当にあるのか?」


 そうだよ。さっきもそう言ったじゃないか。


「でも、そんな非科学的な……いや、今さら非科学的も何も無いか」


 何を言ってるんだい。科学的に考えればむしろ前世はあって当たり前なんだよ。


「え? どういう事だ?」


 結果には必ず原因がある。これが科学の基礎だよ。君もそれくらいは知っているだろ?


「うーん。学者が主人公のテレビドラマのオープニングか何かで言ってたような気が……」


 ここで質問、君、高崎コウサキ 勇雄ユウジ上城カミシロ 優佳ユウカはどうしてつり合ってない? どうして容姿や才能に差がある?


「なんでお前が優佳を知ってんだよ」


 それこそ今さらだよ。そんな事気にしないでよ。生まれ変わりを管理している者が、君の人生を把握していないわけ無いだろ。


「そっそうか。しかしどうしてって……。そんなの偶然だろ?」


 偶然? そんな非科学的な。


「じゃ……運命?」


 ふー。まったく君は。運命のどこが科学的なんだよ。


「だったら何で差が出来るんだよ」


 決まっているさ。前世の行いによる業だよ。


「前世だって!」


 そうさ。前世の行いという原因があって、次の人生の容姿や才能、さらに言えば親が金持ちか貧乏かっていう境遇の差が出来るんだよ。そうじゃなくてどうして生まれた時にみんな平等じゃないんだい? 生まれた時に差があるんだったら、生まれる前にその原因がある。当たり前の話だろ?


 もちろん、それは生まれた時点ってだけで、その後は与えられた境遇の中でどう生きるかさ。うまく生きれば、次の人生で良い境遇で生まれ変われる。


「うーん。理屈は分からなくないけど……。でも、本当なのか?」


「だからそう言っているじゃないか」


「そうか……。じゃっじゃあ。俺の来世はどうなるんだ?」


 最悪だね。君の来世はかなりひどくなる。


「どうしてなんだよ! 俺が何か悪い事したってのかよ!」


 だって君、わざと死んだでしょ? 生き物にとってわざと死ぬって言うのは大罪なんだよ。


「は? わざとってなんだよ。佐上って奴に殺されたんだろうが!」


 その佐上は、優佳という女の子を学校の旧校舎に呼び出し、交際を申し込んで断られたのを逆恨みして、ネットで作り方を調べて作った毒ガスで彼女を殺そうとした。そうだね?


「そうだ。それで万一の為にと隠れていた俺が飛び出して、奴を殴って奴のガスマスクを奪って優佳に付けてやったんじゃないか。あ、そういえば佐上の野郎。逃げやがって! 優佳が助かっているはずだから、きっと警察に捕まるとは思うけど。俺が死んで奴が生きているなんて……くそ!」


 それは置いておいて話を戻すけど、君はそれで彼女の身代わりに死んでしまったんだね。


「置いておかれるのも嫌だが……。まあ、身代わりで死んだ事になるかな」


 そうしたら死ぬって分かってて?


「あの場合はしょうがないだろ」


 死ぬのが分かってて自分の意志でやったら、それはわざとだよ。わざと死ぬのは、生物として一番やっちゃいけない罪だ。来世への判定は当然悪くなる。


「いやいや、ちょっちょと待て! 普通そこはプラスポイントだろ。どうして罪なんだよ!」


 君みたいに言う人多いんだよねー。でも、自己犠牲なんてそんな人間が考えた基準なんて、僕の知ったこっちゃないよ。生き物としての正しい選択は、他の者を押しのけてでも自分が生き残る事さ。


「そんな……」


 そんなもなにも無いよ。せっかく生まれて来たのにわざと死ぬって、生き物として一番駄目に決まってるじゃないか。


「いやいや、いくらなんでも納得できないぞ!」


 うーん。面倒だなー。じゃあ次の3つの中からどうしたいか選んで。


「3つ?」


 そう。特別に選ばせてあげる。


「おいおい。なんだこの唐突さは意味が分からんぞ! ちゃんと説明しろよ。どうしていきなり3つから選べとかいう話になるんだ」


 まったく。君は始めてかも知れないけど、こっちは何億回同じ説明をしていると思ってるんだよ。ちょっとくらいはしょっても良いじゃないか。


「それだったら、お前は何億回目かも知れないけど、こっちは初めてなんだよ。ちゃんと説明しろよ」


 もー。面倒くさいなー。まあ理由は3つある。


「3つが好きだな。まあ良いや言ってくれ」


 まず1つ目。僕だって好き好んで人を不幸にしたいわけじゃない。それが規則だからさ。


「ふむふむ」


 2つ目。君も納得していなさそうだ。


「うむ。当たり前だ」


 3つ目。僕にはそれを何とかしてやれる能力がある。まあ、軽く説明するとこんな感じ。


「おお。意外と良い奴だな」


 こっちだって人を不幸にして楽しいわけじゃないからね。決まりだからやっているだけさ。


「なるほど。わかった。じゃあ、その3つっていうのを言ってくれ」


 まず一つ目。このまま死んで最悪の状態で生まれ変わる。


「いやいや、普通それ最後に言うだろ。このまま死んじゃ来世は最悪なんだろ? 選ぶわけ無いだろ。次だ。次」


 間一髪助かる。これだったら、死んでないから来世は大丈夫だよ。


「よっしゃーー!! よし、それで行こう。もう優佳と会えないかと思ったけど、もう一度会えるんだ。よーし。よしよし。そうかそうか。優佳に会えるのか」


 随分盛り上がってるね。そんなに嬉しいの?


「当たり前だろ! 好きだった女の子ともう会えないかと思ったら、もう一度会えるんだ。これ以上何を望むって言うんだ!」


 でも、せっかくだから最後の1つを聞きなよ。


「うーん。そうか。じゃあその1つって何だ?」


 生まれた時からやり直す。これだったらもう一度優佳って子に会えるし、君の頑張り次第で、彼女との差も縮められるかもしれないよ。


「あー。そうか。そう来るか。それだったら勉強とかも頑張って、優佳とも小学生の内にもっと仲良くなっておけば……。でも、やっぱりつり合ってないと難しいかな……。どうせだったら優佳とつり合うくらいのスペックで生まれ変わらせてくれないか?」


 それは無理だよ。さっきも言ったとおり生まれた時の状態は前世の業で決まるんだ。今の君のスペックは前世が影響している。これは規則だから僕にも変えられない。


「そうか。スペックをあげて生まれ変わるのは無理なのか……」


 無理じゃないけど、それには前世からやり直す必要があるから面倒だね。


「え? そんなのが可能なのか?」


 出来なくは無い。


「じゃあ、やらせてくれ! これで優佳とスペックでもつり合って、小学生くらいからもっと仲良くしていればすべて上手くいくぞ!」


 分かった。じゃあ、前世に連れて行くよ。


「まてまて! 話が早いのは良いけど、その前に色々教えてくれよ。その業って何やったら悪くなるんだ? そもそもどうして俺は今のスペックなんだ?」


 そうだね。まず自分で命を絶つ事。人に自分を殺してって言うのも駄目。死ぬつもりで危険な事をするのも駄目。でも、どんなに危険でも、死ぬつもりの無い場合はセーフ。とにかくワザと死ぬのは駄目って事だね。


 ついでに言っておくと、死んだっていいや、なんて気持ちでいるのも、少しずつ「業」が悪くなっていくから気をつけてね。そんな気持ちで何年も生きていると、結構積もり積もって大変なことになるから。


「なるほど……」


 次に他の人を殺す事。これも駄目。ただし自分の命が狙われた場合は殺しても良い。正当防衛ってやつだね。つまり生きる為に殺すのはセーフだ。まあ、簡単に言うと自分が生き残る為の行動はOKだよ。


「それって動物を含めての話か?」


 基本はそうだけど、まあ一番業の影響が大きいのは「同種」に対してさ。君は、君と同じ人間にだけ気を付ければ良いよ。


 君の前世はスペックは良かったんだけど、人を殺してしまったんだ。だから今のスペックになってる。逆にいえば、それで生まれ変わっても普通のスペックですんでいるってぐらい、前のスペックが良かったって事だ。


「俺は前世で人殺しなのか……。いや今度は殺さなきゃいいんだ」


 まあ、どんな理由があろうと同種をまったく殺さずにすませた者が転生には一番良いんだけど、今言った理由だったら同種を殺しても悪くはならないよ。身を守る為に戦っている分には、前世と現状維持で生まれ変われるはずだよ。


「なるほど……。それでどんな時代のどこに生まれ変わるんだ? 戦国時代とか? それとも中世ヨーロッパ? まさか原始時代とか言うんじゃないだろうな?」


 君の前世はね。剣が得意な戦士だね。魔法使いや僧侶、射手なんかと一緒に旅をして生活している。


「……おい。それは前世じゃないだろ。魔法使いってなんだよ。ファンタジーの世界じゃないか」


 まったく、君は自分の常識でしか考えられないみたいだね。君にとって世界は君の住む星の事かも知れないけど、宇宙には沢山の星があるんだ。そりゃ魔法のある星だってあるし、前世がそういう星で生まれている事もあるよ。


「なんだって……」


 納得行ったかい? じゃあ、前世の世界に飛ばすよ。あ。そう言えば前世をやり直すって言っても、別に赤ちゃんからやり直すんじゃないから。生まれ変わりに影響するターニングポイントからのやり直しだよ。


「ターニングポイント?」


 そう。人生の分岐点ってやつさ。


 じゃあ、行くよ!


「ちょっちょっとまて! 心の準備が」


 そんな事言ってちゃ、いつまでたっても話が先に進まないよ! とっとと行って来て!


「いや、あとちょっとだけ――――」

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