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転生先はパラレルワールドだった(番外)  作者: こぶたファクトリー


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スノーレジャー

2月13日

 

 都内の復旧・復興作業の為、大淵小隊はボランティアとして活動していた。

 …とはいえ、ヒーリングが出来る香山を除けば、あとは特段の専門職を持つ訳でもなく、電気工学に造詣が深いとはいえ未成年の星村を単独で現場に派遣するのも憚られ、炊き出しと瓦礫の撤去作業が主な仕事だった。

 民間のボランティアに混ざり、絶世の美女揃いと言っても過言では無い斎城はじめ女性達の炊き出し班や、モンスター紛いの巨躯と厳めしさを持つ藤崎や尾倉が重機顔負けの瓦礫を運んでいく。


 大淵も黒島と共に、寒空の下で汗を拭い、斎城と彩音から指導され、後方からマオに囃されながら豚汁作りに悪戦苦闘するリザベルを見守った。


 テントの脇にはデカデカと「大淵小隊炊き出し 豚汁とおむすび」…と、のぼり旗がはためいている。


 …理屈っぽく言えば、今回の騒動で圧倒的なヒーローとして名を馳せてしまった憂国烈士団に対抗するアピールだった。 憂国烈士団による東京動乱の後、それまで堅調だった内閣支持率に陰りが見え始めていた。


 …代わって微かながら支持率を集め始めたのは、それまで極端な物言いにより誰からも敬遠されていた日本党…あらため、憂国党であった。 …安直にも憂国烈士団の人気に便乗しようという魂胆が丸見えだったが、一笑に付すには危険な台頭を始めつつあった。

 やはりその政治公約は「和平条約の見直し」「米国の干渉を拒否する」…などと言った、憂国烈士団の目的をややマイルドかつ現実的にした、比較的受け入れやすい内容となっていた。



 だが、憂国烈士団以上に若者達を中心として人気を集めたのは、大淵小隊だった。…斎城が多数の烈士団員に囲まれながらも、峰打ちで烈士団員を返り討ちにするシーンや、大淵が「ブロワー」で車両や憂国烈士団幹部を豪快に吹き飛ばす映像、そして騒動後、香山が病院で負傷した老人をヒールで治療する姿が大々的に報じられていた。

 …自分達はピンチにある岩田内閣への援護射撃…テコ入れとしての意味合いもある。

 この炊き出しもその一環という訳だ。


 だが、そんな政治的な理屈抜きにして、あの惨劇を目の当たりにした当事者としては何か復旧の為の手伝いをしたかった。…罪滅ぼしとしても。


「こら、アリッサ!つまみ食いしない!…あなたも手伝って!」


 おむすびに添える沢庵をくすねたアリッサを斎城が咎める。


「ン~、ヤミィ~♪ 斎城が漬けたんデスか?美味しいデス。…これは、将来のダンナの胃袋も掴んで離しませんねぇ?」

「そ、それは……そうかな?」

「大淵なんか美味しいもの大好きデスから、イチコロでしょうねぇ~」

「…」

 隣でおむすびまで「味見」しだしたアリッサを止めもせず、ぼんやりと…しかし丁寧に具材を切り分け始めた。


 …いや、そんな簡単に丸め込まれるな、斎城よ。


「…ところで大淵君、我が秘蔵のコレクションは気に入ってもらえたかね?」

「…ッ、やっぱりお前の仕業だったのか!マオや斎城たちが見つけて大変だったんだからな!?」

 …マオには無邪気な質問攻めにされ、斎城には冷やかされ、香山はなぜか真剣に雑誌を読み込みはじめ、アリッサは勝手に自分の趣味を決めつけ…と、頭を抱えたものだ。


「何を恥ずかしがることがある? そんなことより今日でボランティア活動も終わりだ。…ちょうど明日から連休だ。偶には小隊員全員で遊び歩こうでは無いか。…労いも込めて、な」

「…そうだな」 …ちょろいのは自分も同じか、と我ながら呆れつつ、溜息を吐いた。


「おあつらえ向きに明日から三連休だ。列島全体が暖かな天気になるようだし、スノーレジャーなんてどうだ?体を動かして嫌な事は忘れ、温泉で疲れを取る…この時期にしかできない部下への最高のサービスになると思うが?」

「…お前の事だ、どうせもう目星とアクセスの確保はできてるんだろう?」

「分かってるじゃないか。じゃあ、決まりでいいな?…詳細は後で送る」


 大淵の肩を叩き、黒島はメイルアーマーの筋力アシスト機能を起動し、再び作業現場に戻った。…とはいえ自分達素人にできる作業はもう、殆ど終わりつつあった。

 大淵も明日からの行程に思いを馳せつつ、筋力アシスト機能を起動して後に続いた。



2月14日  朝7時、東京を出発した新幹線で新潟方面へと向かう。


「いやー、新潟なんて初めて行くなぁ。米と…豪雪しかイメージ無いが、お二人さん、そこんところ実際どうなんだい?」

 向かい合わせに座った六人掛けの席には、自分を中心として左右に斎城とマオ、向かいにアリッサと香山、リザベルという花に囲まれ、はす向かいの四人掛け向かい合わせには尾倉と藤崎が収まり、隣の四人掛け席に川村と星村、黒島が座っていた。…黒島は私物のボードと装備一式を持参してきていた。

 コンビニで買ってきたサンドイッチやおにぎりなどで簡単な朝食を摂っていた。


「…何故俺に聞く?」

 サンドイッチを頬張りながらも、ポーカーフェイスを保って黒島を冷ややかに見つめ返す。

 …後ろではアリッサがニヤニヤと香山を冷やかすように見つめ、香山が目を逸らしつつ冷や汗を流す。

「あっ、あの、米どころで水も豊富だからお酒も美味しいですよ。地元のブランド肉とか日本海のお魚も多いし、温泉もたくさんありますし、特に冬なんかはこうしてスノーレジャーに向いてると思います」


「桜、スノーレジャーとはなんだ?」

 窓の外を見ていたマオが香山を振り返った。

「雪の斜面を二本の細い板で滑るか、一本の大きい…ほら、黒島くんが持っているような板で滑るんだよ」

「ふむ?人間は雪の上を板で滑って楽しむのか?珍奇な嗜みだな?」

「あはは…マオちゃんならきっと気に入るとおもうけどなぁ」


 わずか一時間半もしない内、小高い山に囲まれた山間に一際目立つゲレンデと施設が見えてきた。

「よし、着いたぞ。各自、忘れ物の無いように…俺の純粋な心のように、な…」

「…お前が忘れたのは恥だろ。行くぞ」


 駅に降り立つと、スキー場が隣接していた。これならタクシーもバスもいらない。


「東京駅から板も持たずに直で行けるんだ、スキーブームの頃は相当流行っていただろうな」

 スキー場の方から時代を感じさせるラブソングが聞えてくる。


「おお、これだけの雪か! これだけ本格的な雪は、私も百年前の父上との戦線視察で見たっきりだな!」

「ああ、二日間、思う存分楽しんでいけ。ほら、何も板で滑るだけじゃなく、あんな風に楽しむのも一興だぞ」

 大淵が指さす先には平地でかまくらや雪だるまを作っている子どもたちの姿があった。

「う、うむ。人間がスノーレジャーを嗜む理由が分かった気がするぞ、ダイスよ」

「そんじゃあスノーウェアや板を借りて来るか」


 予め人数分と各サイズを予約してあったため、各アイテムが用意されていた。


 黒島、尾倉、藤崎、川村、アリッサらがボードで、その他全員は香山と星村以外初心者という事もあり、スキーで楽しむ事とした。


「リフト券は持ったな?無くすなよ。ほんじゃあ12時にこのレストハウス前で落ち合おうぜ!お互い何かと目立つだろうからすぐわかるだろ」

「そうだな。それぞれ楽しむとしよう」


 そう言うとボードチームは慣れた様子でリフト乗降口へ向けて滑り出して行った。


「さて…と」

 大淵は香山を振り返った。 何故か香山が顔を赤らめる。

「おねがいします、香山先生」

「お願いします」

「苦しゅうない、良きに計らえ、桜よ」

 思い思いに香山に教授を乞う。

「は、はい。それじゃあまず、基本の動き…カニさん歩きから…」

 30分程初心者講習を受けた後、思い思いに滑り出した。さすが、斎城はセンスがよく、それらしく滑っている。 


「わわわっ!大淵さん退いて!」

「え…ぐわぁっ!」

 背後から星村にバックアタックされ、そのままこんもりと積もった深雪の中に二人でダイブした。

「だ、大丈夫ですかっ?」

 香山が雪を飛ばしながら駆けつけた。

「な、何とか…」

 星村が小さな体を自分の上から起こした。

「こちらも…うわ、自分のデスマスクが出来てやがる」


「ど、どうかお待ちを、マオ様…!」

「リザベル、ついて参れ!」


 見るとマオも割とセンス良く滑っているようだ。…リザベルはへっぴり腰のまま、脱走犬の如く離れていくマオを必死に追いかけている。


「どれ、俺の方はどうかな…」

 スキー板やボードは騎兵スキル恩恵の対象外だった。だが、こんな楽しそうな事なら偶には自分の力で習得してみるのも悪くない。

 まずは平地でキックして前進…キックにより速度を出してきた所でプルークターンを試してみた。…なるほど、こんな感じか?

 板の両側面…エッジと呼ばれる金属の縁への体重移動と、両板の角度が肝要らしい。…バイクの重心移動とさして変わらない。


「大淵くん、上手です!」

「桜先生の教え方が上手いからな。…マオの奴め、調子に乗って…ちょっと追いかけて来る」

 大淵は未だマオを捉えられずにいるリザベルの後に続いた。

「…」

「香山さん、これ、外れちゃったんですけどどうしたら…どうかしたんですか?」

「ななな、なんでもないよ!?」

 星村の声に我に返った香山は慌てて取り繕うと、星村のスキーブーツを再接続した。



「…そこのチビッ子、止まりなさい、止まりなさい」

「むっ、ダイスか。捕まえられる物なら捕まえて見ろ!」

 すっかりスキーにご満悦のマオは更に姿勢を落とし、ぐんとスピードを上げてなだらかな練習エリアからゲレンデの方へと向かっていく。

「お、おい、そっちは結構急斜面になるぞ! …まったく…!」


 ゲレンデの滑降ポイントまで猛スピードで向かったマオは、後ろから追いかけて来る大淵にばかり気を取られていた。…前方不注意のまま、絶叫が尾を引いてゲレンデにこだまする。

「ふぎゃあああああっ」


「ほら見ろ…!」 

 他の誰かにぶつかって怪我でもさせたら目も当てられない。…マオ自体は恐らく高いステータスもあり、無事だろうが…


 香山に教わったボーゲンとプルークターンを活用しつつ滑降する。…やがて、直滑降で猛スピードのまま雪壁にぶち当たっているマオを発見した。

「大丈夫か!?」

「だ、ダイス、助けろ~」

 深雪の壁に深々と埋もれているマオを発見し、発掘作業に移った。

「た、助かった」

 全身に雪を被ったマオは、犬のように体を振って雪を払い飛ばした。

「…まったく、危ないからあまりスピードを出し過ぎるなよ?…今はこのくらいで済んで良かったが、お前や他の人が怪我したら折角の休暇がパーになっちまうぜ?」

「むぅ…気を付けよう」


「そんじゃ、リフト乗り場に向かう前にリザベルを待ってやろう」

 やがて、ゲレンデの頂上にリザベルらしき影が見えた。…足が竦んでいるのか、自分と魔王が手を振っても中々来ない。…やがて、意を決したように蟹歩きでこちらに下りて来ようとする。


(あの距離から…時間はかかるが、まぁいいか)

 そう思って見守っていたが…重心の掛け方が後ろ寄り過ぎたのだろう。ゲレンデを横断するように後ろ向きのまま、ずり落ちるように滑っていく

「いやぁあああ~!」


 リザベルの悲鳴が尾を引き…ゲレンデ脇に作られていた3メートルもの巨大雪だるまにぶち当たった。

「うぅむ…」

 相次ぐ惨事に目を塞ぎたくなりながらも蟹歩きでリザベルの元に向かった。

「大丈夫か?」

 頑丈なリザベルの事だ、体の方は全く心配していない。

「だ、ダイス殿~」

「…泣くな、鬼の竜撃隊だろ?」

「うぐ…そ、そうだ…この程度で…」

「うむ、リザベルよ。また一つ、戦士として成長したな」

「は、はっ。恐縮です…」

 雪だるまを余計に損壊させないようにリザベルを引き抜きつつ、周囲の雪を詰めてへこみを修復した。

 雪だるま修復が終わる頃、既に一滑りを終えて合流した斎城と香山、そして見違えるように上達してきた星村がこちらに向けて滑ってきた。 

 

「あら、こんな所で何を?」

「…色々あってな。ちょうどいい、皆で一緒に行こうぜ」

「そうですね!」

 斜面に身を任せて滑り出す。背後のマオとリザベルに注意しながら滑る程度の余裕はあった。

「斎城さんも大淵くんもすごいです!皆さんも飲み込みが早いですね!」

「桜のおかげだって。しかし、スキー場ってのは2月でもこんなに雪があるんだなぁ…」

「最低でも3月一杯までは開いてますよ。 …ただ、小雪の時は早く営業終了したり、営業できない時もありますけど」

 香山と並走しつつ、またコース外に突っ込んだリザベルを見てターンした。


「先に行っていてくれ、マオと星村を頼むー」

 そう言い置き、コース脇で足だけ出して深雪に埋まっているリザベルの腰を掴み、引っ張り出した。

「どうした?ボーゲンしようとしてスキー板をクロスさせちまったか?」

 自分も練習時にやったから分かる。ボーゲンをしようとして勢い余り、片方の板の上に板が乗ってしまうと、コントロール不能になる。


「す、すまぬ…」

「なんの。…楽しんでくれているか?」

「ん? ああ、魔界では武芸以外嗜む事は無かったからな…だが、ようやく滑れるようになってきた。…これが楽しい、というものなのだろうか」

「嫌だと思ってなければそれで間違いないさ。…良かった。俺と黒島の思いつき見たいなもんだしな、今回のスキー旅行は…黒島の奴は明らかに自分の趣味もあるが」


 限りなく平地に近い、なだらかなゲレンデだった。まだキックが上手くできないリザベルの背を押し、自分もキックで再スタートした。


「…何より、魔王様がああも喜んでくださっているのが私には心から嬉しいのだ」

「…だな。他の奴らも皆楽しんでくれていて良かった」


 リフトで自分達の頭上を手を振りながら通り過ぎていく香山達やマオ達の姿があった。手を降り返しながら自分達もリフト乗降口へと向かった。

 腕に巻き付けるタイプのクリアカードケースに入っており、一々取り出す必要はない。

「お、おい、これはどうやるんだ…」

 ゆっくりとだが、次々と回っていくリフトを見て、リザベルは狼狽えた。

「タイミングを見計らって、あの線の上で待つ。…で、膝カックンされながら座るんだ」

「ヒザカックン…?」

「ちょうど、前の人らを参考にすると良い」

 自分達の二組前のボーダーが滑り出し、スムーズに着席した。

「あんな風にな。…先に行こうか?」

「ば、馬鹿にするな。あのくらいどうということはない。行くぞ」


 リザベルの背を押してやり、自分もその隣で滑った。…やや遅れ気味なリザベルの手を引いてやり、乗り込み線へと辿り着いた。「膝カックン」をされながらリザベルと共に無事、リフトに座った。


「な、簡単だろ?…危なくなった時は係員が止めてくれるはずだから」

「う、うむ」


 ゆっくりと流れていく雪景色を眺め、リザベルはその光景に見入っていた。

「…そういや、お前と会ったのは最悪な状況だったけな」

 魔王救出後、一騎討を申し込まれた。…なんとか勝ったが、決闘のしきたりによってリザベルを殺せと、本人からも周りからも促された。

「む……あの時、ダイス殿には散々に諫められたな」

「そ、そうだったな……でも、生きていて良かったと、今なら思えるだろ?…あと、殿もいい。呼びやすく呼べ」

「…そうだな。ありがとう、ダイス。 …あの時死んでいれば、魔王様の笑顔を見る事も無かった」

「…聞いたぜ。相手を殺さずに拠点を守ってくれてたんだってな。こっちこそありがとうな、リザベル」

「…お互い様だ」


 リフトを降りて滑っていくと、香山達と黒島達も合流していた。

「どうした?昼飯にはまだ早すぎるが」

「そっちも大分慣れてきたみたいだから、中級コースにお誘いしようと思ってな」

「どうする、リザベル、マオ?」 この中で支援が必要なのは今のところこの二人だ

「私は行くぞ!」

「わ、私もお供致します!」

「決まりだな、行こうぜ。今度は森林地帯コースもあって、そっちはスリリングになるんだ」

「わはは、天気にも恵まれて最高の日和だ!」

 藤崎が満足げに笑った。…しかしスキー場も、よくこの男のサイズのウェアや道具を揃えた物だ。

「大淵~、一緒に滑りマセンか~♪」

「ああ、リザベルの卒業試験が無事に終わったらな。桜はマオを頼む」

「わ、わかりました」


 リフト乗り場へと向かった。


 

 やや傾斜もキツくなった中級コースを走る。 前を走るリザベルも大分上達していた。

「良い感じじゃないか、リザベル。後は一人でも大丈夫そうだな?」

 …そう声を掛けた途端、コースアウトしていった。

「わあぁああ!」

「どこ行くんだお前!?」


 べキン、という音がした直後、メキメキという音が響き渡り、勢いよく突進された杉の木が倒木した。

 …当然の如く、リザベルは無傷だった。

「す、すまんダイス。まだ私にはお前が必要なようだ」

「うーむ…良い感じだと思ったんだがなぁ…」


 

 12時になり、レストハウスで食事休憩にした。


「…誰か教えてくれ…晴天のスキー場で食うカレーとビールは何故こんなにも美味いのか」

 ゲレンデを物憂げに眺める黒島の隣で藤崎が豪快に笑いながらビールを置いた。

「俺はどこで飲み食いしても美味いと思うがな!」

「右に同じ」

「…」 尾倉も黙ってビールを呷っている。

「っだく、ロマンの無ぇ奴らだ」


 大淵はジョッキを傾けた。

 マオが物欲しげに見ながら炭酸ジュースで我慢する。…赦せマオ、宿の宴会まで我慢してくれ。

 そう念を送ると、コクリと頷いた。


「…宿泊場所までは徒歩で行けるのか?」

「いざとなりゃ徒歩でも20分程で行けるが、宿泊客がいる時に限り、特定の時間に送迎バスを出してくれている旅館だ。心配はいらない。五時半にここへ来てくれるから、五時頃になったら道具を一旦返却して旅館へチェックインだな」


 午後一杯もゲレンデを駆け回るうち、問題児だったリザベルもすっかり上達し、全員が中級者以上にまで上達した。


(次に来る時はボードにも挑戦してみたいな…)

 日が暮れ、暖かな夕日を名残惜しみつつ、大淵は待ち合わせ場所の広場に全員が集合するのを待っていた。 やがて藤崎、マオ、リザベルに続いてアリッサが道具や装備を返却して戻り、全員が集合した。


「時間も丁度いいな。まだまだ楽しみたいって奴は、夜から二時までナイターもやってるぜ。また雰囲気が違って乙なもんさ」 

「ナイターか…」

「大輔君、行くの?そしたら私も行こうかな」

「…いや、俺は酔いつぶれてるだろうな」


 旅館の送迎バスが到着し、全員が乗り込んだ。


 温泉で汗を流して温まり、貸切タイプの宴会場で浴衣に着替えたメンバー全員と共にコース料理と地酒を楽しんだ。

「けどマオ、それ大人用の浴衣だからダブダブだな。私服に着替えた方が良かったんじゃないか?」

 …端から見ればとんでもない事だが、マオに酒を注いでやった。…未成年どころか、中身は200歳超えなので、第三者に見られさえしなければ問題ない。…万一見られたとて、魔王の魅了で記憶も操作できるのだが。

「可愛いですけどね」

 香山が微笑ましげに笑った

「…ふふん、問題ない。どれ、魔力の蓄えも元に戻った事だし、見せてやるか」


 魔力? …そう言えばあのゼルネスとかいうのに魔力を奪われて以降、徐々に魔力が元に戻ってきたんだったな。

 一時は底を尽きかけた魔王の魔力…MPだが、今はなんと5000を数えているという。

 …勿論、人間の姿に化けている間は一切のステータスが隠されるため、今は見えないが。


「見せるって、何を?」

 大淵が首を傾げた。

「おっ、マオが隠し芸か?瓦なら無いぞ?」

 酔った黒島が囃す。


「どれ…」

 バチンッ、と部屋中が短いスパーク音と眩い光で支配された。

 閃光手榴弾でもこんな眩さにはならないだろう…そう思いながら隣の魔王を見ると、ダブついた浴衣姿が無かった。

 …代わりに、浴衣がはち切れんばかりに成長した姿があった。…赤銅色の豊かな髪に両脇からはリザベルのそれより遥かに立派で禍々しい茶褐色の角が、鋭い牙のように天を狙い…黒い眼の中で赤銅色の瞳が嗤っていた。


「お、おま…マ、マオ…なのか?」

 酒を取りこぼし掛け、思わず噛みながら訊ねた。他のメンバーも呆気にとられているのか、誰一人声を発さない。

 天真爛漫としたチビ助の面影は…いや、よく見れば、悪戯好きそうな顔や覇気に満ちた御転婆な雰囲気は、マオのそれだった。

「ふはは、愛

 MPは4000…HPに至っては驚異の500000になっていた。


「まぁ、これでせいぜい半日だがな。 どうだどうだ、大いに惚れ直しただろう? 何なら褥に…」

「い、行かね…」

 …途端、俄かに強い感情が芽生えた。 …性欲では無い。 …殺意。

(…勇者が反応しているのか…?)

 

 魔王が一時的とはいえ、本来の成熟した姿になった事で殺戮本能が目覚めたとでもいうのか…

 斬らせろ、と久方ぶりに聞く勇者の怖気を催すような歓喜の声が聞こえた。

(…勿論そうはさせんがな。 大人しく眠ってろ)

 勇者の強烈な欲求を腹の奥へと押し込めた。


「…まったく驚いたぜ。…おい、それで人間には化けられるんだろうな?」

 黒島が驚愕半分呆れ半分といった顔で声を上げた。

「無論」

 得意げに笑うと、黒髪に人間の目、異様に青白かった肌は色白めな肌へと変化した。

「すげー、マオ、お前そんな発育良いのか!?」

 小柄な川村が無邪気に羨んだ。

 背は…165くらいか。

「うむ、あと千年すればな。案ずるな彩音よ、お前もあと1000年したら私のようになれるだろう」

「いや、死んでるっての!」

 

 賑やかな宴会を終え、自室へと戻る。全員にそれぞれ個室が宛がわれていた。

 

 黒島と川村はそれほど飲まず、星村も連れてナイターに出ると言っていた。部屋に向かう途中の廊下で旅館が出してくれる送迎車のテールランプが見えた。

「元気な奴らだ…フワッ!?」

 欠伸交じりに感嘆していると背後からつつかれ、奇声を上げながら慌てて振り向いた。


「飲み直さない?」

 斎城が一階の売店で買ってきた酒類の入った袋を掲げて見せた。

「斎城か…驚かすなよ…けど、良いね」

 斎城はジト目で頬を微かに膨らませた。

「…私は名前で呼んでくれないんだ?」

「ん…?」

 

 急に何のことかと思い、心当たりを探った。

「…香山さんのことは名前で呼んでたくせに」

「あ…あぁ!そう言えば……そうだな……日菜子」

「ヒナでもいいよ?」

「ヒナ…そうだな、普段はヒナがいいかもな」

「うん!行こ」


 斎城の部屋に招かれ、遅くまで語り明かした。




「ダイス、昨日はどこへ行っておった?」

 朝食の席でマオが不機嫌顔でつついてきた。

「…部屋で寝ていたかな」

「私と桜で何度も呼んだが応じんかったな?」

「…すまん、酔って泥酔していたんだろう」


 香山が遠慮がちに斎城に疑いの眼差しを向けるが、斎城は全く動じずに朝食を口に運んでいる。…アリッサは知っているのか、ニヤニヤと訳知り顔で自分達を見ている。


 …黒島はというと、この手の話題にすぐに絡んできそうなものを、手元のタブレット端末を眺めて苦々しい顔をしている。

「…どうした、そんな顔して。持ち株が暴落したか?」

「至って堅調だよ。…いや、熱心な御仁がね…」

 タブレット端末を渡されると、幾つかのメールの題名が見えた。

「銃士・砲兵募集の件」が不特定多数から何件も。そしていくつかそれらのメールに埋もれながら最新のものが「ギルドメンバートレードの件について」だった。送り主は…高田なる人物。


「要するに斎城と香山、それから星村を、トレードしてくれって交渉なんだが、こっちは傍から交渉する気も無いってのに執拗でな。本人達も移籍する意思は無いって伝えてあるのに…終いには弁護士立てて乗り込むぞコノヤローと来たもんだ」


 斎城、香山、星村は揃って溜息を吐いた。



「…その高田ってのはどんな奴なんだ?」

「ゲート防衛部隊と現地調査部隊にかなりの割合の人間を送っている、やり手のギルド経営者ってところだな。…まぁ、黒い噂を幾つもお持ちの、俺は苦手なタイプだが。 余談だが、東京動乱の折にはゲート守備隊を視察…ストイックに叱りつけているところをカメラに見せつけている最中に為す術なく烈士団に拘束されていた」


 黒島独自の情報網によれば、まず女性ギルドスタッフへの暴行疑惑が三件。…戦闘クランメンバーへのモラハラパワハラはオンパレード、その他収賄の容疑あり。

 ただ、確たる証拠を残さない嫌らしさもあり、いずれの疑惑も弁護士と金に物を言わせ、全て有耶無耶にして揉み消している。

 

「休み明けに会わなきゃならん。はー…メンド…」

「…行間からお前への敵意がひしひしと伝わって来るぞ、何かしたのか?」

「冗談じゃない、こっちは顔すら会わせたことも無いんだぜ?ま、俺の卓越した経営センスに嫉妬してるんだろうな」

 黒島は冗談めかして言ったが、的を射ていた。


「まぁ、そんなのはどうでもいいさ、夕方まで目いっぱい遊んでから東京に戻ろうぜ」

「だな」


 午前中はスキーやスノーボードで思う存分滑り込み、午後からは全員で雪合戦やかまくらづくりを満喫した


「いやぁ… 今シーズン分、しっかり楽しんだぜ」

 既に時刻は17時を過ぎ、黒島はかまくらの奥にもたれ掛かりながら夕日を眺めていた。

「ああ。楽しませてもらった」

 大淵は尾倉と藤崎に橇を引かれてはしゃぐマオと星村を見送った。

 遊び疲れたか、香山も斎城も川村も、かまくらの壁や大淵の肩を枕にして眠っている。


「アリッサ、今度はプライベートでも来マス。目指すはバックカントリーデスね」

 アリッサはどこからか手に入れてきたみかんを剥いて食べていた。

「遭難するなよ?」

「イエス。…日本の山、アウェイデス。欧米やヨーロッパの山岳をイメージしてると、遭難しマスね」


「…よし。帰るか」


 両隣の香山と斎城を起こし、かまくらを出た。



 

 …こうして、大淵小隊のささやかな冬休みは終わった。

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