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吸血鬼が憩える保健室  作者: 坂持


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18/18

代休

 結局泥のように眠れたみたいで、目が覚めたのは午後だった。


「ぶっ通しかあ……」


 それだけ寝たから、体も殆ど元に戻っている。まだちょっと体は重たいけど、声も出るし一人で歩ける。


「シャワー浴びよ」


 確かめるように、自分のこれからの行動を声に出してみる。


「佳に連絡入れとかないと、あとは……あっ、先輩からも連絡きてた」


 あと母と父からもメッセージが入っていたからそれにも返す。


 昨日は体を拭いてもらっただけだから、シャワーで全身を流すととても気持ち良い。髪を洗って体を洗う、暖かくて至福の一時。


 シャワーを浴びていると、ふと自分の腕の色が変わっているのに気づいた。


 私は吸血鬼の血を引いているからか、日焼け知らずの綺麗な白い肌を持っている。でもそんな私の体――正確に言えば左腕の前腕部内側。そこに火傷跡のような、なんかこれは……小指ぐらいかな。


 小指の先から第一関節ぐらいの大きさの火傷ができていた。お湯がかかっても触っても痛くないから火傷かどうかも分からないけど。


 私の綺麗な体に傷がついたということだ。


 傷つけられた……。


「なんだろう……これ……」


 大きさが大きさだし、多分母も先生も、先輩も気づかなかったんだと思う。いや、別に支障は無いから別にいいんだけど、なんか……なんだろ?


「まあいいか」


 考えても分からないし、そのうち治るだろうと気にせず浴室から出る。


 体を拭いて着替えて、失った水分を補給する。


「あ〜、疲れたあ〜」


 疲れるのに疲れた。一日で戻ってくれて良かった。本当に良かった。体を伸ばしてほぐして、ぐで〜んとソファに伸びる。


 なんかこんなに元気なら、学校休んだのに罪悪感がある。まあ休んだからこんなに元気になったんだけどね。


 ぐで~んとして、身体がソファに沈み切り、微睡んでいるとスマホが鳴り響く。電話……? 時間的に授業中だし仕事中。


 誰からかと確認すると相手はまさかの佳だ。


「どうしたの?」

『あっ、なっちゃん? だいじょーぶだってメッセージ貰ったからさ』

「ああ、それで。うん、もう大丈夫。明日は学校行けると思う」


 私の言葉に佳は電話越しでも胸を撫で下ろしていることが分かるぐらいの安堵の息を吐いていた。本当に、良い人。佳みたいな良い人が友達で本当に良かった。でもそう思えば思うほど、自分の血が恨めしいし、佳に対する罪悪感も募る。


『ねーなっちゃん。今から家行ってもいい?』


 私がいくら罪悪感を募らせていても、それは佳には伝わらない。伝わったら困るから別にいいけど。


「いや、今からって……学校は?」

『今日は休みだよ?』

「え?」


 …………そうか。だよね、平日でも次の日は休みだよね。そっかそっか、そうか……。実際私みたいにぶっ倒れた人間がいるし。


『休みだよ』

「うん」


 ちょっっっっっっっっっっっっと、考えろー。病み上がり。佳が来る。追い打ち。明日も休む。


 うん、断ろう――って断れたら苦労しないんだよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼


 来てもらうとしてだ! 私と佳の二人っきりってのはちょっとマズい。


『えっと……無理だった?』

「いや、無理じゃない」


 言っちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 ああもう、こうなれば!


「住所送るから、来てくれると嬉しい。丁度永海先輩も来るって言ってたし」

『永海先輩も⁉ わっ、分かったよなっちゃん。うち、恥ずかしくないようにするから』

「え? うん、分かった。じゃあ」


 なんで先輩に会うのに恥ずかしくないようにしないと駄目なのかは分からないけど、そんなことはどうでもいい。


 私は慌てて先輩に電話をかける。これで無理だったらどうしよう。本当にお願いします永海先輩!


『どうしたの?』

「よっしゃあ‼」

『鳴月?』

「あっ、すみません……。あの、先輩、今日私の家に来てくれません?」

『ん。でもどうして急に?』

「佳が家に来てくれるんですけど。今、家に私しかいないんです」

『そういうこと。住所教えて、向かう』

「ありがとうございます……‼ 先輩がいてくれて良かったです‼」


 良かった……良かったよう……、これで生きてられる……!


『じゃあ』


 早速先輩に住所を送る。良かった。本当に良かった。


 これでひとまず今日は生きながらえることができる。


 えっと、お菓子お菓子……無理言って来てもらうんだからそれなりに準備しないと――って、なんにもないじゃん。また別のお礼でも考えるか。


 どっちが早く着くのか、もしかして一緒に来るかもしれない。


 先輩は全部解っていると思うし、変に身構えなくても大丈夫かな。本当に頼れる先輩だ。それと同時に、来年はどうなっているのだろうと、少しゾッとするのだった。


 我ながら忙しい人間だ。

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