目立ちの代表三選手
一時間休めば体調が戻り授業に復帰、まあ授業受けなくてもテストは困らないんだけど、授業態度のためしっかりと出席する。そしてまた陽にやられて保健室へ行く。その繰り返し。何度繰り返しても丈夫にならない、というか弱くなっているような気がするけど、学業が学生の本分、逃げる訳にはいかない。
そして今日の昼休みはまだ大丈夫で、久しぶりに教室で佳と昼食を摂る。いつもは保健室まで、佳が私の昼食を持ってきてくれ、そのまま一緒に食べている。
「なっちゃんと久しぶりに教室でご飯だね!」
「いや、ほんといつもありがとうございます」
たまには他の友達と一緒に食べればいいのに、なんて思っても言えない。佳の優しさをこれ以上無下にはできない。
なんやかんやあってお弁当に落ち着いた昼食、早速机で広げる。久しぶりに私が教室で昼食を摂るせいで、教室内はにわかに騒がしい。廊下を歩く人達の視線もチラチラと……うっ……頑張ってコンビニで買った方が良かったかな……。
「だいじょーぶ?」
「うん、大丈夫」
そう言いつつも声を潜めて言う。
「久しぶりに教室で食べたら、やっぱみんな気になるもんね」
言外に人に見られて居心地が悪いと言ってみる。
「確かに……まだ涼しいし、外で食べる?」
「佳が嫌じゃなければ……」
「全然だいじょーぶだよ!」
「ありがとう」
いや、ほんとありがとう……。
△
佳と共にやってきたのは、校舎の裏手にある場所。中庭とか、他にも昼食を食べられそうな場所もあったけど、どこも人が多くて私の身が持たない。
それに対してここなら、人も殆どいない穴場スポットだ。
そんな穴場ベンチで佳と並んで座る。改めてお弁当を開き、ゆっくりと食事を始める。
「ゴールデンウィークはごめんねー、なっちゃん最後のほー死にそうな顔になってたもんね」
「うん、でもまあ……楽しかったっちゃあ楽しかった。海とか」
「ボウリングは入ってないんだ……」
あの後メッセージでも言われたけど、改めてという感じで佳が口を開いた。
過ぎたことは別にいいし、楽しかったのも本当だ。
「なっちゃん人にちゅーもくされるの苦手だもんねー」
「まあね……疲れるし……」
うーん、ここまで知られているのに、その先が言えない。吸血鬼の血関係なく人の注目されるのは嫌だけど。
「佳は嫌じゃないの?」
そもそも私も、佳のこと深く知っていかないと駄目なのだろう。なんとなくそう思った私は、少し踏み込んだ質問を投げかける。
「んー……、恥ずかしー目立ち方は嫌だけど、凄い目立ち方は嫌じゃないかなー」
「ボウリングでストライク取るとか、テストで学年一位取るとか?」
「うん! 転んで目立つとかは恥ずかしーけど」
「そういうものか……」
美人で目立ち、勉強ができて目立ち、運動ができて目立つ。目立ちの三連複を決めている私はどれも経験済みで、どれも嫌だ。称賛されるのはまあ嫌じゃないけど、称賛されることがイコールで目立つに繋がる。
私みたいに、目立ちの三連複を決めているからこその視点だろうなと、我ながら自分のスペックの高さに呆れる。ここら辺、永海先輩はどう思っているのだろうか。
「だからなっちゃんは凄いなーって思うよ」
「だよねえ」
「うーん、自覚あり……」
「まあ……色々あったから」
普通なら嫌われることのはずなんだけど、佳は嫌な顔ひとつしない。やっぱ良い人だよなあ。
「だよねー……。うち、よく考えたらなっちゃんのことあんまり知らないかな」
そう言われるとそうかな、お互い様だと思うけど。中学の時はどうしていたとか。私は、佳には深く踏み込まないようにしていた節があったから。それが佳にも伝わって、踏み込みにくさを感じさせていたのかもしれない。
「ドン引かれたら嫌だしね」
佳は大丈夫だと思うけど。
「中学の時の話、しようか?」
「聞きたい!」
思わぬ食い付きの良さに若干気圧されながら、きんぴらごぼうを口の中に入れる。お喋りに夢中になりすぎて、昼食が疎かになってしまいそうだ。
「私、超絶美人。周り、嫉妬。嫌がらせ、返り討ち。以上」
「なんで単語⁉」
「超モテた」
「嫌味ですらないよー!」
私のような圧倒的な美人が言えばだいたいは許される。それかドン引かれる。だって自分で言うから。
一応これが私の中学時代の主な出来事なんだけど、どこか佳は不服そうだった。
「なーんかあっさりしすぎー」
「そんなこと言われてもなあ……どんな嫌がらせされたか、聞く?」
「それはちょっと……」
私の人生、高校生になってからの方が濃い。だって誰かと遊ぶなんて殆ど無かったし、髪の毛白くなったし、吸血鬼の血が色々やりだしたし。こうして、佳といる時間が私の対人関係の思い出の大半だ。
そっと目を逸らす佳を追撃することはせず、私はアスパラベーコン巻きを口の中に放り込む。これはあれか、佳の過去も聞いた方がいいのか。
踏み込み過ぎて、佳を知れば知るほど、この関係が壊れた時のダメージが怖い。私が単なる美人ならよかったのに……。
「自分で言ってて思った。淡白すぎる過去だよ。今が一番楽しい……本当に……」
「なっちゃん……」
うっ……、隣から陽が……。
佳の顔を見る勇気が無い。だってこれ以上ダメージ受けたくないし。
「鳴月、いた」
「うわぁ!」
「わあ!」
佳からのダメージは無かったけど、違うところから攻撃を受けた。佳も私も、その場で飛び上がりかけた。
私達の背後から声をかけてきたのは永海先輩だ、このベンチのすぐ後ろは校舎なのに、なんでこんな隙間から現れたんだろう?
後ろを振り向いて解った。窓が開いていた。そりゃ気づかないわ……。
「永海先輩⁉」
「えっと、どうしたんですか?」
「たまたま見つけただけ」
「たまたまで窓から外に出ます?」
「驚かせたかった」
この先輩結構お茶目なところあるな。表情の変化に乏しいけど、内心はそうではないらしい。
「じゃあ、私は戻る」
「え、あ、はい」
そう言って、先輩は軽やかに窓から校舎へと戻る。一応佳を確認してみると、信じられないものでも見ているかのように目を見開いていた。
「大丈夫?」
「うん……だいじょーぶ……」
……私で美人に慣れよう?




