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吸血鬼が憩える保健室  作者: 坂持


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髪の毛の必要性

「無事、佳のおかげで部活を設立することができました。本当にありがとう。これで炬燵を調達できる」


 改めて、深々と佳に頭を下げる。


「別にいいよー」


 陽が私の頭頂部を襲う。髪の毛ってやっぱ必要だね。


「それで、どうするの? 部費ってすぐに入るの?」

「どうなんでしょうね。先生」

「はぁい」


 もちろん私達が集まっているのは保健室。保健室内でなにやってんだよと、そのうちあの生徒会長に怒られるような気もするけど、まあ言われるまではそのままで大丈夫だと思う。


 呼ばれた不知火先生は、和室の中にひょこっと顔を覗かせる。一応正月遊戯部の顧問という立場だ。


「部費とかってどんな感じなんですか?」


 私の質問に、不知火先生は困ったらしく眉をハの字にしていた。


「先生もあんまり分からないんだよねぇ。でもぉ、他の先生に聞いてみるねぇ」

「なるほど……お願いします」


 となれば、本格的に活動できるようになるにはまだ少し時間がかかると。部費っていくらもらえるんだろ。部費があれば炬燵は買えるって思ってたけど、もしかしたら……いや買える‼


 和室には私と佳と永海先輩、そして保健室には不知火先生と、正月遊戯部が全員揃っている。このメンバーで活動していくことになるんだけど、目的が炬燵獲得だし、活動しないと駄目なの……?


「今日はもう解散する……?」

「活動内容」

「ですよね……」


 さっきの生徒会室で、最後まで聞けなかったけど、永海先輩は部活動をやりたがっていたはず。そうだよね、真面目にやらないとだね。


「えーっと……まあ名前の通り、正月遊戯をする部活です。まずは思いつく正月遊戯を上げていこう」

「はーい」

「はい、佳さん」

「福笑い!」

「ですね」

「ん」

「先輩」

「羽子板」

「ですね。はい」

「なっちゃん」「鳴月」

「凧揚げ」


 そうやって正月遊戯を上げていって私はふと気づいた。あまりにも正月すぎると、周りからの視線が痛いのではないかと。


 すごろくは普段からやるし問題無い、そして福笑いは室内だから別に大丈夫。でも凧揚げとか羽子板とか、外でやるやつだと絶対目立ってしまう。そもそも、現代日本において羽子板をやっている人達はいるのかどうかと疑問が生じるけど、正月にやるのなら違和感も無いだろうし、見られても正月だな~的な目で見られるだけ。凧揚げは確か小学生の時、冬休み明けに自作の凧を揚げた記憶がある。正月辺りに広い公園へ行けば揚げている人は見るけど、それ以外の時期になると全くと言っていい程いない。そんな中、凧揚げをすれば目立ってしまう。それも超絶美人の私がすればだ。


「すごろく、かるた、福笑いがいいかも……。あー、でも無いか」

「かるたなら持ってるよー」

「じゃあかるたで。明日から、正月遊戯の活動でかるたをしたいと思います。部活って毎日……?」

「ん。私は大丈夫」

「うちも別に大丈夫だよー」

「あっ、じゃあとりあえず毎日で」


 土日はさすがに無しでいいと思うけど、そこはまあ後日改めて決めることにしよう。


 今日ももうそこそこ良い時間になってきたし、今日はこれで解散だ。


                 △


『鳴月、今大丈夫?』


 その日の夜、母に部活のことを話して驚かれた後のこと。


 いつもの如く、部屋でだらけていると先輩から電話がきた。


「まあ、大丈夫ですけど」

『ん。良かった』


 どことなく湿り気というか、重みを感じる先輩の声に、私は起き上がって話す。


 耳元で先輩の声がするのに、先輩のいい匂いはしない。その普段とのギャップに居心地の悪さを覚えながら、先輩の言葉に耳を澄ます。


『鳴月、ありがとう』


 突然の感謝の言葉に面食らってしまう。だって、私から感謝することはあっても、先輩が私に礼を言う理由が思いつかないからだ。先輩と佳は私に巻き込まれたんだから。


「いや、私の方こそ。ありがとうございます」


 電話越しなのに、先輩が首を振るのが分かった。私の言葉を否定するのではなく、受け取った上で感謝を返してくれる。


『あの時言いそびれたけど、元々部活動に興味があったの』


 その続きは、佳が来たことで聞けずじまいだったこと。こうして声だけだから、先輩の声は澄み切って綺麗だな、なんて思いながらも耳を傾ける。


『でも、昔言われたある言葉で……』


 そこで一度、先輩は口を閉ざしてしまう。昔言われた言葉――それが何なのか想像はつかないけど、想像はできる。でも、それが先輩にどれ程の傷を残したのかは分からない。触れるか触れないでおこうか、私が触れたところでどうにもなるはずもないし、でもここまで言ったってことは、触れた方がいいのかもしれない。


 悩んで、悩んで、結局私はなにもできない。


「はい……」


 ただ続きを促すだけ。先輩の意思に委ねるだけ。私には、明らかに見える人の繊細な部分に触れることはできない。


 先輩の息遣いが聞える。時間が過ぎていく。どちらも話せない。先輩の気持ちはなんなんだろうか、今すぐにでも話を変えた方がいいのか。無理しなくてもいいから、無理に話さなくてもいいから、先輩が苦しいのなら、まだ、言わなくてもいいから。


「………………無理しないでください」


 自然と口が動いた。


「………………………………………………ありがとう」


 ゆっくりと、長い息を吐いてから先輩が言った言葉は、苦しそうで、今にも消えてしまいそうな、そんな感じがした。


 やっぱり人に伝えるのは簡単じゃない。これは私が佳に吸血鬼のことを話せないのと似ている思う。だから、こうして先輩がなにも言えなくなっても咎められないし、嫌だとも思わない。仕方がないことだ。


 寧ろ逃げ続けている私より、こうやって言おうとしてくれている先輩は凄い。


『とにかく、私は誰かと……部活動をしたかったの。だから、嬉しかった』

「そう言ってもらえると、私も炬燵のためとはいえ、部活作って良かったです」

『ん。ありがとう。じゃあ、また明日』

「はい」


 そして通話が終わる。


 静かになった耳元がやけに寂しいかった。でもその寂しさの中には、先輩が前へ進もうとしていることに対しての寂しさも含まれているような気がした。

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