休憩
「はあ……はぁ……つっ、疲れたぁ……」
「……なんで畳?」
「貰えた物が和風の物ばかりだった」
「まあそうなんですけど……」
私も一緒に走り回ったから経緯は知っているけど……いるけど……もう……無理……。
△
各部活を周っている最中、佳の陽にやられていた鳴月が倒れ、いつも通りベッドに運ぶ。
言い出しっぺの鳴月がいないが、今いる三人で保健室の改装を始めることにする。
「えーっと……じゃあ、えっと……やりましょー……」
しかし、鳴月がいなくなったことで固くなった佳は、ぎこちなく、押し寄せる疲労に負けそうになりながらも、なんとか声を振り絞る。
「一旦休憩してからにしよっかぁ」
畳が軽いはずもなく、疲れている状態で作業して怪我をしないよう海幻は静止する。
茶道部がもう使わなくなった畳を貰ったらしい。もう使わなくなり、放置していた畳だったが、ゴールデンウィーク明けに部活から逃げるため、茶道部がわざわざ掃除した物だった。ちなみに結構感謝された。
「疲れたあ……」
特に会話も起こらず、ただ佳の呟きだけが静かな保健室内に響く。
「どうして固いの?」
そんな沈黙の中、まるで魚が餌に食いついたみたいに、陽伽は佳に踏み込む。
「えっ……」
「鳴月がいれば私とも会話していた。でも鳴月がいないと固くなる」
戸惑う佳だが、陽伽は言葉を続けて、佳を海に引きずり込もうとする。
「確かに私は凄く綺麗。その反応をされるのは慣れている。でも、鳴月と話している時はそんなことないのに、私の時だけ固くなるのが不思議」
「なっ、永海さん……?」
陽伽がここまで言葉を続けるなんて、教師の立場である海幻ですら見たことがない。新任教師だから、付き合いが短いから、ということではなく、これは陽伽を三年間見てきた教師までもが抱く感想だろう。
「別に責めてない。不思議に思っていただけ」
「あぅ……」
美人は怖く見えると言うけれど、今の陽伽にはそれだけでは収まらないなにかを感じる。その謎の迫力と、陽伽と直接言葉を交わしているという緊張で佳は言葉が出なかった。
「うちは……」
ただ、陽伽も感情のまま捲し立てた訳ではなく、今は黙って佳の言葉を待っている。
「そぉ言われてみればぁ、佳ちゃんはなっちゃんには緊張してないよねぇ」
陽伽と一体一ではなくなったことで、少しは呼吸をする余裕が生まれた佳は、引きずり込まれた気持ちを、深呼吸を以て気持ちを取り戻す。
「なっちゃんは……」
ゆっくりと立ち上がった佳は、ベッドで寝息を立てる鳴月に近づく。その短く切られている綺麗な白髪の感触を指先で確かめて、静かに説く。
「なっちゃんは、なんか違うくて……チョー美人だし、頭も良いし、運どー神経も抜群だけど、あんまり遠くに感じなくて、隣にいてもいいんだーって……えーっと。最初はめっちゃきんちょーしたんですけど……」
上手く言えそうだと思っていたのに、いざ口に出すと上手く言葉にできない。
最初はあまりにも綺麗なその姿に言葉が出てこずにいた。でも、自分の後ろの席になったといことで、一世一代の勇気を振り絞り声をかける。
驚いた様子だったが、鳴月は拒絶せず、自分と話してくれた。思わず夢中で話し込んでしまい困らせてしまったり、先生に注意もされたが、それでも佳は嬉しかった。
鳴月といることが心地良い。
「ん。なんとなく分かった」
言葉が出てこなくなった佳に陽伽は頷いて話の終了を伝える。深々と息を吐いた佳はそのまま鳴月の眠っているベッドに腰を下ろした。
「なっちゃんのこと大好きなんだねぇ」
朗らかな海幻の言葉が佳の緊張を溶かし、佳が鳴月に抱いている感情をシンプルに纏める。
「あっ……。そーだ、海幻ちゃんのゆーとーりで、うち……なっちゃんのこと大好きなんだ……」
大きな気づきではなくて、シンプルな気づき。もともとあったものを、緊張が解けた頭で俯瞰してみれば解る。
全てをひっくるめて、佳は鳴月が大好きだ。
「その大好きって……」
「どぉしたのぉ?」
「休憩は終わり。始めよ?」
陽伽の呟きは海幻にしか聞こえず、しかし陽伽は首を振り、休憩が終わるのだった。




