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吸血鬼が憩える保健室  作者: 坂持


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生徒会長は入部しない

「せっ……先輩……?」


 陽伽に飛び込み、それっきり動かなくなってしまった鳴月。上手くキャッチできたから怪我は無いのだが、いきなり抱きしめる形となってしまい、陽伽は起こったことに頭がまだ追いついてなかった。


 なぜ鳴月がこういう行動に出たのか、自分はどうすればいいのか。頭をフル回転させて考える。


「ん。流石鳴月」


 とりあえず、鳴月を褒めて時間を稼ぐ。


 鳴月の様子を見ていれば、佳の陽にやられたというのが分かる。そして、今この状況で、無難に倒れることのできる状況が無い。だからこうして陽伽に助けを求めて、もとい陽伽に全てを投げつけたのだ。


「鳴月、お疲れ様」

「先輩……なっちゃんは……?」

「ん。本気出して疲れたみたい。それだけ佳が強くなったってこと」


 とりあえず、ある程度の事実を述べ、佳を褒めておく。


「へへー、先輩に褒められたー!」


 佳は陽伽に褒められた事実に何度も顔を崩す。


 その様子に陽伽は胸が暖かくなるのを感じるが、倒れている鳴月を見て思考を切り替える。


 とりあえずいつも通りベッドに運べばいいのだろうか。鳴月を持ち上げて、最早学校で一番長い時間過ごしているであろうベッドの上に寝かせる。


 相変わらず表情がなかなかに酷い。超絶美人だからこそ、規制無く見られるような酷さ。見る者によればもう手遅れだと判断を下しそうだ。


「失礼します」


 鳴月をベッドに運んだ直後、なんとなく冷たさを感じる声がした。振り返るとそこにいたのは、生徒会長の橘氷奈だ。


「あっ、こんにちはぁ」


 それを迎える海幻に氷奈は会釈を返す。


「こんにちは。正月遊戯部の活動は……」

「保健室だよぉ」

「ああ……見間違いじゃなかった……」


 入ってきて早々、膝をつく氷奈である。


「あっ、会ちょー! 遊びに来てくれたんですか!」

「えっあっ、畑中さん……⁉ ええ……まあ……活動しているかどうかの確認をと思いまして」


 氷奈の頬が一瞬緩んだのを陽伽は見逃さない。ここは佳に任せておこうかと、陽伽は氷奈の目が届かない場所へと移動する。どうせそのうち佳が氷奈を連れてくるのだ。二人の時間をわざわざ邪魔しなくてもいい。


 しかし陽伽の予想は裏切られ、佳はすぐ氷奈を連れてやってきた。


「なっちゃん体あまり強くないみたいで、だから保健室にあのスペース作ったんですよー」

「そんな理由があったのですね……。まあ、スペースを作っているので、いいと言いたいのですが……保健室的には邪魔じゃないのですか?」

「そこはだいじょーぶです! 海幻ちゃんに許可取りましたから!」

「大丈夫だよぉ」

「はあ、それなら……永海先輩も?」

「ん。大丈夫」


 佳が連れてきた氷奈に頷く。


「そうですか……」

「………………」

「………………」

「………………」


 そして、眠っている鳴月を囲む三人の図ができた。


 陽伽は別に無言の時間は苦にならない。氷奈は無言に慣れてしまっている。この中で佳だけが、この空気を気まずいと思っている。


「やっぱりなっちゃんって綺麗ですよねー……」

「…………今は凄い顔をしていますが……確かに」


 これには触れないでおこうと我慢していた氷奈だったが、それを言わないと他の言葉を言えなかったため、仕方なく言った。


「なんか……うちだけ場違い感すごいなーって、今なんとなく思いました」


 鳴月を見て、陽伽を見た佳が今更なことを言う。


「私や鳴月とは比べちゃ駄目。佳も十分可愛い」

「そっ、そうですよ、畑中さんも十分可愛いです!」

「なんか……先輩達に言われると照れるーって感じ……」


 友達同士で可愛いと言い合うのとはまた違う。同時言葉のはずなのだが、発言者によってこんなにも違うものなのかと。


 恥ずかしくなった佳はベッドを仕切るカーテンを自分に巻き付ける。


 その様子を見て、これ以上の追撃は止めておこうと思った陽伽は鳴月に目を落とした。


 少し表情はマシになっただろうか。綺麗な白髪が蛍光灯の光を反射する。なかなか現実ではお目にかかれない綺麗な髪だ。綺麗なのだからもっと伸ばせばいいと思うのだが、それをすると人に注目されるから嫌だと鳴月は言っていた。


 ――なにか、鳴月のこの体質を変える方法はあるのだろうか。


 陽伽は自らの右腿を軽く撫でる。


 人魚といえば、食べれば不老不死になるという話を聞いたことがある。それは確か伝承であったはずだ。もしかすると、鳴月の陽に弱い体質を変える手立てになるかもしれない。


 しかし、事が事のため、簡単に実行する訳にはいかない。そもそも鳴月が嫌がればそれまでだ。


 まずは情報を集めるところから始めよう。実行するかしないかは分からずとも、情報はあるに越したことは無い。


「永海先輩……?」

「ん? どうしたの?」

「いえ、なにか難しい顔をしていたので」

「大丈夫。少し、考えごとをしていただけ。もう仕事は終わったの?」


 鳴月以外に話せることは考えていない。陽伽は今更だが、氷奈にこうしていてもいいのかと疑問を投げかける。


「はい。これから帰ろうかと思ってまして、それで、その……遊びに来てみようかな……と……」


 照れながらもそう口に出す氷奈に、常にそういう感じなら友達もできるだろうにと、なんだか微笑ましい気持ちになる。


「ん。じゃあ遊ぼう。多分今日はもう、鳴月は参加できないし」


 これで三人だ。本当は鳴月を入れて四人でかるたをしたかったのだが、少なくとも今日それは叶わない。


「えっ……私、遊びに来たと言いましたが、本当に正月遊戯部は保健室で活動しているかの確認で来たのですよ?」

「ん。知ってる。でも帰るのなら遊んでほしい。予定があったのなら止められないけど」

「会ちょーもかるたしましょーよ!」


 カーテンから顔を覗かせた佳も陽伽に続く。


「予定は特に無いので……えっと、ぜ、ぜひ、参加させて下さい」

「ん。これで四人目」

「えっ、会ちょーもにゅーぶするんですか⁉」

「しませんよ⁉」

「それは残念」「なーんだ」

「保健室では静かにねぇ」


 とりあえず今日は、この三人で正月遊戯を楽しむことになった。

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