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理由と出口

写真や動物を見て、少し疲れた僕たちは休憩を取る為にベンチに座った。


休憩用ベンチは、水槽の青い光がまだ届いていて、座面だけ妙に冷たかった。


遠くで子どもの笑い声が跳ねて、足元を水の反射がすべっていく。


三枝はペットボトルのキャップをきゅっと閉めて、膝の上に置いた。


指先が少し濡れている。


「ねえ、高瀬」


「ん?」


呼ばれて顔を向けると、三枝は視線をいったん水槽の方に逃がした。


ガラスの向こうで、大きな魚が曲がる。


「今日、誘った理由さ」


急に来たので、僕は背もたれに肩を預けたまま、頷くだけにした。


「最初に高瀬のこと知ったの、写真なんだよね。名簿じゃなくて。」


「……写真?」


「うん。体育祭の。写真部が取ってたやつ。去年の。」


三枝はスマホを取り出すでもなく、親指で膝をなぞった。


「高瀬、ゴールテープの横で、係の子に水渡してた。その時の顔と言うか表情を見て覚えた。」


僕は自分の手のひらを見た。指先の乾いた感じが急に気になった。


「そんなの、よく覚えてるね」


「写真部だから」


三枝は小さく笑って、すぐ真顔に戻った。


「で、あ、って思って。別にさ、好意とかじゃないよ。タイプとか、そういうのでもないよ。

 残念でした。」


言い切ったあと、三枝は少し笑って、ペットボトルを持ち上げて、ラベルの端を爪でこすった。


音がやけに近い。


「じゃあ、なんだよ」って言いかけて、僕は口を閉じた。待ってる感じが出るのが嫌だった。


三枝は息を吸って、吐いた。


「新学期のクラス替え、同じだったでしょ。席も、隣で」


「まあ、そうだね」


「それが、なんか……」


三枝は言葉を探すみたいに、天井の案内板を見上げた。蛍光灯の白が目に刺さる。


「偶然って、続くと気になるじゃん。写真で見て気になってた人、いきなり近くにいるって、変で」


「変って言われると、僕のせいみたいだ」


「そういう意味じゃないって」


三枝は肩で笑って、すぐ口をすぼめた。


「それで、ちょっと確かめたかった。写真のままの人なのか、動くと違うのか」


僕は頷いた。水槽の機械の低い唸りが、会話の隙間に入ってくる。


「なるほど。観察対象だったわけだ」


「うーん、対象って言われると聞こえが悪いね。」


三枝はベンチの端を指で叩いて、間を詰めるでも離れるでもなく座り直した。


「でも、うん、近いけどそうじゃない。私が思うのわ。仲良くなりたかった気持ちもあるよ」


僕は「そっか」とだけ言った。


胸のあたりが少しだけざわついた気がしたけど、名前をつけるほどじゃなかった。


三枝はこっちを見た。


目の中に水槽の青が薄く映っている。


「今日のも、写真撮れて嬉しかった。高瀬が変な顔する瞬間」


「やめろ。僕、変な顔しかないぞ」


「ん~ん変だよ。私が言うから間違えない。まあ、これが今日誘った理由です。納得できた?」


「よくわかんない。でも、納得しとく。」


三枝は笑って、ペットボトルを一口飲んだ。


僕はその笑い終わりの呼吸に合わせて、軽く手を叩いた。


「……ところでさ、出口ってどっちだっけ。もう終盤だよな。もうそろそろ帰る?」


三枝は一瞬だけ僕の顔を見て、すぐ立ち上がった。


ベンチの背もたれに手を置いて、指先で水滴を拭う。


「う~ん仕方ない行こうか。」


「じゃあ、行きますか。」


「行きましょう」


僕も立ち上がる。


足の裏が少し痺れていて、床の冷たさが戻ってきた。


人の流れに合わせて歩き出すと、案内板の「出口」の矢印が見えた。


三枝はその矢印を見上げてから、僕の半歩前に出る。

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