『幸せ』の形
先方には、遅れる旨を伝えておいた。
通信の受取人は妹さん? だと思われる。
単調な口調で、了承してくれた。
………でも通信機の使い方があまり得意ではないのか、他の声が若干漏れて聞こえてくる。
うっかりさんかな?
というか、僕に過度の期待はしないでもらいたい。
とりあえず、なるべく急いで向かおう。
そんな矢先———。
「お母さん! お母さん!」
泣いている女の子がいた。
次の行動を起こすのに僕には迷いがなかった。
「ねえ、どうしたの?」
これは、先方からお叱りを受けるだろうな………。
妹が通信を終えたのか、内容を伝えに来た。
「お姉ちゃん、悠一さんが『遅れる』って。時間を守れない人ってあまりいい印象ないのだけど………」
「だまりなさい」
私の一言で、妹は体をビクッとさせた。
「急に呼び立てをしたのは私です。無理は百も承知でしたが、来ていただけるだけでも感謝しなければいけません」
「でも………」
その言葉は続かなかった。
何せ、私の目の前に見知らぬ少女がいるのだから。
「それで、ご用件を窺っても? 甲斐田香織さん?」
その言葉が聞こえているのか知らないけれど、向こうは並べられている食事に舌つづみをして聞いて来た。
「お兄ちゃんが来るまで、少し食べてもいい? ねえ、四乃宮静さん?」
「それで、健吾殿はどう考えるでござるか?」
「どうしたんだ、マキナ?」
「隊長のお見合いの件でござるよ」
存外に甲斐田隊長の恋バナを聞きたいところを見るに、マキナという女性も例外ではないらしい。
「そういうマキナはどうなんだ?」
「正直なところを言えば、昼ドラのようにドロドロの関係になってほしいでござる」
言っていることが、まったくわからん。
「俺は、なぜか純粋にあいつに惚れた可能性が高いと踏んでいるかな」
そう言った瞬間に、マキナの目が輝いていた。
「なぜでござるか!?」
鼻息が荒くなっている。
そこに知里から合いの手が入った。
「あのガキンチョに不可能なことはないから、でしょ?」
さすが、知里だ。
本質を分かっている。
「あいつは、8歳のころに入隊して9歳でここの軍部の隊長全員相手をして呼吸を乱さずに勝利している。そして、10歳の時に俺や知里、マキナの試験官を務めている。そのまま新設された『零』部隊に俺達がいるわけだが………」
そこで、区切りをつけて頭の中を空にする。
「あいつはお人好しなんだよ」
「それは………まあ、みな周知の事実では?」
「いいや、既存のお人好しとは違う」
あいつの場合は、常軌を逸脱している。
「あいつは、自分の命を投げ出して他人を見捨てようとしない異常者だ」
その言葉に対して、知里やマキナはうつむいた。
「自身を顧みない。自分の命を投げ出して他人を救う。一見蛮勇に見えるけれど、あいつは絶対に生存して戻ってくる。その輝きに人は当てられるものだろう」
こんなに生きるのが難しい世界で彼そのものが、希望の光となっていた。
「私生活でも、もしそんなことをしていたら………」
「健吾殿は、四乃宮静氏が以前、悠一殿に会っていると?」
「そんなに不思議なことじゃないさ」
推測の域はでない。
だけど———。
「あいつには、せめて自分の幸せをみつけてほしい」




