私と大切な人(1)
『俺の・・・兄貴のこと好きですか?』
腹を割って話したら出てきた元婚約者の本心の言葉。
私は人を愛せないから。
私は人の愛し方を知らないから。
私は彼を幸せにすることも方法も知らないから。
だから私は彼を“解放”しないといけないのだ。
でも・・・・
「ごめん」
そう言って私を抱きしめる彼を見て決心が揺らぎそうになる。
大丈夫、気にしていないから。
大丈夫、何も無かったんだから。
大丈夫、あなたは悪くないよ。
言いたい。
抱きしめたい。
“好き”って言いたい。
でも私には・・・・
「あの・・・庄吾」
「なんだ」
「みんなの目の前で抱きしめられるのは・・・・ちょっと恥ずかしいんだけど」
事実を突きつけるとわれに返ったように周りを見渡す彼。
触ってきたときいつもより体温が高かったから多分走ってきたのだろう。
それがこの騒ぎを呼んだんだと思う。
「わ、悪ぃ」
状況を把握したのか彼は慌てて私から離れる。
顔を真っ赤にしている彼がちょっと可愛く見えた。
男に“可愛い”は禁句ですからね、そう健二君にアドバイスを貰ったがやっぱり可愛いものは可愛い。
そしてちょっと嫉妬してる。
「庄吾、部屋にいこうか」
だってこれを見てるのは私だけじゃないんだもの。
ガッチャンっと鍵を掛かった音が聞こえるとああ、これで終わるんだなぁって体温が下がっていくのを感じる。
なんか別れを切り出すような気分だ。
いや、実際に切り出すんだけれど、それは普通の別れではなくてただの位置づけが変わるだけで友人としてなら何年も付き合うことが出来る。
紙の上では婚約者であっても現実の関係がそうだったのだから生活にはさほど変わりは無いのだろう。
私の庄吾に対する気持ち以外は。