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虚数の嘘と、君の定理  作者: みずけんいち
第1章 沈黙の定理
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第10話 君との話し合いは進まない

 普段通り、俺は学校に行き、授業を受け、部室へと相良とともに向かった。昨日あったことを思い出して憂鬱になるが、部室に行くということが俺の中で当たり前となっていて、無意識に部室へと足を運んでいた。部室の前には昨日、場を荒らすだけ荒らした相馬が立っていた。腕を組んで、部室の扉を睨みつけている。


「そんなに睨んでも部室は開かないぞ」

「知ってますよ……待ってました、ゆー先輩」

「お前のことだから、もう来ないかと思ったけどな」

「そうは行きませんよ。私はゆー先輩のゆー先輩を元気にする必要があるので」

「……?どういうこと?」


 俺の俺を元気? はっ?


「そ、それって……⁉そ、それはダメだよ‼私たちまだ高校生だし」

「いえ、むしろ、高校生だからこそ必要ですよ」


 相馬はそう言って、俺に自身の体を押し付けてきた。俺は相馬がまたわけの分からない奇行に走り始めたのを見て、思わずため息が漏れた。相良は相馬と俺を引き離そうと必死になっている。


「それで、お前は何がしたいわけ?」

「昔のゆー先輩ならこれで元気になっていたのに今は無反応ですか……。これは誤算ですね」

「ふふふん、一ノ瀬君はこの程度では元気にならないよ」

「お前ら、さっきから何を言ってんの?」


 相良が相馬を挑発するように腕を組み始めて、俺は何が何やらわからない。俺は別に不健康ではないから、元気だ。


「………ちっ、貧乳のクセに」

「相馬さん?少しあっちで話をしよう?」

「かわい子ぶりっ子は今時流行らないですよ」

「清楚美人は心のなかが汚れ切ってるらしいよ」

「「はっ?」」

「昨日も言ったことだが、やり合うならよそでやれ」


 一触即発といった空気を漂わせている二人を見て、俺は呆れ混じりにそうつぶやいた。どうせ、聞こえてはいない。俺は二人を放っておいて部室へと入る。ドアの外で騒いでいる二人がいては他の部員も部室に入って来づらいだろう。まあ、来るのかすら怪しいけど。


「ん?」


 俺はポケットに入れてあったスマホを取り出した。数学ゲームをやる以外ほぼ使わないスマホだが、ときどき、LINEが送られてくることがある。画面には佐久から送られてきていた。


《すみません。今日はバイトがあるんで部活行けないっす》

《了解。バイト、頑張ってこい》


 数研部のムードメーカーである佐久が今日に限って欠席か。それは困ったな。部室の外ではいまだにやり合っている二人に俺はどうすればよいのかほとほと困った。


「何してんの、あんたたち」

「内藤さん、相馬さんがひどいこと言うんです」

「それはかわい子ぶりっ子してるからじゃない?」

「内藤さんもそんなこと言うんだ‼」

「実際そうじゃない。昨日も思ったけど、それ今流行ってないよ。廃れまくってるんだから」

「うるせぇ、早く帰るか、部室に入るかしろ!!!」


 女三人寄らば何とやらだ。騒がしくて仕方がない。俺に怒られた三人はしぶしぶ部室に入ってくる。俺は部室の男女比を考えて自分の愚かさに気付いた。今日、佐久は休み。つまり、男は俺一人ということだ。面倒が起こりそうな気がしてならない。


 俺は部室の端の方に追いやられていた教卓を持ってくると、教卓の後ろに立って、三人の顔を順番に見ていった。


「とりあえず、今日はこれからの方針を決めたいと思う。数研部でなにをやるのか」


 俺は昼休みの時間に二乗に呼び出され、今年中に数研部で何か実績を残さないと廃部になるという話を聞いた。たまたま相良もそのとき一緒にいたこともあって、俺は廃部になってもいいやと思っていたが、相良は『すごい、結果を出して見せますので期待しててください』などとのたまいやがった。そして、相良は今日の部活で今後の活動方針を話し合うべきと言った。それも、司会進行は俺がやるという条件で。


 そんな出来事を経て今に至るわけだが、俺は全くと言っていいほど乗り気ではない。きっと、他の部員もそうだろう。そう思っていたのだが――――――


「何か大会に出てみるのはどうでしょう?一ノ瀬君なら良い成績を残してくれると思うんですけど」

「私も賛成。……悠真先輩だけ大会に出て実績になるの?」

「私も賛成だ。数学の大会には前から興味があった。ゆー先輩、()()()()で出ませんか?」

「ちょ……どさくさに紛れて何言ってんのよ‼」

「そうですよ‼そ、そんな……男女交際は数研部は禁止してるんです‼」

「おい、お前ら………」


 俺の声に三人はびくっと肩を揺らして顔を見てきた。俺は三人を睨みつけて、


「話が一向に進まない。一人ずつ話せ」

「「「は、はい」」」


 その後の話し合いでも数学の大会以外は出てこなかった。俺はそれが出てきたときから嫌な予感がしていた。数学の大会なんて俺には良い記憶がない。


「それで一ノ瀬君は何がしたいですか?」

「俺は数学の大会なんて出ずに部室で問題を解いていれば十分だ。出たいなら、俺抜きで出てくれ」

「な、どうしてですか‼一ノ瀬君が出なかったら、実績残せないですよ‼」

「俺が仮に出て、実績を残せたところで部員が足りなくて廃部になるのが見えてる」

「そんなの屁理屈です。私は今の話をしてるんです。それに、なんで二人は黙ってるんですか?さっきまで大会出たいって言ってたのに」

「ゆー先輩がしたくないなら、私は出ない方を選ぶよ」

「無理強いをする気はないから」


 俺の()()をある程度知っている二人はそう言うだろう。相馬は昨日俺を逃げていると攻め立てていたが、今日は鳴りを潜めているようだ。


「な、なんですか、それ?一ノ瀬君はどうしたら、出るって言ってくれますか?私が胸を出したら大会出てくれますか?」

「何を言ってるんだ、相良………って、ほんとに出そうとするな‼」


 制服のボタンを外そうとし始めた相良に鳴と相馬が止めにかかった。さっきまで喧嘩してたのにこういうときは息が合うのだな。俺は夕日が沈む風景を見て黄昏ること数分の後、改めて話し合いを再開した。


「わ、私が勇気を振り絞って出そうとしたのに」

「出さんで良い」

「そうよ、誰もあんたの貧相な胸なんか見たくないわ」

「な、内藤さんだって私と胸のサイズ変わらないでしょ」

「は、はぁ‼か、変わるわよ」

「どんぐりの背比べはいいから、話を続けるぞ」

「ゆ、悠真先輩もこいつとサイズが同じだって言うんですか?私の胸を触ればそんな間違いを起こすわけがないです。ちょっと触ってみてください」

「今日はもう解散‼」


 やってられるか、こんなこと‼だから俺はグループワークが嫌いなんだ。個人でやる方が早く済むのに。


 俺はさっさと身支度を整え、部室から飛び出すようにして逃げた。


 今日の一問

 大問10 次の問いに答えてください

 1.円周率を記号で表すと『π』です。この記号の読み方を答えてください

 2.円周率π=3.141592……です。このような数は有理数、無理数のどちらでしょうか

よろしければブックマークと評価ポイントをくれると私自身励みになります。

また、解けた方は、ぜひコメント欄に答えや感想を書いていただけると嬉しいです!次回もどうぞよろしくお願いいたします

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