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吸血鬼が憩える保健室  作者: 坂持


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責任取って

「なっちゃんおはよー」

「ゔっ」

「なっちゃん⁉」

「いや大丈夫大丈夫変な息の吸い方しただけだから」


 目が覚めた途端に佳の顔が目の前に。寝起きという身も心も無防備な状況でそれはキツい、というかヤバい。


 まあ普通に私の綺麗な顔を見ていただけだから陽の強さはそれ程でもない。でも、休んで回復した分全てが無に帰した。


 再び休むのは流石におかしいと思われるから、なんとか起き上がる。


「ん。大丈夫?」

「ははっ……」

「なっちゃんだいじょーぶ?」

「大丈夫大丈夫」


 落ち着いて深呼吸。陽のダメージの回復方法は寝る以外にあるのかな? あればいいんだけど、ないならどうにかして作りたい。とりあえず帰ったら母にでも聞いてみよう。


 なんとか自分の足で再び和室へと戻る。


「ごめん、休んでて」


 時計を見ると、休んでいた時間は一時間ちょっと。佳は先輩と二人でさぞ緊張したことだろう。


「練習してた」

「そーそー。先輩に鍛えて貰ってたんだよ!」

「練習?」

「なっちゃんが休んでる間ぁ、永海さんが佳ちゃんを鍛えてたんだよぉ」

「あー……ということは?」

「今の鳴月となら、いい勝負ができるはず」


 先輩がピースを私に向けながら言う。


 今の私、結構弱っている状態。なるほど、相当キツい練習だったはず。


「次は私が読むから、二人で対決して」

「えっ?」

「三人でやれば、確実に私が勝っちゃうから」


 先輩ってそんな強気な発言もするんだなと、先輩の新たな一面に思わず目を丸くしてしまう。


「なんか最近の先輩なっちゃんみたーい」

「ん。鳴月のせい」

「私のせいですかぁ?」

「責任取って」

「私はそんなこと言いませんよ」

「ふふっ、冗談」


 先輩の口角が少し上がる。


 そりゃあもう六月で、佳と出会って二ヶ月、先輩と出会って1ヶ月。短いような気もするけど、過ごした時間はそれなりに濃厚。まだまだお互いに知らないことだらけだけど、こういうこともある……はず……。


 まともに友達いたことがないから分からない。


 ただ、表情の変化に乏しい先輩の口角が上がっているということは、他の人換算で先輩は満面の笑みだという私の予想は多分合っている。


 待ってちょっとキュンときた。この予想が合っていればだけど!


「なんでなっちゃん口モニョモニョしてるのー?」

「初めて見る表情」

「別に……歯に海苔が挟まってただけ。そんなことより、早くやりましょう」


 いちいちツッコむんじゃない! 私の超絶美人な顔を見たいのは分かるけど!


 先輩が手早く並べてくれて、佳との真剣勝負が始まる――と思ったんだけど。


「ルールは元通り。私が読むから、分かった瞬間取っても大丈夫」


 そうなるか。さっきまでと同じ、読み終えてから取る勝負のままだと、いくら佳が練習したとて私に勝てない。この状態の私でも、基礎能力は佳を凌駕しているはずだからだ。


「分かりました」

「ん。じゃあ始めるね。か――」


 か――関東と信越つなぐ高崎市だ。たしかその札は右で見た気が――。


「はい!」

「えぇ⁉」


 佳の手が、その『か』の札を取る。


 呆気にとられている私に、佳は満面の陽の笑みを向ける。


 くっ……! 更に私を弱体化させるつもりか……!


「やったー! なっちゃんよりも早く取れたー!」


 いえーいと、先輩とハイタッチ。なるほど……相当鍛えられたらしい……。


 これは……本気で勝ちにいかないと私の命が危ない……。


 次も取られてしまえば、更に佳の陽が私を襲うはず。そうなれば、更に私が弱体化して、次も取られる。そのループが続く。そうなったら終わる前に私は倒れてしまうだろうけど、それは色々となんか良くない気がするから、負けられない。


「へ、へぇ……やるじゃん」

「うっ。なっちゃんの迫力がすごい……!」


 そりゃそうだよ、負けられないし。本気で勝ちにいくんだから。


 先輩が次の札を読む。


「ゆ――」


 かるたの札が宙を舞う。


「……ゆかりは古し貫前神社」


 たっぷり溜めて私は取った札を言う。


「流石鳴月」

「はやい……」


 佳の呆気にとられた顔が見えた。


 当然だ。今はしんどいけど、万全の状態ならこの程度造作もないこと。私は佳にどうだとばかりにドヤ顔をお見舞いする。キリっと。


 そして、やっぱり陽にやられているせいで思考が鈍っているみたいで、決め顔をしてから気づいた。


 これはこれで、佳から尊敬の眼差し的な目で見られるやつだ……。


「なっちゃん凄いよ‼」


 うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼ 陽がっ‼ 陽がっ、凄い‼


 一瞬にして灰になるのではないかと思われる陽が、至近距離から、真正面から私に降り注ぐ。これが教室なら、他の人達も寄って来て八方塞がり。でもまだ……保健室なら……! せっ……先輩……!


 これは続行不可能。最後の気力を振り絞って頭をフル回転させる。


「なっちゃん⁉ クマすごいよ⁉」


 ああああああもう、残された時間は多くないし、こうして倒れたら多分佳にかなり気を使わせてしまうだろうし、でも一対一じゃなくて先輩と先生もいるからなんとかなりそうだけどこの場合は先輩に任せた方かいいだろうから先輩になんとかしてもらうことにしてそれまでに私が取れる動きはこれしかない気がするけど痛そうだから嫌だけどやるしかないあ思いついたこれは私は痛くないけどどうなるかは先輩次第‼ 痛いのは嫌‼ ということで先輩お願いします‼


「やったぁぁぁぁぁぁ! 取れましたよ先輩ぃぃぃぃぃぃ‼」


 先輩に飛び込んだ。


 私が最後に見た光景は……先輩が目を見開いて……驚いている……顔……だった……本……当に……いつも……すいません……。

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