復帰、謝罪、そしてこれから
昨日お見舞いで佳が来てくれたこともあって、明日は学校行けるかな――と心配だったけど、寝て起きたら全然大丈夫。
いつも通り朝起きて、学校へ行く準備をする。
「おはよ、本当に大丈夫なの?」
「んー、案外余裕だね」
「ならよかった」
ピースピース、と返す私に母が冷たい目を向ける。あんまり心配かけすぎてもよくないしね。
いつも通りの準備を終えて学校へと向かう。
今日学校に着いたら、まず真っ先にすることはクラスの人達への謝罪だろう。普段から保健室に行ってるせいで色々と気を遣ってくれて、出場種目まで私のために色々としてくれている。いくら私が超絶美人でも、その礼を欠くことはしたくない。
超絶美人だからなんて関係無く、ただ一人の人間として頭を下げる。
そして全員に頭を下げるため、今日は敢えて遅い時間に家を出た。遅刻をしないギリギリなら、大抵は来ているはず。来なかった人は……まあいればその時はその時。
果たして、私がギリギリに教室に入るとクラスの人達はみんな揃っていた。中には他のクラスの人もいた。まあ、ギリギリまでいるよね。
そんな大勢の人達が、入って来た私を見る。毎日毎日見られているが、今日の視線には、大丈夫か、と私を気遣う視線も感じられる。
そしてこういう時は勢いが大事。勿体ぶらず、即行動だ。
「色々と気を遣ってくれたのに、体育祭途中退場してごめんなさい!」
黒板の前に立った私は誠心誠意頭を下げる。
教室内は静まり返り、これは頭を上げていいのだろうかと考える。
頭を下げ続けるのもなんだと思い軽く頭を上げてチラリと様子を確認すると、鳩が豆鉄砲を食ったようとはこのことか、と学びを得る。
「えーっと……なっちゃん?」
やっぱりこういう時に動けるのは私と普段から親交のある佳だけだろう。まあ佳以外に来られたらどうしようか分からないけど。
恐る恐るといった様子で佳は近づいてくる。でもこうして近づいて来られるあたりなかなかの陽、つまり辛い。
それでも私は逃げずに、真っ直ぐに佳の目を見つめる。
「だいじょーぶだよ? みんな、なっちゃんが無事で良かったって思ってるから」
佳の言葉にクラスの人達の殆どが頷いている。
「えっと……心配してくれて……ありがとう」
まあ、裏で陰口の一つや二つ言われると思うけど。それは仕方ないから別にいいけど……佳が言われるのは嫌だな。
△
「なっちゃん、大丈夫だったぁ?」
「この通り」
「いつも通りだねぇ」
あの後保健室に運ばれて、私はしょっぱなからこうして保健室のお世話になっている。
絶賛授業中のこの時間、私以外に保健室へ来る生徒はいないだろう。絶対無いとは言い切れないけど。
「先生、一昨日はありがとうございました」
改めて先生にお礼を言うと、先生はいつも通りのゆる~く、ふわふわっとした感じで微笑む。
「また元気な? なっちゃんに会えて良かったよぉ」
「まああの時に比べれば、いつものなんて大したこと無いですね」
今のこれを元気な状態とは言えないけど、不知火先生と会う時はだいたいこの状態だ。万全の私と会ったことは少ないんじゃないだろうか。
そう考えれば、先生が見ている私の一面は少ないのかもしれない。別にどうってことないけど。
勝手知ったる保健室とはまだ言えない。そりゃまだ五月、入学というか、転校してから一ヶ月ちょっとしか経っていない。それでもここは落ち着くし、事情を知ってくれている先生がいるから安心感もある。だから私はゆっくりと、復帰するために休むことができる。
今日は上手くいけば二限目には余裕で戻ることができそうだ。耐性がついてきたからではなく、軽傷だったからというのが大きい。
先生も仕事があるだろうし、邪魔にならないように私は休むことにする。
カーテンを閉めて、視線を遮断する。先生も私に見られながらだと落ち着かないだろうし。
ベッドに寝転んで、目を閉じながら私は少し考え事をする。
私がこれから、佳にどう接していくのかだ。
一応昨日のお見舞いの後、永海先輩と少し話したけどそれとはまた別の、私自身が考えないと駄目なことだ。
佳は私にとっては最大の敵、天敵で一緒にいるのも辛い時がある。それは佳が陽の者だからだ。あのレベルの陽の者が他にもいれば同じ状態に陥る。たまたまそのレベルの陽の者が佳しかいないだけ。いないというか、私の目の前に現れたのが佳というだけだ。まあ、超絶美人の私に臆せず、接しに来る佳が異常なんだけど。ん? いやでも、そうだそうだ、なぜか佳は私には緊張しないけど、先輩には滅茶苦茶緊張している。他の人がする、私への接し方だ。解せない……考えるべきことを考えないといけないのに、あまりの解せなさに思考を戻せない。
なんで佳は私に緊張しないの?
これは……私一人じゃ駄目だな。
「先生」
客観的な意見も必要だと考えた私は、閉めたカーテンを開いて先生に声をかける。
「どうしたのぉ?」
振り返った先生と目が合う。
「佳が私に緊張しないんですよ」
私の言葉に、先生は眉を顰めて困った顔をする。これはアレだ、情報が足りてない。ということで、先生に私の思っていることを伝えた。
「う~ん。それはぁ、佳ちゃんの好みのタイプじゃないとかぁ?」
「あ~、美醜の基準は人それぞれってことですか?」
「そこまでは言ってないよぉ」
「でも、佳は私のこと超絶美人っていうのは知ってますし言ってますし……。私レベルの超絶美人が常に近くにいるのに、ってそもそも初めて会った時から緊張してなかったな! なんでですか……⁉」
考えれば考える程おかしい。
「いやっ、でも緊張させた場面あったようななかったような……?」
うーむ、思い出せない。
「でもアレですね、いい加減私で超絶美人に慣れてほしいって思ってたんですけど――」
「佳ちゃんのタイプじゃなかったのかもぉ?」
「そうなるんですかねぇ?」
「う~ん、佳ちゃんに聞いてみるのはぁ?」
「確かに、それはありですね」
私が超絶美人というのは物理法則レベルで変わることが無いことだ。別に恥ずかしくともなんともない。
「ありなんだぁ……」
「まあ、超絶美人ですから」
「うぅ~、事実の暴力ぅ」
「永海先輩に対しては照れてるんですけどね。まあ、聞いておきます」
こればかりは佳に聞いてみるしかないか。
先生に聞いても駄目かあ、無駄な時間を使わせてしまった。先生にお礼を言って再びカーテンを閉める。
そして今度こそ本題、佳とどう関わっていくかだ。
今まで通り――は普段の生活が続くのなら別に大丈夫なはずだけど、来年こそは佳と体育祭を楽しみたいと思っている。体育祭だけというか、学校行事全般だ。修学旅行は流石に危険だから行けないけど、次の大きな行事は秋の文化祭だ。
体育祭と同じで、文化祭も熱気とテンションが凄くなるはず。そんな中でも、クラスに迷惑をかけず、佳と楽しみたい。
陽にやられるのは仕方ないにしても、どうにか、佳に対してだけは平気になりたい。
私が駄目なのは佳じゃなくて陽だ。佳から出る陽が強すぎるだけなのだ。強い陽を出す佳が駄目であって、佳自身が駄目ではない。それを忘れないように、自らの体質を勘違いしないようにしなければならない。
今できそうなのは、佳の陽を押さえる方法だろうか。一番簡単に実践できる『私が陽に慣れる』も少しづつ試しながら、まずはそこから攻めていくべきだろう。
ハッキリとこれでいいとは言えないけど、できそうなことからやっていかないと、時間なんてすぐに過ぎてしまう。それに、どうにかしないと、いつか佳を傷つけてしまうことになる。
今のこうして、佳に嘘をついて騙している状況は、薄氷の上に立っているようなもの。佳が大切な存在になったから今、その恐ろしさを自覚する。
失いたくない。その失いたくないもののために、それを必死に守るんじゃなくて、守らなくても済むようにする。私がしようとしていることはそういうことだ。
これは気合を入れて、全力で、真剣に取り組まなければならない。
薄氷の上に立っているようなものだから、必死に守り続けていてもいつかは割れる時が来るしね。それなら、守らなくても済むように、今は必死に守りながら動くしかない。
そして疲れたら、こうして保健室で憩えばいいんだから。




