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私は看護師だから

作者: 霜月希侑
掲載日:2025/10/15

 上司の言葉に背中を押され、初めて心療内科の扉をくぐった。誰も口には出さないけれど、頭のどこかで囁く声が響く。「看護師のくせに心療内科だなんて」「自分の心を制御できないなんて、看護師失格だ」。その声は私のものなのか、それとも誰か他人のものなのか、わからない。


待合室には、穏やかなピアノの旋律と柔らかな空気が漂っている。なのに、その静けささえ、私を静かに責めているように感じた。問診票の職業欄に「看護師」と書いてしまったことを悔やむ。看護師なのだから、心の乱れなどあってはならない。患者の痛みに寄り添い、笑顔を支える私が、こんな場所にいるなんて許されないことのように思えた。


番号を呼ばれ、恐る恐る診察室に入る。医師の声は、驚くほど柔らかだった。まるで春の風がそっと頬を撫でるような優しさだ。問診が進むにつれ、言葉が喉に詰まり、気づけば涙が頬を伝っていた。看護師なのに、泣くなんて。自分で自分を責めながら、涙は止まらなかった。


会計を済ませ、薬局で処方箋の袋を受け取る。「看護師なのに薬に頼るなんて」。またあの声が、どこからか聞こえてくる気がした。


家に帰り、静かな部屋で薬の袋を手に持つ。看護師として、患者の苦しみに寄り添い、笑顔を取り戻す瞬間を何度も見てきた。あの瞬間が、私を看護師たらしめてきたはずなのに、今、自分の心はどこか遠くに置き去りにされているようだ。


そして、私は決意した。

私には看護師として、いや、人間として生きている価値などないのだ。


死への恐怖など全くなかった。看護師の癖に自分のメンタル管理もできないことの方が罪だから。

看護師になって、患者さんの苦しみに触れた瞬間、苦しみに顔を歪めていた患者さんが笑顔になる瞬間、患者さんとともに回復への希望を築き、笑い合った瞬間。全てが走馬灯のように蘇ってくる。



視界が真っ白になった。音も光も何もない。

来世でも看護師として生まれたい。来世では、もっと看護師として価値のある人間であることを願う。

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