リズム
私はある神社に祀り上げられている化け狐の妖。
普段は自分の神社の巫女の姿に化けている。
私はある人間に恋をした。
笑顔が素敵な人だった。
田村くん。
近くの高校に通う一年生。
毎朝早くに神社にやってきて、拝殿の前で手を合わせ、「〇〇さんに想いが通じますように」と願っている。
私のことを見かけるといつも元気に「おはようございます」と挨拶してくれる。
私の力は年々衰えていっている。
人間に化けた姿を認識されなくなってきている。
初めは人間が姿を認識可能な日の間隔は一日だった。
変だと思ったのは、私が田村くんに「おはよう」と声をかけても返事が返ってこなかった時だった。
虫の居所が悪いのだろうか。
そう思った。
その日も願い事は「〇〇さんに想いが通じますように」だった。
寂しかった。
次の日は田村くんの方から「おはようございます」と声をかけてくれた。
また次の日もそのまた次の日も私は田村くんに声をかけた。
けれど、返事は返ってこなかった。
どちらの日も願い事は同じだった。
次に田村くんが口を聞いてくれたのは三日後だった。
いつもと変わらない様子で笑いかけて、挨拶をしてくれた。
その時やっと気づいた。
私は田村くんに存在を認識されていなかったのだと。
そして、私が存在を認識されてない間の記憶は、その場にいつも通りの私が存在していて私に挨拶をした記憶に改竄されているのだと。
その後、私が認識される日の間隔は一週間、二週間、一ヶ月、三ヶ月と長くなっていった。
いつも願い事は同じで変わらない。
そして今日は一年ぶりに田村くんに存在を認識された日。
「おはようございます」
そう元気よく私に挨拶してくれた田村くんは去年よりも少し背が伸びていた。
この日は願い事がいつもと違った。
そもそも願い事ではなかった。
「〇〇さんと付き合うことができました。ありがとうございます」と報告。
…私はきっとこのまま力が年々衰えて消える。
このまま衰弱して終には死ぬ。
それでも、田村くんよりも寿命はまだ先だ。
妖の寿命は長い。
私はずっと田村くんのことを覚えているのに。
一日だって忘れたことなんてなかったのに。
田村くんも私のことを片時も忘れたことなんかなかったかのように振る舞う。
でも、これはしかたない。
そういう世界のそういう仕組み。
田村くんとは生きるリズムも濃度も重みも全部全然違う。
もしも同じリズムで生きれたら。生きる時間が同じなら。
人間と妖。
そんな障壁さえなければ望めたはずの当たり前を願えたら。
そんな余計なものを全て取っ払えてしまえたら。
次に田村くんに会えるのは二年後か五年後か十年後かはたまたもっとずっと先の未来か。
妖の寿命がいくら長いとは言っても。
そのうちの数年なんて大したものではないとは言っても。
長いものは長い。
一年は一年だ。
十年は十年だ。
それでも私は待っている。あなたと会える日をいつでも待っている。
読んでいただきありがとうございます…✨
本当に本当に感謝です!




