なんやかんやで金がかかる
「ん。おはよう」
目が覚めたのは恐らく最終下校時間近く、放課後の喧騒が引いていき、物悲しさを感じる時間。
「おはようございます……」
「あっ、なっちゃんおはよー」
「おはよ」
二人だけで部活なんてさぞ退屈だろうと、申し訳なさを覚えたが先輩も佳も、表情は満足した感じ。佳は先輩と二人だから分からなくもないけど、先輩はなんで……?
「ずっと二人でかるたしてたんですか……?」
「生徒会長が遊びに来て、三人でやってた」
あの生徒会長が⁉ やっぱり遊びに来たんだ! それにしても昨日の今日で早すぎる気もするけど、まああの生徒会長なら仕方ないか。
「それなら良かったですよ、もう」
安心した。
「鳴月、起きられる?」
「はい、大丈夫です。明日こそは、倒れずに頑張りたいと思ってます」
「ん。頑張って」
起き上がって体をほぐす。佳からの陽に耐えられるような正月遊戯を考えなければならない。これは……外遊び、凧揚げをするべきか。凧揚げなら、個人技だし、佳の陽はあまり関係ない。周りからの目は……これは、分からない。けど、室内遊戯は佳との相性が悪いということが判明した。凧揚げなら尊敬の眼差し的な感じで見られることもないだろうし、凧揚げに上手い下手ってあんまり無いと思うし、凧揚げがいいかもしれない。
「帰る準備しますね」
「無理は駄目だよ」
「いやいや、和室に取りに行くだけですから」
パタパタと音を鳴らしながら和室に入る。うん、楽しんだみたいだ。テーブルの上に綺麗になおしてるかるたがある。
「棚とかあった方がいいよね」
私の後ろに着いてきていた佳に話しかける。
「なんでー?」
「いやほら、正月遊戯を置くためにさ」
「あー、なるほど。いる!」
「じゃあ今度の休み、必要そうな物を買いに行く?」
佳の後ろからやって来た先輩も和室の中を見て言う。
みんなで必要な物を買いに行くという活動もいいかもしれない。
「あっ、でもまだ部費出てませんね」
「あ〜、海幻ちゃ〜ん」
「ごめんねぇ、貰えるの来月からかもしれないのぉ」
六月も半ばだから来月まで待てってことなのか。佳がお願いすれば、あの生徒会長なら首を縦に振りそうな気もするけど、現実の生徒会長はそんな権限持っていないか。
「残念」
表情の変わらない先輩の顔を見ているとふと頭に浮かんだ。
正月遊戯部の活動には、正月遊戯が必要で、その遊戯は買わなければならないはず。かるたは佳が持っていたからできたものの、凧揚げの凧とかは買わないと駄目だ。え〜、来月までまともに活動できないじゃーん。
「正月遊戯って揃えるのにお金かかりますね」
「トランプなら持ってるよ」
「多分今日と同じことになります」
ババ抜きならと思ったけど、佳は顔に出やすいタイプだと思うし、多分今日と同じ展開になる。
「明日はすごろく持ってくるかあ……いや待てよ……。すごろく作ればいいじゃん」
すごろくなら、適当な紙とペンがあれば作ることができる。よしよしよし、これなら私が陽にやられることはないはずだし、みんなで楽しく活動ができる! はず!
「正月遊戯部のオリジナルすごろく、いいと思う」
「めっちゃ楽しそー!」
ははは……陽が……。
「じゃあ明日はすごろく作りってことで」
私はにゅるりと陽から身を守る(ナチュラルに先輩を盾にした)
明日の活動が決まったことで、荷物を持って今日は解散だ。
先生に挨拶をして保健室を後にする。
△
なんとか今日も無事に帰ってくることができた。毎日が決死の登下校、母もさぞ心配していることだろう。
「よかった、生きて帰って来てくれて」
「ガチトーンで言われると胸がきゅっとなるね」
「そりゃあ心配してるからね」
体育祭の日もあれだけ心配してくれていたんだからまあ当然か。でも別に悪いことしていないのに罪悪感が凄い。この感じだと、陽からのダメージを回復する方法とかなさそう……。
考えて自分で納得しても、それが正解な訳無いだろうから一応聞いてみる。自分一人の意見より、同じ陽に弱い者の母と考えた方がいいに決まっている。
「あのさ、陽からの回復方法って他に無いの? 今は寝てるんだけど」
私の質問に母はうーんと悩む、色々と思い出してくれているのだろうか。母は吸血鬼の血筋だから若く見えるけど普通に歳だ。若々しいのは見た目だけであとはもう錆びついてきているはず。
「見た目だけじゃなくて中身も若いままだからね、あんたが考えていること、お母さんも昔考えたことあるから」
「……吸血鬼って何歳まで若々しいの?」
「ええ? いくつだっけなあ……でもおじいちゃん結構歳なのに、歳のわりに若いからなあ……」
ちなみに母の父が吸血鬼の血筋だ。私が生まれる前の話だけど、祖母が祖父の若々しさにムカついて投げ飛ばしたらしい。なんで人間側がこうも武闘派なのだろう。
「心配しなくてもっていうか、あんたは気にするよね。お母さん友達いないから気にしなかったけど、見た目に関しては」
やはり中身も若く、私の奥底に潜む心配事まで当てられてしまう。別に母相手に隠す必要無いし、気づかれたのなら大人しく白状すればいい。
「将来さ、私の若々しさを見て佳はどうなるのかなって考えるときあるよ。吸血鬼のことを話ても話していなくても。寿命だってどうか分かんないし」
先輩もどうなんだろうか、人魚の血ってどれ程影響を及ぼすものなのか。
佳も先輩も、私にとっては二人共大切な友達だ。そんな二人と生きる時間が違うのは……我ながら結構つらい。今考えても仕方ないけど不安はやっぱり消えない。私の例からすると母や祖父、その先祖のことは当てにならないかもしれない。自分の内側と向き合える時間ができると、いつもこんなことを考えてしまう。
「…………ごめん、本当に分からない。それっぽいことは言えるんだけどさ、お母さんみたいに友達がいない人間が言ってもって。まあ、あんたが佳ちゃんを信じてあげるしかないってのは言えるけど」
「はあ……友達って大事だね」
「別にいいし、結婚して子供もいて幸せだし!」
「話戻すけど、陽からの回復方法って寝る以外に無いの?」
「ごめん知らない」
「これだからぼっちは……」
私の言葉に、どこか誇らしげな母。
そりゃ友達いないから陽にやられても寝ていられるもんね‼ 他の回復方法試さなくてもいいんだもんね!
全く、頼りになるのか頼りにならないのか。でも、こうして肩の力を抜いていられるって、実際かなり貴重なんだなって最近実感している。
「甘い甘い、友達はいなくても頼れる兄はいる。聞いといてあげるよ」
ちっちっちと指を振った母の言葉、頼るのは叔父なのになぜか偉そうだ。
「じゃあこれから叔父さん頼った方がいいよね」
「ちょっとぉ?」
「いやごめんて」
「まだ負けないから‼」
「なにが⁉」
なぜか必死の表情、でもなんか落ち着くなあ……。




