不良と夏祭り(2)
それから俺らはしばらく屋台を散策した後神社にあるベンチで座っていた。
なんでベンチがあるのかは知らないが健次の話によるといくつかあるこの夏祭りのベストポジションはここらしい。
まだこの土地のことを知っていたらもっといいところを教えてあげられるのに・・・っと残念そうに言っていた健次には感激とこの場所を教えてくれて心から感謝する。
いや今度麻由子絡みで何かあったとき絶対健次、お前の味方をする。・・・お前が悪くなければ。
「もうすぐ夏休みか」
「ああ。澪は家に帰るのか?」
「部活があるし、そもそもお婆様の家以外は私の居場所なんてないからね」
寂しそうに笑う澪の笑顔を見て昔の俺を重ねた。
俺もあの家以外に居場所は無い。
今は慣れて、というか諦めて思わなくなったが昔の俺は居場所が無いことに寂しくて、自己険悪して、あいつを憎んだ。
澪も俺もそして後から知ったがこの学園全員が同じ。俺の心には少し前の思いは無い。
俺たちは他人の慈愛を受けて育った人間だ。
そしてこの学園にいる人間だからこそなのだろうか。
自立し大人になったとき俺たちは俺たちと同じ苦しみや悲しみを味わっている未来の子供たちに愛情を注ぐのだろう。
その苦しみと悲しみの連鎖を断ち切るためとそのまた子供たちは本当の親の愛情を知って暮らすために。
難しいことを珍しく悟っていた俺はふと現実に戻ってくると暖かいものが触れていることに気づいた。
特に手に。
・・・・・・もしかするとの展開でしょうか。
「澪?」
「ん?」
俺の呼びかけに顔を向けたせいか俺と澪の顔が近い。
もし俺たちのことを知らない人が見ていたら多分カップルで今は・・・・・
「このままキスしちゃう?」
「・・・」
こういう雰囲気だ。
もちろん澪の言葉でぶち壊しだけど。
むしろあなた遊んでません?
「もしかして反応なし?それはそれで傷つくんだけど」
うーん、健次君のアドバイスどおりに従ったんだけどなぁっと一言。
・・・あいつ何言いあがったんだ。
「澪さん、あなたは何やってんの?」
「何って庄吾を誘惑?」
「なんでそこは疑問系。なんでまた俺を誘惑しようとしたの」
「だって・・・・弟君来てから私に対して寂しそうに見てたのがむかつくんだもん」
・・・・・気づいてたの。
あいつから澪をとられるのが嫌だ。でもその方法が無くて何も出来ない自分がもっと嫌で。
そんなことからいつの間にか俺は澪に対していつかは居なくなってしまう寂しさを向けていることは分かっていた。
でもそれ気づかれないようにしていたのに。
「確かに庄吾よりかっこいいし、紳士的だし、頭良いみたいだし」
「悪かったな」
「でも・・・・・」
そっと澪の手が俺の頬に触れた。
「それでも私は庄吾がいい」
頬が熱い。それ以上に心が熱かった。
こんな言葉人生の中で言われただろうか。
あの家以外では皆すべてあいつが良いといった。
あいつの方が優っているから。
でも澪は、目の前にいる少女はすべてを知った上で俺を選んでくれた。
契約上の婚約者としてではなく、一人の霧崎庄吾という人間として。
バーン、バンバン
遠くからは花火の音が聞こえる。
「庄吾?」
嬉しさのあまり俺は涙を流していることさえ気づいていなかった。
そして澪はそれ以上言わずただ俺の涙を拭いた後寄り添いながら花火を見るのだった。