不良と弟
最初っからおかしかったんだ。
俺に対して何もしなかったのは。
母親も、こいつも。
なぁ、行かないでくれ。
「へぇ、湊中なの」
「はい、来年は黒沼高校へ行くつもりなんです。
あそこは名門大学の進学率がいいですから」
こいつがやってくるとは思わなかった。
霧崎和真。正真正銘の俺の弟。
そしてあいつらの会社の次期社長。
多分澪のことを気にっていたはずだから見に来たのだと思うが。
まさかここまで演技するとは思わなかった。
「今度は俺たちの実家にも来てくださいね。
母さんたちも喜びますから」
「あ・・・・・都合がつきましたらお電話させてもらいますわ」
「と言いますと何かございますか?」
「これからいろいろと忙しくなるので。高校生は特に」
澪の念押しに負けたのか、お待ちしていますとだけ言うと立ち上がった。
「すみません、時間が無くなってしまったようです」
「あ、直で来たの?」
「ええ、突撃訪問です」
「ふふ、面白かった?」
「はい、面白いものばかりでした」
はぁ、ようやく出て行くようだ。
「すみませんが兄さんとお話させてくれませんか?」
はぁ?
驚きと疑問、そして嫌な予感がするため出来れば行きたくないのだが。
ここに来た時点でまぬかれないようだ。
「澪、いいか?」
「全然大丈夫。行っておいで。先に部屋に戻っているから」
そういい残し行ってしまった。
大丈夫。
俺はこんなやつに負けない。
「順調のようだな」
「・・・・まぁな」
「それにしても本物がここまで可愛いとは思わなかった。
さすが根っからのお嬢様なのかそれとも野澤家の教育がいいからなのかは分からないがほかの女より一緒にいて面白い。
ここまでだと本気で欲しいな」
「っ?!」
こいつの言葉に俺はたくさんのものを失ってきた。
あの家では第一優先はこいつだからだ。
「別にかまわないよね」
確認でもないただの命令に負けそうになる。
でも俺は・・・・・・・・・
「もしここで婚約者を変えたならばこっちが損をするような立場になるんじゃないか?」
「は?」
「お前らが何を取引するために俺を婚約者に仕立てたのかは分からないが、もし今お前に変えたとしたら白紙に戻すという事になって不利益が生じないか?
あっちはこういう取引はうまそうだし」
「まぁ今でもぎりぎりの範囲なのにそれ以上させられたら元も子もないしな」
はぁ、しのげそうだ。
「じゃあお互いに良好の関係ならば問題ないな」
は?なんだ、その良好な関係って。
「彼女が僕を選べは問題ない。
最近退屈してきたところだし新しいゲームだと思えば無駄な時間だと思わないし」
「何言ってあがる」
「ん、分からないの?
俺は今から彼女を落とすことに決めたよ。
面白そうなゲームになりそうだ」
落とす?
落とすって恋するっていうことだよな。
澪がこいつを愛すのか?
「じゃあ僕は帰るよ。せいぜい残りの任務を頑張って」
そういいながら俺の前から去っていくあいつ。
このときから俺と澪との婚約期間は長い長いカウントダウンを始めたのだった。
「おかえり」
「ただいま」
澪、お前はどうしたら俺のものになる?
やっぱり俺のことは契約上の婚約者としか見ていないのだろうか?
俺は、俺は。
「どうかしたの?」
「・・・・・・・・・いや、なんでもない」
俺は澪のことが好きだ。