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第14話:ついに魔物退治

 依頼を受けた翌朝、ニワトリさえまだ眠りこけ日も昇らぬ暗闇の中、俺達は宿を出た。さすがにいかがわしい店もこの時間には静まり返っている。


 魔物は大抵夜目がきく。古城には照明などなくどうせ中は真っ暗だが、万一途中で撤退する可能性を考えれば、追われた時の為外が明るいほうがいい。


 空が白み始める時間に目的地に着き、なるべく明るい時間が長いうちに戦闘を開始するのがセオリーだ。もちろん、その暗い道中に魔物がいては本末転倒なのでそこらへんの兼ね合いもあるが、今回古城までの道中に魔物が潜んでいる事はなさそうだった。


 町を囲む塀を越える為、宿直の門番が詰める小屋の扉を叩く。こんな朝早くに起こされ門番も迷惑なって思うかもしれないが、渡者が依頼の為、早朝町を出るのはよくある事だ。宿直の門番も起きていて、朝になれば交代するので問題ない。


「あ。出んのか。ちょっと待ちな」

 それでもやっぱり眠いのか、門番の男は欠伸をかみ殺したような表情で顔を出した。


 男は鍵を持って門まで歩くと覗き窓から外を見て、魔物や盗賊が居ないのを確認し錠を外した。不審者を警戒し、日が暮れてから外の者を中に入れる事は無いが、中から出る分には殆ど無警戒なのだ。


 勿論、昼間のうちに入り込んだ泥棒が、一仕事した後町から逃げようとしているって事もありえる。だがそれを確認するには、外に出ようとする者が出るたびに町の住人すべてを叩き起こし、盗まれた物が無いか聞く必要があり到底不可能なのだ。


 町を出た後、月明かりの中を進んだ。空が白み始めた頃古城に辿り着く。


 古城は森の奥深くにあった。あまり大きくは無く、どうやら城とは名ばかりで別荘みたいな目的で建てられたものらしい。つり橋は無いが、魔物の襲撃に備え高い塀で囲まれている。


 もっとも長い間打ち捨てられ、その城壁はところどころ崩れ進入は簡単そうだ。蔦が壁どころか窓にも絡まり全体を覆っている。城門の前で改めて状況を確認する為足を止め、俺達はジュレルディを囲んだ。


「魔物は小さいものを含めると100匹を超えるらしい。それとボスクラスの魔物。いつも通り先に小物を片付ける」

「魔物ってどんな奴なんです?」


「二本足で歩く毛の無いサルみたいな奴らしい。私も始めて聞く魔物だが、特殊な攻撃や毒は持ってないと聞いている。もちろん油断は禁物だ。その分腕力が強いらしいからな」


「毛の無いおサルって気味悪いですね」

 ユイファはそう言って身震いしている。

 おいおい、こいつは渡者で何度も魔物と戦っているくせになにを言ってるんだ?


「じゃあ、どんな魔物なら気味悪くないって言うんだよ」

「えーと。みんな気味悪いんですけど……」

「お前、よく渡者やってるよな」

 そういえば、こいつは渡者をするのは俺達の仲間に入ったのが始めてっていう新人だったな。いったい何を考えて渡者になったんだろう。


「まあ、いいじゃねえか。しかし100匹を超えるってなると矢が足りるか心配だな」

「魔物がボスだけになるまでは私も前衛に出る。カシェードは自分と仲間が危ない時以外は矢を温存してボスとの戦いに備えてくれ」

「あいよ」

 とカシェードが手を上げる。


「俺は先頭に立って、とにかく雑魚を倒していけば良いんですね?」

「ああ。そうだ」

「分かりました」

 と、俺は頷いた。


「じゃあ、行こうか」

 ジュレルディがそう言って手を叩く。


 こうして俺達は古城へと進入を開始した。


 俺は右手に剣を持ち左手に松明を持って先頭を進み、次にカシェード、その後ろにジュレルディ、最後尾はユイファだ。右手に杖を持つジュレルディとユイファも、左手には松明を持っている。


 複数明かりを持っているのは、万一消えてしまった時の用心だ。カシェードが松明を持っていないのは、弓を扱うのに両手が塞がっているので仕方が無い。


 入り口から一番近い部屋に突入する。


「みんな。油断するな!」

「はい!」


 戦士の俺はみんなを背後に守り、先頭を切って部屋に飛び込んだ。途端、腐臭が鼻をつく。夜のうちに城を出、獲物を狩りここで食っているんだろう。部屋中に動物の骨が散乱している。魔物はジュレルディが言ったとおり毛の無いサルみたいだった。


 毛の無いサルなら一見人間に見えそうなものだが、中腰の姿勢と長い手をぶらりとさげ左右に振りながら歩く姿、そして何より感情の無い目と、歯を剥くその表情は決して人間のものじゃなかった。


 魔物はサルに似た外観に相応しく、壁を蹴って部屋中を縦横無尽に飛び回る。この手の魔物は、自分から攻めるのではなく迎え撃つのが常道だ。


「キィィーー」

 牙を剥き、襲い掛って来た魔物を切り捨てる。真っ二つになった胴体が、血を飛び散らせながらぶっ飛んでいく。早速、部屋中が血なまぐさい匂いに包まれた。


 次、2匹、左右から襲う。左を無視して右に剣を突き出す。魔物の胴体を剣の根元まで貫き、黄ばんだ牙が目の前で止った。剣を横に振り捨てると、魔物が床の上でのた打ち回る。どうせすぐ死ぬだろうとほって置く。


 左の魔物は、ジュレルディの魔法で既に黒焦げになっていた。ジュレルディとカシェードは俺の後ろで援護するが、右利きの射手であるカシェードは右後ろに控えている。今回カシェードは矢を温存するので、右から来た魔物は俺が倒し、左の魔物をジュレルディが倒すのだ。


 ジュレルディの攻撃魔法は杖に魔力を集めそれを放つというもので、その威力に理論上の限界は無い。つまり一撃で世界を滅ぼすほどの威力を発揮する事も可能だ。もっともあくまで理屈の上での話で、実際にそれをやるのは不可能と言われている。


 まずその理由の一つ目、魔力を集めるには集中力、精神力、それに魔力を集める時間が必要となるが、世界を滅ぼすほどの魔力を集めるだけの時間、集中力と精神力を維持できる者など存在しないのだ。


 次に杖の問題。杖に魔力を集めるのだが、その肝心の杖がそれだけの魔力に耐え切れず途中で砕け散ってしまう。


 過去の記録では、史上最高と称えられた大魔法使いベーヴェルシュタムが伝説のと冠したいにしえの杖を使い、当時世界を震撼させた邪悪な魔王をその城ごと打破したのが最高威力の攻撃魔法と伝えられている。


 大魔法使いはその魔法を放つ為七日間にわたり魔力を貯め続け、その消耗から命を落とし魔法の発射と同時に杖も砕け散ったという話だ。その後、ベーヴェルシュタムの称号は史上最高のから、杖と同じく伝説のに変わった。


 もちろんジュレルディにそこまでの力は無いが、それは比較する対象が悪い。彼女の実力は一流のレベルだ。超って付かないのが残念だけど。


 雑魚を倒す分には、射手が矢を連続で放つより少し遅いくらいの速さで魔法を放つ事が出来る。ジュレルディは魔法を連射し俺と共にどんどん雑魚共を倒していく。部屋の中の雑魚を一掃すると一旦態勢立て直す為、部屋の中央に集まった。


 俺もだんだんアルシオが勝手に動く仕組みが分かってきた。どうやらアルシオが出来て、俺、勇雄が出来ない事をやろうとするとアルシオが動き出すみたいだ。もっとも当然といえば当然かもしれない。


 前世でやり直すっていうのに、前世の俺が出来ていた事がいきなり出来なくなってしまったら話しにならない。実際戦えなかったら、こっちの世界に来てすぐに山狗に襲われ死んでしまっていたのだ。


「ユイファは怪我をしている者の治療を。カシェード、矢はまだ大丈夫か?」

「ああ、まだ大丈夫だ。それに……」

 っと、カシェードは矢で倒した魔物を足で踏み手で矢を持って、突き刺さった矢を引き抜いた。

「こうしてまだ使えそうな矢を回収しているからな」

 と言いながら、さらに矢を振って魔物の血を飛ばしている。


「アルシオ、怪我は無いか?」

「大丈夫です。少し引っかかれたけど、ユイファの治癒魔法で跡形も無くなる程度です」

「そう……よかった」

 ジュレルディはそう言って微笑んだが、カシェードの、ん? という訝しんだ視線を感じ、すぐに表情を引き締めた。

「みんな油断しないように」

 と取り繕っている。心配してくれるのは嬉しいけど、このままじゃいずれみんなにばれそうな感じだな。まあその時はその時か。


 準備が整うと俺達は制圧した部屋を出た。

「よし。じゃあこの部屋は封印してくれ」

「あ。はい」

「了解です」

 ジュレルディの言葉に、ユイファが背嚢はいのうから封印するための道具。その名もまんまの封印布を取り出す。


 ぱっと見まるでガムテープみたいだが、これは魔物が嫌う匂いを発する薬草を染みこませた長細い布で、一度制圧した部屋に再度魔物が入り込むのを防ぐ為の道具だ。残念ながらガムテープみたいなのは見た目だけで、これ自体に粘着力は無い。


「ちょっと押さえて置いてくれ」

 と、ユイファに抑えて貰い、剣の柄で釘を打ち込んで固定するのだ。


 その間、ジュレルディとカシェードが遊んでいるのかというともちろんそうではなく、杖と弓を構え敵襲に備えている。


 封印布で、入り口をジグザグに封じると次の部屋に向かった。途中廊下いる魔物も倒しながら次々と部屋を制圧、封印していく。


「こりゃ掃除が大変だな」

 魔物の血と死骸だらけになった城内に、カシェードが悪態をついている。ユイファはその光景に脅え、口をきくどころではないようだ。本当によく渡者をやってるよな。


 ジュレルディは黙って歩いている。松明の火に浮かぶその白い顔を、赤い花が咲いたように魔物の返り血が彩っているが、少しも気にしたふうもない。昨日の夜、俺に肩を抱かれ恥じらいを見せた姿の片鱗も見せず、淡々と魔物を葬っていく。


 そしてボスが居るらしい大広間を残し、それ以外のすべての部屋を片付けた。


「ここが最後の部屋だ。魔物のボスと一緒に雑魚もかなりの数居るみたいだから油断するな」


「分かりました」

「了解」


「まず始めに雑魚だけを狙ってすべて片付ける。その後私は魔力の集中に入る。みんなは魔力が溜まるまでボスを引き付けておいてくれ」


 ボスクラスの魔物となると、そう簡単に仕留められない。俺の剣で致命傷を与えるには深く踏み込む必要があって危険だし、カシェードの弓では威力が足りなくて難しい。ボスを倒すには魔力を十分に蓄えたジュレルディの攻撃魔法が必要なのだ。


「さあ、行くぞ!」


 俺を先頭に最後の大広間へと踊りこんだ。城としては小さい規模だが、さすがに大広間と言うだけあってこの部屋は広く50メートル四方はありそうだ。その奥に3メートルはある白い肌の毛の無い魔物が、大勢の小さい魔物を従えていた。


 ユイファの、毛の無いサルは気味が悪いという言葉に呆れた俺だったが、ボスは大きいだけに毛の無い肌のぬめった感じが強調され、確かにぞっとする醜悪さだった。俺達の姿を見つけたのか、巨大な黄色い牙を剥く。まだ間合いが遠いはずなのに、その口腔から漏れる腐臭を嗅いだ気がした。


「やっぱ、ボスはでけえな」


 カシェードは厳しい顔でボスを睨んでいる。あいつの攻撃を急所に食らったら一撃であの世行きになりそうだ。そう思うと、背筋に何かが這い回っているような気色の悪い感覚が襲う。


「みんな気をつけて。アルシオ切り込め!」

「よし!」


 ジュレルディの掛け声に俺は魔物のボスに突進! しようと思ったが足が動かない。


 なんだ!? まさかあの魔物は人を足止めする魔法でも使えるのか? いや、アルシオの知識ではこの世界にそんな複雑な魔法は無いはずだ。


 足元を見るとガクガクと足が震えている。ドキっとして顔を上げ改めて魔物のボスを見る……。


 でかい……な。こんなのに立ち向かえだって? 俺が? ただの高校生の俺が? 3メートルを超える化け物に立ち向かうって? 冗談じゃない。そんな事出来る訳ないだろう……。


 体中を這う気色の悪い感覚の正体が分かった……。それは恐怖だ。ボスの魔法じゃない。俺の身体は恐怖で足が竦んでいた。

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