第8話 君と出会う前の話1
これはまだ俺が『一ノ瀬悠真』ではなく、『上杉悠真』だったころの話だ。
◇
俺は誕生とともに親に捨てられたらしい。らしいと曖昧なのは記憶がないからだ。自分の本当の親の顔を知らなければ名前も知らない。でも、俺は親に捨てられた、という事実のみは知っている。その事実によって、俺という存在を親がどう思っていたのか推測出来てしまった。だから、俺は生まれながらに‶好意〟というものが分からない。恋愛という言葉を知ってはいても、本質は理解できない。俺という人間は大きな欠陥を抱えている存在だ。
俺は親に捨てられ、児童養護施設『つばめ園』で育てられた。当時はまだ俺のような施設にいる人間というものは触れてはならないパンドラの箱のように扱われていた。小学生の中には俺より変な人は多かった。落ち着きなく、教室を歩き回る、奇声を上げるなどなど。挙げればきりがないほどに普通から離れているはずなのに、そんな人たちが普通で、俺は変らしい。俺は納得がいかなかった。だから、俺は問題を起こす人に対してしつこく注意をし続けた。『お前は変だ』と言い続けた。そうこうしているうちに俺から人は離れていった。親に捨てられた俺は今度はクラスメートから見捨てられた。
俺はどんどん距離を取られるようになった。しかし、もともと一人が好きだったこともあり、何の苦もなかった。図書室に休み時間ごとに駆け込み、読書に耽っていた。図書館司書の先生に顔を覚えられ、『上杉君、この本おすすめよ』とおすすめ本を教えてもらえるくらいには仲良くなった。
それから年月が経ち、俺が小学4年生となったとき、つばめ園に新たな子どもが入ってきた。中島佐久と内藤鳴、相馬鈴の3年だ。3人は同じ学年で俺の1個下の小学3年生だった。中島は当時から問題児筆頭だった。こういう人間がいるから俺まで変な目で見られるのかと腹が立ったのを覚えている。
夕飯を食べるときに『俺はこんなの食いたくない』と言って皿を下に投げつけ、その拍子に食べ物が飛んで俺の顔に直撃したとき俺は初めて怒鳴り散らした。俺はこのとき、怒るというのはこういうことかと理解した。まるでロボットのような学習の仕方だが、教えてくれる人がいなかったのだ。児童指導員は簡単なマナーを教えてくれる程度であとは自分でできるだろうと放り投げてくる。だから、勉強は苦手だった。ただ、この日を境に佐久は問題を起こす頻度を減らすようになった。まあ、俺が佐久を睨んでいたからというのもあるのかもしれないが。
問題児は佐久だけではない。鳴も、相馬も問題児だった。
鳴は我慢ができなかった。鳴の実の親が我慢することを強制していたと後になって知ったのだが、とにかく我慢できなかった。児童指導員の人は鳴を手に負えない子どもと認識しており、周りの子どもたちも鳴の我儘には腹が立っていた。
そんなあるとき、俺が本を読んでいると鳴がやってきた。施設内にも小さいながらに図書室のような場所があり、その図書室へ鳴がやってきた。俺は鳴が図書室に来たことを意外に思った。駄々をこねるようなヤツが本なんか読むわけないと決めつけていた。
「ねぇ、なに読んでるの?」
「かいけつゾロリ」
「それ貸して」
「読み終わったらな」
「か、し、て‼」
鳴が耳元まで来てそう言ってきた。俺は耳がキーンとなった。顔をしかめて鳴をにらむと鳴はわずかに怯んだ。
「な、なによ。貸してって言ってるのに貸さないあんたが悪いんじゃん‼」
「お前は待つってことを知らないのか?いつも我儘ばっか言いやがって」
「う、うるさい‼」
「お前のほうがうるさいよ。あともう少しで読み終わるから‶2分〟待てよ」
「に、2分ね。時計で測るからね」
「好きにしろよ」
このときの俺の対応は後々正解だったことが分かった。親に『待て』と言われて放置され続けていた鳴は『待て』と言われるといつまでも待たされると考え、癇癪を起していた。具体的な時間を与えるとそれまで待てば自分の意見が通るとわかり、その時間まで待てるという流れができた。この日からやたら鳴は俺と一緒に動くようになった。図書室に行くときも学校に行くときも。俺は毎度、腰ぎんちゃくのようについてくる鳴が嫌で嫌で仕方がなかったが、児童指導員は鳴が俺に懐いていると認識したらしく、俺が何を言っても聞いてもらえなかった。結局、俺が小学校を卒業する日まで鳴と一緒に登校することとなった。
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ten → nine → □ → □ → eleven
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