第1話 君と出会った日のこと
久々の新作の投稿となります。今回は数学とラブコメ要素を混ぜ込んだものになります。今までとはまたちょっと違ったラブコメをお届けできたらと思っております。
この作品以外の更新頻度が鈍くてすみません。頑張ります。
この作品は基本2日ごとに投稿する予定です。ただ、3話までは連日投稿します。よろしくお願いします。
理不尽という言葉を知っているだろうか。この言葉は普通に過ごしているだけにも関わらず、突如、姿を現す。突然。そう、突然に。
ざわざわ。カメラが回っているにも関わらず、周囲はそんなことを忘れてしまったかのようにざわついている。
まるで俺は裁判で判決を言い渡される被告人の気分だった。何がどうなって現状に至っているのか、記憶が定かでない。しかし、周囲の人間は俺を蔑むような目で見てくる。俺が何をした。俺は何もしていないのに。そう俺が叫んだところで意味などないだろう。だって、世の中は不平等なのだから。
目の前に黒のスーツを着た中年の男が俺の前に立って言った。
「一ノ瀬くん」
◇
俺は、ガバッと体を起こした。体は汗だくで気持ちが悪い。
(またあの夢を見たのか。懲りないな、俺は)
俺はパジャマを脱ぎ捨てながら、そう思う。過去は過去。変えられるものじゃない。
外は俺の波打つ心とは対称的に晴れ渡っている。今日に限らず晴れの日が続いていた。今日は30度近くまで気温が上がるらしい。
俺は昨日のうちに準備してあった鞄を手に取り、1階にあるリビングへと降りていく。キッチンには俺の母さんが朝ごはんの用意をしていた。
いつもの風景。変わらぬ日常。俺が欲しいと願っていたものだ。
「母さん、おはよう」
「おはよう、悠真」
母さんは朗らかにそう言うと目玉焼きをフライパンから皿に移した。俺はそれを受け取り、リビングに持っていく。
「今日から新学年だね。どう、友達できそう?」
「それ、去年も聞いたよ。いい加減その話題は避けてもらえるか」
「そうだぞ、母さん。男というものはなんかその辺アレなんだ」
「父さんのその発言、中身なにもないぞ」
なんだよ。その辺がアレって。アレなんて言い方しないではっきり言えばいいのに。
和気藹々なのかどうかは甚だ疑問だが、これが俺の朝の時間で、そして、平穏な時間の終わりでもあった。
◇
学校に着くやすぐに俺は部室に向かう。部室は机が4つ横並びに置かれ、黒板があるのみ。黒板には何やら数式が書かれている。Aをひっくり返したような∀な文字が書かれている。
俺は数学研究部という部活に所属している。この部は建前上、毎週月曜日に活動していることになっている。実際はそんな建前は守られておらず、土日以外、俺が部室に居座っている。部員も俺以外に男1人、女2人がいる。3人とも俺の知り合いだが、訳あって、部に顔を出さない。要は幽霊部員というやつだ。部として存続するためには部員が5人必要なのだが、俺と幽霊部員含めて4人しかいないこの部はどうなるやら。
「考えたって仕方がない」
部員の勧誘?誰が授業以外の時間に数学なんてやりたがる。そんなのはただのもの好き以外いるわけがない。なんて言っている俺も立派な数学研究部の部員で、なんなら運動部より熱心に部活に足を運んでいるかもしれない。俺は黒板の前に立つと先週の続きをやり始めた。
チャイムの音が聞こえた。俺はチョークを置くと部室のカギを閉め、教室へと向かう。教室はあっちこっちからしゃべり声が聞こえる。この高校は無名といってもいいほどの名の知られていない高校であることもあって生徒のレベルは異様に低い。ホームルーム開始10分前だというのに席に着く生徒が少ない。俺は席に着くとリュックから『群・環・体入門』を取り出した。代数学と呼ばれる数学の3大分野の一つの入門書だ。入門のくせにくそ難しい本もたまにあるが、この本は比較的読みやすいほう。小説のようにぱらぱらと読めるものではないが、数学の知識得ることのみに焦点を当てるのであればこれ以上にいいものはない。
本を読んでいる間に担任が教室にやってきた。『席につけー』なんて言っているがこのクラスの人間がまともに聞くはずもない。担任が来ようがマイペースで居続ける人間が多く、いまだにざわざわとしている。担任はいつものことだといわんばかりにため息を吐き、教卓に出席簿を置いた。
「今日から君たちは高校3年生だ。高校卒業に向けてお互い頑張ろう!」
その後、担任は軽い自己紹介をしていたが、まともに聞いていた人がいるのかよくわからない。かく言う俺もクラスメートの声がうるさすぎてろくに聞こえなかった。担任の(おそらく)自己紹介が終わると、
「このクラスに転校生が来ました。一人の仲間として仲良くしてあげてくれ」
担任の言葉にクラスメートはざわめきだした。もともと騒がしかったのがより激しさを増した。この時期に転校してくることに疑問を持たないのだろうか。それもこんな無名の高校に。
俺は頬杖をつきながら転校生の顔を拝んでやろうと目を向けると、ちょうど転校生は教卓に向かって歩いているところだった。どうやら女子生徒らしい。身長は女子高生の平均くらいで、背中にかかるくらいの長さの髪をしている。教卓まで歩みを進め俺たちのほうへ顔を向けた。美少女だった。ふわっとした淡い栗色の髪に、透けるような白い肌。思わず息を飲むほどに目鼻立ちが整っていた。クラスメートの誰かが『すごいかわいい子が来た』といったがそれには即座に肯定せざるを得ない。俺自身、この転校生は美人の部類に入るだろうと感じた。しかし、
(多分、いやほぼ確実に勉強できないんだろうな)
俺にとってその一点がかなりの欠点に感じられた。残念美人。この転校生への俺のレッテルはその一言に尽きた。
「相良紬と言います。よろしくお願いします」
自己紹介はわりと普通だった。しかし、最初のインパクトに比べるとなんだか平凡な女子という印象に変わりつつあった。
「相良さんはとりあえず、一ノ瀬の隣が開いているからそこでいいか?」
しかし、担任の一言でクラスメートのざわめきが一瞬止まった。否、空気が凍った。そして、
「せ、先生さすがにそれは……」
「お、お前ら初めて先生と呼んでくれたな!!」
担任は『俺の時代がやっと来た』なんて言っている間にクラスの空気が一気に沈んでいく。担任は知らないのか俺の噂。数学研究部なんて何するのかよくわからない部に所属し、普段はよくわからない本を読み、ときおり何かにとりつかれたのかと言わんばかりにノートに数式を書きたくる。要は不気味な奴。それがクラス全体、学校全体での俺のイメージだ。入学したての頃はよく言われたものだ。『なんでもっと良い高校に行こうとしなかったのか』って。それに対する俺の答えは『行こうとしなかったんじゃない。行きたくなかったんだ』と。俺には平穏が似合う。
転校生はクラスの雰囲気が急に変わったことに最初は戸惑っていたが、担任に促され俺の隣の席に向けて歩いてきた。その間に『嫌になったら言ってね。私から先生に席替えをお願いをするから』なんて言っているクラスメートが現れだした。俺の悪評がとどまるところを知らない。
「あ、あの相良紬です」
「それは知ってる。さっき言ってただろ」
「う、うん。それでええっと……」
「一ノ瀬悠真だ」
「うん。よろしくね、一ノ瀬君」
これが俺と紬の出会いであり、平穏な日々の終焉でもあった。
今日の一問
大問1次の記号の意味を答えてください
1.∀
2.∃
追記2025/06/03:話に矛盾が生じていたので修正しました。
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