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忌子  作者: えいる
3/4

その三

駐在所に配属されて三日目の夜——

村の老人・椎名ハツが血相を変えて駆け込んできた。

「…御神木が…泣いとる……ッ!」

彼女はそう言って、神社の奥にある**「御神木ごしんぼく」**の異変を訴えた。

御神木とは、かつて人柱が捧げられたとされる大樹であり、村では神そのものとして崇められている存在だった。

夜半、懐中電灯を手に、あなたは御影神社の裏山へ向かう。

霧が立ち込める中、御神木の根元に黒い染みのようなものが広がっているのを見つける。染みは、どくどくと地面を脈打つように広がっている——まるで生き物のように。

ふと、風に乗って誰かの囁き声が耳元に届く。

「かえせ……かえせ……うばわれた…」


翌日、村の古文書を管理する郷土館の蔵を訪れたあなたは、一冊の帳面を発見する。そこには「忌災の兆候」が記されていた。

最後の記録はおよそ50年前——

驚くべきことに、そこに記されていた名前は…

「椎名ユキ(享年16)」

そう、あのハツばあさんの娘の名前だった。

夕暮れ、あなたは椎名ハツの家を訪れた。

掘っ立て小屋のような古びた家屋。戸を叩くと、しばらくして中から力なく開いた。

「また…御神木のことかえ?」

ハツは虚ろな目で問いかけてきた。

帳面に記された名前——ユキのことを尋ねると、彼女の肩がピクリと震えた。

しばらく沈黙の後、ハツはぽつりと語り始めた。

「ユキは…一番の孝行娘じゃった。村の誰よりも真面目で、よう働いた。…けど忌災が来た時、ちょうど16の誕生日に“選ばれた”。」

「村は、“神に捧げねば全滅する”と、そう言うた。…わしは泣いて止めた…けど、ユキは、自ら火の中に入った…神社の奥にある“神井戸”に…」

あなたは息を呑む。

生贄にされたのではなく、自ら歩んだというのか?

「……それでも忌災は、止まらなんだ。止まったふりをしただけじゃった。」

「それからじゃ…御神木が“血を吸う”ようになったんは。」

ハツの目から、ひとすじの涙がこぼれる。

あなたの胸に不穏な疑念が湧く。

ユキは本当に"人柱"だったのか?

あるいは――もっと別の役目を担わされたのではないか?

ハツの最後の言葉が、耳に残った。

「…ユキは今も、あの神井戸の底で、誰かを待っとる。ずっと、ずっとな……」

夜が更け、村に月が昇る頃——

あなたは一人、御影神社の裏手にある神井戸へと足を運んだ。

周囲は石垣に囲まれ、苔むした木々がざわついている。

村では「決して覗いてはならぬ」「一度覗けば、戻れぬ」と言い伝えられる禁忌の場所。

だが、あなたは知ってしまった。

——50年前、ユキが身を投じたその場所の名を。

手にした懐中電灯の灯りを頼りに、縄を結んで井戸の中へと降りていく。

途中、冷たい風が吹き上げ、あなたの耳にふたたび囁きが届いた。

「…さむい…こわい…でも、まってる…」

その声は少女のものだった。

やがて、井戸の底にたどり着く。そこには奇妙な空間が広がっていた——

岩壁には数百の手形が刻まれ、まるで地面が脈打つように静かにうねっている。

そして、中央に小さなほこら

中には、白い着物をまとった少女の人形が座っていた。

その瞬間、あなたの背後に気配を感じる。

振り向くと、そこには——

白い足袋、黒髪、透けるような肌の少女。

…だが、顔だけが“のっぺらぼう”だった。

少女は静かに手を伸ばし、あなたの頬に触れようとする。

「あなたは……だれ?」

あなたは静かに口を開いた。

「僕は…ユキを助けに来た。」

少女は一瞬、動きを止めた。

のっぺらだった顔に、うっすらと目と口の輪郭が浮かび上がっていく。

その瞳は——驚くほど澄んでいた。

懐かしさと悲しみ、そして少しの希望を宿している。

「……ほんとうに……助けに?」

あなたが頷くと、少女は微かに笑みを浮かべた。

その瞬間、井戸の空間がふるえ、周囲の岩壁に刻まれた手形がひとつ、またひとつと光を放ち始める。

「あのとき……私が“神”になれば……みんなが助かると思ったの……でも……」

「御影さまは……神なんかじゃなかった……ただ、飢えているだけだったの……」

ユキの声は震えていた。

「この村……次の人柱を、また選ぼうとしてる……。

でも、あなたなら……止められるかもしれない……」

ユキはあなたの手をそっと握った。

その瞬間、あなたの頭に映像のような記憶が流れ込んできた。

村の祭り、忌災が起きる夜、神社の地下に潜む巨大な“何か”。

そして——椎名ハツが涙を流しながら娘を送り出す姿。

やがて井戸の空間が揺らぎ、ユキの姿が薄れていく。

「私の魂は……もうここに縛られたまま……でも、“あれ”を封じる術は、まだある……」

「それは、神社の地下祭壇にある、“朱の面”を使うこと……」

井戸の外から、村人たちの足音が近づいてくる。

どうやらあなたの行動が知られたらしい——

あなたは静かに口を開いた。

「僕は…ユキを助けに来た。」

少女は一瞬、動きを止めた。

のっぺらだった顔に、うっすらと目と口の輪郭が浮かび上がっていく。

その瞳は——驚くほど澄んでいた。

懐かしさと悲しみ、そして少しの希望を宿している。

「……ほんとうに……助けに?」

あなたが頷くと、少女は微かに笑みを浮かべた。

その瞬間、井戸の空間がふるえ、周囲の岩壁に刻まれた手形がひとつ、またひとつと光を放ち始める。

「あのとき……私が“神”になれば……みんなが助かると思ったの……でも……」

「御影さまは……神なんかじゃなかった……ただ、飢えているだけだったの……」

ユキの声は震えていた。

「この村……次の人柱を、また選ぼうとしてる……。

でも、あなたなら……止められるかもしれない……」

ユキはあなたの手をそっと握った。

その瞬間、あなたの頭に映像のような記憶が流れ込んできた。

村の祭り、忌災が起きる夜、神社の地下に潜む巨大な“何か”。

そして——椎名ハツが涙を流しながら娘を送り出す姿。

やがて井戸の空間が揺らぎ、ユキの姿が薄れていく。

「私の魂は……もうここに縛られたまま……でも、“あれ”を封じる術は、まだある……」

「それは、神社の地下祭壇にある、“朱の面”を使うこと……」

井戸の外から、村人たちの足音が近づいてくる。

どうやらあなたの行動が知られたらしい——






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