私と大切な人(2)
彼が喧嘩、というか一方的に私が怒って数時間した後この部屋に戻ってきた時のことを思い出す。
血相変えて私の無用心さを叱ったけ。
私はその言葉がとっても嬉しかった。
この学校に盗みを働くようなやつはいないことも私を襲おうとするやつもいないことも知っている。
でも、ほとんど知らない相手に対して怒るような人なんていないから。
ああ、私のこと本気で心配してくれる人だ。
そう思ったのだった。
それが彼のことをよく知りたいと思った理由であり一緒にいることを許したときだった。
「多分テレビで見たと思うけれどご存知の通り霧崎コーポレーションは吸収合併して私の会社の傘下に入ったの。
もちろん庄吾のお父さんも、さすがにトップクラスは無理だけれど、できるだけいい役職に入れるように交渉したから。
ただ・・・・・」
「ただ?」
「私の口から言っていいのか悪いのか判断しづらいのだけれど、多分庄吾のご両親離婚するかもしれないかな。私のせいで。ごめん」
「いや、そんなの俺ら知ってたし澪が謝ることじゃないよ。もともとこうなることぐらいとうの昔から分かっていたことだから。
むしろ親父の働き口をくれただけでもありがたいよ。
あの人も実家は金持ちだから心配する必要もねぇし。
あ、親権はくすねるな。俺は親父に押し付けてあいつだけほしいとか」
ねぇ、庄吾?今自分がどんな顔してるか知ってる?
悲しそうな、やりきれないような、そんな目をしてるんだよ。
まるで、いつぞやの私みたい。
夕日を浴びる彼の顔は未来を諦めている顔だ。
私は彼に未来を諦めて欲しくないと思う。
だって私を一番に考えてくれた他人は庄吾、あなたが初めてなんだよ。
私だってあなたのこと一番に考えているから。
「ねぇ、ある人と養子縁組しない?」
「・・・は?」
「和真君は了承してくれたんだけれど、古い親戚にね子供がほしいっていう人がいるんだ。正確には後継者だけれど。
それで、もしあの親たちの元に居たくなかったらその人と養子縁組しない?
もちろんこっちもバックアップ体制できてるし、あの親たちとも交渉してあるから。
あとは庄吾の意思だけ。
もちろん、した後は後継者になれって言うわけじゃなく庄吾が自分の進みたい方向に進んでいいよ。
和真君は継ぐ気満々だから気にせず勉強できると思うし。
どう?考えてくれない?」
「え・・・いきなりそういわれても」
うん、そうだよね。
私のやろうとしていることはかなり賛否両論のある話。
いや、三分の二が否に回りそうなことだ。
でもあの堕落した親たちの元にいるのは二人とももったいない人材なの。
それを生かすためにはこれが一番の方法だった。
そして私の元から離れさせることの出来る唯一の切り札。
『好きよ。愛してるわ』
『ならこんなことやるなよ。もっと別の方法が、』
『いいのよ。例外は認めることは出来ない。たとえ、当主であっても』
私の好きな花、椿が咲く時期がもうすぐ近づいてこようとしていた。
綺麗なのに散り方は残酷な椿の花。