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吸血鬼が憩える保健室  作者: 坂持


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15/18

目立ちの代表三選手

 一時間休めば体調が戻り授業に復帰、まあ授業受けなくてもテストは困らないんだけど、授業態度のためしっかりと出席する。そしてまた陽にやられて保健室へ行く。その繰り返し。何度繰り返しても丈夫にならない、というか弱くなっているような気がするけど、学業が学生の本分、逃げる訳にはいかない。


 そして今日の昼休みはまだ大丈夫で、久しぶりに教室で佳と昼食を摂る。いつもは保健室まで、佳が私の昼食を持ってきてくれ、そのまま一緒に食べている。


「なっちゃんと久しぶりに教室でご飯だね!」

「いや、ほんといつもありがとうございます」


 たまには他の友達と一緒に食べればいいのに、なんて思っても言えない。佳の優しさをこれ以上無下にはできない。


 なんやかんやあってお弁当に落ち着いた昼食、早速机で広げる。久しぶりに私が教室で昼食を摂るせいで、教室内はにわかに騒がしい。廊下を歩く人達の視線もチラチラと……うっ……頑張ってコンビニで買った方が良かったかな……。


「だいじょーぶ?」

「うん、大丈夫」


 そう言いつつも声を潜めて言う。


「久しぶりに教室で食べたら、やっぱみんな気になるもんね」


 言外に人に見られて居心地が悪いと言ってみる。


「確かに……まだ涼しいし、外で食べる?」

「佳が嫌じゃなければ……」

「全然だいじょーぶだよ!」

「ありがとう」


 いや、ほんとありがとう……。


                 △


 佳と共にやってきたのは、校舎の裏手にある場所。中庭とか、他にも昼食を食べられそうな場所もあったけど、どこも人が多くて私の身が持たない。


 それに対してここなら、人も殆どいない穴場スポットだ。


 そんな穴場ベンチで佳と並んで座る。改めてお弁当を開き、ゆっくりと食事を始める。


「ゴールデンウィークはごめんねー、なっちゃん最後のほー死にそうな顔になってたもんね」

「うん、でもまあ……楽しかったっちゃあ楽しかった。海とか」

「ボウリングは入ってないんだ……」


 あの後メッセージでも言われたけど、改めてという感じで佳が口を開いた。


 過ぎたことは別にいいし、楽しかったのも本当だ。


「なっちゃん人にちゅーもくされるの苦手だもんねー」

「まあね……疲れるし……」


 うーん、ここまで知られているのに、その先が言えない。吸血鬼の血関係なく人の注目されるのは嫌だけど。


「佳は嫌じゃないの?」


 そもそも私も、佳のこと深く知っていかないと駄目なのだろう。なんとなくそう思った私は、少し踏み込んだ質問を投げかける。


「んー……、恥ずかしー目立ち方は嫌だけど、凄い目立ち方は嫌じゃないかなー」

「ボウリングでストライク取るとか、テストで学年一位取るとか?」

「うん! 転んで目立つとかは恥ずかしーけど」

「そういうものか……」


 美人で目立ち、勉強ができて目立ち、運動ができて目立つ。目立ちの三連複を決めている私はどれも経験済みで、どれも嫌だ。称賛されるのはまあ嫌じゃないけど、称賛されることがイコールで目立つに繋がる。


 私みたいに、目立ちの三連複を決めているからこその視点だろうなと、我ながら自分のスペックの高さに呆れる。ここら辺、永海先輩はどう思っているのだろうか。


「だからなっちゃんは凄いなーって思うよ」

「だよねえ」

「うーん、自覚あり……」

「まあ……色々あったから」


 普通なら嫌われることのはずなんだけど、佳は嫌な顔ひとつしない。やっぱ良い人だよなあ。


「だよねー……。うち、よく考えたらなっちゃんのことあんまり知らないかな」


 そう言われるとそうかな、お互い様だと思うけど。中学の時はどうしていたとか。私は、佳には深く踏み込まないようにしていた節があったから。それが佳にも伝わって、踏み込みにくさを感じさせていたのかもしれない。


「ドン引かれたら嫌だしね」


 佳は大丈夫だと思うけど。


「中学の時の話、しようか?」

「聞きたい!」


 思わぬ食い付きの良さに若干気圧されながら、きんぴらごぼうを口の中に入れる。お喋りに夢中になりすぎて、昼食が疎かになってしまいそうだ。


「私、超絶美人。周り、嫉妬。嫌がらせ、返り討ち。以上」

「なんで単語⁉」

「超モテた」

「嫌味ですらないよー!」


 私のような圧倒的な美人が言えばだいたいは許される。それかドン引かれる。だって自分で言うから。


 一応これが私の中学時代の主な出来事なんだけど、どこか佳は不服そうだった。


「なーんかあっさりしすぎー」

「そんなこと言われてもなあ……どんな嫌がらせされたか、聞く?」

「それはちょっと……」


 私の人生、高校生になってからの方が濃い。だって誰かと遊ぶなんて殆ど無かったし、髪の毛白くなったし、吸血鬼の血が色々やりだしたし。こうして、佳といる時間が私の対人関係の思い出の大半だ。


 そっと目を逸らす佳を追撃することはせず、私はアスパラベーコン巻きを口の中に放り込む。これはあれか、佳の過去も聞いた方がいいのか。


 踏み込み過ぎて、佳を知れば知るほど、この関係が壊れた時のダメージが怖い。私が単なる美人ならよかったのに……。


「自分で言ってて思った。淡白すぎる過去だよ。今が一番楽しい……本当に……」

「なっちゃん……」


 うっ……、隣から陽が……。


 佳の顔を見る勇気が無い。だってこれ以上ダメージ受けたくないし。


「鳴月、いた」

「うわぁ!」

「わあ!」


 佳からのダメージは無かったけど、違うところから攻撃を受けた。佳も私も、その場で飛び上がりかけた。


 私達の背後から声をかけてきたのは永海先輩だ、このベンチのすぐ後ろは校舎なのに、なんでこんな隙間から現れたんだろう?


 後ろを振り向いて解った。窓が開いていた。そりゃ気づかないわ……。


「永海先輩⁉」

「えっと、どうしたんですか?」

「たまたま見つけただけ」

「たまたまで窓から外に出ます?」

「驚かせたかった」


 この先輩結構お茶目なところあるな。表情の変化に乏しいけど、内心はそうではないらしい。


「じゃあ、私は戻る」

「え、あ、はい」


 そう言って、先輩は軽やかに窓から校舎へと戻る。一応佳を確認してみると、信じられないものでも見ているかのように目を見開いていた。


「大丈夫?」

「うん……だいじょーぶ……」


 ……私で美人に慣れよう?

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