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虚数の嘘と、君の定理  作者: みずけんいち
第1章 沈黙の定理
12/12

第12話 平穏が崩壊するとき

2か月ほど期間が開いてしましました。すみません。なるべく早い更新を目標に頑張ります。

 昨日話し合う予定だった『数研部が実績を残すべく大会に出るかどうか』の結論はこの日も出なかった。各々が部室に足を運び、自由に過ごしていた。佐久はともかく、他の部員から話題にすら上がらないとは俺は思いもしなかった。相良辺りがまた掘り返してくるとばかり思っていた。しかし、実際は相良は黙々と数学の問題集に取り組んでいる。


「どうかしたんですか?さっきから私のこと見てますけど?はっ、わ、私の勉強している姿にときめいてるんですか?それとも、私のこのナイスフェイスに見惚れていたんですか?あるいは―――――」

「ああ、はいはい。黙って問題解こうか」

「……なんでそんな塩対応なんですか」


 不満げに俺を睨む相良を無視して、佐久と鳴の方を見た。佐久と鳴はスマホゲームに夢中のようだ。


「ちょ、中島‼私、死にそうなんだけど‼」

「俺もギリギリなんだよ。踏ん張れ」

「踏ん張ったらなんか出そうなんだけど」

「え?それってう〇こ?」

「〇ぞ‼」

「口癖のように言うなよな」

「……お前らなんだかんだ、仲いいな」

「「良くないです‼」」

「いいじゃねぇかよ……。あと、やるなら静かにな」


 昨日の不穏さはどこへやら。和気あいあいとした部室の空気に俺はなぜだか不気味さを感じていた。その理由は相馬にある。

 部室に一番乗りで来た相馬だが、何かをするでもなく、ただ俺たちが何をしているのかをじっと観察し続けている。その相馬の目に俺たちはどのように写っているのだろうか。


 俺はどうやらこの和気あいあいとした空気が嫌いではないらしい。先ほどから騒がしいが、それを見ても『この人数なのだから多少は騒がしくなるよな』と受け入れている自分がいる。それが良いのか悪いのかはわからない。でも、このままがいい。このまま何事もなく、日々が過ぎ去り、やがて風化していくのが。


「なんですか、これ?」


 それを良しとしない相馬という人間がいなければ。


「こんなふざけてるのが数研部での活動ですか?昨日のことはみんな忘れて、ファミリーレストランでご飯でも食べるんですか?」

「いや、俺はとっとと家に帰るけど」

「そこは食べましょうよ‼なんのための集まりですか?私はゆー先輩にとって何なんですか?」

「相馬さんが面倒くさい系女子になってる」

「かわい子ぶりっ子先輩は黙っていてください。ゆー先輩と話しているので」

「相馬さん、あなたねぇ……」

「ちょ、ちょっと失礼しますよ」


 相良を佐久が抑え込んでいるのを横目に見ながら、俺は相馬と向き合った。


「それで」

「私はこんなことをするために()()()()()()のではありません」

「………そうか。なら、退部届でも出してくれ。すぐ承認する」

「そんな話はしていません‼もういい加減逃げるのはやめてくださいと言っているんです」


 相馬はそう言って机をたたいた。和やかな空気が一瞬にして消え去った。俺は相馬を睨みながらも何も言い返せなかった。相馬の言っていることすべてが正しかったから。


 俺は数学研究部をこの学校の部として新しく作った。去年のことだ。顧問からの薦めもあったし、なにより佐久や鳴、相馬からの要望もあった。白じいにも意見を聞きに行った。俺が部を作って部員を募るなんて柄じゃない。それでも俺は結局、数学研究部を作ることにした。まだ、相良が転校してくる前の話だ。


『部活動で一人でもいいからすべてを話せるような信頼できる人に出会えるといいね』


 白じいはそう言っていた。俺は部活にそこまでのことは期待していなかったけれど、部室が与えられると、毎日のように入り浸るようになった。学校で変な目で見られることに慣れていると思っていたが、実際は結構、それがストレスになっていたのに気づいたのもこのときだ。


 佐久や鳴、相馬はきっとそのことに気づいていた。だから、部室には行かずに自分の居場所をそれぞれ見つけ出し、その中で自分の人生を謳歌していた。しかし、今年は違った。相良の存在だ。相良が数研部に入ったことで今までの平穏が崩れ落ちた。今まで俺一人で使っていた部室に相良という第三者が入ってきたことでギリギリで均衡を保っていたものが雪崩のように崩れたのだ。


「‶如月(きさらぎ)(みなと)〟なんて忘れてしまえばいいんです。あんなクズ女のことなんて‼」

「相馬。お前少し黙れよ‼」

「ちょ、ちょっと中島。あんたが出る幕はないよ」

「ゆう先輩がどういう気持ちなのかもわからねぇのか、この‶どブス〟が‼」

「「「………はっ?」」」

「………ごめんなさい」


 佐久は涙目を浮かべながら部室の端の方に行って体を丸めた。相馬は水を飲んで、話を再開しだした。


「あの女のことが忘れられないんですよね?」

「誤解されるような言い方をまずするな」

「でも、事実ですよね。なんでもゆー先輩と如月湊はずぶずぶの関係だと専らの噂でしたから」

「ねぇよ‼あいつは関係ない」

「なら何ですか?言えないですよね?そうですよね?だって事実だから。如月湊のおっぱいが忘れられなくて夜しか眠れないって言ってましたもんね」

「言ってねぇ‼マジで言ってない‼誰だ、そんなデマ流したアホは‼」

「い、一ノ瀬君とずぶずぶの関係に‼き、如月と言いましたよね。どんな女ですか?写真ありますよね?見せてください」

「ゆう先輩、ちょっとこのあと、お話があります」

「君ら、まず話を聞くことから始めようか」


 そう言えば、この部室の中に人の話を聞ける人はいないんだった。自分も含めて。


 今日の一問

 大問12 次の等式はどんな関係と言われていますか。

   A+B ≥ 2√AB

(教科書によっては(A+B)/2 ≥ √ABと表記されていることもあります)

よろしければブックマークと評価ポイントをくれると私自身励みになります。

また、解けた方は、ぜひコメント欄に答えや感想を書いていただけると嬉しいです!次回もどうぞよろしくお願いいたします

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