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転生先はパラレルワールドだった(番外)  作者: こぶたファクトリー


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4/5

火 山 連 峰


 …死ぬ前に齧った子ども向け医学の知識の欠片だが、人間はあらゆる病魔に対して幾つかの防御段階がある。…ちょうど、日本の軍事に例えると自分のような素人にも分かりやすい。日本列島そのものを人体として考えると、海軍…海自は正に大概の環境への防御だ。

 …早合点されないように付け加えると、この環境…海には、悪い悪玉菌も良い善玉菌も一緒くたにあるという事だ。

 当然、善玉…商船や客船は人体に良い影響があるので体内へ素通りさせる。

 だが、無許可で入り込む不審な船や、あからさまに悪意を持ってやってくる船には警戒監視を行わねばならない。

 …もし、この世界で言う海軍…日本で言う海自が機能しなければ、善玉菌のみならず悪玉菌も好きなだけ人体に入り込めるのだ。

 そうなると陸軍・陸自の出番となる。…彼らの役割を医療に例えるなら抗生物質や風邪薬、休養だ。

 …当然、それらは更なるコストと同時に…人体への痛みとダメージも伴う。抗生剤は強力だが悪玉菌と同時に無害な菌まで傷付けてしまう。…彼らの出番は最終手段であるべきなのだ。


 さて、では海軍・海自の病原体に対する役割りは何かと言うと、身の回りの掃除であったり洗濯、そして入浴である。

 家事と医学を一緒に語るなど、と馬鹿にする人もいるかもしれないが、生憎とこれら衛生管理は医学業界では基礎中の基礎である。

 汚物まみれで患者衣を使い回し、洗体設備の無い病院がある筈も無かろう。それはサービス云々以前の問題だからだ。


 言わずと知れたフローレンス・ナイチンゲールはクリミア戦争の折、野戦病院内の不衛生極まる環境に誰よりも一早く目を付け、これを改善する事で傷病兵の生存率向上に寄与したのである。

 看護の段階で病人を救えれば、医者の労力も、医者にかける金も減るのである。投薬と手術ばかりが医療では無い。


 日常生活におけるごく当たり前の事…掃除・洗濯、入浴…当たり前に受けられるサービスゆえ、人々は軽視しがちだが、これができないようで病院に掛かるようでは、結局また同じことを繰り返すだけなのだ。 …無論、不治の病や難病はその限りでは無い。


 …そう、確かに風呂は大事な衛生管理要因の一つなのである。


 幸か不幸か、日本列島は火山プレートの隆起で出来上がった火山島である。日本の火山分布を見れば、誰もが初見時には自分の想像をはるかに超える火山の数に目を剥くはずだ。

 その為に日本は度々大きな地震によって実害を被り、火山の噴火で被害を被り、これからもそれらに怯えながら共生していくしかないのだ。


 …しかしその火山の副産物こそ日本人が愛してやまない温泉でもあるのだ。


 …この峠道で見つけた小さな間宿には、その敷地内に温泉があった。

 …そう、風呂である。


 それもただの溜めた湯ではなく、かけ流し…常に清潔な湯がとめどなく流れて来るのである。これ以上の贅沢な入浴方法もあるまい。

 

 温泉は混浴でこそあったが、宿の主人に頼み込み、十分な金を支払う事で交渉は成立した。


「…これより40分間、レディ達が入浴行動に入る。我が大淵小隊・野郎’s Aチームは、各自東西南北の警備に当たる。 …こんな山奥で痴漢もクソも無いと思うが、万一にも妖怪などが現れないとも言い切れん。各員、警戒に当たってくれ。…くれぐれも、覗きなどは絶対にしないように」

 

「ん~、一番危ない奴に言われてもなぁ?浮田?」

「え、ええぇ…?」

 黒島から冷やかしの視線を浴びるが、大淵は鼻でせせら笑った。


「生憎だが、俺ならそんな惨めでみっともない真似はしない。 …見たければ覗きなどせず、堂々と入って行くさ。…それが漢ってものだよ、黒島くん?」

 そう冗談半分に見栄を切って見せた。…勿論、そんな気も度胸もないが。


「い、言ったなテメェ!?」

「す、すげぇ…」

 浮田が素直に感心して見せた。

「さて、野郎トークもここまでだ。尾倉は南、黒島は北、藤崎・浮田は西を、俺が東を警戒する。各自配置に付け。 …命懸けでこれまで頑張ってきたお嬢さん達に、ささやかなご褒美をプレゼントしてやろうじゃないか」

「「了解」」


 東側は鬱蒼とした山林に囲まれた一帯である。…露天風呂を覆う壁は木の板一枚の頼りない物であり、大淵側の警備は責任重大だった。

 …だが、あらゆる攻撃の気配…敵意を察知できる自分の前では、どんな待ち伏せも奇襲も不可能だ。

 不埒な妖怪や賊が現れたなら、早速この熾煉の錆…いや、煤に変えてやろうでは無いか。 

 

「ダイス先生~!すごくいい湯加減ですよー。ご一緒しませんかー?」

 メノムか。からかってくれる。 


「他のお嬢さんたちの許可が下りたら今すぐにでも行くぞ?」

「「ダメ~」」

 張り艶のある声が笑い声を含みながら揃って否定した。 余程満喫しているらしい。結構な事だ。


 チッ、やってらんねーぜ、なぁ、浮田!? …と、黒島がぼやいた


「それは残念」

 腰を下ろし、穏やかな秋の青空を見上げた。…温泉か…交替になったらビールでも飲みながら入りたい…尾倉の収納にまだ残っていないだろうか?訊ねてみるか…奴はビール漬けなんかも研究しているらしいから…


 視界の端に動く物を見つけ、大淵の体は自動的に戦闘姿勢に移行した。

 座ったまま、コンマの次元で手にしていた騎兵銃をインスティンクス照準…引き金に掛けた指先が向く方向や銃口の向き・位置を感覚的に把握する事で、照準器を覗いたりストックを肩に付けるまでもなく、中近距離の標的のおおよその位置を撃ち抜くことができる。


「…鹿…?」

 

 鬱蒼とした薄暗い林の中に鹿の角が踊っていた。…牡鹿が角の手入れでもしているのか…?


 大淵は腰を上げ、精密狙撃の姿勢を取った。今度は肩にストックを付け、二百メートル以内であれば十円玉を撃ち抜くことも造作無い精密射撃が可能だ。


 …しかし、その鹿はおかしかった。

 

 鹿の立派な角の下には…銀ピカのボール頭があったから。


「…」

 大淵は銃身を強化した。

 …奴を殺したらどれだけの経験値が手に入るだろうか?…個人的には天文学的規模の経験値を貰えてもいいとおもうのだが。

 

 と、銀ピカ頭がスケッチブック…収録現場のやり取りのように筆談を始め出した。


『昨日の炎竜様の件、大変申し訳ありませんでした!(汗汗)』


 …気色悪い。

 文体や字面の事ではない。…奴が謝罪から始める事自体が滅多に無い事で、気色悪いのである。


『補償の件だけでは足りないと思い、ラッキークーポンをご用意いたしました♪』


 …益益以て嫌な予感がしてくる。大淵は騎兵銃をその銀ピカの脳天に定めた。…が、こんなものでどうにか出来る相手でもあるまい…

 銃口を下げた。

『では、ご堪能下さいッ! お約束・嬉し恥ずかしクーポンをッ』


 銀ピカが指を鳴らすと、森のあらゆる茂みや影から暴れ狂ったように大量の猪の群が突進してきた。


「う、うぉおおおおッ!?」 

 猪に敵意が無かった為、その光景を見て大淵は軽いパニックに陥った。


「ど、どうしたの、大輔君!?」

「せ、先生ッ!?」


「い、猪がァッ」

 強化しないまま、条件反射的に一体を撃った。…しかし猪も何かしらの強化をあの銀ピカに施されているのか、弾丸が通る事は無かった。


「いィッ!?」


 そのまま、十数頭にもなる猪突猛進アタックを受け…薄い板壁を突き破って熱い湯の中に猪と共に沈み込んだ。


 自分を湯の中に押し倒した猪を押し飛ばした。大淵に突き飛ばされた猪は我に返ったように慌てて森へと逃げ帰っていく。


「ゲッ、ゴホッ!ウッ…」


 …眼、耳や鼻、口にまでたっぷりと温泉を飲み込んでしまっていた。その場でひとしきり噎せ返り終え…迂闊にも目を開けてしまってから…自分がどこにいるのか、ようやく思い出した。…そろりと両手を上げ、無実を訴えた。 …全員、既にタオルで防御しているとはいえ、あまりにも刺激的な光景だった。


「ち、違う、これは…」


「大淵~、振り返ったら天国が見えマスが、それは地獄への片道切符にもなりマス。…それか、そのまま出て行くか。どっちを選びマスかぁ?」


「キャーッ、ついに一線を越えたか、隊長ッ!? 正真正銘のケダモノよぉ~!!」

「す、すげぇ、大淵さん…有言実行した…漢だ…!」


「ちがーうッ!!」


「ユーゲン実行? …浮田、その話、詳しく…」


「すまんッ!誤解だ、俺は何も見ていないッ!」


 背を向けたまま、それこそ猪のように飛び出して行く。


「…あら~、チョットからかい過ぎちゃいましたカネ?大淵には刺激強すぎタカ」


「…結構気にする…というか、本気でへこむと思うから、後でフォローしてあげた方がいいよ」

 大淵がわざとそんな事をする手合いで無い事も、誰もが知っている。…大量の猪に押されて入り込んでしまった事も。…しかしあれは一体何だったのか…?


「フム。あれでもあ奴なりに苦労しておるからな。…偶の褒美として免じてやるが良い」


「私一人で慰めちゃっていいんデスか~?」


「…うん、私達も手伝うから。一人ではダメ」

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