私と元当主(1)
『好きだ』
そう言われたとき純粋に嬉しかった。
彼以外に言われたら裏にいろいろな思惑があると思ってしまうのにそう思わなかった。
多分彼を知っているから。
彼を好きになってしまったから。
でも、私は・・・・
「豊、どうしたの?」
「だって・・・」
珍しく甘えてこないこの子が引っ付くように離れない。
「庄吾、悲しそう」
「え?」
「庄吾、悲しそうな顔してた。澪お姉ちゃん、庄吾にいい子いい子して」
多分私が振って気まずいのを感じ取ったんだと思う。
つくづく馬鹿だなぁっと考えさせられるが自分の決めたことを曲げる気は無い。
まずは彼らを安全で信頼置けるところに移さなければならない。
ただ、彼と大きな溝が出来たことは大きな私にとってもその周りにとっても損害だったことが分かる。
次ここへ来るまでに、前と同じように、とはいかなくても友人として笑っていられるようにしたい。
「豊がいい子にしたら庄吾悲しまない?」
「え・・っと庄吾には私がいい子いい子するから今日はもう遅いし寝ようか」
「う、ん。澪お姉ちゃん絶対だよ?庄吾にちゃんとしてね」
「うん、約束」
そう言って指きりげんまんすると豊はバタバタと布団に入ってしまった。
多分、察しのいい子だから今ここで退出しても気にしないだろう。
だけど・・・・・この指きりは守れないかもしれない。
元々こうなった原因が私だから。
とことこっと音を立てないように部屋に戻る。
明日、朝一で庄吾に話し合いしよう。
私もこのままじゃいけないしね。
「澪」
だけどその前に珍しい人が私の前にやってきた。
一応珍しいという言葉を使うことは無いはずなのだが。