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第18話:続美味しい話

 検分役はベルトットと名乗った。


 古城についた俺達がベルトットを囲み、守りながら中に入るとベルトットは軽薄そうに喋り続けた。


「すごい臭いですね。鼻が曲がるとはこの事ですよ。こりゃ売るにしても掃除が大変ですね」

 魔物達の腐臭にハンカチで鼻を押さえながら愚痴を溢している。臨戦態勢で両手に剣や松明、杖や弓を持っていてハンカチで鼻を押さえる事が出来ないこっちに眼中にないみたいだ。


「どうやらぱっと見、大丈夫そうだな」

 カシェードが注意深く辺りを見回している。俺達以外の生き物の動く気配はないし、各部屋の封印も破れずに残っている。生きている奴がいれば少しくらい破られている封印もあるはずだ。


 もっともだからって油断できない。俺達はベルトットを真ん中に守りながら、改めて各部屋を回っていく。


「はい。この部屋は大丈夫ですね。確認しましたっと」

 ベルトットが古城の間取り図に印を付けていき、それが済めば次に部屋に進むのだ。


 この作業も何気に行っているようだが重要な意味がある。俺達はこの古城の魔物を退治したけど、その後改めて魔物が棲みつく可能性もゼロじゃない。


 城の持ち主に頼まれやってきた掃除人が魔物に襲われたって時に、問題になるのがその魔物が新たに棲みついた奴か、倒しそこなった奴かって事だ。


 この検分が済めば、ベルトットが印をつけた間取り図の写しを貰う事になっていて、もしこの後魔物が見つかっても、

「魔物がいないって、ちゃんと確認しただろ?」

 と主張出来るのだ。


 ちなみに新たに魔物が棲みついた場合はどうするかというと、依頼主と組合が折半して金を出して、新たに渡者を雇って退治するのだ。


 新たに魔物が棲みついたのは運が悪いとしか言いようが無く、組合の所為じゃないんだが、依頼主が全額負担だと、組合と渡者が裏で手を結びわざと魔物を残したんじゃないかと勘ぐりたくもなる。そうなると依頼も減るし、組合にとっては依頼確保の為仕方無しに設けた規則だ。


 次々と部屋を検分しながらも、ベルトットの舌は止まらない。

「いやー。この前の検分は酷かったんですよ。私だってね1匹や2匹くらいの倒し残しには慣れてますよ? けどね。この前なんて一部屋分丸々制圧し忘れてましてね。その部屋の扉を開けた瞬間部屋から魔物があふれ出て。ありゃー、酷かったー」


「それは大変でしたね」

 ジュレルディは返事はしているものの、その表情は冷たい。「頭目モード」の彼女の表情はそもそも冷たく感じるが、今の表情は同じ冷たいといっても、冷ややか、という感じだ。


 そうしている間にも検分は進み残す、残る部屋は後一つ。ボスと戦ったあの大広間を残すのみとなった。


 先頭を行く戦士の俺が扉をゆっくりと少し開けると、今までよりも強い悪臭が廊下に溢れ出し、みんなは顔をしかめてつい俺は剣を持つ手を、ジュレルディとユイファは杖を持つ手で鼻を押さえ、両手で弓を構えているカシェードはそれが出来ず不満そうだった。ベルトットといえば、もう両手で顔の鼻から下をハンカチで押さえている。


「いいか?」

 振り返りながら小さい声で聞くとみんなが頷いた。


「よし!」

 扉を大きく開け放ち大広間へと踊りこみ、他の奴らも俺に続く。っと言ってもベルトットは廊下で待っている。


 俺達はそれぞれ武器を手に大広間を端から端まで回ったが、やっぱり動く者の姿はない。血に塗れた動かなくなった死骸のみだ。その中には一際巨大な黒焦げた魔物のボスのものもある。


「間違いなく生きている魔物は居ません!」

「はい、はーい。じゃあ、確認させて頂きますねー」

 ジュレルディの呼びかけに、ベルトットは軽薄そうな声を出して大広間に入ってきた。


 念の為ベルトットを囲む様に隊列を組み、改めて部屋を隅々まで回って魔物が居ないのを確認する。


「はい! 問題ありません! いやー。見事なもんですね。他の人達だったら1、2匹残っているのはざらなのに」

「ありがとう御座います」


 検分役のOKの言葉に、今まで奴に冷淡だったジュレルディもさすがに笑顔を向けた。現金な、とは思わない。自分達の仕事が褒めら、仕事人としての矜持がくすぐられたのだろう。


 その証拠にっていうのもおかしいかも知れないけど、古城からの帰り道にまた饒舌に喋るベルトットにジュレルディはやっぱり冷淡だった。もっともジュレルディも自分達の仕事がやりにくくなるほど露骨ではない。必要最低限しか口を利かないって所だ。


 組合に帰りつくと、またもや親父が出迎えた。

「どうだったい? 検分は」

「はい。無事――」

「いやー。1匹の倒し残しも無く見事なもんでしたよ」

「ほー。そりゃたいしたもんだ」


 親父はジュレルディの言葉を遮って報告したベルトットに返事をしながら、ジュレルディへと軽く手を上げた。ベルトットが彼女の言葉を遮ったのを、まあこういう奴だから許してやってくんな。ってところか。ジュレルディも、分かっています。というふうに苦笑して頷いている。


「あんたはきっちりと仕事をするタイプと思ってたんだ。やっぱり俺の目に狂いは無かったな」

「恐れ入ります」


 ジュレルディが軽く頭を下げると、親父は彼女の顔を覗き込む様にしてにやりと笑った。

「あんた俺がお世辞で言っていると思ってるだろ?」

「……。いえ、そんな事はありません。信頼して頂きありがとう御座います」


 とはいったものの返事に少し間があった。ジュレルディも親父の真意を計りかねているようだ。まあ俺にも親父が何を考えているかなんて分からないんだが。


 親父の思惑が分からず表情の硬いジュレルディに、親父は苦笑を漏らしている。どうも親父のペースだな。


 まあジュレルディが渡者として一流で組合との交渉も毅然としているって言っても、あくまで正攻法だ。組合の親父なんてものは引退した元凄腕ってのが多く、経験も豊富で海千山千の渡者達との交渉もお手の物だ。


 ジュレルディだって経験豊富といっていい経歴なんだが、親父と比べれば親と娘ほど年季が違う。それになんだかんだいって素直なところがあるジュレルディじゃあ、腹の探りあいでは分が悪いか。


「なに、そんなに身構えんでくれ。あんた達に仕事を頼みたいだけなんだ。他の奴らはあんたらだけ贔屓するのかって言うかも知んねえが、まあ文句があるなら、あんた達みたいにきっちりと仕事をこなしてから言えってもんだ」


「恐れ入ります。それで……その依頼とはどのようなものなのですか?」


 親父の言葉にジュレルディの表情は和らいだけど、だからといって内容を聞かずに依頼を受ける訳が無い。親父も分かっているといった感じで、建物の奥の部屋へと視線を送った。


「まあ、詳しい事は奥で話そう。難しい話じゃないんだが長い話でね。立ち話もなんだろう」

「それでは、お伺いさせて頂きます。お前達は先に宿に帰っておいてくれ」

「分かりました」


 俺達はジュレルディを残し先に宿に帰った。けれど思いのほかジュレルディの帰りが遅い。いや親父が長い話って言ってたのは分かってるんだが、程度ってもんが有るだろう。俺達は1階の居間で椅子に座りながらジュレルディの帰りを待った。


「お腹すきましたねー」

 ユイファがそう漏らしカシェードが応じる。

「で、どうする? ジュレルディには宿の親父に伝言を頼んで先に店に行っちまうか?」


 そう言えば、今日は象魚を食べに行くはずだったんだった。


「もうちょっと待ってみてもいいんじゃないか? そろそろ帰ってくるだろう」

「そうですねー」

 と、俺達は夕食時になっても帰ってこないジュレルディを待ちかねていた。


 ユイファはテーブルに頭からとっぷし両手をだらりと下ろし、うな垂れ、カシェードは逆に椅子の背もたれに大きくもたれ、顔を天井に向けて目を瞑っている。俺はといえば、テーブルに右肘を付いて頬杖し扉を眺めていた。


 不意にその扉が開いてジュレルディが入ってきた。

「おかえりなさい!」

 腹をすかしきり、やっとご飯が食べられるとユイファが元気良くジュレルディを出迎えると、頭目モードの彼女にしては珍しく大きな笑顔を見せた。


「みんな聞いてくれ。とてもいい話だった」

「どんな話なんだ?」


 カシェードが天井へ向けていた顔を起し問いかけ、ジュレルディは椅子にかけながら問いに答える。

「魔物の退治の依頼を優先的に回してくれるらしい」

「それって退治の依頼は全部って事ですか?」

「ああ、そうだ」

「凄いですねー」


 ユイファはそう言って目を丸くしている。確かに退治の依頼は全部って相当な話だな。


「でも、それはそれで大変じゃありませんか? 身体の方が持たないかも」

「それは大丈夫だ。回してくれるって言うだけで、なにも全部受けなければならない訳じゃない。無理そうなら断っても良いんだ。私達がやれば間違いないから、私達に多くやらせたいらしい」


「それはいい話ですね。でもそれじゃ保証金が結構な額になるんじゃないですか? 複数の依頼を受けてそれを順番にこなすみたいになるんですよね?」


「それも大丈夫だ。さすがに規則ってものがあるので保証金が要らないって訳には行かないが、保証金はその時こなしている依頼分だけでよくて、それ以外の依頼は受けるというより確保して貰っているという扱いだ」


 おお! そりゃ美味しい話だ。さすがに話が長かっただけあって、細部まで詰められているって訳か。ジュレルディやあの親父が決めたんなら、俺が気にする様なものはもう検討済みって事なんだろう。


「へー。そりゃいい条件じゃねえか」

 と、カシェードもにやりと笑っている。


「ああ、そうなんだ。じゃあ受けて問題ないな」


「まだ受けてないんですか?」

「そうですよ。凄くいい話なのに」


「そうなんだが、いくら良い話でもお前達に相談せずに決める訳には行かないだろ。もちろん意見が割れたら最終的には私が判断させて貰うが、私以外の全員が反対するなら受けるつもりもない」


 ああ、あなたはそういう人ですよね。やっぱりこの人は尊敬できるよな。と改めて思い、この女性に好意を持たれているのが嬉しくなる。


「じゃあ、みんな賛成で良いな?」


「はーい」

「いいぜ」

「OKです」


「じゃあ、今から返事をしてくる」

 早速椅子から立ち上がるジュレルディにみんなは驚いた。もうかなり夜も更けているのだ。返事をするにしても明日だと思っていた。


「今から返事しに、また組合に行くんですか?」

「ああ。OKなんだったらすぐにでも私達にやって欲しい依頼があるらしいんだ」


 ジュレルディはそう言うと、俺達がさらに声をかける間もなく扉へと向かい、瞬く間に姿を消した。俺達は呆気にとられ暫くその扉を眺めていた。


 不意にユイファが力ない声を漏らした。

「……お腹すきましたね」

「……そうだな」

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