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果てを探す人

作者: 甘木 

 ある日僕は一人の男に変な事を尋ねられた。


「すいません。貴方は電線の()てと言う物を見た事は、ございませんか」


「電線の果て?」


 そう言われて思わず上を見上げる。


 最近の都市部では、施設を建てられる場所が無いとかで地下に潜っている事も多いが、この辺りではまだまだ電柱は現役だ。


「そんな場所が本当にあるんですかね」


「ええ。始まりは発電所にあるのだから、何処かには終わりもあると考えるのが自然では無いでしょうか」


 そう言われてみると確かに間違ってはいない気がする。


 それにしてもおかしな人だなと思い、あらためて男をよく見てみた。


 痩せ型で頼りない感じの身体つきと、この国の人とは少し違う様な、まるで作り物の様な目鼻立ち。


「旅行者の方ですか」


「ええ、少々遠い場所から参りました」


 なんだか喋り方もぎこちない。


「私は色々な物の果てを見る為、長い旅をしています」


「物の果て?」


 それから男は今まで見てきた事について語り始めたのだった。




 ’’私が最初に興味をひかれたのは雲でした。’’


 ’’そこに確かに形がある様に見えるのに、触れる事が出来ない。’’


 ’’時折山の低い位置に、一つだけ取り残された様な雲を見る事はありますが、近付く前に高い所に行ってしまったり、文字通り雲散霧消してしまう。’’


 ’’文献を紐解くと、どうやら雲と言う物は非常に小さい粒であり、感じる事は出来ても元々触れられる物では無かった事を知りました。’’


 ’’また、地上まで降りてきた雲が霧であり、手に届かない空にある時は憧れられたりもするのに、いざ身近に来るとあまり歓迎されるものでも無い。’’


 ’’なんと皮肉な事でしょう。’’




 それから男は虹の果てを追いかけてみたり、寂れた路線の果てを調べた時の話を語った。


「それで今は、電線の果てを探しているのですか」


 その僕の言葉で男は我に返った様に別れを告げた。


「長々と私のよもやま話をしてしまって、申し訳ありませんでした。それではごきげんよう」


 そう言って彼は何処かへと立ち去っていった。




 忘れていたあの日の記憶が蘇ったのは偶然ではないのだろう。


「電線の果て」


 思わず呟いてみた。考えてみれば人の住まない所まで行けば何処かにはあるのだろう。


 今となってはそれを確かめる術はもう無い。


 自分達を護ってくれるはずだった希望の手段は、総てを滅ぼす絶望の手段になってしまった。


(遠くにある時は憧れで、近くにあると歓迎されないか)

 

 そう思って見上げた空には幾つもの光の軌跡が見える。


 もうすぐすべてが人の住まない場所になる⋯⋯。




 モニターには自ら光輝く事は無いはずのその星が、至る所で輝いている様が映し出されていた。


 蝋燭の最期にも似たその輝きは、やがて厚い灰色の雲に覆われるのだろう。


「星の果てですか」


「いや、今の文明が果てるだけだ」


「そうですね。星の寿命はまだまだ果てない」


そして彼らは新たな果てを求め、何処かへと旅立っていった。

 




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