上毛かるた
そして日は変わり、今日は本格的に正月遊戯部の活動が始まる日だ。
記念すべき一回目の活動はカルタ。カルタは幼稚園とか、小学生ぐらいの時やっていた。
「ん。かるたしよう」
放課後、一番早く保健室へやって来た永海先輩を迎え、佳が来るまで落ち着いた時間を過ごす。
昨日のことがあったから、気まずさを感じると思ったけど、少なくとも私は感じなかった。それは先輩の表情の変化が乏しいからか、先輩のいい匂いが私の心をリラックスさせてくれるからか。
「先輩っていい匂いですよね」
そんな気持ち悪いことを口に出してしまうぐらいリラックスしている。
「……よかった」
私の言葉に、一拍遅れて返した先輩。相変わらずなにを考えているのか読みにくい。
「ん。色々と気を使っているかいがあった」
多分その言葉は私に向けられたものじゃない。
先輩でもそうやって気を使うことがあるんだなと、私と同じ超絶美人だし、そういうのに縁が無いと思ってたんだけど、やっぱ同じ超絶美人でも違うところあるんだなと新たな発見をする。
「鳴月、無理はしないで」
「はい。まあ、先輩も先生もいますから」
もうそろそろ佳が来るはず。佳がいる状態で、私が最後まで部活に参加できるとは思っていないけど、頼れる先輩と先生がいればまあ大丈夫なはず。
「しつれーしまーす」
「佳ちゃんいらっしゃぁい」
保健室の扉がゆっくりと開かれ、佳の声が聞こえた。これで正月遊戯部全員が揃った。
「あっ先輩、こんにちは。なっちゃんも起きてて良かったー」
「ん。こんにちは」
佳に手を振って挨拶を返す。陽が凄い……。
席は中心にちゃぶ台を置いて、私の正面に先輩、そして私と先輩の隣に佳だ。
一応この和室の入口部分に佳が向くようになっている。
佳は座ると、リュックの中をガサゴソと。そしてリュックからかるたを取り出す。
「じゃーん。持ってきましたー」
「「おおー」」
ば〜ん、と佳の掲げたかるた。上毛かるたと書かれた、年季を感じる逸品。
「………………なんで上毛かるた?」
いやなんで?
「ここは大阪」
「パパがこれ持ってけーって……なにか違うの……?」
なるほど、佳のパパは群馬県民だったということか。それもかなり熱狂的な。いや、熱狂的かは知らないけど、かるたが必要な娘に持ってけと上毛かるたを渡すのだから熱狂的に違いない。
「それ上毛かるたってやつで、群馬県の郷土かるた」
「えー! そーなんだ!」
まあ、上毛かるたもかるただから別に気にする程のことじゃないけど。
「そっ。でもかるただから今日はとりあえず上毛かるたをやろう」
「ん。できるなら大丈夫」
「はーい。じゃー並べるねー」
かるたの枚数は『あいうえお』から『らりるれろわ』までの四十四枚。それを並べようとして――。
「テーブルから出ちゃうねー」
「これじゃあコタツに入りながらできないじゃないか!」
「鳴月、落ち着いて」
「なっちゃん、炬燵好きすぎ……」
炬燵に入ってできない正月遊戯なんて正月遊戯じゃない!
「部費で大きい炬燵を買えば大丈夫」
「はっ――そうですよ先輩! 大きいのを買えばいいんですよ!」
「じゃーテーブルどけるねー」
その隙に佳がちゃぶ台をどかした。うん、どかされた。
そして畳の上に上毛かるたを並べていく。さすがに畳の上なら余裕で並べることができた。
「えーっと……誰が読む……? うち?」
並べることはできたがいいが、続いて出てきた佳の疑問に私達は顔を見合わせる。
かるたは一人読み手に回るから、札の奪い合いは二人ですることなる。
佳がかるたチャンピオンでもない限り、多分私と先輩の相手にならない。だから私と先輩二人で対戦すればいいけど、それなら佳は楽しめない……はず。だから読み手は顧問である不知火先生にお願いしたい……いや、先生に読んでもらって、三人でしたとしても、私と先輩だけが札を取ることになるはず。
でも佳だけ仲間はずれにできないし、私が倒れたらそもそもかるたとして成立しないし……だったら先生に読んでもらった方がいい。
私が動こうとしたタイミングで先輩がスっと立ち上がり、和室から出て先生を連れて来てくれた。
「先生、読み手やってください」
「誰か来たらすぐ抜けるよぉ?」
そう言いつつ、先生は読み手を引き受けてくれた。
これで大丈夫。そう思ったけど、一つ、引っかかることがあった。
それは始まったら分かるだろうから、まずは上毛かるたが始める。
「じゃあいくよぉ。つる――」
「はい」
つる舞う形の群馬県。これは『つ』の札だ。でも、やっぱり引っかかったことは気のせいじゃなかった。先生はゆる~く、ふわふわしている。だから話し方もゆる~くふわふわ、つまりゆっくり。ということはだ、今の先輩のように、二文字目には余裕で反応できる。私も反応できたけど、佳の様子を窺っていたら先輩に先を越された。
「先輩早いですねー!」
キラキラした目で先輩を見ている佳。その陽が私にも当たって、かなりダメージを受けてしまう。
「ん」
得意げに札を持つ先輩。二人が楽しそうだからいっかあ。
それからは私と先輩での戦い。最初はキラキラと陽を振りまいていた佳だったけど、後半になるにつれ、目に見えてテンションが下がっていた。そのおかげで私はなんとか最後まで戦うことができたけど、対戦自体は先輩の勝ちで終わった。
「なんか先輩となっちゃんばっかー」
仰向けに倒れた佳が控えめに叫ぶ。
「んー確かにぃ。永海さんとなっちゃんが強かったねぇ」
「まあ……そりゃそうとしか言いようが……」
なにか佳も楽しめるようなルールはあるだろうか。とりあえず先輩になにか考えが無いか視線を向ける。
「ならルールを変えよう。読み終わるまで札は取らない」
なるほど、それなら佳にも希望はある。ということでもう一度。
先輩がもう札を並べて二回戦――。
「一個も取れないー!」
再び仰向けに倒れる佳だった。
始まってすぐ分かった。全員が取るべき札を認識しているのなら反射神経がものを言う。そして佳が超人でない限り、私と永海先輩には勝てない。ちなみに今回も先輩が勝った。
弱っている私に勝てないのだから佳が弱い――訳じゃなくて、単純に私達が強いだけ。
「これは……無理だ」
二つの意味で無理だ。まだ放課後は始まったばかりだから……多分……大丈夫。
「休憩……」
「ん。分かった」




