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吸血鬼が憩える保健室  作者: 坂持


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25/25

炬燵‼

 もうこれもいつも通り、かなり申し訳ないと思っているけど、私が起きた頃には色々と終わっている。つまり、応接間的なスペースが完成していたということだ。


 幸いにも、最終下校時刻の十八時まではまだ時間はある。


「なっちゃん起きたー!」

「ん。おはよう」

「おはよぉ」

「おはようございます……」


 おはようの時間じゃないけど、起きたからおはようでいいのか。いやいや、そんなしょうもないことはどうでもいい。


 保健室前方の入り口の空いていたスペース、そこに見事なパーテーションがあった。パーテーション自体は半透明でどこにでもあるやつで、保健室の雰囲気に合っている。そして肝心の中は和風になっているはず。


「いやあ……本当にありがとうございます……」


 ベッドから降りて、早速できたスペースを確認しに行く。


「頑張ったんだよー!」


 胸を張る佳からの陽に耐えて、なんとかパーテーションの中を覗き込むと――なんということでしょう、パーテーションの中は畳が敷かれ、追加で貰ったのだろう座布団にちゃぶ台という、見たことがある気がするけど見たこと無い空間が生まれていた。


「和を感じる」

「なんだか落ち着くよねぇ」


 先生の言葉に完全同意だ。吸血鬼という明らかに日本起源じゃない血筋の私だけど日本人の遺伝子レベルで落ち着く空間。


「四人までは集まれる」


 先輩が先に入って、丸いちゃぶ台の周りにある四つの座布団の内の一つに座る。


 ちゃぶ台その物はあまり大きくないから、もし集まってご飯を食べることになっても二人が限界だと思う。基本使うのは私だけだから問題は無い。


 とりあえず私は先輩の前に座って、続いて佳と先生が座る。放課後の保健室、その中にある和室スペースに正座で集まる生徒三人と養護教諭一人。俯瞰して見ればなかなかに珍妙な光景だ。


 外から見れば珍妙な光景でも、内からの景色は温かいものを感じる。この保健室に新たにもたらされたい草の香りが落ち着く。


「あとはダイヤルの付いたテレビがあれば……懐かしいなぁ」

「その時代に私達は産まれてないよ」

「でもぉ、なんでか懐かしく感じるよねぇ」

「日よーのせーかな?」


 佳の言うのが理由なのかは知らないけど、この景色の中を生きたことが無いのに懐かしいと思ってしまう、不思議なものだ。


 このままだとずっと保健室にいてしまいそうになる。もし冬場に……冬場に! 炬燵に! フォームチェンジができるのなら!


 聞かない方が良いのは解っている。でも! これは! 知りたい‼ ただでさえ魅力の塊の炬燵が学校で堪能できるんだよ⁉ もう教室に戻ることは無くなるかもしれない。いや、間違いなく戻れなくなる‼


「これって……炬燵には……?」

「炬燵にできないから貰えたんだよねー――ってなっちゃん⁉」

「鳴月、炬燵じゃないから寝ないで」

「炬燵にならないのに炬燵みたいな見た目するなよぉぉぉぉぉ!」

「そんなにショックだったんだぁ……」


 どこからどう見ても炬燵にできるやつじゃん‼ 炬燵にできないちゃぶ台ってあるの?


「ちゃぶ台返しよーだから、無理なんだってー」

「今にも返しそう……」

「それはダメだよ⁉」


 でも佳の陽に焼かれて力が出ない。なんで隣にいるだけなのにやられるんだよぉぉ……。


 それから少しの間ちゃぶ台に突っ伏して体力を回復させて、いつまでもここでいる訳にはいかず帰宅の準備が始まる。


「ありがとうございました」「さようなら」

「海幻ちゃんまた明日ねー」

「気をつけて帰ってねぇ」


 終礼から時間が経って、そして部活が終わるまでは時間があるこの時間、目立たずに帰ることができる絶好の時間だ。帰り道は途中までは三人一緒、先輩と帰ったことなんて無かったけど、いるだけで安心感が凄い。佳と二人だけなら、いつ力尽きてしまうか分からない恐怖に怯えながら帰ることになる。


「今日はありがとうございました。佳にはいつもお世話になってるのに、今日は全部佳に任せちゃったし……それに先輩も、手伝ってくれてありがとうございます」

「別にだいじょーぶだよ! 楽しかったし、うちなっちゃんのこと大好きだし!」


 ん? お? ちょっと? 今なんて? ん? 聞き間違え? 友愛か? だから緊張しないの?


「私も楽しかった。それよりも鳴月、大丈夫?」

「ああまあ、はい……大丈夫です」


 まあまあまあ、私レベルの超絶美人に恋愛以外の情を抱くとは、初めてすぎて戸惑う。だって今まで、基本的に周りの人が私に対して抱く正の感情は恋愛感情ばかりだったからね。ということは、佳は先輩に対して少なからず恋愛感情に繋がる感情は持っているってこと……? いやもう今日はいいや。


                 △


 ベッドの上で、炬燵ができないことで生じた行き場の無い怒りをねじ伏せていると、突如スマホが怒り狂いだした。というのは嘘で着信だった。


 誰だろうかと、薄々予想しながら画面を見ると相手は佳だった。


「はい、どうしたの?」


 なにか用があっただろうかと、思い浮かぶことは無いけど、なにかあったのだろうか?


『あっ、なっちゃん? 今だいじょーぶ?』


 声音には深刻そうな雰囲気は無い。


「大丈夫だけど」

『よかったー。ごめんねー、なんか電話したくなっちゃって』

「あっ、そういうこともあるんだ……」


 友達同士ならこうして電話することもあるんだあ。


 私としても、佳の陽を気にせず話せるこの通話の機能はありがたい。いざ話すとなればなにを話せばいいのか分からないけど、そこは佳のコミュニケーション能力を頼りにさせてもらおう。


『あのねー、うち最近べんきょーしてるんだー。なっちゃんのおかげだよ』

「おっ、そうなんだ。じゃあ授業もついていけてる感じ?」


 先の中間テスト、高校一年生一学期の中間テストという高校生活で一番簡単なテストを、佳はなんとか赤点を回避した。私が教えたことによる学力アップでの点数だ。私がいなかったら、佳は留年の危機に瀕していたであろうことが容易に想像できる。そりゃあ授業聞いて無いもん。


 私は当然全教科満点だけど、そんな私が教えてもなんとか赤点回避レベルだったことが気になる。


『うーん、なっちゃんいない時は前向いてるけどー……記憶が無くなるところがあってねー』

「私がいても前向いてほしいんだけど……」

『だってうちなっちゃん大好きなんだもーん』

「えぇ……」


 また大好き……今までそんなこと言われたことないよ? 急にどうしたんだろうって気になるけど、言葉が言葉だからあまり深く聞かない方が良いような――いや、別に大丈夫か、私超絶美人だし。


「急にどうしたの? 確かに私は数多の男女に好意を向けられてきたけどさ」

『きゅーに自慢するじゃん。別に、そーゆー好きじゃないけど、うちはなっちゃんが大好きなの!』

「それは解ってるけど、急にその……大好き……とか言うからさ」

『これはねー、きょー自覚したんだよ。海幻ちゃんのおかげで』


 不知火先生のおかげで自覚? 佳が保健室に来るタイミングは私を運ぶ時ぐらいで、不知火先生が保健室以外で佳と話す機会はあるだろうけど、これはしっかりと会話をした結果のはず。ということは保健室外とは考えにくい、そして私を運んだ時とも違う。それ以外で佳と先生が話すタイミング、それも今日。これは放課後私が倒れている最中の会話のはず。


「永海先輩の前で?」

『えっ、なんで分かったの⁉』

「私学年一位だよ?」

『天才だ……』


 佳は少なからず永海先輩に恋愛的な好意を抱いているはず、先輩も解っているだろうから大丈夫だろうけど、その先輩の前で他の人を大好きって言わない方が良いと思うんだけど……これは言わなくてもいいか。なんか嫌だし。


「まあね」

『事実のぼー力すぎるよー!』

「だからその天才に、今勉強で分からないところがあれば聞くチャンスだよ」

『全部がっこーに置いてる……』

「…………………………最近勉強してるんじゃなかった?」

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